ジンクス本編外
「あれ?インテレオンが二匹になってる~」
少しわざとらしく洗濯物を片付けながら、寝室のドアの前に立っている二匹に声をかける。
片方は本当のインテレオン。もう片方は最近捕まえたメタモンだ。
あまり個体値は高くなく、バトルも苦手。けれどものまねだけは人一倍上手かった。
一般的なメタモンがものまねをすると、姿形はそっくりでも目だけは特徴的な、メタモンの目になる。
この子はそれがなく、完璧に変身ができる。
長く一緒にいるインテレオンなどはどちらが本物かわかるけれど、最近捕まえた子だとわからないくらいだ。
「こっちが本物で、こっちがメタモン!」
洗濯ものをいったんソファーに置き、それぞれの手を握る。
本物のインテレオンは呆れたようにため息をつき、メタモンは元の姿に戻った。
次々と私のポケモンやキバナさんのポケモンの姿へと変身をしていく。
そっくりだね、と声を掛けると嬉しそうに体をくねらせた。
その後、また姿を変えようとシルエットがあいまいになる。
どうやら背が高く、手足もある何かに変身しようとしているのか、じっとその様子を窺っていると見慣れた人の姿へと変身した。
「そっか…さっきの聞こえてたんだね。喜ばせようとしてくれたのは嬉しいんだけど、元の姿に戻ってくれる?」
メタモンはキバナさんの姿のまま、首を傾げた。
まるでその様子は会いたかったんでしょ?といっているようで、その優しさが痛い。
洗濯ものを取り込みながら、ついうっかりと独り言が漏れた。
今日も遅いのかな、と。
ここ数か月、激務が続いているキバナさんとはまともに会話をした記憶がない。
仕事で会うこともあるし、メッセージや電話はしているけれど、それで足りるものではない。
せいぜい一か月ほどであれば、あるいは機関が決まっていればこんな風にネガティブになることはなかっただろう。
いつまで忙しいかは未定。たまの休日は日ごろの疲れをとるように眠っている。せっかく休みを合わせても、結局は一人だ。
それは覚悟をしていたことでもあるし、そんな姿は知り合ってから何度も見ているはずだった。
できるだけキバナさんの前では態度に出さないように気を付けていても、一人になると抑えきれなかった。
「仕方ないってわかってるんだけどね」
私だってシーズンがくれば忙しい。さすがに帰れないほどではないけれど、正直このままシュートシティのホテルで休んでしまいたいと思う日だってある。
だけどやっぱり今日一日お疲れ様と言い合いたいし、できれば一緒にご飯も食べたい。
「そろそろご飯にする?」
そう二匹に声を掛けると、メタモンはくねくねと体をくねらせて全身で喜びを表現し、他の子たちもボールから出てきた。
本来はトレーナーより先にご飯を食べさせるべきではない。
けれど、ダイニングテーブルに乗ったまだ少しは温かいだろう料理を食べる気にはなれなかった。
ガサガサとフードの袋の音が無音のリビングに響く。
待ってね、とかもういいよ、なんて声を掛けながら一匹一匹にフードを配り、キッチンで手を洗っていると急に皆が騒ぎ出した。
「何、どーしたの?」
慌てて手を拭きながら駆け寄ると、一斉にドアの方を向いて騒いでいる。
「玄関?」
時刻はもう二十時をとっくに過ぎている。宅配便の予定も今日はないし、来客の予定もない。
不審に思いながらリビングのドアを開けると、消していたはずの脱衣所の照明がついていて、何やら物音がした。
「…キバナさん?」
「ただいま、ユウリ」
パーカーもヘアバンドも取り払い、ユニフォーム姿のキバナさんになんで、の一言しか頭に思い浮かばなかった。
「そんなびっくりした顔するなよ。夕飯、まだ残ってる?ユウリはもう食べただろ?」
「残っているっていうか…私もまだ…」
「二十時過ぎても帰ってこなかったら先に食べてろって言ったろ?」
「だって…食べる気がしなくって」
なんとなくばつが悪くて俯いてしまう。明らかに疲労の色が濃いキバナさんに余計な心配をかけてしまったことになんだかもやもやとした。
「まあ、オレも一緒に食べたいけどさ。さ、飯にしようぜ」
「でも、なんで今日は早かったんですか?」
「この時間で早いって言われてもなぁ…リョウタ達に返された。んで、週末は休めって言われた。だからゆっくりしようぜ」
「だって最近ずっと遅かったじゃないですか…」
「でも一区切りついたし、これからはこの時間くらいには帰れるだろ。多分」
「多分、なんですね」
「そんな拗ねるなって」
嬉しさ半分、まだ続くのかと残念な気持ちが半分混ざりあい、ついつい子供っぽい態度を取ってしまった。
そんな態度にもキバナさんは苦笑いするだけで、責めてはこない。
「私、ご飯温め直しますね」
リビングのドアを開けると、入れ違いにポケモン達が脱衣所に駆け込んでいく。
おかえりと飛びつく子、ちらりと帰ってきた姿を確認する子、反応は様々だ。
それでも皆、嬉しいことには変わりない。勿論私も。
ダイニングテーブルに乗った少し冷めてしまった料理を電子レンジに入れて、私は温かいご飯をよそう。
明日と明後日は、彼の好物を作ろう。
少しわざとらしく洗濯物を片付けながら、寝室のドアの前に立っている二匹に声をかける。
片方は本当のインテレオン。もう片方は最近捕まえたメタモンだ。
あまり個体値は高くなく、バトルも苦手。けれどものまねだけは人一倍上手かった。
一般的なメタモンがものまねをすると、姿形はそっくりでも目だけは特徴的な、メタモンの目になる。
この子はそれがなく、完璧に変身ができる。
長く一緒にいるインテレオンなどはどちらが本物かわかるけれど、最近捕まえた子だとわからないくらいだ。
「こっちが本物で、こっちがメタモン!」
洗濯ものをいったんソファーに置き、それぞれの手を握る。
本物のインテレオンは呆れたようにため息をつき、メタモンは元の姿に戻った。
次々と私のポケモンやキバナさんのポケモンの姿へと変身をしていく。
そっくりだね、と声を掛けると嬉しそうに体をくねらせた。
その後、また姿を変えようとシルエットがあいまいになる。
どうやら背が高く、手足もある何かに変身しようとしているのか、じっとその様子を窺っていると見慣れた人の姿へと変身した。
「そっか…さっきの聞こえてたんだね。喜ばせようとしてくれたのは嬉しいんだけど、元の姿に戻ってくれる?」
メタモンはキバナさんの姿のまま、首を傾げた。
まるでその様子は会いたかったんでしょ?といっているようで、その優しさが痛い。
洗濯ものを取り込みながら、ついうっかりと独り言が漏れた。
今日も遅いのかな、と。
ここ数か月、激務が続いているキバナさんとはまともに会話をした記憶がない。
仕事で会うこともあるし、メッセージや電話はしているけれど、それで足りるものではない。
せいぜい一か月ほどであれば、あるいは機関が決まっていればこんな風にネガティブになることはなかっただろう。
いつまで忙しいかは未定。たまの休日は日ごろの疲れをとるように眠っている。せっかく休みを合わせても、結局は一人だ。
それは覚悟をしていたことでもあるし、そんな姿は知り合ってから何度も見ているはずだった。
できるだけキバナさんの前では態度に出さないように気を付けていても、一人になると抑えきれなかった。
「仕方ないってわかってるんだけどね」
私だってシーズンがくれば忙しい。さすがに帰れないほどではないけれど、正直このままシュートシティのホテルで休んでしまいたいと思う日だってある。
だけどやっぱり今日一日お疲れ様と言い合いたいし、できれば一緒にご飯も食べたい。
「そろそろご飯にする?」
そう二匹に声を掛けると、メタモンはくねくねと体をくねらせて全身で喜びを表現し、他の子たちもボールから出てきた。
本来はトレーナーより先にご飯を食べさせるべきではない。
けれど、ダイニングテーブルに乗ったまだ少しは温かいだろう料理を食べる気にはなれなかった。
ガサガサとフードの袋の音が無音のリビングに響く。
待ってね、とかもういいよ、なんて声を掛けながら一匹一匹にフードを配り、キッチンで手を洗っていると急に皆が騒ぎ出した。
「何、どーしたの?」
慌てて手を拭きながら駆け寄ると、一斉にドアの方を向いて騒いでいる。
「玄関?」
時刻はもう二十時をとっくに過ぎている。宅配便の予定も今日はないし、来客の予定もない。
不審に思いながらリビングのドアを開けると、消していたはずの脱衣所の照明がついていて、何やら物音がした。
「…キバナさん?」
「ただいま、ユウリ」
パーカーもヘアバンドも取り払い、ユニフォーム姿のキバナさんになんで、の一言しか頭に思い浮かばなかった。
「そんなびっくりした顔するなよ。夕飯、まだ残ってる?ユウリはもう食べただろ?」
「残っているっていうか…私もまだ…」
「二十時過ぎても帰ってこなかったら先に食べてろって言ったろ?」
「だって…食べる気がしなくって」
なんとなくばつが悪くて俯いてしまう。明らかに疲労の色が濃いキバナさんに余計な心配をかけてしまったことになんだかもやもやとした。
「まあ、オレも一緒に食べたいけどさ。さ、飯にしようぜ」
「でも、なんで今日は早かったんですか?」
「この時間で早いって言われてもなぁ…リョウタ達に返された。んで、週末は休めって言われた。だからゆっくりしようぜ」
「だって最近ずっと遅かったじゃないですか…」
「でも一区切りついたし、これからはこの時間くらいには帰れるだろ。多分」
「多分、なんですね」
「そんな拗ねるなって」
嬉しさ半分、まだ続くのかと残念な気持ちが半分混ざりあい、ついつい子供っぽい態度を取ってしまった。
そんな態度にもキバナさんは苦笑いするだけで、責めてはこない。
「私、ご飯温め直しますね」
リビングのドアを開けると、入れ違いにポケモン達が脱衣所に駆け込んでいく。
おかえりと飛びつく子、ちらりと帰ってきた姿を確認する子、反応は様々だ。
それでも皆、嬉しいことには変わりない。勿論私も。
ダイニングテーブルに乗った少し冷めてしまった料理を電子レンジに入れて、私は温かいご飯をよそう。
明日と明後日は、彼の好物を作ろう。