ジンクス本編外
深々と降り続く雪にため息を零しながら、シュートシティの広場を横切ろうと踏み固められて滑りやすくなった小さな山に足をかけた。
これでもナックルシティに比べれば積雪は少ない方だ。
それでも生活に不便を感じさせるほどの雪が今年は降っている。
キルクスは積雪記録を大幅に更新し、滅多に降らない場所でも今年は降っているという。
最初は積もった雪にはしゃいでいた人々も、これだけ降ればうんざりした顔を見せていた。
体の芯から冷えていくような風が吹き付ける中、広場の中央ではキッチンカーが温かい飲み物を売っている。この後乗車する列車は温かいだろうけど、冷え切ってしまった体を温めようと、ココアを購入して駅へと歩みを進める。
前から吹き付ける風は雪の流れも変え、顔に直接雪がかかる。
いくらマフラーをしようと、こればかりはもう避けられない。数分歩いたところで、視線は駅へ向かう前方よりも周囲の雪や風を通さない、ほんの少し休めそうな場所を探し始めた。
きょろきょろと見渡すと、ショーウィンドゥの中でふわふわと飛んでいる大きなピンクのハート型をした風船が目に入った。
少し歩く速度を上げて店に近づくと、バレンタインチョコを売っているようだ。
あまり甘いものが好きではないキバナさんには、いつもお菓子ではなく紅茶やコーヒーを渡していた。だから今年もチョコレートを買う予定はなかったけれど、自分用に買ってもいいかもしれない。
なにより少し天気が良くなるまでの間、この時期にしか見られない色とりどりの美味しそうなチョコレートを眺めているだけでもいいかもしれない。
そう思って店舗の中へと入ると、そこにはたくさんのチョコレートが並んでいた。
各ブランド事にブースが設置され、箱が並んでいる。
入口に近いブースから順に回っていく。
お酒が入ったチョコレート、生チョコレート、トリュフ、紅茶で作ったチョコレート。フルーツがふんだんに使われているチョコレートや、ポケモンをモチーフにしたチョコレート。
キバナさんはたまにウイスキーを飲んでいるから、もしかしたらボンボンなら食べられるかもしれない。紅茶で作ったチョコレートも美味しそうだし、もしかしたら好みかもしれない。
トリュフや生チョコレートは私が好きだ。あの口の中で溶けていく甘いチョコレートの感触が好きで、いつも食べ過ぎてしまう。
ポケモンをモチーフにしたチョコレートには、それぞれタイプ事に箱が分けられていた。
その数は18種類と大きな40個ほど入った箱が一種類。全てのタイプを取り揃え、その中でも人気ポケモン上位を詰め合わせているようだ。
まずはドラゴンタイプを探す。どうやらヌメラやミニリュウなど定番のポケモンたちが6個ほどチョコレートになっていた。
それを手に取り、今度は40個ほど入った大きな箱の見本を見てみる。各タイプから2種類ずつ、それからモンスターボール、スーパーボール、ハイパーボールとマスターボールが入っている。
どれもこれも可愛くて、ついつい手が伸びていく。
箱を取ろうとした瞬間、横から伸びてきた手と重なってしまった。
「あ、ごめんなさ……キバナさん?」
「ユウリ?」
そこには甘いものが好きではないはずの、キバナさんが立っていた。
「……そのチョコは?」
「外があんな感じなんでたまたま入ったんですけど、これならキバナさん、食べれそうかなぁって思って」
手に持っていた箱をショーケースの上に並べていく。
ウィスキーボンボン、紅茶のチョコレート、生チョコレート、ドラゴンタイプのポケモンチョコの四種類だ。
キバナさんはその箱を見ると、驚いたように目を丸くした。
「やっぱり好みじゃなかったですか?」
「……いや。その逆。全部オレさまも買おうと思ってたやつ」
ほら、と掲げられたカゴの中には、ブランドは違うけれど似たようなウィスキーボンボンの詰め合わせ、紅茶のチョコレートが入っていた。
「珍しいですね、チョコレート買うの」
「レナとヒトミが一つくれた紅茶のチョコレートが思いの外美味くてな。で、ユウリにも買おうと思ってこの辺うろついてたらたまたま」
「ふふ、なんか、考えてること一緒でしたね」
「だな。どうする?その一番デカいやつ買うか?」
「そうですねぇ。これもいいですけどもっと色々な種類が食べれるようなのもいいなぁって思ってたんですよね」
「よし、全部買うか。どうせすぐなくなるだろ。甘くないやつならオレさまも食べるし」
「チョコの美味しさにハマりましたね?」
「喉が痛くなるからあまり食べないようにしてたんだけどな。結構美味いもんだな」
いつの間にかショーケースの上に置いていたチョコレートもキバナさんの持っていたカゴの中に入っていた。さらにその上には大きな箱も追加している。
「あ、私の分は自分で買いますからね。じゃないとキバナさんに贈るバレンタインチョコにならないので」
「その気持ちだけで充分なんだけどな」
「ダメです。でも…一緒に食べたいなぁ」
「んじゃ、オレさまからユウリに贈るチョコは好きなの選んでいいぜ。早く家に帰ってゆっくり食べよう」
「今日がバレンタインじゃないのに?」
「かまうもんか」
腕を組んだまま、ゆっくりと他のブースを回り、これもあれも、と小さな箱をカゴへ入れていく。
結局、会計を済ませて受け取った袋は随分と大きかった。
外へ出ると、冷たい風が体に染みる。けれど吹雪いていたはずの空はいつしか雪が止み、満天の星空とはいかないものの、微かに星が見えるほど晴れていた。
「帰ったらさっそく食べましょう!」
「とりあえず、飯食ってからな。デザートだ」
「はーい。キバナさんはどれから食べますか?」
「そうだなぁ……」
他愛もない会話を繰り返しながら、すっかり冷たくなったココアを一口飲むと、甘くてどろどろとした液体が喉を擽った。
「一本前の列車に乗らなくてよかった」
ぽつりと漏れた独り言は列車の到着アナウンスで掻き消されてしまったのか、キバナさんからの返事はなかった。
これでもナックルシティに比べれば積雪は少ない方だ。
それでも生活に不便を感じさせるほどの雪が今年は降っている。
キルクスは積雪記録を大幅に更新し、滅多に降らない場所でも今年は降っているという。
最初は積もった雪にはしゃいでいた人々も、これだけ降ればうんざりした顔を見せていた。
体の芯から冷えていくような風が吹き付ける中、広場の中央ではキッチンカーが温かい飲み物を売っている。この後乗車する列車は温かいだろうけど、冷え切ってしまった体を温めようと、ココアを購入して駅へと歩みを進める。
前から吹き付ける風は雪の流れも変え、顔に直接雪がかかる。
いくらマフラーをしようと、こればかりはもう避けられない。数分歩いたところで、視線は駅へ向かう前方よりも周囲の雪や風を通さない、ほんの少し休めそうな場所を探し始めた。
きょろきょろと見渡すと、ショーウィンドゥの中でふわふわと飛んでいる大きなピンクのハート型をした風船が目に入った。
少し歩く速度を上げて店に近づくと、バレンタインチョコを売っているようだ。
あまり甘いものが好きではないキバナさんには、いつもお菓子ではなく紅茶やコーヒーを渡していた。だから今年もチョコレートを買う予定はなかったけれど、自分用に買ってもいいかもしれない。
なにより少し天気が良くなるまでの間、この時期にしか見られない色とりどりの美味しそうなチョコレートを眺めているだけでもいいかもしれない。
そう思って店舗の中へと入ると、そこにはたくさんのチョコレートが並んでいた。
各ブランド事にブースが設置され、箱が並んでいる。
入口に近いブースから順に回っていく。
お酒が入ったチョコレート、生チョコレート、トリュフ、紅茶で作ったチョコレート。フルーツがふんだんに使われているチョコレートや、ポケモンをモチーフにしたチョコレート。
キバナさんはたまにウイスキーを飲んでいるから、もしかしたらボンボンなら食べられるかもしれない。紅茶で作ったチョコレートも美味しそうだし、もしかしたら好みかもしれない。
トリュフや生チョコレートは私が好きだ。あの口の中で溶けていく甘いチョコレートの感触が好きで、いつも食べ過ぎてしまう。
ポケモンをモチーフにしたチョコレートには、それぞれタイプ事に箱が分けられていた。
その数は18種類と大きな40個ほど入った箱が一種類。全てのタイプを取り揃え、その中でも人気ポケモン上位を詰め合わせているようだ。
まずはドラゴンタイプを探す。どうやらヌメラやミニリュウなど定番のポケモンたちが6個ほどチョコレートになっていた。
それを手に取り、今度は40個ほど入った大きな箱の見本を見てみる。各タイプから2種類ずつ、それからモンスターボール、スーパーボール、ハイパーボールとマスターボールが入っている。
どれもこれも可愛くて、ついつい手が伸びていく。
箱を取ろうとした瞬間、横から伸びてきた手と重なってしまった。
「あ、ごめんなさ……キバナさん?」
「ユウリ?」
そこには甘いものが好きではないはずの、キバナさんが立っていた。
「……そのチョコは?」
「外があんな感じなんでたまたま入ったんですけど、これならキバナさん、食べれそうかなぁって思って」
手に持っていた箱をショーケースの上に並べていく。
ウィスキーボンボン、紅茶のチョコレート、生チョコレート、ドラゴンタイプのポケモンチョコの四種類だ。
キバナさんはその箱を見ると、驚いたように目を丸くした。
「やっぱり好みじゃなかったですか?」
「……いや。その逆。全部オレさまも買おうと思ってたやつ」
ほら、と掲げられたカゴの中には、ブランドは違うけれど似たようなウィスキーボンボンの詰め合わせ、紅茶のチョコレートが入っていた。
「珍しいですね、チョコレート買うの」
「レナとヒトミが一つくれた紅茶のチョコレートが思いの外美味くてな。で、ユウリにも買おうと思ってこの辺うろついてたらたまたま」
「ふふ、なんか、考えてること一緒でしたね」
「だな。どうする?その一番デカいやつ買うか?」
「そうですねぇ。これもいいですけどもっと色々な種類が食べれるようなのもいいなぁって思ってたんですよね」
「よし、全部買うか。どうせすぐなくなるだろ。甘くないやつならオレさまも食べるし」
「チョコの美味しさにハマりましたね?」
「喉が痛くなるからあまり食べないようにしてたんだけどな。結構美味いもんだな」
いつの間にかショーケースの上に置いていたチョコレートもキバナさんの持っていたカゴの中に入っていた。さらにその上には大きな箱も追加している。
「あ、私の分は自分で買いますからね。じゃないとキバナさんに贈るバレンタインチョコにならないので」
「その気持ちだけで充分なんだけどな」
「ダメです。でも…一緒に食べたいなぁ」
「んじゃ、オレさまからユウリに贈るチョコは好きなの選んでいいぜ。早く家に帰ってゆっくり食べよう」
「今日がバレンタインじゃないのに?」
「かまうもんか」
腕を組んだまま、ゆっくりと他のブースを回り、これもあれも、と小さな箱をカゴへ入れていく。
結局、会計を済ませて受け取った袋は随分と大きかった。
外へ出ると、冷たい風が体に染みる。けれど吹雪いていたはずの空はいつしか雪が止み、満天の星空とはいかないものの、微かに星が見えるほど晴れていた。
「帰ったらさっそく食べましょう!」
「とりあえず、飯食ってからな。デザートだ」
「はーい。キバナさんはどれから食べますか?」
「そうだなぁ……」
他愛もない会話を繰り返しながら、すっかり冷たくなったココアを一口飲むと、甘くてどろどろとした液体が喉を擽った。
「一本前の列車に乗らなくてよかった」
ぽつりと漏れた独り言は列車の到着アナウンスで掻き消されてしまったのか、キバナさんからの返事はなかった。