ジンクス本編外
風呂を終え髪を乾かしていると、鏡越しに見える後ろ扉がゆっくりと音も無く開かれた。
そっと覗くようにユウリが脱衣所に入ってくる。
気づかないふりをして様子をうかがっていると、そっと腰に腕が回された。
「どうした?ユウリ」
ドライヤーを止めて腰に張り付いているユウリに話しかける。
だがしばらく待っていても返事は返ってこない。
再びドライヤーで髪を乾かしていく。
勢いよく鳴る風音が脱衣所に響く。ある程度乾かし終わって最後に軽くブラシで解かして。
「ほら、行くぞ」
声をかけるも、返事もなければ離れようともしない。
相変わらず抱きついているユウリをそのままにゆっくりと歩き出せば、スリッパを引きづるように歩いてリビングまでついてくる。
ソファの前まで来て、ゆるく巻かれていた腕を解いて俯いたままのユウリを座らせた。
「気分悪いか?」
小さく首を振る。
「んー…」
昨日から女性の日、いわゆる生理というのは知っていた。
一緒に住んでいればなんとなくわかってくるものだ。
そういえばここ数日、どこかイライラしていたり、極端に甘いものを欲しがっていた気がする。それとなく観察していても、女性の体というのは不思議なもので毎回同じというわけではない。
隣に腰掛けると、ソファーがギシっと軋んだ。その音を過剰に感じるのか白い腕にはうっすら鳥肌が立っている。そういえばいつかも音にやたらに敏感になって、テレビはもちろん生活音すら気持ちが悪いとベッドで頭から布団を被っていた時を思い出した。
「言ってくれなきゃわからねぇぞ?」
恥ずかしいのか、落ち込んでいるのか怖いのか。
生理を経験したことがない自分には検討がつかないが、先程の行動がユウリの精一杯の意思表示なのだろう。
最近はスキンシップも自然にできるようになったものの、恥ずかしがり屋な彼女はこういう時でも遠慮がちだ。
「…自分でもよくわからないけど、また音が怖くなって…急にキバナさんがいないのが、落ち着かなくて」
今回は音が怖いのか、と取り敢えず話してくれたことにほっとする。
「痛みは?」
小さな手を握って尋ねれば、その問いに縦に首を動かした。
薬を飲ませてもいいのか、寝かせたほうがいいのか。ネットで得た知識のみでは正直毎回、困惑する。女性の体は難しいと思うも、何もしてやれない事の方が歯がゆい。
「ほら、もう寝るぞ」
手を引いてベッドルームに連れて行く。
青白い顔のユウリを引き寄せ、右腕を枕代わりに敷くと馴染んだ重みが腕にかかる。
ぴったりと体をくっつけて顔を埋め、ほどなくして小さく、キバナさんありがとう、と聞こえた。
ん、とだけ返事をしてスマホロトムで翌朝のアラームの設定をして、通知を確認しているうちに寝息が聞こえ始める。
今度はブラウザを開き、規則正しい寝息が継続されているのを確認してから何度も見た女性の生理についてのサイトを巡る。わからないことは徹底的に調べたくなってしまうのが性分なのだ。一通り見て、明日の朝は温まるようなスープにしようと決めてスマホを置く。
ー子供を作る準備、ねえ…
どこにでも記載されている一文が頭を過る。自らの意志とは関係なしに準備を始める女性の体に、なんて残酷なものなのかと複雑な気分で寝顔を見つめる。
いずれ子供は欲しいと思ってはいる。けれどまだ早すぎる。もう少し二人でゆっくりとしていたい。まだ自由に飛び回る彼女を縛り付けたくなくて、すでに買ってある指輪すら渡してはいないのに。
おずおずと腕を回して腰に張り付いていたユウリも勿論可愛らしかった。普段は恥ずかしがってあまり甘えてこない分、嬉しいのだが。青白い顔で不調を訴えるユウリを前にそんな考えは微塵もなくなる。とりあえず、早く元気になっていつものように笑顔を見せてほしいと思いながら目を閉じる。
いつもはぽかぽかと温かい彼女の体温が、今日は少し冷たく感じた。
そっと覗くようにユウリが脱衣所に入ってくる。
気づかないふりをして様子をうかがっていると、そっと腰に腕が回された。
「どうした?ユウリ」
ドライヤーを止めて腰に張り付いているユウリに話しかける。
だがしばらく待っていても返事は返ってこない。
再びドライヤーで髪を乾かしていく。
勢いよく鳴る風音が脱衣所に響く。ある程度乾かし終わって最後に軽くブラシで解かして。
「ほら、行くぞ」
声をかけるも、返事もなければ離れようともしない。
相変わらず抱きついているユウリをそのままにゆっくりと歩き出せば、スリッパを引きづるように歩いてリビングまでついてくる。
ソファの前まで来て、ゆるく巻かれていた腕を解いて俯いたままのユウリを座らせた。
「気分悪いか?」
小さく首を振る。
「んー…」
昨日から女性の日、いわゆる生理というのは知っていた。
一緒に住んでいればなんとなくわかってくるものだ。
そういえばここ数日、どこかイライラしていたり、極端に甘いものを欲しがっていた気がする。それとなく観察していても、女性の体というのは不思議なもので毎回同じというわけではない。
隣に腰掛けると、ソファーがギシっと軋んだ。その音を過剰に感じるのか白い腕にはうっすら鳥肌が立っている。そういえばいつかも音にやたらに敏感になって、テレビはもちろん生活音すら気持ちが悪いとベッドで頭から布団を被っていた時を思い出した。
「言ってくれなきゃわからねぇぞ?」
恥ずかしいのか、落ち込んでいるのか怖いのか。
生理を経験したことがない自分には検討がつかないが、先程の行動がユウリの精一杯の意思表示なのだろう。
最近はスキンシップも自然にできるようになったものの、恥ずかしがり屋な彼女はこういう時でも遠慮がちだ。
「…自分でもよくわからないけど、また音が怖くなって…急にキバナさんがいないのが、落ち着かなくて」
今回は音が怖いのか、と取り敢えず話してくれたことにほっとする。
「痛みは?」
小さな手を握って尋ねれば、その問いに縦に首を動かした。
薬を飲ませてもいいのか、寝かせたほうがいいのか。ネットで得た知識のみでは正直毎回、困惑する。女性の体は難しいと思うも、何もしてやれない事の方が歯がゆい。
「ほら、もう寝るぞ」
手を引いてベッドルームに連れて行く。
青白い顔のユウリを引き寄せ、右腕を枕代わりに敷くと馴染んだ重みが腕にかかる。
ぴったりと体をくっつけて顔を埋め、ほどなくして小さく、キバナさんありがとう、と聞こえた。
ん、とだけ返事をしてスマホロトムで翌朝のアラームの設定をして、通知を確認しているうちに寝息が聞こえ始める。
今度はブラウザを開き、規則正しい寝息が継続されているのを確認してから何度も見た女性の生理についてのサイトを巡る。わからないことは徹底的に調べたくなってしまうのが性分なのだ。一通り見て、明日の朝は温まるようなスープにしようと決めてスマホを置く。
ー子供を作る準備、ねえ…
どこにでも記載されている一文が頭を過る。自らの意志とは関係なしに準備を始める女性の体に、なんて残酷なものなのかと複雑な気分で寝顔を見つめる。
いずれ子供は欲しいと思ってはいる。けれどまだ早すぎる。もう少し二人でゆっくりとしていたい。まだ自由に飛び回る彼女を縛り付けたくなくて、すでに買ってある指輪すら渡してはいないのに。
おずおずと腕を回して腰に張り付いていたユウリも勿論可愛らしかった。普段は恥ずかしがってあまり甘えてこない分、嬉しいのだが。青白い顔で不調を訴えるユウリを前にそんな考えは微塵もなくなる。とりあえず、早く元気になっていつものように笑顔を見せてほしいと思いながら目を閉じる。
いつもはぽかぽかと温かい彼女の体温が、今日は少し冷たく感じた。