ジンクス本編外
実のところ、ホワイトデーのお返し悩んだことがない。
ジムに届くバレンタインデーの贈り物にお返しはしない決まりとなっているし、個人的には受け取らない。
ルリナや職員などには美味しいと評判のスイーツを贈っていた。
付き合う前はユウリにもクッキーやチョコなどのスイーツをお返しとして渡していた。甘いものが大好きな彼女だから、大層喜んでいたしこれまではそれでいいと思っていた。
けれども、今年は違う。
ようやく成人して付き合うことができた。
先月は色々とあって、彼女からバレンタインデーの贈り物は貰っていない。個人的には物ではない物を貰った気分だが。
むしろ今年はバレンタインデーにカジッチュを贈ったから、ホワイトデーは貰う側になる。
でもどうしても、何かを贈りたいという気持ちを抑えられない。
パソコンの画面には『ホワイトデーに彼女へ贈りたい物ランキング』とタイトルを打ったページが開かれている。
スイーツ、ハンドクリーム、アクセサリー、小物。
2月末の誕生日には時計を贈ったから、アクセサリーは遠慮されるかもしれないと思いつつも隣のタブでショッピングページを開く。
本当は今すぐにでも執務室を飛び出してジュエリーショップへ駆け込みたい所だ。
けれどもそこで選んでいる所をパパラッチにでも撮られたらなんとも面倒なことになる。
『ドラゴンストーム、ジュエリーショップで選んだものを贈った相手は!?』なんて書かれたら芋づる式にユウリとの関係がバレてしまうだろう。世間に露呈することは一向に構わない。ユウリはオレさまのものだとはっきり公言できるのだから、それはそれで満足なのだが、ユウリの今後の仕事にも影響しかねない。まだ成人したばかりなのだから、メディアで活躍するのはこれからだろう。
ジュエリーは何がいいだろうか。
ブレスレットは時計もすることを考えれば邪魔になるだろう。
ネックレス、ピアス。そのあたりだろうか。
特に彼女は最近ピアスを開けてまだファーストピアスだ。
意外にもピアスで検索すると安い物ばかりが出てきてしまう。
また新たにタブを開いて、たまに利用している海外通販サイトを呼び出し、ピアスと検索する。
今度はハイブランド品がトップに表示された。
ハイブランドと言ってもそこまで高くはないファッションピアス。
ブランドロゴや何をモチーフにしているのかよくわからないデザインをざっと見ていくが、なんだかユウリがつけるイメージの物ではなかった。
大振りなデザインのもの、フープ。どれも違うような気がしてならない。
もう一度ショッピングサイトに戻って価格が高い順に並べ替えると、ようやく一粒ジュエリーの物が表示された。
一粒ダイヤモンドならばこれから増えるパーティーや会食にぴったりだろう。何色のワンピースでもこれならば髪をアップに結い上げたユウリの耳に違和感がないはずだ。
後々、パパラッチがブランドや価格を調べても成人したばかりのチャンピオンが身に着ける価格としては無難だと思える所までスクロールしていく。
ざっと流れていく商品を前に、スクロールしていた指が止まる。
ユウリが今つけているファーストピアスの色と同じ物を見つけてしまった。
ブルーダイヤモンドのそれは、彼女が好きだと言ってくれた自分の瞳の色と似ていて思わず商品ページを新しいタブに開く。
そのタブはひとまず置いておいて、スクロールしていくとネックレスとピアスのセットになった物を見つけた。
商品ページを開くが、宝石の知識はない。1カラットがどれくらいの大きさなのか、純度やランク、色々記載されていてもイメージは湧かない。頼りになるのはモデルが身に着けている写真だけだ。
深夜の通販番組のような安臭いものでなければいいと思いながらそれをカートへ入れる。
今度は先ほどキープしておいたブルーダイヤモンドのタブを開くと、アルファベット順に並んで少しずつ形と色味が違う宝石の写真が並んでいた。
自分の瞳に近い物を選んでこれもカートへ入れる。
注文画面からどちらもギフト用に設定して、ジムへ届くように宛先を変え、注文完了画面が表示されるとすぐにメールが届いた。
ふうっと息を吐いてチェアの背もたれに寄りかかる。
商品を選ぶのに思ったよりも時間がかかってしまった。
昼休憩ももうすぐ終わってしまう。
メールの配達日は明後日になっていた。どうやらホワイトデーに間に合いそうだ。
今年の14日は日曜日。
卓上カレンダーには小さく赤い点と青い点がついている。
赤い点はユウリのオフ、青い点は自分のオフだ。
二人の休みが被ったのは2月のバレンタインデー以来だった。
テイクアウトのサンドイッチを片手に、反対の手で書類を持ち上げる。
食べながら読み進めるが、頭には入ってこない。
どんな反応をしてくれるだろうとそのことで一杯だった。
◇◇◇
「あの、キバナさん。これ…」
おずおずと差し出された少し厚みのある箱を受け取って思わず首を傾げた。
「バレンタイン、私何も贈れなかったから」
「開けていい?」
こくりと頷いたのを確認して、包装紙を剥がすと現れたのはクリーム色の箱だった。
持ってみると意外に重たい。スイーツなどの類ではなさそうだ。
蓋を開けると現れたのはマグカップ。
白いマグカップには3体のポケモンの写真がプリントされている。
ジュラルドン、フライゴン、ヌメルゴン。
「本当はキバナさんの手持ちの子たち全員いれたかったんですけど、3体しか入らなくて」
「いいな、これ…」
ワイルドエリアでキャンプをしていた時に撮った写真だろう。
ジュラルドンは名前を呼んだときに振り返った時の横顔。
フライゴンとヌメルゴンはキバ湖を背景にいつものように遊んでいる様子。
バトルの時ではない、自然な様子を映した写真。
何度も回して写真を見ていると、ユウリは安心したように胸をなで下ろしていた。
「ありがとう。なんか使うの勿体ないな」
そっとテーブルの上に置いて、リビングの棚から先日届いていた物を取り出す。
「ホワイトデーのお返しだ」
大きめの長方形の箱に、今度はユウリが首を傾げた。
「私がキバナさんにバレンタインデー、カジッチュを貰ったんですよ?」
「うん。オレさまもちゃんと貰ったから。そのお返し」
なんだか納得のいかないような顔をしているユウリはなかなか受け取ろうとしない。
もう一度差し出すと、小さな手がようやく伸びた。
包装紙を剥がすと現れた青いベルベットの箱。その箱を開けると現れた、ダイヤモンドのシンプルなネックレスとピアスにユウリは目を丸くした。
「キバナさん。これは受け取れないです」
「なんで?」
ここまでは予想済みだった。
この子は対等でないと良しとしないのだ。
「だって、こんな高価なもの、貰えないです。この間時計も頂いたし」
「それさ、普段使い用じゃないんだ。パーティーとか会食とかそういうフォーマルな場所へ行くとき用。ユウリ持ってないだろ?」
「それは…持ってないですけど。だからって…」
「オレ、今すごく浮かれてるんだ。だから今年だけ、受け取ってくれよ」
用意しておいた言い訳に、ユウリはうっと押し黙る。
自分の彼女を、ユウリを着飾らせたいと思うのは間違いではないはずだ。
特にこの子は自分からこういうものを買ったり強請ったりするタイプではないから。
開けたばかりのピアスの穴にはまだ早いけれど、そのうちこのエメラルドグリーンのファーストピアスが合わない服を着なければならないこともある。
その時困って慌てるのが目に見えていた。
「本当に、今回だけですよ?」
念押しをされてうん、と頷く。
困らせたいわけではなかったのだけれども。
「ありがとうございます」
ケースに入れたまま、ユウリはネックレスのトップを手の平に乗せた。
白い肌に控えめに光るダイヤモンドは、やはりよく似合っていた。
まだ棚の中に隠しているブルーダイヤモンドもきっと、良く似合うのだろう。
けれどもそれを渡すのは、もう少し先。
ジムに届くバレンタインデーの贈り物にお返しはしない決まりとなっているし、個人的には受け取らない。
ルリナや職員などには美味しいと評判のスイーツを贈っていた。
付き合う前はユウリにもクッキーやチョコなどのスイーツをお返しとして渡していた。甘いものが大好きな彼女だから、大層喜んでいたしこれまではそれでいいと思っていた。
けれども、今年は違う。
ようやく成人して付き合うことができた。
先月は色々とあって、彼女からバレンタインデーの贈り物は貰っていない。個人的には物ではない物を貰った気分だが。
むしろ今年はバレンタインデーにカジッチュを贈ったから、ホワイトデーは貰う側になる。
でもどうしても、何かを贈りたいという気持ちを抑えられない。
パソコンの画面には『ホワイトデーに彼女へ贈りたい物ランキング』とタイトルを打ったページが開かれている。
スイーツ、ハンドクリーム、アクセサリー、小物。
2月末の誕生日には時計を贈ったから、アクセサリーは遠慮されるかもしれないと思いつつも隣のタブでショッピングページを開く。
本当は今すぐにでも執務室を飛び出してジュエリーショップへ駆け込みたい所だ。
けれどもそこで選んでいる所をパパラッチにでも撮られたらなんとも面倒なことになる。
『ドラゴンストーム、ジュエリーショップで選んだものを贈った相手は!?』なんて書かれたら芋づる式にユウリとの関係がバレてしまうだろう。世間に露呈することは一向に構わない。ユウリはオレさまのものだとはっきり公言できるのだから、それはそれで満足なのだが、ユウリの今後の仕事にも影響しかねない。まだ成人したばかりなのだから、メディアで活躍するのはこれからだろう。
ジュエリーは何がいいだろうか。
ブレスレットは時計もすることを考えれば邪魔になるだろう。
ネックレス、ピアス。そのあたりだろうか。
特に彼女は最近ピアスを開けてまだファーストピアスだ。
意外にもピアスで検索すると安い物ばかりが出てきてしまう。
また新たにタブを開いて、たまに利用している海外通販サイトを呼び出し、ピアスと検索する。
今度はハイブランド品がトップに表示された。
ハイブランドと言ってもそこまで高くはないファッションピアス。
ブランドロゴや何をモチーフにしているのかよくわからないデザインをざっと見ていくが、なんだかユウリがつけるイメージの物ではなかった。
大振りなデザインのもの、フープ。どれも違うような気がしてならない。
もう一度ショッピングサイトに戻って価格が高い順に並べ替えると、ようやく一粒ジュエリーの物が表示された。
一粒ダイヤモンドならばこれから増えるパーティーや会食にぴったりだろう。何色のワンピースでもこれならば髪をアップに結い上げたユウリの耳に違和感がないはずだ。
後々、パパラッチがブランドや価格を調べても成人したばかりのチャンピオンが身に着ける価格としては無難だと思える所までスクロールしていく。
ざっと流れていく商品を前に、スクロールしていた指が止まる。
ユウリが今つけているファーストピアスの色と同じ物を見つけてしまった。
ブルーダイヤモンドのそれは、彼女が好きだと言ってくれた自分の瞳の色と似ていて思わず商品ページを新しいタブに開く。
そのタブはひとまず置いておいて、スクロールしていくとネックレスとピアスのセットになった物を見つけた。
商品ページを開くが、宝石の知識はない。1カラットがどれくらいの大きさなのか、純度やランク、色々記載されていてもイメージは湧かない。頼りになるのはモデルが身に着けている写真だけだ。
深夜の通販番組のような安臭いものでなければいいと思いながらそれをカートへ入れる。
今度は先ほどキープしておいたブルーダイヤモンドのタブを開くと、アルファベット順に並んで少しずつ形と色味が違う宝石の写真が並んでいた。
自分の瞳に近い物を選んでこれもカートへ入れる。
注文画面からどちらもギフト用に設定して、ジムへ届くように宛先を変え、注文完了画面が表示されるとすぐにメールが届いた。
ふうっと息を吐いてチェアの背もたれに寄りかかる。
商品を選ぶのに思ったよりも時間がかかってしまった。
昼休憩ももうすぐ終わってしまう。
メールの配達日は明後日になっていた。どうやらホワイトデーに間に合いそうだ。
今年の14日は日曜日。
卓上カレンダーには小さく赤い点と青い点がついている。
赤い点はユウリのオフ、青い点は自分のオフだ。
二人の休みが被ったのは2月のバレンタインデー以来だった。
テイクアウトのサンドイッチを片手に、反対の手で書類を持ち上げる。
食べながら読み進めるが、頭には入ってこない。
どんな反応をしてくれるだろうとそのことで一杯だった。
◇◇◇
「あの、キバナさん。これ…」
おずおずと差し出された少し厚みのある箱を受け取って思わず首を傾げた。
「バレンタイン、私何も贈れなかったから」
「開けていい?」
こくりと頷いたのを確認して、包装紙を剥がすと現れたのはクリーム色の箱だった。
持ってみると意外に重たい。スイーツなどの類ではなさそうだ。
蓋を開けると現れたのはマグカップ。
白いマグカップには3体のポケモンの写真がプリントされている。
ジュラルドン、フライゴン、ヌメルゴン。
「本当はキバナさんの手持ちの子たち全員いれたかったんですけど、3体しか入らなくて」
「いいな、これ…」
ワイルドエリアでキャンプをしていた時に撮った写真だろう。
ジュラルドンは名前を呼んだときに振り返った時の横顔。
フライゴンとヌメルゴンはキバ湖を背景にいつものように遊んでいる様子。
バトルの時ではない、自然な様子を映した写真。
何度も回して写真を見ていると、ユウリは安心したように胸をなで下ろしていた。
「ありがとう。なんか使うの勿体ないな」
そっとテーブルの上に置いて、リビングの棚から先日届いていた物を取り出す。
「ホワイトデーのお返しだ」
大きめの長方形の箱に、今度はユウリが首を傾げた。
「私がキバナさんにバレンタインデー、カジッチュを貰ったんですよ?」
「うん。オレさまもちゃんと貰ったから。そのお返し」
なんだか納得のいかないような顔をしているユウリはなかなか受け取ろうとしない。
もう一度差し出すと、小さな手がようやく伸びた。
包装紙を剥がすと現れた青いベルベットの箱。その箱を開けると現れた、ダイヤモンドのシンプルなネックレスとピアスにユウリは目を丸くした。
「キバナさん。これは受け取れないです」
「なんで?」
ここまでは予想済みだった。
この子は対等でないと良しとしないのだ。
「だって、こんな高価なもの、貰えないです。この間時計も頂いたし」
「それさ、普段使い用じゃないんだ。パーティーとか会食とかそういうフォーマルな場所へ行くとき用。ユウリ持ってないだろ?」
「それは…持ってないですけど。だからって…」
「オレ、今すごく浮かれてるんだ。だから今年だけ、受け取ってくれよ」
用意しておいた言い訳に、ユウリはうっと押し黙る。
自分の彼女を、ユウリを着飾らせたいと思うのは間違いではないはずだ。
特にこの子は自分からこういうものを買ったり強請ったりするタイプではないから。
開けたばかりのピアスの穴にはまだ早いけれど、そのうちこのエメラルドグリーンのファーストピアスが合わない服を着なければならないこともある。
その時困って慌てるのが目に見えていた。
「本当に、今回だけですよ?」
念押しをされてうん、と頷く。
困らせたいわけではなかったのだけれども。
「ありがとうございます」
ケースに入れたまま、ユウリはネックレスのトップを手の平に乗せた。
白い肌に控えめに光るダイヤモンドは、やはりよく似合っていた。
まだ棚の中に隠しているブルーダイヤモンドもきっと、良く似合うのだろう。
けれどもそれを渡すのは、もう少し先。