ジンクス本編外
ーあ、負けるかも。
そう思ったことが敗北の要因の一つだったのかもしれない。
ポケモンたちのコンディションは抜群だった。
ただ一つ、原因をあげれば少し弱気になってしまった事。
以前ならば、負けるかもなんて思わなかった筈だ。
呼吸をすることさえ忘れて爆風が晴れていくのを待つ。
まるで周りに膜が張られたように観客の声が遠くに感じて、耳鳴りが響いた。
爆風がわずかに晴れた先に、インテレオンは横たわっていた。
「インテレオン戦闘不能!よってこの試合、チャレンジャーの勝利!」
赤い光がインテレオンを包み、ボールへ戻っていく。
ーああ、終わったんだ。
不思議と清々しい気分だった。
勝利を手にしたチャレンジャーは目を丸くして立ち尽くしている。
ユウリが中央まで歩み寄ると、チャレンジャーはとぼとぼと未だ信じられないと言うようにゆっくりと近づいてくる。
伸ばした右手で力ない手を握った。
「おめでとう、新チャンピオン」
自分がチャンピオンになった頃よりは幾分年上だけれども、まだまだこの世界の荒波に乗るには早すぎるだろう。
ー…ダンデさんも、こんな気持ちだったのかな
ふとそう思って関係者席を見れば、ダンデは拍手を贈っていた。新しい強者に目を輝かせている姿に肩の荷が降りた気がした。
その横ではキバナが苦い顔をしている。
くるりと振り返って控え室まで歩く最中、ふわふわとした足取りに遠いあの日の感触を思い出した。
◇
控え室のドアを閉めた瞬間、何かが切れたようにどっと疲れが押し寄せて足がもつれた。
転んでしまう。
床が近づいてきて、目を瞑って衝撃に備える。
だがその衝撃を前に体がふわりと浮いた。そっと目を開けると見慣れた色が目に入る。少し上を向けば、水色の光が揺れていた。
「ありがとうございます、キバナさん」
「…お疲れ、ユウリ」
触れたキバナの目頭は少しだけ濡れていた。
「ごめんな」
「それは言わないでください。…悔しいけど、未練はないですよ。何にも後悔はしてません。チャンピオンタイム・イズ・オーバー。…これからは、やっと普通に過ごせます」
きちんと笑えている自信はない。それでも笑わなければいけない気がした。
だってこれは、新しい人生の始まりの瞬間だから。
「私は私が選んだ道を歩いています。でもそのきっかけを作ってくれたのはキバナさんです。だからキバナさんが謝ることは一つもないんですよ。それに」
胸よりも少し出た腹部を擦る。
ようやくつわりも治まって、安定期に入った。
これからやることは沢山、あるのだ。
「どちらかを取るなら、私は家庭を取ります」
ああ、なるほど。
言葉を紡いで一人納得をする。
この人は、チャンピオンでなくなることを予想していたのだ。
決して万全の体調で臨んだわけではないのだから仕方のないことだ。
その責任が自分にあると思っている。
ずっと前に、キバナに言った言葉が蘇る。
あなたの夢を壊してしまってごめんなさい、私はあなたの隣に立つ資格なんてないのだと。
あの時と同じなのかもしれない。
恐らくこの世で一番、幸せなことであろうことを、ひたすら謝ってばかりなのだ。
何も気にしていないというのに。
「私はあなたと二人で、この子を育てていきたい。だから、謝らないで」
今度はしっかりと笑みを浮かべる。
ヘッドバンドで目元を隠していた竜は水色の瞳を覗かせて一言だけ力強く言った。
「二人とも、幸せにする」
まるで二度目のプロポーズのようだった。
そう思ったことが敗北の要因の一つだったのかもしれない。
ポケモンたちのコンディションは抜群だった。
ただ一つ、原因をあげれば少し弱気になってしまった事。
以前ならば、負けるかもなんて思わなかった筈だ。
呼吸をすることさえ忘れて爆風が晴れていくのを待つ。
まるで周りに膜が張られたように観客の声が遠くに感じて、耳鳴りが響いた。
爆風がわずかに晴れた先に、インテレオンは横たわっていた。
「インテレオン戦闘不能!よってこの試合、チャレンジャーの勝利!」
赤い光がインテレオンを包み、ボールへ戻っていく。
ーああ、終わったんだ。
不思議と清々しい気分だった。
勝利を手にしたチャレンジャーは目を丸くして立ち尽くしている。
ユウリが中央まで歩み寄ると、チャレンジャーはとぼとぼと未だ信じられないと言うようにゆっくりと近づいてくる。
伸ばした右手で力ない手を握った。
「おめでとう、新チャンピオン」
自分がチャンピオンになった頃よりは幾分年上だけれども、まだまだこの世界の荒波に乗るには早すぎるだろう。
ー…ダンデさんも、こんな気持ちだったのかな
ふとそう思って関係者席を見れば、ダンデは拍手を贈っていた。新しい強者に目を輝かせている姿に肩の荷が降りた気がした。
その横ではキバナが苦い顔をしている。
くるりと振り返って控え室まで歩く最中、ふわふわとした足取りに遠いあの日の感触を思い出した。
◇
控え室のドアを閉めた瞬間、何かが切れたようにどっと疲れが押し寄せて足がもつれた。
転んでしまう。
床が近づいてきて、目を瞑って衝撃に備える。
だがその衝撃を前に体がふわりと浮いた。そっと目を開けると見慣れた色が目に入る。少し上を向けば、水色の光が揺れていた。
「ありがとうございます、キバナさん」
「…お疲れ、ユウリ」
触れたキバナの目頭は少しだけ濡れていた。
「ごめんな」
「それは言わないでください。…悔しいけど、未練はないですよ。何にも後悔はしてません。チャンピオンタイム・イズ・オーバー。…これからは、やっと普通に過ごせます」
きちんと笑えている自信はない。それでも笑わなければいけない気がした。
だってこれは、新しい人生の始まりの瞬間だから。
「私は私が選んだ道を歩いています。でもそのきっかけを作ってくれたのはキバナさんです。だからキバナさんが謝ることは一つもないんですよ。それに」
胸よりも少し出た腹部を擦る。
ようやくつわりも治まって、安定期に入った。
これからやることは沢山、あるのだ。
「どちらかを取るなら、私は家庭を取ります」
ああ、なるほど。
言葉を紡いで一人納得をする。
この人は、チャンピオンでなくなることを予想していたのだ。
決して万全の体調で臨んだわけではないのだから仕方のないことだ。
その責任が自分にあると思っている。
ずっと前に、キバナに言った言葉が蘇る。
あなたの夢を壊してしまってごめんなさい、私はあなたの隣に立つ資格なんてないのだと。
あの時と同じなのかもしれない。
恐らくこの世で一番、幸せなことであろうことを、ひたすら謝ってばかりなのだ。
何も気にしていないというのに。
「私はあなたと二人で、この子を育てていきたい。だから、謝らないで」
今度はしっかりと笑みを浮かべる。
ヘッドバンドで目元を隠していた竜は水色の瞳を覗かせて一言だけ力強く言った。
「二人とも、幸せにする」
まるで二度目のプロポーズのようだった。