ジンクス本編外
ベンチに座って降り落ちてくる白い結晶を眺める。
真夜中に近い時刻のナックルシティスタジアムの前は誰もいない。
僅かに照らす街路灯の光が夜闇を余計に引き立たせていた。
まるでこの世界に一人残されたような孤独感が押し寄せてくる。
もうすぐクリスマスの装いをする街並みも今はなんの飾りつけもなく、白い結晶が覆いつくしていく。
きっと朝には木々にうっすらと雪が積もり、見慣れた街並みを白く染め上げるのだろう。
悴む手に息を吹きかけると、吐いた息が白く具現化した。
真っ黒な空から落ちてくる雪を見上げて、視線をスタジアムの一角に移すと一つだけ明かりがついた部屋があった。
遅くなると連絡があった通り、まだ終わらないのかもしれない。
もう少しだけこの孤独感を楽しもうかと思った矢先、その明かりがふっと消えた。
しんと静まり返った空間に微かな物音と足音が聞こえてその音が大きくなるのを待つ。
寒がりな彼はきっと身震いして出てくるのだろう。明日は久しぶりに二人揃ってオフだ。暖かな日差しが差し込むまでゆっくりと温かい布団の中で過ごしてもいいかもしれない。そのあとは後回しにしていた衣替えをして、冬毛に生え変わったワンパチをブラッシングしたいな、と思っていると、ざっと踏みしめる足音が聞こえた。
「…ユウリ?」
「お疲れ様です、キバナさん」
いつものようにパーカーに手を入れてスタジアムから出てきたキバナは目を丸くしていた。
「ずっとここで待ってたのか?」
「いえ、たぶん10分くらいですよ。駅を降りてちょっと休憩がてらに雪を見てました」
終電から見える景色があまりにも幻想的でゆっくりと歩いて自宅へ向かう途中、もう少し見ていたいと思って座ったベンチを指してそう告げると、彼は冷えて赤くなり始めていた手を取った。
「すっげー冷たい」
室内にいた彼の手はすごく温かいというわけではなかったが、冷え切った自分の手よりははるかにましだった。
「ほら」
差し出された手袋は、先月誕生日に贈ったものだった。
「キバナさんの手が冷たくなっちゃいますよ」
「家に帰るまでだったら平気だから」
大柄な彼に合わせて買った手袋はとても大きくて指先がだいぶ余っている。
「使ってくれてたんですね」
「もちろん」
手を下ろせば脱げてしまいそうな手袋をコートのポケットに突っ込んで、右手はキバナの腕にかける。
手をつなぎたくても身長差のせいでなかなかうまく繋げなかったユウリにキバナが提案してからは、それが二人で歩くときの定番となった。
どんなに歩幅を小さくしてもどうしても先に行ってしまうキバナも、これならば合わせやすいと先日ぽつりと漏らした言葉を思い出した。
「ユウリ、手袋は?」
「…この間片方どこかに落としてしまって。買い替えなきゃって思ってたんですけど、その前に雪が降っちゃいました」
「なら明日買いに行こう。ナックルは冷えるからマフラーも」
「はい!」
キバナを見上げると、まだ重苦しい雲からは雪が降り落ちている。
気がつけば、孤独感はどこかに消え去っていた。
水色の優しい光だけを感じて、体は冷え切っているのに胸が温かくなっていく。
寄り添って歩き出すとしゃりっと雪を踏みしめる心地よい音があたりに響いた。
世界に二人きりになったかのようなナックルシティを二人分の足跡を残して歩く薄暗い街並みは、列車で見た景色よりも幻想的だった。
真夜中に近い時刻のナックルシティスタジアムの前は誰もいない。
僅かに照らす街路灯の光が夜闇を余計に引き立たせていた。
まるでこの世界に一人残されたような孤独感が押し寄せてくる。
もうすぐクリスマスの装いをする街並みも今はなんの飾りつけもなく、白い結晶が覆いつくしていく。
きっと朝には木々にうっすらと雪が積もり、見慣れた街並みを白く染め上げるのだろう。
悴む手に息を吹きかけると、吐いた息が白く具現化した。
真っ黒な空から落ちてくる雪を見上げて、視線をスタジアムの一角に移すと一つだけ明かりがついた部屋があった。
遅くなると連絡があった通り、まだ終わらないのかもしれない。
もう少しだけこの孤独感を楽しもうかと思った矢先、その明かりがふっと消えた。
しんと静まり返った空間に微かな物音と足音が聞こえてその音が大きくなるのを待つ。
寒がりな彼はきっと身震いして出てくるのだろう。明日は久しぶりに二人揃ってオフだ。暖かな日差しが差し込むまでゆっくりと温かい布団の中で過ごしてもいいかもしれない。そのあとは後回しにしていた衣替えをして、冬毛に生え変わったワンパチをブラッシングしたいな、と思っていると、ざっと踏みしめる足音が聞こえた。
「…ユウリ?」
「お疲れ様です、キバナさん」
いつものようにパーカーに手を入れてスタジアムから出てきたキバナは目を丸くしていた。
「ずっとここで待ってたのか?」
「いえ、たぶん10分くらいですよ。駅を降りてちょっと休憩がてらに雪を見てました」
終電から見える景色があまりにも幻想的でゆっくりと歩いて自宅へ向かう途中、もう少し見ていたいと思って座ったベンチを指してそう告げると、彼は冷えて赤くなり始めていた手を取った。
「すっげー冷たい」
室内にいた彼の手はすごく温かいというわけではなかったが、冷え切った自分の手よりははるかにましだった。
「ほら」
差し出された手袋は、先月誕生日に贈ったものだった。
「キバナさんの手が冷たくなっちゃいますよ」
「家に帰るまでだったら平気だから」
大柄な彼に合わせて買った手袋はとても大きくて指先がだいぶ余っている。
「使ってくれてたんですね」
「もちろん」
手を下ろせば脱げてしまいそうな手袋をコートのポケットに突っ込んで、右手はキバナの腕にかける。
手をつなぎたくても身長差のせいでなかなかうまく繋げなかったユウリにキバナが提案してからは、それが二人で歩くときの定番となった。
どんなに歩幅を小さくしてもどうしても先に行ってしまうキバナも、これならば合わせやすいと先日ぽつりと漏らした言葉を思い出した。
「ユウリ、手袋は?」
「…この間片方どこかに落としてしまって。買い替えなきゃって思ってたんですけど、その前に雪が降っちゃいました」
「なら明日買いに行こう。ナックルは冷えるからマフラーも」
「はい!」
キバナを見上げると、まだ重苦しい雲からは雪が降り落ちている。
気がつけば、孤独感はどこかに消え去っていた。
水色の優しい光だけを感じて、体は冷え切っているのに胸が温かくなっていく。
寄り添って歩き出すとしゃりっと雪を踏みしめる心地よい音があたりに響いた。
世界に二人きりになったかのようなナックルシティを二人分の足跡を残して歩く薄暗い街並みは、列車で見た景色よりも幻想的だった。