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ジンクス本編外

『いつもと違う服を着たときは、その服に持ったイメージを演じるんよ。今回はセクシーに、強気に。がんばりんしゃい』

強気に、とマリィの言葉を復唱して意を決してドアノブに手をかける。
脚を挫いて歩けないというマリィと電話をしながら急遽買いに行ったこのライダースジャケットとレザーのミニスカート、そしてスタッズの沢山ついたハイヒールでキバナのマンション前に降り立って、隠れるように中へ入ったものの、目の前の
ドアを開けるのに数分の時間を要した。
テレビ電話をしながらメイクを教えてもらい、慣れないながらもなんとか違和感のないようには出来た筈だ。
ふう、ともう一度肺の中の空気を全て吐き出して、そっと音が出ないように開ける。
合鍵はもうずいぶんと前に貰った物だ。
今更インターホンを鳴らすような間柄でもない。
玄関でハイヒールを脱いでスリッパを履かずにリビングへと進むとテレビの音が聞こえた。
聞き覚えのある軽快なロックと人の声。いつもキバナが見ている映画の音楽だ。
最初に見たときはその内容の意味が分からなかった。バッドエンドともとれる映画をなぜ何度も見るのかとキバナに問うと、この中には教訓が詰まってるんだ、と彼は苦笑いした。
カチャっと小さな音を立てて扉が開く。
その音に振り返った彼は目を丸くした。
それがとても面白くて笑みが零れる。
「こんにちは、キバナさん」
ごくりと彼が唾を飲み込む様子が手に取るように分かった。
こんな呆けたような彼を見ることなんて滅多にない。
ソファに座ったままの彼に歩み寄ってその膝に跨る。
躊躇ったように一瞬、キバナの手が宙を掻いて、ライダースジャケット越しに添えられた手の体温を感じた。
そのまま唇を重ねると、ルージュがべったりと彼の唇に張り付いて赤い色が移る。
「ねぇ、キバナさん。私彼氏ができたんですよ」
「…へぇ?どんな奴だ?」
「とても背が高くて、優しくて、バトルも強くて。とっても大事にしてくれる、恰好良い人なんですよ」
「ほう…で、このセクシーな彼氏持ちのレディはどうしてオレさまのところに?」
「昔、言ったでしょう。彼氏ができたら自慢するって」
ん?と彼は首を傾げて記憶を辿っているようだった。
何年も前の、まだ少女だったころに交わした他愛もない軽口だ。
「ああ、そういえばそうだったな。あの頃に比べたら随分と悪い子になった。こんな風にオレさまを煽れるようになったんだからな」
「ふふ。でしょう?あなたに言われた通りにこんな格好をしてここに来ることくらい、もう意味は分かってますよ」
『たまには思いっきり煽ったらええよ』
不敵に笑った親友の言葉を思い出す。
るっと腕から抜けて行ったライダースジャケットを脱ぐと、黒い透け感のあるレースのタンクトップにルージュに合わせた真っ赤な下着が露になった。
ごくりと今度は音を鳴らして褐色の肌の喉仏が上下した。
「そうか、オレさまはそいつに適わなかった訳だな」
「そうですね。以前のキバナさんじゃ適わなかったですね」
「なあユウリ。オレさまも彼女ができたんだ」
「どんな方ですか?」
「ポケモンが大好きで、バトルが強くて、予想外のことばかりしていつも驚かされる。キュートでセクシー」
背中で支えていた手が少しずつ下がっていき、太腿まで下がっていく。
この触り方を知っている。ベッドに誘うときの触り方だ。
「昔の私よりもいい女性ですか?」
「各段に、いい女になった」
ルージュの少しついた硬い唇と触れる。
舌先で唇を突くとどちらともなく舌を割り込ませて絡み合う。
首に腕を回して貪るようにキスを繰り返し、そろそろ限界かもしれないというところでリップ音を響かせて離れていった。
「だいぶ長くできるようになったもんだな」
まだ足りないと竜が舌なめずりをしている。この鋭く光る海のような青い瞳だけは変わらない。
「ねぇキバナさん。このままランチにでも行きませんか?」
「そんな恰好で二人揃ってたら撮られるぞ?」
まだ世間には公表していない。幸か不幸か、今まで撮られたことはなかった。世間の目はいつまでも仲のいい兄弟のような関係だと思われているらしい。どこへ行っても言われるのは、『相変わらず仲が良いのね』だ。『デート?』なんて聞かれたことはない。それがいつも、嫌だった。
「私の彼氏を自慢したいんです。私の我儘、聞いてもらえますか?」
「勿論さ。ガラル中に自慢してやろう」


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