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ジンクス本編外

夜中に目覚めることがある。
実際に寝ていたのは数分から数十分で、深い眠りに入っていたのかはわからない。
何かに襲われる夢を見たり、世界に一人きりになってしまったかのような真っ白い空間にぽつんと一人で居たり。
誰かに呼ばれたような気がして目を開ければ、それが夢だったのだと気づく。
その瞬間、襲ってくるのは不安や恐怖、唐突な寂しさ。
そういう感情が沸き起こってくる夢を見る理由はストレスが主な原因だと調べたら書いていた。
けれど、どちらかと言えば充実していると思っているし、ストレスになるようなものが思い浮かばない。
ただ、襲ってくる感情の後に目に入るのは、隣で眠っているキバナさんだ。
起きてくれないかな、なんて考えてしまう。
多忙な彼もまた疲れているのに。
起きてほしいけれど、起こしたくはない。
だから、そっと放り出された片手に手を重ねて、軽く、指を絡める。
一瞬だけピクっと指先が動いて、やんわりと絡めたその手は、いつも力なく握り返される。
触れているだけでも孤独は紛れる。
今度は楽しい夢を見れたらいいのに。
重ねた指先から伝わる熱にやっぱり腕の中で眠りたいと思いながら、それはいつも実行できない。
いつかもう少し時間が経って、こうして一緒に一日を過ごすことが当たり前になれば、そんな甘えも素直に言えるようになるのだろうか。
恥ずかしいとは違う。
拒絶されたこともない。
いつだって甘やかしてくれる彼に縋りたいような、それではいけないような。
結局自分で自分に制限をかけているだけで、ほんの少しの勇気を出してそこに飛び込んでしまえばいいのに。
そんな簡単なことが、結局できないまま眠りにつくのだ。


◇◇◇
最近ユウリは毎晩のように夜中に起きる。
おやすみ、と言ってからほんの数分から数十分。
最初は小さな声で、いやだとか怖いとか何か寝言を言っていた。
起こすべきかこのまま寝かせておくべきなのか判断ができずに、小さく声をかけて揺さぶってみてもユウリは起きなかった。
調べてみると、レム睡眠中の寝言には反応しない方がいいのだと書かれていて、今では寝たふりをしてる。
そのうちに目が覚めるらしく、ゴソゴソと布団の中で動く音が聞こえてくる。
不安そうな顔をしているは見なくてもわかる。
知らず知らずのうちにストレスを溜めていかもしれない。
限界に達するまでけして弱音を吐かないのがユウリだ。
大概一人で落ち込んでしまうから、それはそれで困る。
いっそ思っていることを全部吐き出してしまったら楽になるだろうに。
寝たふりをしていればそっと小さな手が重なって指を絡められる。
目を閉じていれば感覚だけで判断するしかない。
だからどうしても、指先が動いてしまう。
その瞬間、一瞬躊躇うようにユウリの指先が浮いてわずかな隙間を作るが、オレは気づかれないようにやんわりと握り返す。
そうすればほどなくして呼吸は一定のリズムを奏でる。
うっすらと瞼を持ち上げてその隙間から覗くと、どこか安堵したように眠る横顔。
本当は寝たふりなんかせずに声をかけて腕の中にしまってしまいたい。
ユウリの居場所はここだというように、抱きしめてしまいたい。
けれどもそうすることでこの先、一人で不安に駆られたときに対処できなくなってしまえば困るのはユウリだ。
一緒に眠ることができない日もあるだろう。
ガラルにいないこともあるかもしれない。
強い彼女のことだから、周りを頼ることはあまりしないだろう。
勿論、ユウリ自らなにかしらの行動を起こせばそれに答える。
それを、待っているのだけれど。
どうしてもこの子は、自分の気持ちに素直になれないらしい。
頼って、甘えてほしいなんて矛盾した思いは、オレの我儘なんだ。
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