T.SERIKA
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「なあなあ、いつになったら私と付き合ってくれるーん?」
「私より素敵な人はいっぱいいますから」
ねーねーねー!!
と後ろからついてくるキキさん。
5期上の上級生さん。
数ヶ月前からこんな感じ
すごく有難いけど、正直困っている。
断っても断っても諦めてくれなくて・・・
キキさんは交友関係もひろいし、色んな女の子から声かけられてるの見るし
私なんかに構ってる必要無いんじゃないのかな
「あのー。帰りたいんですが」
「私もおうち行ってええ?お泊まり会しようよ」
「だめです。キキさんファンに怒られてしまいます」
「なんでなーん。じゃあ誰ならお泊りしてもええの?」
「んー。友達とか付き合ってる人とか・・・ですかね」
ぱあっと笑顔になるキキさんに思わず見惚れてしまった。
「じゃあはよ付きあお!!」
「あはは・・・」
可愛いけど、流されてはいけないと
苦笑いしながら一歩ずつ後ろに下がればぽすんと誰かにぶつかった。
「貴美、さやか何してるの」
「愛さんっ。すみません」
「また?」
「またちゃう。貴美がなかなか付き合ってくれんからぁ」
嘘泣きするキキさんに思わずため息が出そうになる。
だめだめ。上級生さんにため息なんて。
「可哀想」
「そうやろー?」
「貴美が」
「えー?なんでよ。こんなに愛伝えてるのに振り向いてもらえへん私の方が可哀想や」
力説してるキキさんを見てると私が間違ってるのかなとさえ思えてくるから不思議なものだ。
「あーあ、早く私に落ちてくれへんかなー」
頭の後ろで腕を組んでちぇーっと唇を尖らせている姿が可愛らしい
「あ、貴美もう帰る?」
「はい、帰ろうと思ってます」
愛さんの言葉に返事をすれば視線を感じたのでチラッとキキさんの方を見れば泣きそうな顔してらっしゃる。
まだ何かあるのかな。
「んー。キキさんは帰らないんですか」
「一緒に帰ってくれるなら帰る」
ぷくりと頬を膨らませたキキさん。
私の方を見た愛さんと目があってため息がついに漏れた。
「じゃあ一緒に帰りましょう」
「ええの?わーい!」
「え、でもいつものとこまでですよ」
「えー。もう一個先の交差点まで、だめ?」
最初は劇団出て最初の交差点までだった。
こうやって可愛く首をかしげてうるうるとした目を向けてこられるからつい許してしまってじわじわと距離が伸びている。
可愛いの分かってやってるんじゃないかと思うくらい。
「だめです」
「お願いー。今日お稽古で一個出来る事増えたんよー。ご褒美が欲しいなぁ」
「愛さんからもらってください」
「貴美ちゃんから欲しい」
なんでよ。
食い下がるキキさんに結局うなづかない訳にいかなくなって一個先の交差点まで一緒に帰ることになった。
「キキさん」
「なあに?」
「キキさん待ちの方々がいらっしゃいますよ?」
出口付近に他組の娘役さんが数人たむろしておられる。
あれはまさしくキキさんファンの方々。
立ち止まるそぶりもなくキキさんはそのまま歩き出す
「お疲れ様ー」
「おっ、お疲れ様です」
声かけたそうな雰囲気がぷんぷんなのにすっと笑顔で交わして出てしまわれた。
大丈夫なのかな、怖くて振り返る勇気はないけど
「なあ」
「はい?」
「やっぱりご飯食べて帰らん?」
「いや、遠慮しときます」
「えー!いいやん、ご飯くらいー。デザートのいちごパフェが美味しい店があるんよ」
いちご。
その言葉に思わず心が揺らぐ。
キキさんと私の大好物。
ずるい。苺を引き合いに出すなんて。
んー。と考えあぐねている私の手をとったキキさん
「はい、時間切れ。決まりな」
ぐいぐいとひっぱられて結局一緒に食べて帰ることになった。
***
「はあ・・・」
今日のシーン何回やっても上手く出来なかったのでお稽古場で一人自主稽古をして帰ろうとしたのだが思わずため息が出た。
あんなに騒がしかった自主稽古の時間もキキさんがいないと静かなものだ。
今公演は別れてしまったのでなかなか会えない。
ありがたい事に愛さんの別箱のヒロインという立場をさせていただく事になっているので気合を入れて頑張らねば。
練習しなきゃと思うのに体が重くて
隅っこで小さくうずくまったまま動けずにいた。
「あー!みーつけたっ」
聞きなれた声にお稽古場の入り口を見れば笑顔のキキさんに急に胸が暖かくなる。
「私がおらんと寂しいやろ?」
「そっ、そんな事ないですよ。愛さんもいらっしゃるし」
「私は貴美がおらんお稽古場寂しいわ」
恥ずかしくなっちゃってつい強がっちゃったけど、そんな事言われたら私までなんだか寂しくなってしまった。
「あー。会えへんかった分埋め合わせしてもらわななぁ」
こういう鋭い所ずるい。
落ち込んでるの分かってて何でもないようなフリして元気付けてくださるから。
「ほら、顔上げて」
俯いた私のところまで来てくれた後、大きなキキさんの手が私の頬を包む。
「貴美は頑張ってるんやから大丈夫。自信もって」
「・・・はい」
自分でも分かる位涙声だった。
何だろういつだって頑張ってるって言われても、まだまだだって、そんな事ないって思うのにキキさんの言葉は不思議に心に刺さる。
「ほら、ぎゅーってしたげる」
「キキさん」
キキさんの腕の中は暖かくて落ち着く
小さくあーと息を吐くのに合わせてぎゅーっとされる力がさらに強まる。
「このまま連れ去りたいわ」
「なっ」
「だって愛ちゃんと結ばれるんやろ?無理」
「無理ってなんですか」
舞台の上での事だし、相手役なのに結ばれるなとか無茶苦茶な事言うから思わず笑ってしまった。
「はよ私の所来てな」
「ふふっ。考えときます」
「言うたな」
キキさんなりの励ましに感謝しかない。
それからお稽古にと慌ただしくてあっという間に公演は始まってしまった。
そして休演日
愛さんにお誘いいただいて、2人で真風さんチームの観劇に来た。
とても楽しいお話にキラキラした宙組生。
それなのに途中、キキさんがららちゃんとキスした瞬間胸がずきんとして心が沈んでしまった。
幸せなシーンなのに何心痛めてるの私。
お芝居なんだし、キキさんが誰かとキスシーンするなんてよくある事じゃない。
ショーのキキさんもやっぱりかっこよくて輝いていてウインクまでして貰っちゃって不覚にもドキドキしてしまうけどやはりどこか重い心。
気づけば公演は終わっていて。
愛さんに声を掛けられるまでぼーっとしてしまっていた。
「大丈夫?」
「へ?あ、大丈夫です」
終わってからもキキさんのキスシーンが頭から離れなくて。
今までこんな事無かったのに。
「さやか?」
「え?」
「落ち込んでる原因」
楽屋に向かう道すがら
隣を歩く愛さんにまで心配をかけてしまっている。
「聞くくらいならできるよ?」
正直にこんなこと言っていいんだろうか。
でも愛さんならきっとこんな不純な私にも的確なアドバイスを下さるはずと意を決して正直に話せば一瞬目を見開いてにこりと微笑み
「取られたくないと思っちゃったんじゃない?」
思わず立ち止まってしまった。
取られたくない・・・。
あまりにストンと自分の中にその言葉が入ってきてびっくりする。
そうか、私キキさんを取られたくないと思っちゃったんだ。
恋・・・してるの?
「ほら、泣かないよ」
愛さんの言葉で自分が泣いていることに気付いた。
恥ずかしい。なんて重い感情なんだろう。
頬を両手で包んで親指で涙を拭ってくれ、やわらかく微笑んだ愛さん。
「さやかが見たら喜ぶだろうな」
「やっ、やだっ。愛さん言わないでくださいねっ」
「はいはい」
こんな子供じみた理由で泣いたなんて知られたくなくて必死な私と相反して愛さんは完全に面白がってらっしゃる。
もう。
その後楽屋にお邪魔して皆を激励して帰ったんだけど、キキさんは丁度お風呂に行ってしまったようで会えなかった。
自分の気持ちに気付いてしまうとなんだか気恥ずかしくなってしまって
キキさんの事を考えるだけで異様にドキドキしてしまう始末。
数日後の公演、真風さんやキキさん達が見に来てくださったけど変に緊張しちゃって全然目をやることさえ出来なかった。
お2人は取材のお仕事の前に来て下さったらしく楽屋でも会えなかった。
あのお稽古場の日から私として会う事は出来ていない。
でもどんな顔して会ったらいいんだろう。顔に出てしまったら恥ずかしいな。
迎えた2回目の休演日
とはいえどもすることは沢山あって。
来週には東京へと向かうので準備とか片付けとか一通り落ち着いた頃、鳴ったチャイム
宅配便とかあったかなと考えながら覗いたモニター。
そこにはキキさんが立っていた
「うそっ、何で」
ぴーんぽーん
再度なったチャイムに慌てて通話ボタンを押す
「キッ、キキさんどうされたんですか」
「ちょっと話があって。入れてくれへんかな」
いつもと違うキキさんの表情に心臓がぎゅっとなる。
いつもなら会いにきちゃったーくらいの軽い感じなのに。
解錠ボタンを押してそわそわしながら待つ。
「どうぞ、散らかってますけど」
「お邪魔します」
招き入れたはいいけどこの重い空気に耐えられなくてキキさんにソファーに座ってもらった後そそくさとキッチンでコーヒーの準備をする。
キキさんの前にコーヒーを置いたその手を掴まれてびっくりしてキキさんを見れば真剣な瞳と視線がぶつかる。
「何で愛ちゃんとなん」
「え?」
「他の人なら張り合おうとか奪ってやると思うのに。酷いやん。そんなん応援するしかなくなるやん」
ぎゅっと唇を噛み締めて俯くキキさんにハテナしか浮かばない。
愛さんと?・・・あ、新年会の出し物の件かな。
毎年恒例の組の新年会。
何人かずつで出し物をするんだけど
今年は愛さんに誘われて一緒に美女と野獣の小芝居をする約束をしている。
愛さん、キキさんは毎年一緒に1番を狙って本気で出し物されてるもんな。
今年はキキさんはそらさんとされるからって聞いたけど、キキさんは愛さんも誘いたかったのでは。
「すみません」
まだ練習始めてないし私は同期に加えて貰うっていう手もあるから変更でも構わないけど。
「なんでなん」
「えっと、昔からお互い好きだったので」
美女と野獣が大好きで小さい頃ベルごっことかしたなぁ。
愛さんも同じで今回の舞台組ませていただいた縁もあって一緒にさせていただく約束をしたのだ。
「私かてこんなに好きなのに」
「あ・・・じゃあ、3人でどうですか?」
そうなんだ。キキさんも好きだったんだ。
愛さんに聞いてみないとだけどぜひ3人で出来たらいいな。
そしたらキキさんがベルとか素敵だなぁ。
想像しただけでとてつもなく可愛い。
そしたら私はポット夫人とか複数役やるとか楽しそう。
思わず顔が緩んだ。
「なっ。何なんそれ馬鹿にしてんの?」
急に怒り出したキキさんに緊張が走る。
やっぱり2人の間に入るなんてだめだったかな。
「どういうつもりなん」
「え・・・いや、あの」
いつものキキさんとは全然違う怒りを含んだ眼差しに鼓動が速くなる。
怖い。まずい事を言ってしまった?
「すっ、すみませんっ。」
「そんな子やと思わんかったわ」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「ちょっ」
逃げ出して震えてる手で愛さんに連絡する。
最初から私が引いてキキさんに譲れば良かったんだ。
後ろからキキさんが追いかけてくるけど交わして寝室に逃げ込む
「もしもしー?」
「あっ、愛さん」
のほほんとした愛さんの声を聞いたら涙が出てきてしまった。
「あっ、あのっ。あのっ」
「どうしたの」
電話の向こうの愛さんは私の異常な様子に気づいて慌てているのが分かる。
寝室に入ってきたキキさんに腕を掴まれ、キキさんの方を向いた勢いでベットに押し倒される形で倒れ込む
「新年会の出し物一緒には出来ませんっ」
「へ?」
「はあ?」
ぎゅっと目をつぶって絞り出した言葉に電話の向こうの愛さんと私を見下ろすキキさんの声が被った。
「あれ?もしかしてさやかいる?」
「はっ、はい。キキさんが愛さんと組みたいとおっしゃってます」
「何の話なん」
「ちょっとさ、さやかに変わってくれる?」
「はっ、はい」
震える手で携帯を渡せば涙が止まらなくなってとめどなく流れる涙を一生懸命拭った。
そんなつもりじゃなかったのに。
私の不用意な一言で嫌われてしまったかもしれない。
さっきのキキさんの刺さるような視線が頭から離れなくて胸が痛い。
ベットに腰かけて話すキキさんの背中を見つめながらゆるゆると起き上がってベットの端の方に小さく丸まって座る。
「ごめん。泣かんとって」
膝に顔を埋めたまま気持ちを落ち着かせていたら
いつの間にかお話は終わったみたいで、
携帯をそっとベットに置いたキキさんに先程とは打って変わって壊れ物を扱うようにそっと抱きしめられた。
「全然話噛み合ってへんかったんよ、私ら」
「え?」
「何の話してたん?」
「新年会の出し物の話・・・。愛さんとっておっしゃるから」
「はあ・・・全然違う。愛ちゃんと付き合ってるんじゃないん?」
愛さんと?
まさかっ。こんなにキキさんが好きだって気づいたのに。
「まっ、まさかっ」
「だってあんな風にらぶらぶしてたらそうかと思うやん。2人で観劇くるし、楽屋前でもなんやこそこそ顔近づけてさ」
むっとした顔で覗き込まれた。
観劇位2人でも行くと思うけど。
しかも泣いちゃった時の事見られてたんだ。
「そっ、それは」
「それは?」
「・・・ららちゃんとキキさんがとてもお似合いだったからちょっとショックで泣いちゃって」
シーンとなった部屋
ほら、やっぱり引かれてますよ愛さん
喜ばれるわけがない。
「それって嫉妬してくれたって事?」
そんなストレートに言われたら恥ずかしすぎる。
言葉が出なくて、頷くことしかできなかった。
「え、ごめん。めっちゃ嬉しいんやけど」
「え?」
ぎゅーっと力を込めて抱きしめられて実感する。
キキさんが大好きだって心が叫んでいると。
「それって私の事好きって事やんね」
「・・・はい」
「やったー!え、どないしよ」
急にいつものキキさんに戻るから思わず笑ってしまう。
「え?じゃあこのままお泊りしてええって事?」
「いや、それは」
「付き合ったらお泊りいいって言ったやん」
またうるうるなおめめに負けて頷いてしまうのだった。
というかさ、さやかの嫉妬心の方がやばいよ
え?そう?
だって家まで行って問い詰めて泣かせてさ
たっ、確かに・・・。だってこんなに好きやって言ってたのに私を振りもせず愛ちゃんに行くなんてって思ったんやもん。
いや、何回か振られてたよね
え?振られてたん?嘘やん
そのメンタル見習いたいわ
「私より素敵な人はいっぱいいますから」
ねーねーねー!!
と後ろからついてくるキキさん。
5期上の上級生さん。
数ヶ月前からこんな感じ
すごく有難いけど、正直困っている。
断っても断っても諦めてくれなくて・・・
キキさんは交友関係もひろいし、色んな女の子から声かけられてるの見るし
私なんかに構ってる必要無いんじゃないのかな
「あのー。帰りたいんですが」
「私もおうち行ってええ?お泊まり会しようよ」
「だめです。キキさんファンに怒られてしまいます」
「なんでなーん。じゃあ誰ならお泊りしてもええの?」
「んー。友達とか付き合ってる人とか・・・ですかね」
ぱあっと笑顔になるキキさんに思わず見惚れてしまった。
「じゃあはよ付きあお!!」
「あはは・・・」
可愛いけど、流されてはいけないと
苦笑いしながら一歩ずつ後ろに下がればぽすんと誰かにぶつかった。
「貴美、さやか何してるの」
「愛さんっ。すみません」
「また?」
「またちゃう。貴美がなかなか付き合ってくれんからぁ」
嘘泣きするキキさんに思わずため息が出そうになる。
だめだめ。上級生さんにため息なんて。
「可哀想」
「そうやろー?」
「貴美が」
「えー?なんでよ。こんなに愛伝えてるのに振り向いてもらえへん私の方が可哀想や」
力説してるキキさんを見てると私が間違ってるのかなとさえ思えてくるから不思議なものだ。
「あーあ、早く私に落ちてくれへんかなー」
頭の後ろで腕を組んでちぇーっと唇を尖らせている姿が可愛らしい
「あ、貴美もう帰る?」
「はい、帰ろうと思ってます」
愛さんの言葉に返事をすれば視線を感じたのでチラッとキキさんの方を見れば泣きそうな顔してらっしゃる。
まだ何かあるのかな。
「んー。キキさんは帰らないんですか」
「一緒に帰ってくれるなら帰る」
ぷくりと頬を膨らませたキキさん。
私の方を見た愛さんと目があってため息がついに漏れた。
「じゃあ一緒に帰りましょう」
「ええの?わーい!」
「え、でもいつものとこまでですよ」
「えー。もう一個先の交差点まで、だめ?」
最初は劇団出て最初の交差点までだった。
こうやって可愛く首をかしげてうるうるとした目を向けてこられるからつい許してしまってじわじわと距離が伸びている。
可愛いの分かってやってるんじゃないかと思うくらい。
「だめです」
「お願いー。今日お稽古で一個出来る事増えたんよー。ご褒美が欲しいなぁ」
「愛さんからもらってください」
「貴美ちゃんから欲しい」
なんでよ。
食い下がるキキさんに結局うなづかない訳にいかなくなって一個先の交差点まで一緒に帰ることになった。
「キキさん」
「なあに?」
「キキさん待ちの方々がいらっしゃいますよ?」
出口付近に他組の娘役さんが数人たむろしておられる。
あれはまさしくキキさんファンの方々。
立ち止まるそぶりもなくキキさんはそのまま歩き出す
「お疲れ様ー」
「おっ、お疲れ様です」
声かけたそうな雰囲気がぷんぷんなのにすっと笑顔で交わして出てしまわれた。
大丈夫なのかな、怖くて振り返る勇気はないけど
「なあ」
「はい?」
「やっぱりご飯食べて帰らん?」
「いや、遠慮しときます」
「えー!いいやん、ご飯くらいー。デザートのいちごパフェが美味しい店があるんよ」
いちご。
その言葉に思わず心が揺らぐ。
キキさんと私の大好物。
ずるい。苺を引き合いに出すなんて。
んー。と考えあぐねている私の手をとったキキさん
「はい、時間切れ。決まりな」
ぐいぐいとひっぱられて結局一緒に食べて帰ることになった。
***
「はあ・・・」
今日のシーン何回やっても上手く出来なかったのでお稽古場で一人自主稽古をして帰ろうとしたのだが思わずため息が出た。
あんなに騒がしかった自主稽古の時間もキキさんがいないと静かなものだ。
今公演は別れてしまったのでなかなか会えない。
ありがたい事に愛さんの別箱のヒロインという立場をさせていただく事になっているので気合を入れて頑張らねば。
練習しなきゃと思うのに体が重くて
隅っこで小さくうずくまったまま動けずにいた。
「あー!みーつけたっ」
聞きなれた声にお稽古場の入り口を見れば笑顔のキキさんに急に胸が暖かくなる。
「私がおらんと寂しいやろ?」
「そっ、そんな事ないですよ。愛さんもいらっしゃるし」
「私は貴美がおらんお稽古場寂しいわ」
恥ずかしくなっちゃってつい強がっちゃったけど、そんな事言われたら私までなんだか寂しくなってしまった。
「あー。会えへんかった分埋め合わせしてもらわななぁ」
こういう鋭い所ずるい。
落ち込んでるの分かってて何でもないようなフリして元気付けてくださるから。
「ほら、顔上げて」
俯いた私のところまで来てくれた後、大きなキキさんの手が私の頬を包む。
「貴美は頑張ってるんやから大丈夫。自信もって」
「・・・はい」
自分でも分かる位涙声だった。
何だろういつだって頑張ってるって言われても、まだまだだって、そんな事ないって思うのにキキさんの言葉は不思議に心に刺さる。
「ほら、ぎゅーってしたげる」
「キキさん」
キキさんの腕の中は暖かくて落ち着く
小さくあーと息を吐くのに合わせてぎゅーっとされる力がさらに強まる。
「このまま連れ去りたいわ」
「なっ」
「だって愛ちゃんと結ばれるんやろ?無理」
「無理ってなんですか」
舞台の上での事だし、相手役なのに結ばれるなとか無茶苦茶な事言うから思わず笑ってしまった。
「はよ私の所来てな」
「ふふっ。考えときます」
「言うたな」
キキさんなりの励ましに感謝しかない。
それからお稽古にと慌ただしくてあっという間に公演は始まってしまった。
そして休演日
愛さんにお誘いいただいて、2人で真風さんチームの観劇に来た。
とても楽しいお話にキラキラした宙組生。
それなのに途中、キキさんがららちゃんとキスした瞬間胸がずきんとして心が沈んでしまった。
幸せなシーンなのに何心痛めてるの私。
お芝居なんだし、キキさんが誰かとキスシーンするなんてよくある事じゃない。
ショーのキキさんもやっぱりかっこよくて輝いていてウインクまでして貰っちゃって不覚にもドキドキしてしまうけどやはりどこか重い心。
気づけば公演は終わっていて。
愛さんに声を掛けられるまでぼーっとしてしまっていた。
「大丈夫?」
「へ?あ、大丈夫です」
終わってからもキキさんのキスシーンが頭から離れなくて。
今までこんな事無かったのに。
「さやか?」
「え?」
「落ち込んでる原因」
楽屋に向かう道すがら
隣を歩く愛さんにまで心配をかけてしまっている。
「聞くくらいならできるよ?」
正直にこんなこと言っていいんだろうか。
でも愛さんならきっとこんな不純な私にも的確なアドバイスを下さるはずと意を決して正直に話せば一瞬目を見開いてにこりと微笑み
「取られたくないと思っちゃったんじゃない?」
思わず立ち止まってしまった。
取られたくない・・・。
あまりにストンと自分の中にその言葉が入ってきてびっくりする。
そうか、私キキさんを取られたくないと思っちゃったんだ。
恋・・・してるの?
「ほら、泣かないよ」
愛さんの言葉で自分が泣いていることに気付いた。
恥ずかしい。なんて重い感情なんだろう。
頬を両手で包んで親指で涙を拭ってくれ、やわらかく微笑んだ愛さん。
「さやかが見たら喜ぶだろうな」
「やっ、やだっ。愛さん言わないでくださいねっ」
「はいはい」
こんな子供じみた理由で泣いたなんて知られたくなくて必死な私と相反して愛さんは完全に面白がってらっしゃる。
もう。
その後楽屋にお邪魔して皆を激励して帰ったんだけど、キキさんは丁度お風呂に行ってしまったようで会えなかった。
自分の気持ちに気付いてしまうとなんだか気恥ずかしくなってしまって
キキさんの事を考えるだけで異様にドキドキしてしまう始末。
数日後の公演、真風さんやキキさん達が見に来てくださったけど変に緊張しちゃって全然目をやることさえ出来なかった。
お2人は取材のお仕事の前に来て下さったらしく楽屋でも会えなかった。
あのお稽古場の日から私として会う事は出来ていない。
でもどんな顔して会ったらいいんだろう。顔に出てしまったら恥ずかしいな。
迎えた2回目の休演日
とはいえどもすることは沢山あって。
来週には東京へと向かうので準備とか片付けとか一通り落ち着いた頃、鳴ったチャイム
宅配便とかあったかなと考えながら覗いたモニター。
そこにはキキさんが立っていた
「うそっ、何で」
ぴーんぽーん
再度なったチャイムに慌てて通話ボタンを押す
「キッ、キキさんどうされたんですか」
「ちょっと話があって。入れてくれへんかな」
いつもと違うキキさんの表情に心臓がぎゅっとなる。
いつもなら会いにきちゃったーくらいの軽い感じなのに。
解錠ボタンを押してそわそわしながら待つ。
「どうぞ、散らかってますけど」
「お邪魔します」
招き入れたはいいけどこの重い空気に耐えられなくてキキさんにソファーに座ってもらった後そそくさとキッチンでコーヒーの準備をする。
キキさんの前にコーヒーを置いたその手を掴まれてびっくりしてキキさんを見れば真剣な瞳と視線がぶつかる。
「何で愛ちゃんとなん」
「え?」
「他の人なら張り合おうとか奪ってやると思うのに。酷いやん。そんなん応援するしかなくなるやん」
ぎゅっと唇を噛み締めて俯くキキさんにハテナしか浮かばない。
愛さんと?・・・あ、新年会の出し物の件かな。
毎年恒例の組の新年会。
何人かずつで出し物をするんだけど
今年は愛さんに誘われて一緒に美女と野獣の小芝居をする約束をしている。
愛さん、キキさんは毎年一緒に1番を狙って本気で出し物されてるもんな。
今年はキキさんはそらさんとされるからって聞いたけど、キキさんは愛さんも誘いたかったのでは。
「すみません」
まだ練習始めてないし私は同期に加えて貰うっていう手もあるから変更でも構わないけど。
「なんでなん」
「えっと、昔からお互い好きだったので」
美女と野獣が大好きで小さい頃ベルごっことかしたなぁ。
愛さんも同じで今回の舞台組ませていただいた縁もあって一緒にさせていただく約束をしたのだ。
「私かてこんなに好きなのに」
「あ・・・じゃあ、3人でどうですか?」
そうなんだ。キキさんも好きだったんだ。
愛さんに聞いてみないとだけどぜひ3人で出来たらいいな。
そしたらキキさんがベルとか素敵だなぁ。
想像しただけでとてつもなく可愛い。
そしたら私はポット夫人とか複数役やるとか楽しそう。
思わず顔が緩んだ。
「なっ。何なんそれ馬鹿にしてんの?」
急に怒り出したキキさんに緊張が走る。
やっぱり2人の間に入るなんてだめだったかな。
「どういうつもりなん」
「え・・・いや、あの」
いつものキキさんとは全然違う怒りを含んだ眼差しに鼓動が速くなる。
怖い。まずい事を言ってしまった?
「すっ、すみませんっ。」
「そんな子やと思わんかったわ」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「ちょっ」
逃げ出して震えてる手で愛さんに連絡する。
最初から私が引いてキキさんに譲れば良かったんだ。
後ろからキキさんが追いかけてくるけど交わして寝室に逃げ込む
「もしもしー?」
「あっ、愛さん」
のほほんとした愛さんの声を聞いたら涙が出てきてしまった。
「あっ、あのっ。あのっ」
「どうしたの」
電話の向こうの愛さんは私の異常な様子に気づいて慌てているのが分かる。
寝室に入ってきたキキさんに腕を掴まれ、キキさんの方を向いた勢いでベットに押し倒される形で倒れ込む
「新年会の出し物一緒には出来ませんっ」
「へ?」
「はあ?」
ぎゅっと目をつぶって絞り出した言葉に電話の向こうの愛さんと私を見下ろすキキさんの声が被った。
「あれ?もしかしてさやかいる?」
「はっ、はい。キキさんが愛さんと組みたいとおっしゃってます」
「何の話なん」
「ちょっとさ、さやかに変わってくれる?」
「はっ、はい」
震える手で携帯を渡せば涙が止まらなくなってとめどなく流れる涙を一生懸命拭った。
そんなつもりじゃなかったのに。
私の不用意な一言で嫌われてしまったかもしれない。
さっきのキキさんの刺さるような視線が頭から離れなくて胸が痛い。
ベットに腰かけて話すキキさんの背中を見つめながらゆるゆると起き上がってベットの端の方に小さく丸まって座る。
「ごめん。泣かんとって」
膝に顔を埋めたまま気持ちを落ち着かせていたら
いつの間にかお話は終わったみたいで、
携帯をそっとベットに置いたキキさんに先程とは打って変わって壊れ物を扱うようにそっと抱きしめられた。
「全然話噛み合ってへんかったんよ、私ら」
「え?」
「何の話してたん?」
「新年会の出し物の話・・・。愛さんとっておっしゃるから」
「はあ・・・全然違う。愛ちゃんと付き合ってるんじゃないん?」
愛さんと?
まさかっ。こんなにキキさんが好きだって気づいたのに。
「まっ、まさかっ」
「だってあんな風にらぶらぶしてたらそうかと思うやん。2人で観劇くるし、楽屋前でもなんやこそこそ顔近づけてさ」
むっとした顔で覗き込まれた。
観劇位2人でも行くと思うけど。
しかも泣いちゃった時の事見られてたんだ。
「そっ、それは」
「それは?」
「・・・ららちゃんとキキさんがとてもお似合いだったからちょっとショックで泣いちゃって」
シーンとなった部屋
ほら、やっぱり引かれてますよ愛さん
喜ばれるわけがない。
「それって嫉妬してくれたって事?」
そんなストレートに言われたら恥ずかしすぎる。
言葉が出なくて、頷くことしかできなかった。
「え、ごめん。めっちゃ嬉しいんやけど」
「え?」
ぎゅーっと力を込めて抱きしめられて実感する。
キキさんが大好きだって心が叫んでいると。
「それって私の事好きって事やんね」
「・・・はい」
「やったー!え、どないしよ」
急にいつものキキさんに戻るから思わず笑ってしまう。
「え?じゃあこのままお泊りしてええって事?」
「いや、それは」
「付き合ったらお泊りいいって言ったやん」
またうるうるなおめめに負けて頷いてしまうのだった。
というかさ、さやかの嫉妬心の方がやばいよ
え?そう?
だって家まで行って問い詰めて泣かせてさ
たっ、確かに・・・。だってこんなに好きやって言ってたのに私を振りもせず愛ちゃんに行くなんてって思ったんやもん。
いや、何回か振られてたよね
え?振られてたん?嘘やん
そのメンタル見習いたいわ