ジンクス本編外
「ユウリ~」
甘えたような声で寄りかかってきたキバナの体を支えてため息をつく。
この1時間で何度目のやり取りだろうか。
「…すごくお酒臭いので離れてください」
えー、と抗議の声が上がるが、いつものように張りはない。
はあ、と二度目のため息をついてソファーから立ち上がると、支えを失った体は呆気なく倒れた。
テーブルの上の綺麗なグラスとボトルをちらりと見る。
カブが帰省のお土産にと手渡したのは、鮮やかな色のグラスと飾っておきたくなるほど美しいボトルに入った酒だった。
片方は海を思わせるような青、もう片方は水色で、気泡が水滴のように見えるペアグラスだった。
キバナには度数の強い、いかにも高級そうな瓶に入ったお酒を、ユウリにはその酒で漬けた果実酒を贈ってくれた。
最初は見慣れぬ酒への興味と、貰った嬉しさからSNSに投稿したり録画したバトルを見たりと楽しい雰囲気だった。
お互い明日は休みということもあり、ゆっくりとした夜を過ごしていたのだ。
43度もあるというそれを旨いと半分ほど飲んだところで、キバナの褐色の肌は赤みを帯び、べたべたとしたスキンシップが始まった。
独特のくせのある匂いに、飲んでいないユウリも酔いそうになる。
これが外でなくて本当に良かったと安堵すると共に、どうしようかと頭を抱える。
ソファーにごろんと寝っ転がったキバナは、まだ片手に美しいグラスを持っている。
長い指と澄んだ青いグラスは写真に収めたくなるほど美しい光景だった。
寝てしまうまで飲んでも全く構わないが、それはそれでなんだか寂しい。
「ゆうり、はやく」
ぽんぽんと空いた部分を叩いて呼ぶ声は、とても色っぽくてドキリとする。
酔っ払っているという自覚はないものの、ユウリも酒が入っている。
いっそのことキバナのように酔っ払ってしまいたいとも思う反面、二人揃ってこの状態になってしまえば悲惨なことになりかねない。
三度目のため息をついて、わずかなスペースに腰掛けてキバナの腹に寄りかかる。
始終ニコニコとしている彼はもうヌメラのようだ。
力ない腕はルームウェアから伸びた素足をひたすら撫でている。
「キバナさん、もう寝ましょう」
「それ…誘ってんの?」
「ちっちがいます!自分で歩いてベッドまで行ってくれないと!」
ただ擦っていた手は次第にショートパンツの中の太腿にまで手を伸ばし始めた。
このままでは酔っ払ったキバナの相手をしなければならなくなる。
それ自体が嫌なわけではないが、酔っ払っているキバナはいつもよりさらにねちっこく責めてくるのだ。
以前のことを思い出して、テーブルの上に置いてあったスマホを手に立ち上がりキッチンへ避難する。
電話帳から一人、助言を得られそうな人物の名前をタップする。
数回コール音が鳴って、怠そうに掠れた声でもしもし、と聞こえた。
「ネズさん、遅くにすみません。その…酔っ払った人をどうすればいいか…」
「キバナですか?」
はい、と小さく返事をする。
「酔う?あいつがですか?ザルのあいつが酔ってるところなんて俺は見たことねーですが…」
「…え?」
確かキバナとネズは十数年の付き合いがあるはずだ。
幾度となく飲みに行った話は聞いている。
「暴れたりしているわけではないんですね?」
ネズの声が少し緊張を纏ったものに変わった。
「いえ、そういうわけではないんですけど…」
ああ、という声に何かを悟られた気がした。
失敗した。ソニアやルリナに電話をかけたらよかった。
何度となく気を許して飲んだであろうネズならこういう時の対処法を知っているのではないかと思ったが、人選を間違ったのかもしれない。
「まあ…殴って寝かせればいいんじゃねーですかね」
頑丈だから少々のことじゃ死にゃしないでしょ、と続けられて呆気にとられる。
「殴る…ですか?」
ぽかんと声に出すと、くく、っと笑い声が聞こえた。
「さすがに」
流石にそれは、と続けようとしたところでスマホが手から離れた。
「おい、ネズ」
いつの間にかユウリのスマホを手にキバナが立っていた。
その声も足取りもしっかりしているように見える。
何やら悪態をついた後、キバナは終話し、スマホをシンクの上に置く。
「キバナさん」
「オマエ…ネズに電話しなくてもいいだろ」
やはり声はいつもの張りのあるものだ。
「本当に酔ってました?」
今日も、この前も、と続ければ、キバナはあ、っと小さく声を出した。
「酔っ払ってませんでしたよね」
「いや…さっきは酔ってた、と思う。多分…」
「具合悪くなったらどうしようとか、このままソファーで寝たら体痛くなるだろうなとか風邪引くかもとか、心配した私が馬鹿みたいじゃないですか」
「…ごめん」
ドラゴンストームが聞いて呆れる。試そうとしたのかこのままセックスに持ち込もうとしたのか。
どちらにせよ酔っ払ったふりをしてやることではないだろう。
「少し酔ってたのは本当。…ユウリが甘やかしてくれるからつい。ごめん」
素直に謝るキバナに何か言ってやろうと思った物の、結局頭には何も浮かばない。
「…今回きりにしてくださいね。心配だし…手に負えないので」
わかった、と短い返事と共に額にキスが降りてくる。
その吐息からは強烈な酒の匂いがした。
甘えたような声で寄りかかってきたキバナの体を支えてため息をつく。
この1時間で何度目のやり取りだろうか。
「…すごくお酒臭いので離れてください」
えー、と抗議の声が上がるが、いつものように張りはない。
はあ、と二度目のため息をついてソファーから立ち上がると、支えを失った体は呆気なく倒れた。
テーブルの上の綺麗なグラスとボトルをちらりと見る。
カブが帰省のお土産にと手渡したのは、鮮やかな色のグラスと飾っておきたくなるほど美しいボトルに入った酒だった。
片方は海を思わせるような青、もう片方は水色で、気泡が水滴のように見えるペアグラスだった。
キバナには度数の強い、いかにも高級そうな瓶に入ったお酒を、ユウリにはその酒で漬けた果実酒を贈ってくれた。
最初は見慣れぬ酒への興味と、貰った嬉しさからSNSに投稿したり録画したバトルを見たりと楽しい雰囲気だった。
お互い明日は休みということもあり、ゆっくりとした夜を過ごしていたのだ。
43度もあるというそれを旨いと半分ほど飲んだところで、キバナの褐色の肌は赤みを帯び、べたべたとしたスキンシップが始まった。
独特のくせのある匂いに、飲んでいないユウリも酔いそうになる。
これが外でなくて本当に良かったと安堵すると共に、どうしようかと頭を抱える。
ソファーにごろんと寝っ転がったキバナは、まだ片手に美しいグラスを持っている。
長い指と澄んだ青いグラスは写真に収めたくなるほど美しい光景だった。
寝てしまうまで飲んでも全く構わないが、それはそれでなんだか寂しい。
「ゆうり、はやく」
ぽんぽんと空いた部分を叩いて呼ぶ声は、とても色っぽくてドキリとする。
酔っ払っているという自覚はないものの、ユウリも酒が入っている。
いっそのことキバナのように酔っ払ってしまいたいとも思う反面、二人揃ってこの状態になってしまえば悲惨なことになりかねない。
三度目のため息をついて、わずかなスペースに腰掛けてキバナの腹に寄りかかる。
始終ニコニコとしている彼はもうヌメラのようだ。
力ない腕はルームウェアから伸びた素足をひたすら撫でている。
「キバナさん、もう寝ましょう」
「それ…誘ってんの?」
「ちっちがいます!自分で歩いてベッドまで行ってくれないと!」
ただ擦っていた手は次第にショートパンツの中の太腿にまで手を伸ばし始めた。
このままでは酔っ払ったキバナの相手をしなければならなくなる。
それ自体が嫌なわけではないが、酔っ払っているキバナはいつもよりさらにねちっこく責めてくるのだ。
以前のことを思い出して、テーブルの上に置いてあったスマホを手に立ち上がりキッチンへ避難する。
電話帳から一人、助言を得られそうな人物の名前をタップする。
数回コール音が鳴って、怠そうに掠れた声でもしもし、と聞こえた。
「ネズさん、遅くにすみません。その…酔っ払った人をどうすればいいか…」
「キバナですか?」
はい、と小さく返事をする。
「酔う?あいつがですか?ザルのあいつが酔ってるところなんて俺は見たことねーですが…」
「…え?」
確かキバナとネズは十数年の付き合いがあるはずだ。
幾度となく飲みに行った話は聞いている。
「暴れたりしているわけではないんですね?」
ネズの声が少し緊張を纏ったものに変わった。
「いえ、そういうわけではないんですけど…」
ああ、という声に何かを悟られた気がした。
失敗した。ソニアやルリナに電話をかけたらよかった。
何度となく気を許して飲んだであろうネズならこういう時の対処法を知っているのではないかと思ったが、人選を間違ったのかもしれない。
「まあ…殴って寝かせればいいんじゃねーですかね」
頑丈だから少々のことじゃ死にゃしないでしょ、と続けられて呆気にとられる。
「殴る…ですか?」
ぽかんと声に出すと、くく、っと笑い声が聞こえた。
「さすがに」
流石にそれは、と続けようとしたところでスマホが手から離れた。
「おい、ネズ」
いつの間にかユウリのスマホを手にキバナが立っていた。
その声も足取りもしっかりしているように見える。
何やら悪態をついた後、キバナは終話し、スマホをシンクの上に置く。
「キバナさん」
「オマエ…ネズに電話しなくてもいいだろ」
やはり声はいつもの張りのあるものだ。
「本当に酔ってました?」
今日も、この前も、と続ければ、キバナはあ、っと小さく声を出した。
「酔っ払ってませんでしたよね」
「いや…さっきは酔ってた、と思う。多分…」
「具合悪くなったらどうしようとか、このままソファーで寝たら体痛くなるだろうなとか風邪引くかもとか、心配した私が馬鹿みたいじゃないですか」
「…ごめん」
ドラゴンストームが聞いて呆れる。試そうとしたのかこのままセックスに持ち込もうとしたのか。
どちらにせよ酔っ払ったふりをしてやることではないだろう。
「少し酔ってたのは本当。…ユウリが甘やかしてくれるからつい。ごめん」
素直に謝るキバナに何か言ってやろうと思った物の、結局頭には何も浮かばない。
「…今回きりにしてくださいね。心配だし…手に負えないので」
わかった、と短い返事と共に額にキスが降りてくる。
その吐息からは強烈な酒の匂いがした。