ジンクス本編外
ナックル事務にくるなりリョウタに助けを求められるユウリ。休日が消えて不機嫌。
「あ、ユウリさん、ちょうどいいところに…今日もしかしてキバナさまと何かお約束されてましたか?」
キバナさんと約束の時間の少し前にナックルシティジムを訪れると、受付からリョウタさんが飛び出すように駆け出してきた。
「はい。ちょっと出かける約束をしてましたけれど、どうかされました?」
「ああ、やっぱりそうでしたか…実は急な仕事が入ってしまいましてキバナ様の様子がちょっと…なんと言いますか。珍しくご機嫌が悪いようで」
「え?」
普段温厚なキバナさんが機嫌が悪くなる時はほとんどない。あったとしてもそれは何かしら原因があって、例えばSNSで私のアンチコメントがあまりにも過剰だった時や悪意があって傷つけられた時だ。それも自分に対してのことではなく、だいたいが自分以外の人に向けられた時。
その時のキバナさんは正直、怖い。
「とりあえず、ユウリ様が見えたらお通しするようにとのことでした。至って普通通りにされてはいますが…労りの言葉をかけていただけると少し良くなるかと」
「わかりました。私でできることなら…」
ぺこりと丁寧にお辞儀をして受付に戻ったリョウタさんに私も軽くお辞儀をして執務室へ向かう。
今日は一緒に買い物をしたり、そのあとはご飯を食べに行く予定だった。
久々に二人の休みが重なって、二人で喜んでいた休日だった。
まさか、それがなくなったから機嫌が悪いのだろうか。
何も連絡がないということは、それだけ忙しいのかもしれない。
「キバナさーん」
こんこん、とノックをして声をかけると、至っていつも通りのトーンで返事が返ってきた。
「こんにちは、キバナさん。リョウタさんから聞きましたよ」
「ごめんなぁ、ユウリ」
デスクチェアに腰かけているキバナさんはいつものウェアではなく私服だった。
恐らくすぐ終わると思って私服で仕事にとりかかったのだろう。
「仕方ないですよ。私でもお手伝いできること、ありますか?」
「あー…じゃあコーヒー買ってきてほしいな。その前に…」
こっちへ、と手招きされて、私は大きな木製のデスクをぐるりと回りこんでチェアの方へ行くと長い腕が腰に伸びてきた。
そのままぐいっと引き寄せられてキバナさんの頭が胸の下あたりにぐりぐりと軽く押し付けられる。
「…ごめん」
「一緒にお出かけできなくなって残念ですけど…夕方までには終わりますか?」
「…多分」
キバナさんは今日のデートをとても楽しみにしているようだった。
買い物に行く場所も、ランチもディナーもネットで調べて計画していたようだ。
いつも行き当たりばったりで行動するか、ワイルドエリアでバトルをしたりキャンプをするかだったから、こういう『デート』は久しぶりだった。だから余計に楽しみにしていたのだろう。
それはキバナさんだけではなく、私も同じ気持ちだった。
ぐりぐりと腹に頭を緩くこすりつけてくる仕草はまるでポケモンのようだけれど、これが彼の甘え方でもある。
完璧とも言える彼の唯一の甘え。普段は怒りもせず、なんでもいいよ、と言ってしまう彼の唯一の抵抗だ。
なんだか普段はそっけない大型ポケモンの甘えにも似ていて私は思わず口角が上がってしまう。
緩く後ろで結っただけの髪に手を置いてゆっくりと撫でると腰に回っている腕に力が加わった。
「じゃあ、コーヒー買ってきて、ここにいるので終わらせちゃってください。ディナーだけでも行きましょう?」
「わかった」
彼の肩を押して引きはがし、残念そうに伸ばされたままの手を軽く握って私はドアへ向かう。
「じゃあすぐに戻りますね」
ドアを閉める間際、ちらりとキバナさんを見ると、デスクに肘をついてひらひらと手を振っていた。
その後、キバナさんのお気に入りのコーヒーを買って、ついでにランチ用に軽食も買ってジムに戻ると、仕事のほとんどは終わり、あと一時間もしないうちに帰れるような状態になっていると受付にいたリョウタさんが言っていた。
「ユウリ様のおかげでキバナ様の雰囲気が柔らかくなりました。ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をされたけれど、私は特になにもしていないし、どういう想像をしているかわからないリョウタさんに私の体は妙に汗ばんできて、とても恥ずかしくなった。
それ以後、休日にキバナさんにお仕事が入って私も休みの時はなぜか私にも来てもらえないかとリョウタさんたちから電話が来るようになった。
毎回爆速で終わらせるキバナさんに、リョウタさんたちは喜んでいるし、私も一緒にいられるしでデメリットはないのだけれど、毎回なんだか不思議な気持ちを味わうのである。
「あ、ユウリさん、ちょうどいいところに…今日もしかしてキバナさまと何かお約束されてましたか?」
キバナさんと約束の時間の少し前にナックルシティジムを訪れると、受付からリョウタさんが飛び出すように駆け出してきた。
「はい。ちょっと出かける約束をしてましたけれど、どうかされました?」
「ああ、やっぱりそうでしたか…実は急な仕事が入ってしまいましてキバナ様の様子がちょっと…なんと言いますか。珍しくご機嫌が悪いようで」
「え?」
普段温厚なキバナさんが機嫌が悪くなる時はほとんどない。あったとしてもそれは何かしら原因があって、例えばSNSで私のアンチコメントがあまりにも過剰だった時や悪意があって傷つけられた時だ。それも自分に対してのことではなく、だいたいが自分以外の人に向けられた時。
その時のキバナさんは正直、怖い。
「とりあえず、ユウリ様が見えたらお通しするようにとのことでした。至って普通通りにされてはいますが…労りの言葉をかけていただけると少し良くなるかと」
「わかりました。私でできることなら…」
ぺこりと丁寧にお辞儀をして受付に戻ったリョウタさんに私も軽くお辞儀をして執務室へ向かう。
今日は一緒に買い物をしたり、そのあとはご飯を食べに行く予定だった。
久々に二人の休みが重なって、二人で喜んでいた休日だった。
まさか、それがなくなったから機嫌が悪いのだろうか。
何も連絡がないということは、それだけ忙しいのかもしれない。
「キバナさーん」
こんこん、とノックをして声をかけると、至っていつも通りのトーンで返事が返ってきた。
「こんにちは、キバナさん。リョウタさんから聞きましたよ」
「ごめんなぁ、ユウリ」
デスクチェアに腰かけているキバナさんはいつものウェアではなく私服だった。
恐らくすぐ終わると思って私服で仕事にとりかかったのだろう。
「仕方ないですよ。私でもお手伝いできること、ありますか?」
「あー…じゃあコーヒー買ってきてほしいな。その前に…」
こっちへ、と手招きされて、私は大きな木製のデスクをぐるりと回りこんでチェアの方へ行くと長い腕が腰に伸びてきた。
そのままぐいっと引き寄せられてキバナさんの頭が胸の下あたりにぐりぐりと軽く押し付けられる。
「…ごめん」
「一緒にお出かけできなくなって残念ですけど…夕方までには終わりますか?」
「…多分」
キバナさんは今日のデートをとても楽しみにしているようだった。
買い物に行く場所も、ランチもディナーもネットで調べて計画していたようだ。
いつも行き当たりばったりで行動するか、ワイルドエリアでバトルをしたりキャンプをするかだったから、こういう『デート』は久しぶりだった。だから余計に楽しみにしていたのだろう。
それはキバナさんだけではなく、私も同じ気持ちだった。
ぐりぐりと腹に頭を緩くこすりつけてくる仕草はまるでポケモンのようだけれど、これが彼の甘え方でもある。
完璧とも言える彼の唯一の甘え。普段は怒りもせず、なんでもいいよ、と言ってしまう彼の唯一の抵抗だ。
なんだか普段はそっけない大型ポケモンの甘えにも似ていて私は思わず口角が上がってしまう。
緩く後ろで結っただけの髪に手を置いてゆっくりと撫でると腰に回っている腕に力が加わった。
「じゃあ、コーヒー買ってきて、ここにいるので終わらせちゃってください。ディナーだけでも行きましょう?」
「わかった」
彼の肩を押して引きはがし、残念そうに伸ばされたままの手を軽く握って私はドアへ向かう。
「じゃあすぐに戻りますね」
ドアを閉める間際、ちらりとキバナさんを見ると、デスクに肘をついてひらひらと手を振っていた。
その後、キバナさんのお気に入りのコーヒーを買って、ついでにランチ用に軽食も買ってジムに戻ると、仕事のほとんどは終わり、あと一時間もしないうちに帰れるような状態になっていると受付にいたリョウタさんが言っていた。
「ユウリ様のおかげでキバナ様の雰囲気が柔らかくなりました。ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をされたけれど、私は特になにもしていないし、どういう想像をしているかわからないリョウタさんに私の体は妙に汗ばんできて、とても恥ずかしくなった。
それ以後、休日にキバナさんにお仕事が入って私も休みの時はなぜか私にも来てもらえないかとリョウタさんたちから電話が来るようになった。
毎回爆速で終わらせるキバナさんに、リョウタさんたちは喜んでいるし、私も一緒にいられるしでデメリットはないのだけれど、毎回なんだか不思議な気持ちを味わうのである。