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ジンクス本編外

 ゆっくりと火の玉が空へ登っていく。
 やがてそれは空中で破裂したかのように火花を散らせ、見事な花を咲かせた。遠くの方では近くで見ている人たちの歓声が聞こえる。
 バチバチと音がして、煙が上がる。
 ここからは見えない下の方で色とりどりの花が咲く様子が目に浮かんだ。
「どうだ?ここからでも見えるだろ?」
 ナックルシティジムの屋上はただただ広かった。
 さえぎる物がない平面なそこは、柵すらもない。石造りの屋上にビニールシートを敷いて、二人きりでの花火鑑賞だ。
 現地に行きたかったかと問われれば、それは否だ。キバナさんと私が赴いては騒ぎになるだけで、それでなくとも人が多く騒がしい。低い位置の花火は見れなくとも、ここに二人きりというだけで満足だった。
 毎年この時期に行われる花火大会を、ずっと心待ちにしていた。去年も一昨年も、お互いの都合がつかずに見逃していた花火大会。
 今年はようやく二人で見ることができた。
 次々と上がっていく玉が空中で破裂する。
 一つでも美しいのに、それが複数同時に上がれば言葉では言い表せなかった。様々な色と形の花火が咲き誇り、消える前に上がっては咲き、模様を作る。
 次第にそれは速度を落とし、玉が音を立てて空へ登っていく。
 どの花火よりも高い位置に消え、数秒置いた末に体を震わせるような炸裂音が響いた。
 大きな色とりどりの丸い模様が空に描かれる。
 それがクライマックスの合図だとでもいうように、空から光が消えた瞬間、今まで以上の数の玉が一斉に上がり、同時に咲いた。
 まるで枝垂桜のように火花が散り、地へと落ちていく。
「なんだか、夏の終わりのような気がしますね」
 綺麗に咲き誇って散った花に、感激したのはその花が咲いたところまで。散っていく様子にはどことなく寂しさが沸いた。
「朝晩はずいぶん気温も下がってきたしな。もうすぐ秋がきて冬が来る。一年なんてあっという間で、また春になって桜が咲いて、夏が来る。ずっとその繰り返しだな」
 当たり前のことだけど、とキバナさんは付け加えて苦笑いを零した。
 その当たり前のことの中に、私が隣にいることも加えられたらいいのに、と思わずにはいられなかった。
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