ジンクス本編外
コンシェルジュから受け取った、頼んだ覚えのない段ボール。
共に帰宅したキバナは宛名を見て覚えがあったのか、にやにやと良くないことを考えている表情になる。
ーーあ、まずい。
瞬間的にそう悟った。
彼がいたずらを仕掛けてくるときの表情だった。
いたずらと言っても少年が好きな子に仕掛けるような反応に困るものばかりだが、家の中だけならと許している部分もあった。
宅配便で届いたということは、と考えても想像もつかない。
願わくば、ポケモンたちのものでありますように。
なんて考えは甘かったと自分の浅はかな予想を恨む。
ベリベリと乱暴に開封された段ボールから出てきたものは『服』だった。
キバナの服かもしくはユウリが普段着れるような服であればなんとも思わなかったが、キバナが手にしているものは普段着なんかではない。
コスプレ、という言葉はさすがにユウリでも知っている。
アニメや漫画、ゲームの中の好きなキャラクターの衣装を着ること。
見ていて純粋にすごいなと思うし、手作りされたものに関しては尊敬してしまうのだが。
「頼む、ユウリ。これ着てみてくれ!」
何度目の頼む、だろうか。
キバナの手にする服を前に硬直してしまった。
「キバナさん、これってスクールの子が着る服ですよね?」
大きく、それはもう全力で頷いている。
「ユウリのスクール姿、見たことないし。一度見てみたいなーなんて…」
紺色のブレザーにチェック柄のスカート、赤いリボン。
海外の映画でティーンが着ているところを見たことがある。
「…スカート、短すぎませんか?」
「だってコレ、本物じゃないし」
「コスプレ?とかそういうところで買ったんですね」
「少しだけでいいから」
ダメ?とご飯を待っているワンパチのようにキラキラした目で見つめらる。
「私ティーンじゃないですし」
「ユウリなら大丈夫」
何が大丈夫なのかという疑問が頭を過るが、おそらくこの男はユウリが折れるまでずっと付きまとうだろう。何日でも、しつこく。
「わかりました。5分だけ。写真や動画は禁止です」
はあ、と大きなため息をついて口にする。
目の前の男はワンパチに好物を持って行ったときのように一層キラキラした目をしていた。
「わかった」
いい加減、大きい体でリビングへと繋がるドアの前に立っていられるのも邪魔である。
ひったくるように一式を受け取り、脱衣所で着替えることにした。
トレーニングウェアを脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んでいく。
目の前にある制服と呼ばれる服にもう一度ため息をついて袖を通していく。
白いワイシャツ、極端に短いスカート、赤いリボンに紺色のブレザー。
ご丁寧に紺色のハイソックス。
一つ一つ身に着け、鏡の前で襟を正して恐る恐るリビングのドアを開ける。
カチャンと扉の閉まる音に反応したキバナの手からモモンの実が転がった。
「やっべ、すっげー似合う」
「写真とかはダメですからね」
すぐに写真を撮りたがるキバナに釘を刺す。
「わかってる」
指をくるっと回され、その通りにゆっくり一回転をする。
「ティーンの時にこの格好で出会ってたらオレさま、犯罪者になってたわ」
キッチンで何をしているんだろう、とうんざりしながらキバナを見る。
本当にドラゴンストームのキバナなのだろうか。
目じりは垂れ下がり、なんとも情けない顔である。
だが、この情けない顔は二人きりの時にしか見せないということを知っている。
可愛い、似合う、最高、なんて言葉を浴びせられれば段々まんざらでもないような気分になってきて、キバナにゆっくり近づいていく。
「キバナさん、ちょっとしゃがんで」
ん?と首を傾げ、かがんだキバナに思いきり背伸びをしてキスをする。
「こういうの、これっきりですからね」
出会って十年以上、付き合って早数年。
なんだかんだ文句を言いつつ、結局惚れた弱みか。
逆らえない。
キバナの喜ぶことならなおさら。
触れ合っただけの軽いキスに、なんだか急に照れくさくなる。
まるで本当にティーンになったような、そんな気分だ。
もしティーンの時に出会っていたら。
徐々に頬が紅潮していく。
これ以上は恥ずかしくて、脱衣所へ駈け込もうと身を翻した瞬間、がしっと手首を掴まれた。
「ユウリ、延長」
「…は?」
先ほどまで垂れ下がっていた目じりは吊り上がり、ブルーの瞳は別の意味で輝いている。
「5分だけって」
「うん、延長。今日いっぱいまで」
ぐいっと引っ張られて向かう先は寝室。
「キバナさん、ご飯」
「あとで」
整えられたベッドの上に転がされる。
馬乗りで見下ろすキバナの目は捕食者のそれだった。
共に帰宅したキバナは宛名を見て覚えがあったのか、にやにやと良くないことを考えている表情になる。
ーーあ、まずい。
瞬間的にそう悟った。
彼がいたずらを仕掛けてくるときの表情だった。
いたずらと言っても少年が好きな子に仕掛けるような反応に困るものばかりだが、家の中だけならと許している部分もあった。
宅配便で届いたということは、と考えても想像もつかない。
願わくば、ポケモンたちのものでありますように。
なんて考えは甘かったと自分の浅はかな予想を恨む。
ベリベリと乱暴に開封された段ボールから出てきたものは『服』だった。
キバナの服かもしくはユウリが普段着れるような服であればなんとも思わなかったが、キバナが手にしているものは普段着なんかではない。
コスプレ、という言葉はさすがにユウリでも知っている。
アニメや漫画、ゲームの中の好きなキャラクターの衣装を着ること。
見ていて純粋にすごいなと思うし、手作りされたものに関しては尊敬してしまうのだが。
「頼む、ユウリ。これ着てみてくれ!」
何度目の頼む、だろうか。
キバナの手にする服を前に硬直してしまった。
「キバナさん、これってスクールの子が着る服ですよね?」
大きく、それはもう全力で頷いている。
「ユウリのスクール姿、見たことないし。一度見てみたいなーなんて…」
紺色のブレザーにチェック柄のスカート、赤いリボン。
海外の映画でティーンが着ているところを見たことがある。
「…スカート、短すぎませんか?」
「だってコレ、本物じゃないし」
「コスプレ?とかそういうところで買ったんですね」
「少しだけでいいから」
ダメ?とご飯を待っているワンパチのようにキラキラした目で見つめらる。
「私ティーンじゃないですし」
「ユウリなら大丈夫」
何が大丈夫なのかという疑問が頭を過るが、おそらくこの男はユウリが折れるまでずっと付きまとうだろう。何日でも、しつこく。
「わかりました。5分だけ。写真や動画は禁止です」
はあ、と大きなため息をついて口にする。
目の前の男はワンパチに好物を持って行ったときのように一層キラキラした目をしていた。
「わかった」
いい加減、大きい体でリビングへと繋がるドアの前に立っていられるのも邪魔である。
ひったくるように一式を受け取り、脱衣所で着替えることにした。
トレーニングウェアを脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んでいく。
目の前にある制服と呼ばれる服にもう一度ため息をついて袖を通していく。
白いワイシャツ、極端に短いスカート、赤いリボンに紺色のブレザー。
ご丁寧に紺色のハイソックス。
一つ一つ身に着け、鏡の前で襟を正して恐る恐るリビングのドアを開ける。
カチャンと扉の閉まる音に反応したキバナの手からモモンの実が転がった。
「やっべ、すっげー似合う」
「写真とかはダメですからね」
すぐに写真を撮りたがるキバナに釘を刺す。
「わかってる」
指をくるっと回され、その通りにゆっくり一回転をする。
「ティーンの時にこの格好で出会ってたらオレさま、犯罪者になってたわ」
キッチンで何をしているんだろう、とうんざりしながらキバナを見る。
本当にドラゴンストームのキバナなのだろうか。
目じりは垂れ下がり、なんとも情けない顔である。
だが、この情けない顔は二人きりの時にしか見せないということを知っている。
可愛い、似合う、最高、なんて言葉を浴びせられれば段々まんざらでもないような気分になってきて、キバナにゆっくり近づいていく。
「キバナさん、ちょっとしゃがんで」
ん?と首を傾げ、かがんだキバナに思いきり背伸びをしてキスをする。
「こういうの、これっきりですからね」
出会って十年以上、付き合って早数年。
なんだかんだ文句を言いつつ、結局惚れた弱みか。
逆らえない。
キバナの喜ぶことならなおさら。
触れ合っただけの軽いキスに、なんだか急に照れくさくなる。
まるで本当にティーンになったような、そんな気分だ。
もしティーンの時に出会っていたら。
徐々に頬が紅潮していく。
これ以上は恥ずかしくて、脱衣所へ駈け込もうと身を翻した瞬間、がしっと手首を掴まれた。
「ユウリ、延長」
「…は?」
先ほどまで垂れ下がっていた目じりは吊り上がり、ブルーの瞳は別の意味で輝いている。
「5分だけって」
「うん、延長。今日いっぱいまで」
ぐいっと引っ張られて向かう先は寝室。
「キバナさん、ご飯」
「あとで」
整えられたベッドの上に転がされる。
馬乗りで見下ろすキバナの目は捕食者のそれだった。