ジンクス本編外
城門を潜ると、そこには色々な色が散りばめられていた。
秋も深まったこの時期にしか見られない、木々の葉が薄い緑や黄色、赤に染められた光景は美しい。
一年のうちで最もワイルドエリアに色が溢れる季節だ。
春の初々しい緑色、真夏の太陽にも焼かれずより深く色づいた深い緑色、僅かに残った少しくすんだ色の葉が雪に覆われた景色も勿論綺麗だ。
ひらひらと落ちてくる葉を避けながら、左折して踏み鳴らされた土の上を歩いていく。
ワイルドエリアの天候は変わりやすいとはいえ、ガラルの四季には逆らえないのだろう。真夏に雪が降っても葉は色を変えたり落ちたりはしない。
だから、こうしてどこもかしこも色が変わると、秋の訪れを感じる。そしてそれが深まったころには空気も冷たく乾燥し、もうすぐ冬がやってくるのだと思うのだ。
砂塵の窪地を過ぎ、預かり屋の近くまで来ると一気に太陽が隠れて暗くなった。
この場所は通年、少し暗い。夏は日陰を求めて野生ポケモンたちがやってきて、涼を取っている場所だ。
いくつかのきのみの生る木があり、その少し奥にレジャーシートが敷いてあるのが見えた。
その上にはいくつもの大きな麻袋が乱立していて、ジュラルドンがその袋を守るように座っている。
辺りを警戒しつつも、どこか和んでいるその表情はバトルの時の獰猛さは微塵もない。
なぜジュラルドンがここにいるのかというと、事の始まりは朝のことだった。
冬に備えてきのみを採りに行くと言うユウリの方へ、ジュラルドン、フライゴン、ヌメルゴンが行きたいと騒いだ。
突然行きたいと言われても、仕事がある。だから今度の休みにしようと言っても、珍しく聞かなかった。
このところ、連日仕事続きでバトルもしていなかったし、遊ぶ時間がなかったのは認める。それについて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
宥め聞かせるオレと行きたいと駄々を捏ねる3匹の攻防はなかなかに時間がかかり、もう出なければ遅刻するという時刻まで迫っていた。
そこに助け舟を出したのはユウリだった。
キバナさんさえよければ連れていきますよ、という声は、オレにとっても、3匹にとってもまさに魅惑の誘いだった。
3匹は一様に喜び、あれだけ聞き分けがなかったのにさっさとボールの中へと入っていく。
大型で、気難しい性格の彼らも懐いているユウリならば一緒に行っても安心だろうと連れて行ってもらう事にしたのだ。
「ジュラルドン、ユウリはどこだ?」
ジュラ、と鳴き声と共に片腕が上がり、穴掘り兄弟の向こう側を指した。
あの先は小さな湖がある。そのあたりまで足を延ばしているのだろう。
「あいつ、まだ採る気か?」
もう少し待っててくれ、とジュラルドンに声を掛け、野生ポケモンを避けながら湖の方まで行くと、一生懸命木を揺らしているユウリの姿があった。
「ユウリー!そろそろ帰るぞー!」
「あ、キバナさーん!」
視線を上げたユウリは大木から手を放し、その上からきのみがバラバラと降ってくる。
あ、と声を上げた時には遅かった。
きゃあ、という悲鳴が上がる。
いくつかのきのみが頭上に直撃したようだ。
「大丈夫か?随分一気に落ちてきたな」
「4回揺らしたので…」
ヨクイバリスやチェリンボが襲ってくるぎりぎりまで粘ったらしい。辺りには10個近くのきのみが転がっていた。
「さ、暗くなる前に帰るぞ。もう十分だろ?」
「そうですね。いっぱい採れたんですよ。あっちでジュラルドンに待ってもらってます。今日はジュラルドンもヌメルゴンもフライゴンもいっぱい遊んでましたよ」
「そういえばヌメルゴンとフライゴンは?」
「ボールの中です。お昼にカレーをたくさん食べて寝ちゃったので」
「満足したならよかった。ストレス溜まってたんだろうなぁ。悪かったな、お守頼んで」
「いいえ、楽しかったですよ。フライゴンもヌメルゴンもよく手伝ってくれましたし」
拾い集めたきのみを麻袋に詰め、よいしょ、と掛け声を上げて持ち上げたユウリの手からその袋を奪う。
「ジュラルドンもここを守ってくれてありがとう。おかげでヨクバリスに奪われなくてすんだよ」
ぎっしりと袋の口が閉まるぎりぎりまで詰められた麻袋は合計で4つ。
よくここまで集めたものだと感心しながら両肩に背負うように担いだ。
「これだけ集めても、すぐなくなっちゃうんですよね。冬が来る前にもう一度来れたらいいなぁ」
お互いの大型の手持ちポケモン12匹分のおやつと、カレーに入れる分となればこれだけあっても2か月も持たないだろう。加えて、夕飯の盛り付けやデザートにも使えばいくらあっても正直、足りない。
「今度はオレも来たいな。冬が来る前にキャンプしたいし」
「今年最後のキャンプカレー、作りましょうか。バトルして、カレー食べて、きのみ集めて」
冬が来れば、自ずとワイルドエリアからは足が遠のいてしまう。来月からはイベント事も増え、仕事も年末に向けて片付けなければならない。
だから、その前に今年最後のキャンプをしたい。ユウリとジュラルドンたちと目いっぱいワイルドエリアでバトルをして、カレーを作って。
「いい休日になりそうだな。来週のユウリの休みに合わせられるように仕事、頑張るか」
「ふふ、頑張ってくださいね。楽しみにしてますから」
木々が揺れ、葉が落ちる。黄色や赤い落ち葉がまるで絨毯のように広がっていた。
気がつけば、吹き付ける風がだいぶ冷たくなり、あれだけ柔らかく照らしてくれていた日差しも陰り始めていた。
もうすぐ、冬がやってくる。
辺り一面を白で覆いつくされるまで、あと僅かだ。
秋も深まったこの時期にしか見られない、木々の葉が薄い緑や黄色、赤に染められた光景は美しい。
一年のうちで最もワイルドエリアに色が溢れる季節だ。
春の初々しい緑色、真夏の太陽にも焼かれずより深く色づいた深い緑色、僅かに残った少しくすんだ色の葉が雪に覆われた景色も勿論綺麗だ。
ひらひらと落ちてくる葉を避けながら、左折して踏み鳴らされた土の上を歩いていく。
ワイルドエリアの天候は変わりやすいとはいえ、ガラルの四季には逆らえないのだろう。真夏に雪が降っても葉は色を変えたり落ちたりはしない。
だから、こうしてどこもかしこも色が変わると、秋の訪れを感じる。そしてそれが深まったころには空気も冷たく乾燥し、もうすぐ冬がやってくるのだと思うのだ。
砂塵の窪地を過ぎ、預かり屋の近くまで来ると一気に太陽が隠れて暗くなった。
この場所は通年、少し暗い。夏は日陰を求めて野生ポケモンたちがやってきて、涼を取っている場所だ。
いくつかのきのみの生る木があり、その少し奥にレジャーシートが敷いてあるのが見えた。
その上にはいくつもの大きな麻袋が乱立していて、ジュラルドンがその袋を守るように座っている。
辺りを警戒しつつも、どこか和んでいるその表情はバトルの時の獰猛さは微塵もない。
なぜジュラルドンがここにいるのかというと、事の始まりは朝のことだった。
冬に備えてきのみを採りに行くと言うユウリの方へ、ジュラルドン、フライゴン、ヌメルゴンが行きたいと騒いだ。
突然行きたいと言われても、仕事がある。だから今度の休みにしようと言っても、珍しく聞かなかった。
このところ、連日仕事続きでバトルもしていなかったし、遊ぶ時間がなかったのは認める。それについて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
宥め聞かせるオレと行きたいと駄々を捏ねる3匹の攻防はなかなかに時間がかかり、もう出なければ遅刻するという時刻まで迫っていた。
そこに助け舟を出したのはユウリだった。
キバナさんさえよければ連れていきますよ、という声は、オレにとっても、3匹にとってもまさに魅惑の誘いだった。
3匹は一様に喜び、あれだけ聞き分けがなかったのにさっさとボールの中へと入っていく。
大型で、気難しい性格の彼らも懐いているユウリならば一緒に行っても安心だろうと連れて行ってもらう事にしたのだ。
「ジュラルドン、ユウリはどこだ?」
ジュラ、と鳴き声と共に片腕が上がり、穴掘り兄弟の向こう側を指した。
あの先は小さな湖がある。そのあたりまで足を延ばしているのだろう。
「あいつ、まだ採る気か?」
もう少し待っててくれ、とジュラルドンに声を掛け、野生ポケモンを避けながら湖の方まで行くと、一生懸命木を揺らしているユウリの姿があった。
「ユウリー!そろそろ帰るぞー!」
「あ、キバナさーん!」
視線を上げたユウリは大木から手を放し、その上からきのみがバラバラと降ってくる。
あ、と声を上げた時には遅かった。
きゃあ、という悲鳴が上がる。
いくつかのきのみが頭上に直撃したようだ。
「大丈夫か?随分一気に落ちてきたな」
「4回揺らしたので…」
ヨクイバリスやチェリンボが襲ってくるぎりぎりまで粘ったらしい。辺りには10個近くのきのみが転がっていた。
「さ、暗くなる前に帰るぞ。もう十分だろ?」
「そうですね。いっぱい採れたんですよ。あっちでジュラルドンに待ってもらってます。今日はジュラルドンもヌメルゴンもフライゴンもいっぱい遊んでましたよ」
「そういえばヌメルゴンとフライゴンは?」
「ボールの中です。お昼にカレーをたくさん食べて寝ちゃったので」
「満足したならよかった。ストレス溜まってたんだろうなぁ。悪かったな、お守頼んで」
「いいえ、楽しかったですよ。フライゴンもヌメルゴンもよく手伝ってくれましたし」
拾い集めたきのみを麻袋に詰め、よいしょ、と掛け声を上げて持ち上げたユウリの手からその袋を奪う。
「ジュラルドンもここを守ってくれてありがとう。おかげでヨクバリスに奪われなくてすんだよ」
ぎっしりと袋の口が閉まるぎりぎりまで詰められた麻袋は合計で4つ。
よくここまで集めたものだと感心しながら両肩に背負うように担いだ。
「これだけ集めても、すぐなくなっちゃうんですよね。冬が来る前にもう一度来れたらいいなぁ」
お互いの大型の手持ちポケモン12匹分のおやつと、カレーに入れる分となればこれだけあっても2か月も持たないだろう。加えて、夕飯の盛り付けやデザートにも使えばいくらあっても正直、足りない。
「今度はオレも来たいな。冬が来る前にキャンプしたいし」
「今年最後のキャンプカレー、作りましょうか。バトルして、カレー食べて、きのみ集めて」
冬が来れば、自ずとワイルドエリアからは足が遠のいてしまう。来月からはイベント事も増え、仕事も年末に向けて片付けなければならない。
だから、その前に今年最後のキャンプをしたい。ユウリとジュラルドンたちと目いっぱいワイルドエリアでバトルをして、カレーを作って。
「いい休日になりそうだな。来週のユウリの休みに合わせられるように仕事、頑張るか」
「ふふ、頑張ってくださいね。楽しみにしてますから」
木々が揺れ、葉が落ちる。黄色や赤い落ち葉がまるで絨毯のように広がっていた。
気がつけば、吹き付ける風がだいぶ冷たくなり、あれだけ柔らかく照らしてくれていた日差しも陰り始めていた。
もうすぐ、冬がやってくる。
辺り一面を白で覆いつくされるまで、あと僅かだ。