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ジンクス本編外

ーキバナさん、スタイルいいなぁ

書類を片手にスタッフに何かを説明しているキバナをぼうっと眺めながら、ユウリは太ももに肘をつき、手の平で顔を支えて思う。

その筋肉質な躰は思わず触れてみたくなるほどがっしりしている。
筋肉を膨らましたようながっしり体型ではなく、引き締まっていると言ったほうが適切か。
キバナの場合、躰は筋肉質だがそれ以前に骨格のバランスがとてもいい。身長の低いユウリがキバナを普通に見上げると、大抵目に映るのは彼の肩から首だが。


情事の最中も身長差がユウリを不安にさせることがある。
顔が見えないのだ。全く見えないわけではないが、キバナの体にすっぽり収まってしまうせいで彼の表情がユウリからは見えない。最中に視線を絡ませたりふいにキスしてみたり。
そういったことができない。
実際はそんな余裕などないのだが。

キスをしようにも届かない。
最近はそれがとてももどかしい。

「ハイヒールでも買おうかなぁ…」
キバナの身長が190cmくらいとして、ユウリの身長はぎりぎり160cmに届かない。
30cm以上差があれば見上げるのも大変である。

バタバタと忙しなく動くキバナがユウリに気づいて手を振る。
切れ長のブルーの瞳。端正な顔立ち。控えめな笑顔で手を振っているだけで様になる。

ーあの人が私の彼氏、なんだよなぁ

にっこり微笑んで手を振り返す。
ワイルドエリアにきのみを取りに行った帰りに宝物庫に寄ってみたが、このままここにいても彼の邪魔になりそうだ。
どのみち今日は夕方に会う約束をしているので一旦着替えに戻ることにする。

ナックルシティのキバナの部屋へ向かうまでの道のりにブティックが数件ある。
ユウリはショーウインドー越しに一軒一軒中を覗いていく。
いつもはぺたんこのスニーカーだが、今日くらいお洒落をしてみようか。

一軒のブティックの前で立ち止まる。
グレーの大きめのセーターに黒いスキニージーンズ。足元にはヒールの高い厚底のブーツ。
このブーツなら少しはキバナに近づくだろうか。
そう思うと居てもたってもいられず扉を開ける。
「すみません、このマネキンの着ている一式、ください」
綺麗だけれど少し派手目な恰好の店員に告げる。
「ご試着はされますかー?」
「ブーツだけお願いします」
サイズを告げるとすぐに店員が箱を持ってくる。
こんなヒールの高い靴は初めてだなんて思いながら、履きなれないブーツに足を通す。
ゆっくりと立ち上がると、今までとは見えていた景色が変わる。
12cm背が高くなるだけでこんなに違うのか。
恐る恐る店内を歩いてみる。
なんとか歩けそうだ。
これでお願いします、とブーツを脱いで店員に渡すと、かしこまりました~と緩い返事が返ってくる。
一式の値段を見てぎょっとした。
世の女性たちはお洒落に毎度、こんな金額を払うのか。
普段トレーニングウェアのユウリは、この金額があればポケモンフーズがどれだけ買えるだろう、なんて考えてしまう。
店員から大きな紙袋を渡され、キバナの部屋に急ぐ。
彼はどんな反応をするだろう。
わくわくとした期待と似合わないのではないかという不安。
貰った合鍵でキバナの部屋へ入る。
暖房の効いていない部屋は少し肌寒かった。

購入した服と靴を紙袋からだし、ソファの背にかける。
タグを外していると、スマホロトムが騒ぎ出した。
「キバナからメッセージロト!」
ふわっと寄ってきたスマホロトムを見ると、『17時過ぎには終わる』と短いメッセージ。
時刻は4時。
あまり時間はない。
先にワイルドエリアでついた土埃やらを落とさねばならない。
着ていたウェアを脱ぎ捨てると、ユウリはシャワー室へと駆け込んだ。

濡れた髪を急いで髪を乾かす。
ボストンバッグの中からマリィに半ば強引に購入させられた下着を身に着ける。
『たまにはこういうの、着たらよか』
黒地に綺麗な刺繍の下着。
普段のユウリは機能性ばかりを重視し、選ぶどころか眼中にない。
上半身が映った鏡を見て、派手すぎる、と苦笑いしながら先ほど購入した服を着て。
ロングの髪は少し高めのポニーテールに、メイクはせず、眉とリップを少し塗ってブーツを履く。
いつもよりだいぶ下にドアノブを感じながらゆっくりと、慎重に足を運んでマンションの外へ出た。


ナックルシティの整備された道路を転ばないよう、ゆっくり歩いているうちに段々歩き方がわかってきて早足になる。
いつもより目線が高く、少しきょろきょろとしながら。
それでも誰もチャンピオンのユウリだとは気づかない。
普段トレーニングウェアの彼女のイメージとはかけ離れていて気付かないのか。
ポケモンを連れたトレーナーも彼女の横を素通りしていく。
なんだか変装してるみたい、なんて思っているうちに宝物庫が見えてきた。

先ほどキバナを眺めていたベンチに腰掛け、彼を待つ。
どんな反応をするだろう。

少しの間待っていると、キバナの姿が見えた。
パーカーの両ポケットに手を入れ、少し寒そうにこちらへ近づいてくる。
「お待たせ、ユウ…リ?」
初めてみる格好に珍しく驚いた表情に沈黙。
「どう…ですか?」
ゆっくり立ち上がってキバナの方へ一歩、前へ進み出る。
「あー…うん、すげぇ似合ってる」
オレンジ色のバンダナを少し下げる。頬が少し赤い気がするのは気のせいだろうか。
「…ようやくキバナさんの顔が見れます」
いつも通りの角度で見上げれば、首筋や口元ではなくはっきりと彼の顔が見える。
照れくさそうに笑うと、キバナは突然しゃがみこんだ。
「オレさまもう無理」
「あ、あのキバナさん!目立ちますし、ここ離れましょう?」
そんなキバナに軽く膝を曲げてユウリが手を差し出す。
夕方、辺りには帰宅を急ぐ人々の往来が増えてきている。
カッコわりぃ、と呟いて、キバナはユウリの手を取る。
そのまま手をつないで夕暮れにオレンジ色に染まった街並みを並んで歩き始めた。
何を食べようか、レストランで食べるかテイクアウトするか。
他愛もない会話をしながら歩く。
途中、何度かキバナに声がかけられたが、対応もそこそこに立ち去る。

「今日は部屋で食べねぇ?」
立ち去るファンに手を振りながら、キバナはユウリに訊ねる。
「いいですよ?何にします?」
ちょうど慣れないヒールに足が痛んできた頃。
歩けないこともないし、こんなものだろうと思いながらもキバナに気付かれないように歩く。
仕事も忙しようだったし、疲れたのだろうかと若干心配しつつ珍しく無口なキバナの後ろをついていく。

夕食を買い、明日のパンを選び、ポケモンたちのおやつを買うと、キバナの手はいっぱいになった。
横にしたり倒したりしないようにしながら部屋まで運ぶ。

「あの、キバナさん」
荷物を置いた彼に声をかけ、手招きする。
「ん?なんだ?」
いつまでもブーツを脱がないユウリの元へキバナが近づくと、ふわっとユウリが抱きつき、そのままキスをする。
「…これでもまだ背伸びしないと届かないですね」
照れくさく笑ってキバナを覗き込むと、ふいに体が浮かび上がった。
「キ、キバナさん!靴、履いたまま…」
肩に担がれるように抱かれ、キバナは無言でユウリのブーツを少し強引に脱がせる。
バタバタと暴れるユウリを担いだままリビングを進み、寝室のベッドにぽんっと座らせる。
「…キバナさん?」
邪魔、とでも言うようにキバナはヘアバンド、パーカー、ウェアを脱ぎ捨てていくと、フローリングに座り込んでいつもと雰囲気の違う彼女を見つめる。
「一応聞くけど、今日は何か記念日…だったか?」
ぶんぶんと頭を振って否定する。
「見たことない服着てるし、オレさまが忘れてたかと思った」
「さっきのブーツに合う服がなくて…ついでに買ったんです」
「似合ってる。髪型も、服も。すっげぇ可愛い」
誰にも見せたくねぇくらい、と付け加える。
「でもなんであんなに高いヒールにしたんだ?足、擦りむいてるじゃねぇか」
痛んでいた部分をよく見ると薄い水色の靴下に血が滲んでいた。
「…キバナさんの身長に少しでも近づきたかったんです。いつも見上げても顔が見づらいから…」
恥ずかしそうに告げると、キバナは少し考えてからベッドの上に座り、ユウリを膝立ちにさせた。
「これならどうだ?」
にやりと笑うと八重歯が見えた。
「…見えますけど…」
恥ずかしい、と視線をずらす。
ん、とだけ返ってきたかと思うとキバナはユウリの首筋に噛み付くように歯をたて、吸う。
同時にセーターの裾に手を入れ、胸まで移動させると、なにやら違和感を感じたのか手が止まった。
急にがばっとセーターを半分めくる。
「…は?」
何度も瞬きをして、キバナは下着とユウリを見比べる。
ユウリは恥ずかしさで真っ赤になった顔を両手で隠した。
「…似合わないですよね」
色白の肌に黒地の布に赤や緑といった様々な色の刺繍が施された下着が映える。
キバナは顔を覆っていたユウリの両手を下ろし、露になった柔らかそうな唇に噛み付いた。
舌で小さな唇をなぞり、少しの隙間に割って入る。
小さな舌を捕らえ絡ませると、くぐもった声があがった。
飲み込めなかった二人分の唾液がユウリの顎を伝う。
キバナはお構いなしにブラジャーを上げると、控えめな乳房を揉みしだいた。
「んっ…あっ…」
時々硬さを持ち始めた乳首に触れると、喘ぎ声が混じる。
絡めていた舌をゆっくりと離すと、ユウリが目をひらいた。
「キバナさん」
とろんとした目でキバナを見つめる。
もっと、と言うようにユウリはキバナの首に手を回し、少し躊躇ったのち、唇に触れる。
ジーンズのボタンが外しファスナーを下げると、ショーツの上から手を入れて敏感な部分を優しく擦る。
ピクっとユウリの体が小さく跳ねた。
割れ目の下に指を這わせれば、すでにそこは濡れそぼっている。
くちくちと厭らしい音とユウリのくぐもった声が静かな部屋に響く。
「キバナ、さん、待って…んっ…!」
ビクンと大きくユウリの体が跳ねた。
肩で息をし、崩れるようにキバナに体を預ける。

ユウリを仰向けに寝かせて着ていた衣類を全て脱がせ、赤い果実のように膨らんだ敏感な部分に舌を這わしていく。
「やっ…キバナさ…」
キバナを探すように伸ばされた片手を掴み、吸い上げたり舌で転がすように舐めれば、一度達して敏感になったそこはすぐに二度目の絶頂を迎えた。
短い痙攣を続ける体に容赦なく濡れそぼった蜜口に指を入れ、抜き差しをする。
次々と襲う快楽に、ユウリはひときわ甘い声を上げて三度目の絶頂に体を震わせる。

サイドテーブルに手を伸ばし、キバナは避妊具を装着する。
はちきれんばかりに膨らんだそれを秘口に押しあて擦り付ける。
ゆっくりと挿れていくと押し戻すように収縮する。
ユウリの両脇に手をついてぎゅっと抱きしめると首に細い腕が回り、しがみついてくる。
はっと短い息を繰り返し、吐くたびに奥へと突き進めていく。
ユウリの目には涙が溜まっていた。
つうっと伝うそれを頬から首まで一舐めし、そのまま肩口、鎖骨へと跡をつけていく。
「キバナさん」
トントンと背中に二度、軽い振動を感じて見上げると、ユウリはキバナの両頬に手を添え軽い口づけを何度も繰り返す。
「私がキバナさんを捕まえればよかったんだ」
にっこりと、でも少し苦しそうに笑うユウリに、キバナは雷に打たれたかのような衝撃を感じた。
「オマエはっ…!」
片脇と後頭部に腕を回しユウリを引き寄せ、無我夢中で腰を振る。
悲鳴のような喘ぎ声ももはや気にしてはいられない。
「も…うむり…っ!」
いっそう強くしがみつき、ユウリは背中に爪を立てる。
ユウリの腹がピクピクと痙攣を始め、中がよりいっそう強く、キバナの絶頂を促すようにうねる。
途端に低い声を上げ、キバナの体が短く跳ねた。
どさっと倒れ込むように覆いかぶさると、下からと重いです、と聞こえるが、ユウリも背中に腕を回したままだ。

のそりと起き上がり、だるい四肢をユウリの横に投げ出す。
「今度はオレ様がオマエを驚かしてやる」
覚悟しとけよ、とおもしろそうにキバナは笑う。
どんな姿で迎えに来てくれるのだろうか。

時刻はまだ宵の口。
ポケモンたちとテイクアウトした夕飯を食べつつ、時々寄ってくる子たちの相手をして。
にぎやかな夕飯時。
「明日は何がしたい?」
ーこんな他愛もないことを相談する日々が毎日続けばいいのに。
そんな思いをお互いの気持ちをまだ口出せずにいる、ある日のおはなし。
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