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ジンクス本編外

一人で眠るベッドはこんなにも広く、冷たいのだと思った。
ここ数日間、そんな寂しさを紛らわすように毛布を被って胡麻化して眠っていた。
明日は休日。
だから少し夜更かしをし、待っていようと思った。
テレビ番組や動画配信サービスを流しながら、SNSやネットニュースを眺めていたはずが、いつの間にか眠ってしまったようだ。
気が付けば、私はベッドに横たわっていた。
しっかり毛布を掛けられている。
しんと静まり返った暗闇の中、すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。
横にはキバナさんが眠っていた。
画面越しではなく、直に顔を見たのも数日ぶりだった。
ここ最近は特に忙しかったようで、私が眠る時刻にも帰ってきていなかったし、朝は私よりも早く出勤していた。
そっと振動を立てないように寝返りを打って、カーテンの隙間から漏れた僅かな月明りを頼りにその顔を見る。
暗い中でもわかるほどの、眼の下の隈を指先でそっと撫でる。
ピクっと頬が強張って、慌てて手を引っ込めた。
途端に、疲れて帰ってきた彼に、ベッドまで運ばせてしまい、挙句に起こしてしまうようなことをしている自分が恥ずかしくなった。
もぞもぞとできるだけそっと、もう一度毛布の中に潜り込む。
生乾きで眠ってしまったのか、普段はまっすぐな漆黒の髪は寝ぐせがついてしまっている。
カチ、コチ、と時計の秒針を刻む音だけが唯一の音だ。
もうベッドは広くはない。冷たくもない。
無事に帰ってきて、顔を見ることができた安心感からか、眠ろうと思えばまた夢の中へすぐにでも入れるのに、それがとても惜しい気がした。
できれば海のような青い瞳が見たかった。少し低めの声が聴きたかった。
触れたい。でも起こしたくない。
秒針の音を聞きながら寝顔を眺めていると、キバナさんが微かに唸り声を上げて寝返りを打った。
こちらを向いて、もぞもぞと手が何かを探している。
触れるか触れないか、微妙な距離に手を置くと、確かめるように何度か柔く手を握られて、唸り声は収まった。
私を夢の中でも探してくれていたのだと気が付いて、胸が温かくなっていく。
手のひらから伝わる体温に急速に眠気が襲ってきて、けれどやっぱり勿体なくて、抗うように閉じかけた瞼を開けると、暗闇の中に青い色を見つけた。
「ゆ、り」
掠れた声で名前を呼ばれた。
いた、と小さく呟いて、青が消えていく。
寂しさと、安堵と、温かさ。
色々と沸き起こってくる感情に蓋をして、夢の中へと沈んでいく。
明け方までの短い時間、いい夢が見れますように。

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