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ジンクス本編外

一日の終わりの団欒の時間。
ソファーでのんびりとテレビを見ていると、横に座っているユウリの顔がほのかに上気していた。
なんとなく呼吸も早い。
本人はクッションを抱え、小さく丸まっている。
額に手を当てても、さほど熱があるような温度ではない。
「ちょっと……体調が悪くて。疲れたのかも。先に寝ますね」
そう言ってソファーから立ち上がるなりお休みのキスもせずに若干覚束ない足取りで寝室へと消えた。
まだ夜の10時だ。寝るにはだいぶ早い。
疲れが溜まっていたのだろうか。ハロウィンイベントを回ってもしかしたら風邪を引いたのかもしれない。
心配ではあるものの、読みかけの本が気になっていて再び視線を戻す。
けれど文字を追っているはずがその内容は全く頭に入ってこない。
時計を見ると、時間にして15分。
進んだページ数はたったの1ページ。
諦めて分厚い本を閉じる。
頭の片隅でずっと気になっていたユウリの様子に、リビングの照明を消して小さくノックをする。
数秒待っても返ってこない返事にドアノブに手をかけてほんの少しドアを開けると、膨らんだ布団の中で時折足が動いていた。
寝苦しいのだろうかと声をかけようとした瞬間、押し殺したような声が聞こえてきた。
「んっ……はぁ……」
聞き覚えのある、湿り気を含んだ声に喉元から出かかった言葉を唾液と一緒に飲み込む。
シーツを蹴る衣擦れの音。ゆらゆらと動いている尻。
眼下に映るその光景の意味を理解した瞬間、そっと扉を閉めて足音を消してキッチンへと向かう。
昼にユウリが買ったジョークグッズの一つである飴の袋を裏返して成分表を何度も目で追っていく。
砂糖、水飴、ベリー果汁、脱脂粉乳、酸味料、香料、着色料。
どれも普段から口にしているものばかりだ。
謳い文句に怪しいと思ったものの、カブさん曰くイッシュでは雑貨店でも売っている代物だったらしい。
媚薬のような成分が入っているものがあると伝えたユウリにも、食べても大丈夫だと伝えて夕食後に一緒に二、三個頬張った。
もう一度一つ、包装を剥いで口に放り込む。
暫く舌の上で転がしてみるが、特に変な味はなく、甘酸っぱいベリー味が口の中に広がっただけだ。
しん、と静まり返った部屋に、壁越しでも聞こえる衣擦れの音。
先ほど見た光景から察するに、プラシーボ効果、思い込みだろう。
奥手というよりは、恋愛事に年相応以上に知識のないユウリは、行為の最中、未だに体を硬くしている。
一緒に出掛けたり、手を繋いだり、挨拶代わりのキスをする分には慣れてくれたようだけれど、それ以上となると、快感や幸福といった感情より羞恥心が勝っているようだった。
そんなユウリが、一人でシている。
同じ家で、たった壁一枚越しだというのに。
害があるものを食べたわけではなく、ただプラシーボ効果なのだとしたら、こんな美味しい状態を逃す馬鹿はいないだろう。
脳がフル回転をして計画を立てていく。
あくまでも、気づいていないふりをして、その状況を楽しむのもアリだ。
体が火照って仕方がないとすれば、求めてきてくれるはず。
もしそれでも恥ずかしがっているなら、それはそれで普段ならお目にかかれないような乱れっぷりが見れるかもしれない。
仮面を剥ぐチャンスだ。
一通り、いくつかのパターンを考えた末、今度はいつもと変わらず足音を立てて寝室のドアの前に立つ。
キィ、と音を立ててドアを開けると、息をのむような気配を感じた。
「ユウリ」
布団の中の小さい塊がビクリと震えた。
「大丈夫か?」
努めて何も見ていないように声をかければ、か細い声で大丈夫、とだけ聞こえてくる。
「オレも寝るわ。具合悪くなったら起こしてくれていいから」
遠慮なく隣に寝転んで、おやすみ、と言えばおやすみなさいと返ってくる。
ユウリに背を向け、目を閉じて静かに寝たふりをすると、僅か数分でマットレスを通じて微かな振動が伝わってきた。
中途半端に熱を持った体はまだ絶頂に達していないようだ。
時折聞こえる荒い息。
僅かに聞こえる、水音。
「ユウリ」
背を向けている彼女の方を振り返って、左腕を伸ばして正面を向かせる。
ずれた布団から見えた右手は、案の定パジャマのズボンの中だ。
「なんで一人でシてんの?」
一粒の間接照明を受けて照らされた彼女の顔は、見つかってしまった恥ずかしさだろう。オクタンのように真っ赤だ。
ズボンの中に手をずらしてユウリの手に重ねる。汗ばんだ手と少し粘り気のある液体の感触。
そのまま少し手を動かせば、可愛らしい声が上がった。
「なんで?」
追い打ちをかけるように問えば、わなわなと振るえる瞳と唇。
「お風呂、から出て少ししてから、体が熱くてっ」
ぐいっと引き寄せたその振動ですら感じるらしい。引き抜こうとした右手に力を加え、そのままクリトリスの表面を弄る。
悲鳴のような短い声と同時に、太ももが閉じた。
左腕で押し開くが、目いっぱい力を入れている足はなかなか開かない。
「多分、あの飴だな。やっぱり良くないものが入ってたのか。ごめんな、そんなもん食べさせて」
こうなったのはユウリのせいではない、だから仕方がないのだと告げると、ぽろぽろと瞳から涙が零れた。
どうしていいかわからなかったのだろう。けれども羞恥心の方が勝って、助けを求められなかった。
おおよそ想像はつくものの、男が本心でそう言っていると思うあたり、まだまだ幼い。
本当に、悪い男に捕まってしまったなぁと他人事のような感想を抱きながら、頭を撫で、キスを繰り返す。
触れるだけのキスに痺れを切らしたのか、おずおずと小さな舌が唇を突いた。
拙い動きで口内に入ってきた舌は、一生懸命オレの舌に絡めようと頑張っている。
思い通りに出来ない愛撫に眉間に皺を寄せ、小さく唸ったユウリの要望に応え、舌を差し出す。
小さな舌を捕まえて、絡め、吸う。
歯列の裏や上顎を撫でると、体の強張りが緩み始めた。
ショーツごとズボンを引き下ろし、足を大きく開かせる。持ち上がる太ももに力は入っていない。条件反射で動いているだけのようだった。
割れ目を開いて、さらりとした液体を掬い取り、クリトリスに塗り込むように、けれどもできるだけそっと指を動かすと、重ねた唇の合間からくぐもった声が漏れた。
ピンポイントに単調に得る刺激にユウリの息が上がっていく。
逃れようと腰を引くが、わずかにマットレスが沈み込むだけで、結局逃れられはしない。
膣から溢れ出る粘液は粘り気のあるものに代わり、くちくちと粘液が擦れる音に、ユウリは両手で顔を覆ってしまった。
顔を見れないのは残念だけれど、どうせ見れないのならばと襞をかき分けてクリトリス露わにする。
赤くてらてらと光り、ふっくらとしたそれに舌を這わせるとユウリの体が大きく跳ねた。
いやだのやめろだのと上から声がするけれど、それには一切聞こえないふりを決め込んで遠慮なく舌先で突き、舐める。
何度もユウリの下腹部が痙攣するのを見ながら、かつて付き合っていた女性たちにここまでしたことがあったかどうかと思い出し、記憶を探る。
正直、女性の陰部に口を付けることに抵抗があった。そもそも、体を合わせることに抵抗があった。
ある種の潔癖症だったのかもしれない。きつい香水の匂いと化粧品の匂いが混ざった匂いには吐き気がした。
それでも、そこそこ好きになった女性たちには尽くしてきたつもりだ。
セックスが下手だと言われたことはない。自分のしたくないことはせず、その他で補ってきた。
けれど、ユウリの場合は今までとは全く違っていた。
香水も化粧品の匂いもしない。シャンプーの匂いとボディソープの僅かな香り。
その中に香るミルクのような、甘い匂いを嗅いでいると無意識のうちに触れている。
少し尖った犬歯で掠めるようにクリトリスを甘噛すると、ユウリの体が大きく跳ねた。
胸を上下させ、ぐったりとしているが、下腹部はまだ足りないとでも言うかのように緩やかに動き続けている。
気がつけば、笑っていた。
ユウリが欲しがってくれている。
湧き上がる愉悦感を堪え、膣に中指を一本差し込む。
奥まで進み、掻き出すように指を動かすと、とうとう堪えられなくなったのか喘ぎ声が漏れ始めた。
腰は浮き、更にいい場所に誘導するかのように僅かに動いている。
いつもより濡れている膣は指を増やしても難なく飲み込んでいく。
増やせば増やすだけ、ユウリの声は大きくなり、淫らに体をくねらせ、やがてベッドに沈み込むように倒れた。
すでに限界まで勃起したペニスに苦笑いを溢しながらゴムをはめる。
「ユウリ」
今にも寝てしまいそうなユウリに声をかけると、わずかに瞼が持ち上がった。
両腕が首元に周り、柔い力で引き寄せられる。
触れるだけのキスを繰り返しながら、膣口にペニスを当てると身構えるかのようにユウリの下半身に力が入った。
それもそうだろう。どんなに回数を重ねたところで、慣れる云々ではない。ユウリとでは体格が違いすぎる。
痛みだって今でもあるのかもしれない。けれど、ユウリは決して痛いとか嫌だとは言わないから、ついついその可能性から目をそむけてしまう。
汗ばんだ肌が吸い付くように張り付いて、心地が良い。
今までとは比べ物にならないほど、ユウリと繋がっている時間は至福だ。
このまま死んでもいいと思えるほどに。
ぎゅっとしがみついてくる小さな手も、何もかもが愛しい。
きっとこれが、初恋なのかもしれない。
ゆっくりと、痛みを感じさせないように挿入する。
必死にしがみついて胸元に顔を埋めているから、いつも辛いのか気持ちいいのかがわからない。
断続的に聞こえてくる喘ぎ声に、痛みはないのだと安心し、更に推し進めると柔らかいものが阻む。何度かゆっくりとそこを突くと、阻んでいたところが口を開くように侵入を許した。
同時に大きくユウリの体が痙攣し、今までとは声量の異なる喘ぎ声が聞こえた。
子宮口を突かれてイッたのだろう。
口元に笑みが無意識に浮かぶ。
もっと聞きたい。もっと乱れる姿を見たい。このまま、気を失うまで抱いてみたい。
そう頭に浮かんだ瞬間、どうにか理性で抑え続けてきた何かがぷつんと切れた。
ユウリの体のことなどお構いなしに腰を打ち付ける。
汗がこめかみを伝う。
しっとりと湿ったユウリの肌は心地よくて、腰を掴んでいた手で胸を鷲掴み、揉みしだく。
喘ぎ声の合間に名前を呼ばれ、待ってと言われても、止めることはできなかった。
もしかしたら、本当にあの飴に媚薬の効果があったのかもしれないと思うほどに、興奮していた。
何度もイッている最中に突かれ続けている膣はうねり、締め付ける。
やがてその淫らな動きに耐えられなくなり、吐精した。
これがもし、避妊をしていなかったらもっと早くに理性がなくなっていたかもしれないと苦笑いが溢れる。
吐息のように漏れる微かな喘ぎ声が止んだかと思うと、ユウリは眠っていた。
気を失うまで抱いたのは初めてだ。
足は大きく開いたまま投げ出され、胸には手形がくっきりと残っている。
込み上げてきた罪悪感に居たたまれなくなり、まだ気怠い体をベットから起こしてそっと洗面所へ移動する。
タオルを数枚お湯で濡らし、ユウリの体を拭き、姿勢を整えて毛布を被せた。
余ったタオルでついでに自分の体と拭いて、片付けるのも面倒になって床に放ってベットはと潜り込む。
すうすうと寝息を立てるユウリの頬には涙の跡が残っていた。
それを指で拭うと、微かに身じろいで瞼が開いた。
「……ごめん」
まだぼんやりとしているユウリに謝ると、数秒後、その意味を理解したのか、ユウリは毛布の中に潜り込んで背を向けた。
「ごめん、無理させた」
側によると、隠れきっていない耳が真っ赤に染まっている。
「キバナさんは……」
「ん?」
「キバナさんはああいう風に、その……」
「うん」
なかなか言いにくいのか、まだ余韻が抜けないのか、緩慢な言葉にゆっくりと相槌を打つ。
責められたって文句は言えない。
「その……いつも我慢してたんですか?」
「我慢はしてない。けど……ユウリが感じてるのを我慢してるのは……なんで言えばいいかな。もっと素直になって欲しかった」
「……だって恥ずかしいし……嫌われるかなって」
「それは絶対にない。むしろ嬉しい」
ごそごそと毛布の中で身じろぎ、ユウリはようやくその真っ赤な顔をこちらに向けた。
「……本当に?」
「本当」
これだけ言ってもまだ表情を伺うような顔をしているユウリにそっと口を寄せると、ぺろりと唇を舐められる。
その舌を追うと、受け入れるように小さな口が開いた。
どうやらユウリはキスが好きなようだ。
行為後とは思えないほど、長く繰り返していると、いつの間にかユウリは毛布から出ていて、首に腕が回っている。
まるでもっとして欲しいと言っているかのようだ。
「だったら……」
もう一回したいです、と何か物音でも重なれば消えてしまうほどの小さな声でユウリが言った。
一瞬、何を、と言いそうになって、ユウリが己を欲しているのだと気づいだ。
「もちろん」
オレたちの夜は、まだこれからだ。
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