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ジンクス本編外

『窓辺の席にいる』
そのメッセージを頼りにラウンジの中を見渡すと、シュートシティを見渡せる窓辺の席に彼女は座っていた。
「あれ?タワーの制服じゃないんだ」
「あれはトレーナー資格を持った人だけ。私は普通のデスクワークだから」
久々に会う友人は見慣れないオフィスカジュアルな服装だった。
普段会う時はジーンズ姿が多かったから、スカートを履いている彼女にはなんだか違和感がある。
「夢、叶えたんだね。凄いよ」
「長かったけどねぇ」
アイスティーのストローをくるくると弄び、彼女は苦笑いを零した。
高校を卒業してから早数年。大学に通っていた彼女は今年からバトルタワー勤務となった。
相変わらずフリーターをしている私とは違う。
幼馴染の彼女とはもう長いこと付き合いがある。
違う学校へ通っても、進む道が違っても、なんだかんだと連絡を取り続けていた。
それもこれも、私たちがダンデとキバナのファンだから。
小学生の時に、たまたま当たったチケットでダンデとキバナのトーナメントを観戦して以来、ずっとファンだ。
私がダンデ、彼女はキバナのファンだ。けれども2人ともダンデ、キバナ両者どちらも同じくらい好きだから、揉めることはなかった。
中学生の時にダンデがチャンピオンを降り、ユウリが新チャンピオンとなった。
表舞台に出なくなったとはいえ、熱は冷めなかった。
それどころか彼女はダンデと対戦してみたいと言ってポケモンを捕まえて、トレーナーとしての道を歩んだ。
けれどもそれは、早いうちに挫折することとなった。
未熟なトレーナー同士のバトルは事故が起きやすい。
たまたま、相手のポケモンの技が彼女を襲った。
わざとではない。それは彼女もわかっていた。けれども飛んできた技に、腕や足、腹などを切り付けられ、以降、ポケモンバトルはできなくなった。
「すごいね、こんな大きなところで働いてさ。もう見かけた?」
「うん。ダンデさんと、ユウリちゃんに会ったよ。たまたま秘書課に備品届けた時に会ったの。固まってたら秘書の人に笑われちゃった」
「そりゃ固まるよね。推しに会って普通にしてられる自信なんてないもん」
「あとね、キバナさんとルリナさんも見ちゃった!ジムリ会議かなんかの時だったと思う」
「いいなぁ」
「でも…結構な確率でキバナさん見かけること多いなぁ。いっつもユウリちゃん待ってるみたい。この間も仲良く手繋いでたよ」
「あの二人ってさぁ…もう兄妹みたいって言うにはって感じじゃない?」
「うん、わかる。なんか…兄妹って例えられる年齢じゃないよね、ユウリちゃん」
「でも…じゃああの二人の関係ってなんだろう?」
彼女はうーん、と唸ってアイスコーヒーのストローを咥えた。
視線を窓の外へと向け、下で行きかう人々を眺めているようだ。
「バトルパートナー?スタートーナメントだとよく組んでるし。…あ、噂をすれば」
彼女が手招きをして窓の外を見るように指す。
視線の先を見ると、キバナがこちらへ歩いてくるところだった。
「え!キバナさんじゃん!こんな近くで見るの初めてかも」
「まあ、ここバトルタワーだから。それより見て」
スタスタとパーカーのポケットに手を突っ込んでまっすぐにこちらへ歩いてくる。
何か考え事をしているのか、無表情だ。
メディアで見かける時のような愛想はなく、完全に普段の彼の姿なのだなぁと思いながらも見ていると、急に表情が変わった。
同時にポケットに突っ込んでいた片手を取り出し、手を振っている。
ぴたりと歩みを止めると、小さな姿がタワーの正面入り口から駆けていく。
ユウリだった。
キバナの傍まで行くと、ユウリはキバナの腕に手を伸ばす。
「あ、れ?」
その姿は、まるで恋人同士のようだった。
彼女はぽかんと口を開けて、固まっていた。
呆然としている彼女と目が合う。考えていることは同じのようだ。
落着きを取り戻すかのように、二人そろってアイスコーヒーのストローを咥える。
キンキンに冷やされたアイスコーヒーの苦みが喉を通っていくと幾分か冷静になった。
空っぽになったグラスから氷が崩れる音が響いた。
「あ、そうだ。夕飯どこで食べる?」
「ちょっと街外れの方にいい店あるからそこにいこっか」
スマホをバッグにしまって彼女の後ろをついていく。
玄関を出てゆっくりと広場へ進んでいくと、ふいにスマホが震えた。
それは彼女も同じだったようで、ロックを解除する。
「速報…?」
「チャンピオンユウリ、ナックルシティジムリーダーキバナ、婚約。明日記者会見…」
彼女は淡々と文字を読み上げた。
スマホの画面から視線が上がると彼女は空を見上げてああ、なるほど、とつぶやいた。
「さっきのあれさ…隠す必要がなくなったからだったんだね」
「あー…そっか。今までずっと、外では兄妹のフリしてたのか」
遠目に見たキバナの表情が脳裏を過る。
優しく微笑んで、愛しいものを見るような表情だった。
それは気のせいではなく、本当に、愛しい存在だったのだ。
「バトルパートナーじゃなくてほんとにパートナーだったんだね」
夕日に照らされた広場から見上げた空には二匹の大型ポケモンが飛んでいた。

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