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FF14×GRL組

遠くの方にポケモンの鳴き声が聞こえ、意識がゆっくりと浮上していく。
羽の擦れ合い、高速に羽ばたかせて飛び回る音はビークインかな、と思うものの、まだ瞼を開ける気にはなれなかった。
ユウリとキャンプをしていて、昼にカレーを食べてそのまま原っぱで横になっているうちに眠たくなってきたところまでは覚えている。
隣でユウリも横になって先に寝息を立てていたはずだ。
暖かい陽気にようやく春が訪れたのだと思った。
ガサガサと草むらを走りまわるポケモンの足音が聞こえてくる。
すっと深く深呼吸をすると、急に鼻の奥が痛くなった。
確かワイルドエリアの空気はこんなに乾燥していなかったはずだ。まるで砂塵の窪地で呼吸をしたような気分だった。
ひゅう、っと風が吹き、頬に細かい粒が当たる。
まるで、すなあらしを起こした時のように。
ようやく眠りから覚めた脳が警報を鳴らした。
ゆっくりと目を開けると、晴天だったはずの先ほどとは打って変わって、どんよりと暗い中に砂嵐が吹き荒れてた。
上体を起こし、辺りを見回すと、見たことのない木が聳え立っていた。
ワイルドエリアにこんな大きな木はあっただろうか。そもそも、この土壁も見覚えがない。
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隣で眠っていたユウリは姿勢を変えず、まだすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
立ち上がって、一歩ずつゆっくりと前へ進み、辺りの風景を記憶の中のワイルドエリアと照らし合わせるが、どこもかしこも見覚えはなかった。
「……なんだよ、これ」
ポケモンは一匹もいない。代わりにジグザグマとクスネを足して割ったような奇妙な生き物、ビークインによく似た虫、大きな亀の甲羅。
その向こうには城壁があり、その城壁の高さを超える建物の数々はまるで城のようだった。

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この異変が何なのかわからず、リョウタに連絡を取ろうと胸ポケットに入っているはずのスマホを探すが、そこには何もない。
腰に手を当てて確認をするが、ボールホルダーはなかった。
ジュラルドン、フライゴン、ヌメルゴン、ロトム。手持ちのポケモンたちの顔が脳裏に次々と浮かんでは消えていく。
どこに行ってしまったのか、いや、どちらかといえば自分たちがワイルドエリアというよりガラルから突然出てしまったのか。
「キバナさん?」
欠伸をしながら大きく伸びをしているユウリはまだこの異変に気付いていないようだ。
「ユウリ、ここがどこだかわかるか?」
「え?私たちワイルドエリアでキャンプしてたじゃないですか」
「だよな。見てみろよ」
目を擦りながらユウリがやってくる。遠くの城壁を見た瞬間、ユウリの動きが固まった。
「え……ワイルドエリアじゃ、ない?」
先ほどまで桃色をしていた頬から色が消えていく。
ユウリは寝ていた場所に戻り、辺りを見て呆然と立ち尽くした。
「ボールホルダーもスマホも……何もないです」
「オレ様のもないよ。とりあえず、あの城壁の方へ行こう。こいつらが危険なのかどうかもわからないし、何かわかるかもしれない」
まるで、体一つで別の世界に飛ばされたような気がした。それでもここに居座っていても何も解決はしない。
ぺたりと地面に座り込んでいるユウリを抱き起し、手を引く。

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よくわからない者たちを避け、踏み鳴らされた土の上を歩いていく。
すれ違う人もおらず、状況は何もわからない。
絶望的な気分だった。それでもユウリだけでも守らねばならない。頼りになるポケモンがいないから、自分が体を張って。
基本的な防衛術は習ったが、攻撃できるような体術も何か習っておけばよかったと後悔するが、今はそんなことも言っていられない。
遠くに見えていた城壁が徐々に近づいてくると、砂嵐の中に人影が見えた。
銀色の長い髪を靡かせ、木製の盾とお粗末な出来の剣を振ってモンスターを倒している。
その人物は、尖った耳とふさふさな尻尾が生えている女性だった。
コスプレして剣を振っているアニメなんてあっただろうかと記憶を探るが、じゃり、っと踏み鳴らした足音に耳がぴくりと動き、尻尾がぴんと上を向いた。
その動きはまるでチョロネコが警戒した時のようで、本物であることを示していた。
「なあ」
「……お兄さんたち、随分変わった格好してるね。異国の商人?」
大きく開いていた目が細くなり、下から上までをいかにも怪しいといった目つきが向けられた。
「いや、違うんだ。ちょっと聞きたいんだが、ここはどこだ?」
「ここ?ここは中央ザナラーンの刺抜盆地だよ」
「中央、ざな?」
「中央ザナラーン。ウルダハのザル大門前」
丁寧に説明をされているようだが、聞き覚えのない単語に脳がパンクしそうだった。
少女のような見た目の、猫耳と尻尾がある女性は首を傾げている。
「お兄さんたちも、記憶ないの?」
「も、ってことはアンタも?」
「初対面のレディに向かってアンタって何よ。そう。私もここに着いたとき記憶がなかったの。生い立ちからチョコボキャリッジに乗るまでの記憶がすっぽり抜けてた」
「オレ様たちは記憶はあるんだ。だけどなんでここにいるかがわらかない」
「その後ろに隠れてる子も?」
「ああ。二人一緒に、起きたらあっちの丘にいた」
「ふぅん。ハイデリンとかいう神?も色んな方法使ってるみたいだしあり得るっちゃあり得るのかもね」
「とりあえず泊まれるところを探したい」
「お金、持ってる?持ってなきゃ野宿だよ」
ポケットの中をごそごそと探してみるが、出てきたのは小銭ばかりだった。財布はテントの中だし、スマホもない。
「ユウリ、今財布、持ってるか?」
しっかりとパーカーの裾を握って隠れているユウリに聞いてみるが、首を横に振っただけだった。
「でも、これなら持ってました。駅で美味しい水買ったお釣りです」
ユウリが摘まんでいたのは500円玉だった。
二人の全財産は千円にも満たない。
「これだけじゃ泊まれないよな」
「見たことない硬貨ね。異国の硬貨ならどこかで買い取ってもらえるかも。そのピアスとか、ネックレスとかも。とりあえず、マーケットまで案内するからついてきて」
そっけない態度でくるりと振り返り、城壁の方へと歩いていく女性の後をついていく。

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しばらく歩くと煉瓦のような土でできた城門が現れ、二人の衛兵が立っている。
なんとなく目を合わせてはいけないような気がして、揺れる尻尾をひたすら目で追っていた。

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