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ジンクス本編外

「キバナさん、何見てるんですか?」
「んー?ユウリのドレス姿。ルリナ達が羨ましーなって」
「だから一緒に行きましょうって言ったのに」
ウッドデッキに腰掛け、ユウリは洗濯物を畳む手を一瞬止めた。
寝ころんでいた体を起こして洗濯物の山に手をかける。
手に取ったTシャツからは柔軟剤の爽やかな香りが鼻を擽る。
丁寧に折りたたみながらつけっぱなしだったスマホの画面に再び視線を戻すと、様々なドレスに四方を囲まれてふんわりとした真っ白なドレスに身を包んだユウリの写真が表示されていた。
「そりゃ行きたかったけど。あの時はさ、まだ見たくなかったんだ」
ウェディングドレスは当日に見たい。そんな風に思って試着にはいかなかった。
今となっては後悔して、暇さえあれば送ってもらった画像を見ているのだけれども。
「最初、そのドレスにしようと思ったんです。ウェディングドレスってそういうふんわりしたデザインなんだろうなって。でも着てみたらなんていうか、ちょっと違うなって。それを上手く言葉にできないでいたら、ルリナさんが色々持ってきてくれて。マリィはアクセサリー、ソニアさんはコサージュ。代わる代わる着たり付けてみたり…少し疲れましたけど楽しかったですよ」
フェイスタオルを畳みながら、ユウリはどこか懐かしむように言った。
聞いたその様子は容易に想像できる。ファッションに明るい三人がいたのだ。ユウリの要望を汲み取って、ドレスにしても小物類にしても最適なものを選んでくれたのだろう。
「旅行も楽しかったよ。他地方なんて出張でしか行くことないしな。けどさ、こうして家でのんびりする方がいいな」
昨日アローラから帰国し、ユウリが今畳んでいるのは旅行中の洗濯物だった。
色々なところを観光し、名物や有名な店の料理を食べた。バトルも沢山して、ガラルには生息しないポケモンたちを見た。
それはそれで楽しかったけれども、今こうして家でのんびりと過ごす時間はとても穏やかで心地がいい。
庭ではコータスとウィンディが太陽の陽に当たり、小さな簡易プールではヌメルゴンが水浴びをしている。プールの外からインテレオンがみずでっぽうでそれを手伝っていた。ジュラルドンとサーナイトは日陰で休み、フライゴンは楽しそうに自由に飛んでいる。お互いの手持ち6匹ずつ、計12匹を出すことはなかなか出来ないけれど、皆、家にいる間は好きにボールから出て専用の部屋で寛いでいたり、こうして庭で遊んでいたり。そんな光景を見ていると、とても心が落ち着くのだ。
「明日からまた日常に戻っちゃいますね」
「こんなに休んだのは久しぶりだったなぁ」
時たま吹く風は冷たくも暑くもなく、青い草の匂いを共に運んでくる。
ひたすらに洗濯物を畳んでいたユウリが突然ごろっとフローリングの上に敷いた低反発ラグの上に寝転んだ。
畳んだばかりのバスタオルを枕代わりにし、横になりながら庭を眺めている。
手元に残った洗濯物を畳み終え、その隣に寝転んだ。
「ずっとこうしていたいなぁ」
「だな」
2度目に干したシーツが風に靡く。
柔軟剤の香りと、太陽に照らされて乾いた青草の匂い。
ちゃっかり腕に頭を乗せて微睡み始めたユウリの暖かい体温にだんだん瞼が下がっていく。
遠くの方に子供の燥いだ声と、ポケモンの鳴き声。木々に集まった鳥ポケモンたちの声。
そして、我が家に帰ってきた安心感に包まれて意識は深いところへ沈んでいく。
残り僅かなこの時間を何も考えずに、ゆったりと二人で過ごすのも悪くはないだろう。
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