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「芹香斗亜、芹香斗亜をよろしくお願いします」
まるで街宣車
和希さんのいい声を響かせながら、その後ろを宙組の二番手スター芹香さんが手を振りながら稽古場の廊下を練り歩いておられる。
そういえば少し前に掲示板に写真と一言アピール書いた紙が貼ってあったな。
「次の宙組マルチイケメン総選挙で芹香斗亜に清き一票を」
「よろしくー」
たまたま廊下でその様子を眺めていた私
目の前で立ち止まり、ぎゅっと握られたその手を思わずじっと見つめる。
大きくて綺麗な手
「清き一票を」
その手から顔を上げた瞬間、バチンと放たれた一発のウインクで私はあっさり心奪われた。
「ちょっとキキ、お触りは禁止」
のぞさまの声がしたと思ったら私を後ろから抱きしめるように芹香さんの手を私の手から解いてぎゅっと抱き寄せられた。
「思ってたけどなんなの宙組マルチイケメン総選挙って」
「ゆりかちん抜きで選抜された中で誰が一番色々出来るかっこいい男役かを決めるんよ、投票権は他組の人たちだけ。今絶賛選挙活動中」
「いや、お稽古しなよ」
「あ、芹香さんはどんな事出来んねやろって思ったやろ?」
抱きしめる腕を強めて呆れた声を出したのぞさまから視線を私に移した芹香さんは私の心を見透かしたかのように笑った。
そのまっすぐな瞳から目が離せない。
「貴美ちゃんを喜ばす事たくさん出来るで」
「喜ばないから」
「ちょっと風斗ちゃん、選挙妨害やで」
私を背中に隠したのぞさまから覗くようにひょこっと肩越しに見つめられる。
「あなたの心の恋人、芹香斗亜をよろしく」
「キキ、うちの貴美を誘惑しないで」
「どっちかって言うと私が誘惑された側なんやけど」
「だめ。雪組の大事な大事な箱入り娘なんだから」
のぞさまは帰らないとごねる芹香さんの背中を押して宙組さんのお稽古場に帰らせてた。
かっこよかったなぁ。のぞさまとはまた違ったかっこよさ。
「だめだよ。貴美」
「え?」
何度も振り返って手を振りながら去っていく姿を見つめていたら、のぞさまは真剣な顔をして両手で私の肩を掴んだ。
「一位になれたら好きな子とデートできる券が貰えるんだって」
「へぇ」
「例えその券を持って申し込んでくる野郎がいても受けちゃだめだよ」
「ははっ、そんな人居るわけないじゃないですか」
笑い飛ばした私に大きなため息をついたのぞさま。
だって本当の事だもの。
それよりのぞさまの方が可能性が高いのでは・・・。
男役さんの中にも沢山ファンがいらっしゃるし。
「もしそんな奴が現れたらまず私の所に相談に来る事。いい?」
「分かりました。そんな人がもしいたらですね」
あれから芹香さんの出てらっしゃる作品が流れているとつい見てしまうという、もう完全なるファンへの道を一直線していた。
何て所作まで全てが美しいのだろう。
つい巻き戻して見てしまう美しい動き、娘役まで出来るなんてなんてマルチなのだろう。
私も他組の娘役なので選挙権があるので投票へ行かせていただいた
2週間後のお稽古場
ストレッチをしているとお稽古場の扉がバタンと開き、みんなの視線がそちらに向く。
「総選挙、芹香斗亜見事一位いただきましたー」
「さやか、おめでとー」
またもや雪組のお稽古場に報告に来てくださった芹香さん。
咲さんと抱き合って喜んでおられる。
「デート券をゲットしましたー」
デート券を嬉しそうにぐるっとお稽古場にいる組子達に掲げて見せて下さった。拍手が起こる中掲げたままみんなにぺこぺことお辞儀をしている姿は上級生とは思えない可愛らしさ。
こういうおちゃめな所も人気の秘訣なんだろうな。
「貴美ちゃん」
「はいっ」
満面の笑みでくるっとこちらを向いた芹香さん。
「私とデートして下さい」
私の前にやってきた芹香さん
名刺のように両手で持っておじぎと共に差し出されたデート券
「え、私ですか?」
「そう。お願いします」
「えっと、のぞさまに相談してもいいですか」
「え、なんで風斗ちゃんに確認がいるん。はっ、まさか」
驚いたように目を見開いて口元に手を当てて後ろに後退るから咲さんにぶつかりそうで止めようと手を伸ばせばぱっと引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。
「まさか、風斗ちゃんと付き合ってるん?」
「なっ、何おっしゃってるんですか。そんな訳無いじゃないですか。のぞさまの名誉にかけてそれはありません」
思わずポンと芹香さんの胸を叩いてしまった。
私なんかと噂になるなんて偉大なトップ様に申し訳が立たないからやめてください。
「じゃあ風斗ちゃんの許可とかいらんやんか」
抱きしめた腕を緩めて甘い声を出しながらかがんで覗き込んできた芹香さんの唇はあひるさんのように尖っていた。
ぐっ、可愛い。可愛いのわかってやってるよね絶対。
顔が緩みそうになるのを必死で抑える。
「あ、やっぱり来てた。もう!キキ離れて」
「風斗ちゃん、何で私らの仲を裂くん。まさか風斗ちゃんも」
「いや、保護者としてまだキキには渡せない」
「約束したやん」
お稽古場に入っていらしたのぞさまが慌ててこちらにこられたけど、ぎゅっとまた芹香さんの腕の中に閉じ込められてしまって身動きが取れないし、私の頭の上で勝手に話は進んでいくんだけど何が何だか分からない。
「貴美はどうなの?行きたい?」
「え?」
「貴美ちゃんお願い」
「キキがいると答えづらいだろうからちょっとこっちおいで」
芹香さんの腕を離れ、のぞさまとお稽古場の端っこで話す。
芹香さんの視線が背中に突き刺さるんですが。
雪組生も固唾を飲んで見守っているのが分かる。
皆さん、私の事は気にしないでお稽古の準備してください。
「どうなの?上級生だからって気を使わなくていいの。私が断ってあげるから」
「いえ、あの、行ってみたいです」
「そう。なら応援するから。でも手を出されそうになったら殴ってでも逃げる事。いい?」
「分かりました」
小さい子に言い聞かせるように両肩を掴まれ何度もいい?分かった?とあまりに過保護なのぞさまの発言に笑ってしまった。
恨めしそうに見つめるのぞさまの前で連絡先を交換した私たちは次のお休みにおでかけする事となった。
お出かけ当日
そわそわしてしまって待合場所に思ったより早く着いてしまった。
「おはよう。早ない?」
「おはようございます。楽しみで何だかドキドキしちゃって早く着いちゃいました」
「ふふっ、可愛い」
こちらに向かって来られる姿が遠くからでも芹香さんだとわかるキラキラオーラにドキドキしてどこを見て待ってたらいいか分からなくて何だか変な動きをしてしまって笑われてしまった。
今日はお買い物とかカフェでランチとかをすることに。
芹香さんのお気に入りのお店に向けて並んで歩き出す。
「一位おめでとうございます」
「ちゃんと私に投票してくれた?」
「あ・・・あの」
「え?まさか他の人に投票したん?」
芹香さんにときめいたのは間違いない。
でもやはり同期に頑張って欲しいという想いでこってぃに入れた。
「嘘やん。え?魅力不足やった?」
「まっ、まさか!そんな理由じゃありません」
「え、誰に負けたん私」
眉間に皺をよせて顎に手を当てて考え込まれてしまった。
「私、貴美ちゃんの一票が欲しかったんやけど」
「芹香さんは沢山票貰えるじゃないですか」
「分かってへんな。一位になってもそれじゃ意味あらへんのよ。貴美ちゃんの一票が欲しくてわざわざ雪組までアピールに行ったんに」
お世辞だと分かっていてもそんな風に言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「一位のご褒美ちょうだい」
「え」
「ごーほーおーびー」
「ご褒美・・・。んー私があげて芹香さんに喜んで貰えるものなんて・・・。考えてみます。お時間いただけますか?」
「考えんでも簡単やで」
立ち止まった芹香さんの方を振り向けばとても優しい顔で微笑んでいらっしゃる。
芹香さんが欲しいのは私にも簡単にあげられるものなのかな。
「貴美ちゃんを下さい」
「私ですか?」
「芹香さんを最大限に喜ばせたい。喜んで貰いたいって思うならあなたを下さい」
「えっと」
私をあげるって、それって
「だめ?」
だめというか・・・。
うう、垂れた犬の耳が見える。
意を決して返事をしようとした瞬間、ぽたりと頬に落ちた滴。
空を見上げればさーっと霧のような雨が降り出した。
「走るで」
差し出された手を取れば手をぎゅっと握られ走り出す。
こんな状況でも楽しそうで私まで思わず笑ってしまった。
こんなのまるで映画のワンシーンだ。
「ふふっ。デートにはハプニングがつきものや」
振り返ってウインクされ苦しくなる胸
ああ、のぞさま私もう引き返せないと思います。
手を引いて貰って雨宿りできるところまで辿り着く頃には2人ともだいぶ濡れてしまっていた。
「あーあ。大分濡れてしもたな」
「本当ですね。ハンカチよかったら」
降り続く雨を軒下で2人で見つめながら濡れてしまった服を拭うけど小さなハンカチでは限界がある。
芹香さんの髪の毛から滴る水が妙に色っぽい。
そんな事より芹香さんに風邪でも引かせてしまったらどうしようか考えていたら、ふと肩から掛けられたジャケット。
その重みと、ふわっと香る芹香さんの香りに抱き締められてるみたいな気持ちになる。
「透けてまうから掛けとき」
「でも芹香さんが」
「私が嫌なの」
そうだよね、みっともないよね。
タカラジェンヌとしてこんな品のない姿なんてダメだよね。
「好きな子の肌が透けてるのなんて他の人に見られたないの」
ぷいっと顔をそむける姿がなんだか少年のように見えてしまってきゅんとしてしまった。
「何笑ってんの」
「いや、すみません。ふふっ」
「取敢えず、うちが近いから行こうか。風邪引いたら大変や」
計らずもがな芹香さんのおうちにお邪魔させていただく事となった。
力抜いてって芹香さんに見透かされる位に緊張していた。
シンプルな家具たちに囲まれ、物も少なめな綺麗なおうちだった。
濡れた服を乾かす間、芹香さんのお部屋着を貸していただき紅茶まで入れていただいてしまった。
ソファーに並んで座ってカップに口をつければ胃が温まってホッと息を吐く。
「で、くれるの?ご褒美」
「えっと、はい。私なんかでよければ。あのただ、そんなに経験もないものでご期待に応えれるかどうか」
マグカップをテーブルに置いてこちらを向いた芹香さんからの問いかけにボタンに手をかければ、その手を掴まれた。
「待って、待って。ほしいってそういう意味じゃないんやけど」
「へ?」
だっ、だって私がほしいってつまりそういう事なんだっててっきり。
え、嘘。恥ずかしすぎる。
自分のした事があまりに恥ずかしすぎて涙が出てきた。
穴があったら入りたいとはまさに今この状況の事だ。
「でも、頑張ってくれたんやんな」
まるで壊れ物を扱うように優しく抱きしめ頭をぽんぽんしてくれる
「私な、貴美ちゃんの心が欲しいの。体だけ貰っても意味ないんよ。言ったやろ、貴美ちゃんの一票が欲しかったって」
「それは一票でも多い方が」
「負けても貴美ちゃんの一票貰えるなら1位とおんなじや。だから私は貴美ちゃんの票貰われへんかったから最下位とおんなじようなもんなんやで。でもご褒美はほしいけど」
そうなんだ。
芹香さんは私の事好きでいてくださるって思っていいのかな。
「・・・私の心、もうとっくに芹香さんのものです」
「え?ほんまに?」
腕を解いて心底びっくりした様子の芹香さんにじっと見つめられて恥ずかしくなる。
自分の気持ちを伝えるってこんなにも難しい事なのかって位しどろもどろだし、鼓動は早いし、顔は熱い。
「あの、返品きかないんですけど大丈夫でしょうか」
「もちろん。永久保証付きでお願いします」
また芹香さんの腕に収まった私はその大きな背中にそっと腕を回した。
「今日はお互いの事沢山お話しよか」
「はい、もっと知りたいです。芹香さんの事」
で、誰に投票したんか教えて貰おうかなぁ
聞いてどうするんですか
羨望の眼差しで見つめるだけや、ずーーーっと
いや、こってぃが可哀想
ほう、こってぃなんやな。この私に勝った羨ましい奴は
あっ・・・
へぇ。明日からこってぃさんって呼ぶわ
まるで街宣車
和希さんのいい声を響かせながら、その後ろを宙組の二番手スター芹香さんが手を振りながら稽古場の廊下を練り歩いておられる。
そういえば少し前に掲示板に写真と一言アピール書いた紙が貼ってあったな。
「次の宙組マルチイケメン総選挙で芹香斗亜に清き一票を」
「よろしくー」
たまたま廊下でその様子を眺めていた私
目の前で立ち止まり、ぎゅっと握られたその手を思わずじっと見つめる。
大きくて綺麗な手
「清き一票を」
その手から顔を上げた瞬間、バチンと放たれた一発のウインクで私はあっさり心奪われた。
「ちょっとキキ、お触りは禁止」
のぞさまの声がしたと思ったら私を後ろから抱きしめるように芹香さんの手を私の手から解いてぎゅっと抱き寄せられた。
「思ってたけどなんなの宙組マルチイケメン総選挙って」
「ゆりかちん抜きで選抜された中で誰が一番色々出来るかっこいい男役かを決めるんよ、投票権は他組の人たちだけ。今絶賛選挙活動中」
「いや、お稽古しなよ」
「あ、芹香さんはどんな事出来んねやろって思ったやろ?」
抱きしめる腕を強めて呆れた声を出したのぞさまから視線を私に移した芹香さんは私の心を見透かしたかのように笑った。
そのまっすぐな瞳から目が離せない。
「貴美ちゃんを喜ばす事たくさん出来るで」
「喜ばないから」
「ちょっと風斗ちゃん、選挙妨害やで」
私を背中に隠したのぞさまから覗くようにひょこっと肩越しに見つめられる。
「あなたの心の恋人、芹香斗亜をよろしく」
「キキ、うちの貴美を誘惑しないで」
「どっちかって言うと私が誘惑された側なんやけど」
「だめ。雪組の大事な大事な箱入り娘なんだから」
のぞさまは帰らないとごねる芹香さんの背中を押して宙組さんのお稽古場に帰らせてた。
かっこよかったなぁ。のぞさまとはまた違ったかっこよさ。
「だめだよ。貴美」
「え?」
何度も振り返って手を振りながら去っていく姿を見つめていたら、のぞさまは真剣な顔をして両手で私の肩を掴んだ。
「一位になれたら好きな子とデートできる券が貰えるんだって」
「へぇ」
「例えその券を持って申し込んでくる野郎がいても受けちゃだめだよ」
「ははっ、そんな人居るわけないじゃないですか」
笑い飛ばした私に大きなため息をついたのぞさま。
だって本当の事だもの。
それよりのぞさまの方が可能性が高いのでは・・・。
男役さんの中にも沢山ファンがいらっしゃるし。
「もしそんな奴が現れたらまず私の所に相談に来る事。いい?」
「分かりました。そんな人がもしいたらですね」
あれから芹香さんの出てらっしゃる作品が流れているとつい見てしまうという、もう完全なるファンへの道を一直線していた。
何て所作まで全てが美しいのだろう。
つい巻き戻して見てしまう美しい動き、娘役まで出来るなんてなんてマルチなのだろう。
私も他組の娘役なので選挙権があるので投票へ行かせていただいた
2週間後のお稽古場
ストレッチをしているとお稽古場の扉がバタンと開き、みんなの視線がそちらに向く。
「総選挙、芹香斗亜見事一位いただきましたー」
「さやか、おめでとー」
またもや雪組のお稽古場に報告に来てくださった芹香さん。
咲さんと抱き合って喜んでおられる。
「デート券をゲットしましたー」
デート券を嬉しそうにぐるっとお稽古場にいる組子達に掲げて見せて下さった。拍手が起こる中掲げたままみんなにぺこぺことお辞儀をしている姿は上級生とは思えない可愛らしさ。
こういうおちゃめな所も人気の秘訣なんだろうな。
「貴美ちゃん」
「はいっ」
満面の笑みでくるっとこちらを向いた芹香さん。
「私とデートして下さい」
私の前にやってきた芹香さん
名刺のように両手で持っておじぎと共に差し出されたデート券
「え、私ですか?」
「そう。お願いします」
「えっと、のぞさまに相談してもいいですか」
「え、なんで風斗ちゃんに確認がいるん。はっ、まさか」
驚いたように目を見開いて口元に手を当てて後ろに後退るから咲さんにぶつかりそうで止めようと手を伸ばせばぱっと引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。
「まさか、風斗ちゃんと付き合ってるん?」
「なっ、何おっしゃってるんですか。そんな訳無いじゃないですか。のぞさまの名誉にかけてそれはありません」
思わずポンと芹香さんの胸を叩いてしまった。
私なんかと噂になるなんて偉大なトップ様に申し訳が立たないからやめてください。
「じゃあ風斗ちゃんの許可とかいらんやんか」
抱きしめた腕を緩めて甘い声を出しながらかがんで覗き込んできた芹香さんの唇はあひるさんのように尖っていた。
ぐっ、可愛い。可愛いのわかってやってるよね絶対。
顔が緩みそうになるのを必死で抑える。
「あ、やっぱり来てた。もう!キキ離れて」
「風斗ちゃん、何で私らの仲を裂くん。まさか風斗ちゃんも」
「いや、保護者としてまだキキには渡せない」
「約束したやん」
お稽古場に入っていらしたのぞさまが慌ててこちらにこられたけど、ぎゅっとまた芹香さんの腕の中に閉じ込められてしまって身動きが取れないし、私の頭の上で勝手に話は進んでいくんだけど何が何だか分からない。
「貴美はどうなの?行きたい?」
「え?」
「貴美ちゃんお願い」
「キキがいると答えづらいだろうからちょっとこっちおいで」
芹香さんの腕を離れ、のぞさまとお稽古場の端っこで話す。
芹香さんの視線が背中に突き刺さるんですが。
雪組生も固唾を飲んで見守っているのが分かる。
皆さん、私の事は気にしないでお稽古の準備してください。
「どうなの?上級生だからって気を使わなくていいの。私が断ってあげるから」
「いえ、あの、行ってみたいです」
「そう。なら応援するから。でも手を出されそうになったら殴ってでも逃げる事。いい?」
「分かりました」
小さい子に言い聞かせるように両肩を掴まれ何度もいい?分かった?とあまりに過保護なのぞさまの発言に笑ってしまった。
恨めしそうに見つめるのぞさまの前で連絡先を交換した私たちは次のお休みにおでかけする事となった。
お出かけ当日
そわそわしてしまって待合場所に思ったより早く着いてしまった。
「おはよう。早ない?」
「おはようございます。楽しみで何だかドキドキしちゃって早く着いちゃいました」
「ふふっ、可愛い」
こちらに向かって来られる姿が遠くからでも芹香さんだとわかるキラキラオーラにドキドキしてどこを見て待ってたらいいか分からなくて何だか変な動きをしてしまって笑われてしまった。
今日はお買い物とかカフェでランチとかをすることに。
芹香さんのお気に入りのお店に向けて並んで歩き出す。
「一位おめでとうございます」
「ちゃんと私に投票してくれた?」
「あ・・・あの」
「え?まさか他の人に投票したん?」
芹香さんにときめいたのは間違いない。
でもやはり同期に頑張って欲しいという想いでこってぃに入れた。
「嘘やん。え?魅力不足やった?」
「まっ、まさか!そんな理由じゃありません」
「え、誰に負けたん私」
眉間に皺をよせて顎に手を当てて考え込まれてしまった。
「私、貴美ちゃんの一票が欲しかったんやけど」
「芹香さんは沢山票貰えるじゃないですか」
「分かってへんな。一位になってもそれじゃ意味あらへんのよ。貴美ちゃんの一票が欲しくてわざわざ雪組までアピールに行ったんに」
お世辞だと分かっていてもそんな風に言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「一位のご褒美ちょうだい」
「え」
「ごーほーおーびー」
「ご褒美・・・。んー私があげて芹香さんに喜んで貰えるものなんて・・・。考えてみます。お時間いただけますか?」
「考えんでも簡単やで」
立ち止まった芹香さんの方を振り向けばとても優しい顔で微笑んでいらっしゃる。
芹香さんが欲しいのは私にも簡単にあげられるものなのかな。
「貴美ちゃんを下さい」
「私ですか?」
「芹香さんを最大限に喜ばせたい。喜んで貰いたいって思うならあなたを下さい」
「えっと」
私をあげるって、それって
「だめ?」
だめというか・・・。
うう、垂れた犬の耳が見える。
意を決して返事をしようとした瞬間、ぽたりと頬に落ちた滴。
空を見上げればさーっと霧のような雨が降り出した。
「走るで」
差し出された手を取れば手をぎゅっと握られ走り出す。
こんな状況でも楽しそうで私まで思わず笑ってしまった。
こんなのまるで映画のワンシーンだ。
「ふふっ。デートにはハプニングがつきものや」
振り返ってウインクされ苦しくなる胸
ああ、のぞさま私もう引き返せないと思います。
手を引いて貰って雨宿りできるところまで辿り着く頃には2人ともだいぶ濡れてしまっていた。
「あーあ。大分濡れてしもたな」
「本当ですね。ハンカチよかったら」
降り続く雨を軒下で2人で見つめながら濡れてしまった服を拭うけど小さなハンカチでは限界がある。
芹香さんの髪の毛から滴る水が妙に色っぽい。
そんな事より芹香さんに風邪でも引かせてしまったらどうしようか考えていたら、ふと肩から掛けられたジャケット。
その重みと、ふわっと香る芹香さんの香りに抱き締められてるみたいな気持ちになる。
「透けてまうから掛けとき」
「でも芹香さんが」
「私が嫌なの」
そうだよね、みっともないよね。
タカラジェンヌとしてこんな品のない姿なんてダメだよね。
「好きな子の肌が透けてるのなんて他の人に見られたないの」
ぷいっと顔をそむける姿がなんだか少年のように見えてしまってきゅんとしてしまった。
「何笑ってんの」
「いや、すみません。ふふっ」
「取敢えず、うちが近いから行こうか。風邪引いたら大変や」
計らずもがな芹香さんのおうちにお邪魔させていただく事となった。
力抜いてって芹香さんに見透かされる位に緊張していた。
シンプルな家具たちに囲まれ、物も少なめな綺麗なおうちだった。
濡れた服を乾かす間、芹香さんのお部屋着を貸していただき紅茶まで入れていただいてしまった。
ソファーに並んで座ってカップに口をつければ胃が温まってホッと息を吐く。
「で、くれるの?ご褒美」
「えっと、はい。私なんかでよければ。あのただ、そんなに経験もないものでご期待に応えれるかどうか」
マグカップをテーブルに置いてこちらを向いた芹香さんからの問いかけにボタンに手をかければ、その手を掴まれた。
「待って、待って。ほしいってそういう意味じゃないんやけど」
「へ?」
だっ、だって私がほしいってつまりそういう事なんだっててっきり。
え、嘘。恥ずかしすぎる。
自分のした事があまりに恥ずかしすぎて涙が出てきた。
穴があったら入りたいとはまさに今この状況の事だ。
「でも、頑張ってくれたんやんな」
まるで壊れ物を扱うように優しく抱きしめ頭をぽんぽんしてくれる
「私な、貴美ちゃんの心が欲しいの。体だけ貰っても意味ないんよ。言ったやろ、貴美ちゃんの一票が欲しかったって」
「それは一票でも多い方が」
「負けても貴美ちゃんの一票貰えるなら1位とおんなじや。だから私は貴美ちゃんの票貰われへんかったから最下位とおんなじようなもんなんやで。でもご褒美はほしいけど」
そうなんだ。
芹香さんは私の事好きでいてくださるって思っていいのかな。
「・・・私の心、もうとっくに芹香さんのものです」
「え?ほんまに?」
腕を解いて心底びっくりした様子の芹香さんにじっと見つめられて恥ずかしくなる。
自分の気持ちを伝えるってこんなにも難しい事なのかって位しどろもどろだし、鼓動は早いし、顔は熱い。
「あの、返品きかないんですけど大丈夫でしょうか」
「もちろん。永久保証付きでお願いします」
また芹香さんの腕に収まった私はその大きな背中にそっと腕を回した。
「今日はお互いの事沢山お話しよか」
「はい、もっと知りたいです。芹香さんの事」
で、誰に投票したんか教えて貰おうかなぁ
聞いてどうするんですか
羨望の眼差しで見つめるだけや、ずーーーっと
いや、こってぃが可哀想
ほう、こってぃなんやな。この私に勝った羨ましい奴は
あっ・・・
へぇ。明日からこってぃさんって呼ぶわ