T.SERIKA
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はあ、あかん」
静かなベットルームを私の重いため息が覆う。
昨日の夜から何だか喉がなーって思ってた。
起きたらもう声がガラガラで熱もある。
お稽古期間中じゃなくて本当に良かった。
頭がぼーっとする。
こういう時は寝るに限る。
布団をしっかり被って微睡みかけた時、携帯がけたたましく鳴り出したので画面を見れば風斗ちゃん。
今は電話は無理かなぁ。これ以上声出したらあかん気がする。
電話が鳴り止んだのでごめんねLINEをすれば、待っててすぐ行くと返ってきた。
うつしたら大変だからと断りのメッセージを送ったけど、既読にならず。
どうしようかと思いながらまた遠い意識の中に飲み込まれていった。
ぴーんぽーん
あ、眠ってしまってたのか。
申し訳ないなぁ、風斗ちゃんはお稽古期間なのに。
もそもそと起き上がってリビングに向かいオートロックを解除した後、ソファーにぐったりと座って待っていればしばらくして部屋の前のインターホンが鳴った。
「ごめんね、わざわざ」
ドアを開けながら風斗ちゃんに声をかけた。
声がカスカスで全部濁音みたいな喋りだったけど。
「遅くなっちゃってすみません。あれもこれもとスーパーで悩んじゃって」
そこには風斗ちゃんじゃなくて貴美ちゃんが重そうな買い物袋をぶら下げて立っていた。
貴美ちゃんは元々風斗ちゃんのお友達で私より年下なんだけどしっかり者でバカやってる私たちの面倒を見てくれる。
気付けば好きになってて、まあまあな期間片思いしてるんだけど中々距離が縮まらない。
3人で会う事の方が多いし。2人っきりとか数えるくらいしかない。
私があまりにも驚いた顔をしていたものだから彼女はしょんぼりと眉を下げた。
「あやちゃんが良かったですよね、すみません。今日仕事らしくて」
行くって送っといてくれると聞いたのですが・・・って
いや、風斗ちゃん主語を付けてー
「あの・・・」
「あっごめん、ちゃうんよ。嬉しいんやけどもっとちゃんとした格好してたかったというか」
好きな子にこんな情けない姿見せたくなくて。
出来る事ならいい部分だけ見せていたいというか。
いや、こんな2人っきりになれるチャンスはないから有難いというか。
ああ、くらくらしてきた。
「芹香さんっ」
****
「んっ・・・」
気がつけばベットに横たわっていた。
あれ、確か貴美ちゃんが来てくれてそれからどうしたんだっけ。夢?
おでこにひんやりとした感覚。冷えピタ・・・。
起きあがろうと上半身を起こしたら私の腕のあたり、ベットに突っ伏してる人が。
「貴美ちゃん?」
「ん・・・」
声をかければ顔を上げて私を見た途端私の右手をぎゅっと握りしめ泣きそうになる貴美ちゃん
「もう、良かったぁ」
あの後貴美ちゃんの方に倒れ込んでしまった私を抱き止めてくれてベットまで運んでくれたらしい。
女の子に運ばせるなんてやってしまった。
普通逆だよね。思わず反対の手を伸ばして貴美ちゃんの頭を撫でた。
「ごめんなぁ」
「何言ってるんですか。怪我しなくて良かったです」
やっと笑ってくれた事に安心しながら、頭に乗せてた手を頬に滑らせた。
「泣かんで」
「泣いてなんか・・・」
「ふふっ」
「もうっ!芹香さんっ」
不謹慎だけど、自分の事で彼女が涙を流してくれた事が嬉しくて思わず嬉しさが溢れてしまって怒られてしまった。
「さやか」
「え?」
「そろそろさやかって呼んで欲しいなぁ」
この状況でも悪知恵というものは働くもので、これを機に彼女に本名で呼んでもらおうとしていた。
ちょっと甘えた声で言ってみれば、効いたみたいで徐々に慣れてくれると言ってくれた。
「何か食べれそうですか?」
「うん、少しなら」
「じゃあお粥作って来ますね」
「ありがとう」
「ちゃんと寝ててくださいね、さやかさん」
立ち上がって部屋から出る瞬間背中を向けたままそう言って足速に出て行った。
恥ずかしがり屋やからなぁ。
優しい声だったな。
思ったよりも早くやってきたその瞬間に緩んだ頬を隠すように布団を被った。
出来たら声をかけてくれると言われていたのだが、どうもさっきのさやかさん呼びに気持ちが高揚してしまって目を閉じても寝れそうもない。
そうこうしてる間に、がちゃっと扉が開く音がして反射的に目を閉じる。
コトンとお盆をナイトテーブルの上に置く音がして、出汁のいい香りがした。
呼んで欲しい、私の名前をその声で
「さやかさん」
そっと布団に乗せられた手。
ゆっくり目を開ければ、目の前に貴美ちゃんの顔。
ゆっくりと近づいてきた綺麗な桃色の唇。
キッ、キスされる?
こんな事するってことは私の事好きってとっていいの?
絡め取られるような視線に目が離せなくて、思わず後頭部に手を添えて自ら引き寄せた。
「貴美ちゃん」
自分の気持ちも伝えてないのにこんな事したらダメだって分かってるけど、熱のせいなのか自分の欲求に素直に体が反応して彼女をこのまま自分のものにしてしまいたいという想いだけが頭を占領していた。
あと数ミリで唇が触れるという時、貴美ちゃんの手が私の前髪を上げおでことおでこがくっついた。
「まだ熱いですね。」
・・・今のは完全にちゅーする展開やったやん。
何の余韻もなく、テキパキと私がお粥を食べれるようクッションとかを準備してくれる姿を見て私の邪な思いはぷしゅーと音を立てて消えていった。
「熱いので気をつけて下さいね」
起こしてもらい背中にクッションを当てて座る。
貴美ちゃんに見られながら食べるの恥ずかしいなぁ。
ふーふーとしっかり冷ましてから口に運ぶ
「おいひい」
「良かった」
胃がじわっと温まる。
買ってきてくれてた薬も飲んだので後は寝れば元気になれるはず。
「お薬のご褒美です。あーん」
あーんにつられて口を開ければ、ぽいっと口の中に何かが投入された。
口を閉じれば甘酸っぱい味と香りが鼻を抜けた。
「いひご」
「お好きでしたよね」
咀嚼しながらうなづく。
それを知ってて買って来てくれるあなたがもっと大好きです。
両頬に手を当てていちごの美味しさと喜びを味う。
「あとはゆっくり休んだらきっと良くなりますよ」
「ありがとう」
横になれば、布団を整えてくれる。
もう帰ってしまうよね。
なんだか心細くなってしまってその手をそっと掴む
「どうしました?」
「明日お仕事?」
「いいえ、お休みです」
「じゃあさ、今夜はここにいてくれんかな」
「あやちゃん、もうすぐお仕事終わるみたいですけど」
「貴美ちゃんがいいの」
今夜は一緒にいて欲しい。
「お布団と部屋着がね、クローゼットにあるから」
「ふふっ。寂しくなっちゃいました?」
「うん」
じゃあお借りしますと部屋着を抱えてリビングへ消えていった後、着替えて帰ってきたすがたに思わずきゅんとする。
Tシャツの肩は落ちちゃってるし、半ズボンは七分丈位になってる。
お布団を私のベットの横に敷いている背中を見つめながらいつか一緒に眠りにつける日がくるといいななんて考えていた。
「寝るまで手・・・いい?」
布団の上に座ってこちらを向いた貴美ちゃんに手を差し出せばにこりと手を取ってくれた。
頭を優しく撫でられて、お腹も心も満たされた私は重くなった瞼を閉じた。
****
目覚めたら0時を回ったところ
まだ少しぼーっとした頭。
貴美ちゃんは手を握ったまま、さっきみたいにベットに突っ伏したまま眠ってしまってる。
私が眠ってしまってもずっと離さないでいてくれたんだ。
起こしてしまわないようにそっと手を解いて、枕元のライトに手を伸ばし光を絞ってつけてお布団に移動させようと抱き上げた。
看病に来てもらって風邪ひかせて帰るなんてさせたくない。
軽っ。想像以上の軽さにびっくりして布団に寝かせる力を見誤って勢いよく覆い被さってしまった。
当の貴美ちゃんは目覚めそうにもない。
「あやちゃん」
急に彼女の口から紡がれた名前にびっくりしてしまった。
「だめっ」
その色気を帯びた否定の言葉、夢の中で2人で何してるの。
ここに居ない人に嫉妬している事に虚しくなって彼女の頬に手を添えた瞬間貴美ちゃんの眉間に皺が寄った。
「さやかさんがいちごになっちゃう」
それ、どんな夢なん。
思わず吹き出してしまった。
パチリと開いた目
しっかりと私を捉えたその瞳に私の方がたじろいでしまう。
こんな状況襲われかけとしか見えないよね。半分はあってるけど。
「良かった」
伸びて来た腕が私の首に回されて上半身を起こした貴美ちゃんにぎゅっと抱きつかれた。
これは抱きしめ返してもいいという事だろうか。
「どっ、どうしたん」
「あやちゃんがあやちゃんが」
背中をさすって宥めながら問いかける。
「風斗ちゃんがどうしたん?」
「あやちゃん位の大きさの、でーっかい苺でさやかさんを潰そうと」
・・・なんて夢なの。
なんと言い表していいか分からない愛しさが込み上げてきて抱きしめる力を強めた。
夢の私を助けようとしてくれたのね。急に心が温かくなるのを感じた。
「止めたのにやめてくれなくて」
「うんうん」
「さやかさんが苦しんでるのに」
「うんうん」
甘い声が耳元で一生懸命に説明しようとしてるのが心地よくて生返事になってしまっていたらしく、腕を緩めた貴美ちゃんが覗き込んで怒ってる。
「聞いてないでしょう」
「へ?」
さっきも思ったけど、私のことで一喜一憂してくれるのが嬉しくて嬉しくて。
こんな気持ちになるんやなぁ。
今日1日で想いは更に膨らんでしまった。もう引き返せないところまで。
「ごめん。」
「もー」
「でも、貴美ちゃんの事可愛いなあって考えてたんよ」
「なっ、もう早く寝て下さいっ!」
貴美ちゃんはお布団ありがとうございますと背中を向けて布団を被って呟いた。
照れてる照れてる。
渋々ベットによじ登って下の布団の小さな塊を見つめる。
ベットと、布団。横並びなはずなのに何だか凄く遠く感じて寂しくなった。
「なあ、やっぱり一緒に寝よう」
布団を少し揺すってみるも、反応なし。
あれ?もう寝ちゃった?
布団に潜り込み、規則正しい寝息を立てて眠っている貴美ちゃんの背中にくっついて眠りについた。
****
カーテンの隙間から差し込む朝日に目が覚めた。
腕の中の貴美ちゃんはまだ目覚める気配がない。
いつの間にか貴美ちゃんはこちら側を向いていて、きゅっと丸くなって私にくっついていた。
目覚めはいい方だけど、こんなに爽やかな朝は初めてかもしれない。
体もなんだか軽い。のどもよさそう。
このまま時間が止まればいいのに。
そっと髪を撫でながらこの時間を味わう
ああ、好きだなあ。
もうちょっとぎゅっとしてもいいかな。
細い体を抱き締める力を少しだけ強めた。
「ん・・・」
ゆっくりと開いていく瞳を見つめる
「おはよう」
「ん・・・おはようございます。体調どうですか?」
「んー」
目を擦りながらまだ眠そうな声に
自分のおでこに手を当ててみる。
計りかねている私に貴美ちゃんは昨日と同じようにおでこで計ろうと近づいてきた。
あのね、あんまりそんな隙ばっかり見せるのなら今度は逃がさないよ?
おでこがくっついて離れていく瞬間にそっと柔らかい唇に口付けた。
唇が離れて視界に入ったのは顔を真っ赤にして目を見開いたまま固まってる彼女。
「さやっ・・・」
「もっかいしてもええ?」
「だっ、だめですっ」
手で私を押し返して距離を取ろうとするからその手首を掴んで引き寄せる。
「私の事嫌い?」
「そんなっ」
「私、好きやけど。貴美ちゃんの事」
さっきよりももっとお目目が開いてます。
「私も候補に入れてほしい」
「候補・・・ですか?」
「恋人候補」
言葉に詰まってるところ申し訳ないけど、すぐつきあってとか言わないからそろそろ意識して欲しいなぁって。
「私手加減しないので覚悟してね」
「候補に立候補する人なんていませんし、募集してません」
ふっと視界が暗くなって唇に柔らかい感触が。
そのまま背中を向けてしまった。
あまりに予想外の出来事に自分の唇に手を当ててその背中を呆然と見つめるしか出来なかった。
「だって私が好きなのはさやかさんだけですもん」
小さい声だけどはっきり聞こえた言葉。
なにそれ、両想いってこと?
貴美ちゃんも私を好きなの・・・?
候補を飛び越えて恋人になれるって事・・・。
「あかん、熱ぶり返したかもしれん」
「えっ。」
あーあ。キキみんなに恨まれるよ
風斗ちゃん、なんでなん
みんな貴美狙ってたからね
やっぱり立候補者いっぱいおるやん
.