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恋したら綺麗になるっていうでしょ
褒められる程それは倍増するの
もっと見てほしくて
もっと気づいてもらえるように
あっ!!来たっ
今にも飛び出しそうな心臓
劇団の廊下を自分のお稽古場へと歩く視線の先には、こっちに歩いてくる芹香さん。
組は違うけど入団前から大好きな方。
花組にいらした時は、お稽古場や舞台上の近い距離でお姿を見れてたけど宙組に組み替えされてからたまにしか会えないからこそ目に焼きつけときたい。
「おはようございます」
平静を装いながら心はかなりどきどきしながら挨拶をする。
「お、貴美ちゃんやん。おはよう」
私に気付いてくださった芹香さんはにこりと微笑んでくださったのだけど、それすらもまばゆくて。
あなたを見るとつい笑顔になっちゃうんです。
ただすれ違えるだけでも幸せなのです。
しかも芹香さんに会えた日は何となくいつも以上に上手く出来る気がする。
もう完全に虜です。
お稽古場に入った私は先程の出来事を思い出して緩む頬を抑えながらストレッチを始めた。
「貴美ちゃーん」
ああ、想い過ぎて幻聴が聞こえる。
芹香さんの声がする気がする。
「おーい。貴美」
ぽん。と肩に触れた手にびっくりして振り返ればつい今しがたまで頭の中を占めていた人がいた。
「ひゃっ。せっ芹香さん」
「こないだ言ってた資料借りに来たわ。さっきすれ違って思い出した」
「あっ!持ってきてます!」
そうだった!少し前に芹香さんから貸してねって言われて帰ってその日にカバンに入れてずっと持ち歩いてたんだった。
お稽古場の端に置いてるカバンをごそごそっと漁って、資料を手渡した一瞬触れた手・・・。
「あ、ネイル変わってるやん。可愛いね」
「芹香さんの為に頑張りました」
「あはは。そうなん、じゃあしっかりと目に焼き付けておくわ」
私の手から資料を受取り、そのまま手を取って眺めてらっしゃるけど、ちっ近い。
芹香さんを想いながら塗ったのは事実なんだけど。
顔を上げた芹香さんの綺麗なお顔がすぐ目の前に・・・。
「ふふっ。じゃあ今度返しにくるわ」
資料片手にひらひらと手を振りながら自分のお稽古場に帰っていく後ろ姿を見送って思わず感嘆のため息がでた。
どうしようまさか気付いてくださるなんて。
緩みそうなのを抑えてた顔はもう完全に緩んでいる。
前、髪を切った時もそっちのが可愛いじゃんって褒めてくれて少しお化粧を変えたのも気づいて下さる。
こんな小さい事に気づいてくれるからもっと可愛くなって気づいてほしいって、私を見てくれたらって貪欲になってしまうんです。
「なーにニヤニヤしてんの」
芹香さんと入れ替わりに入ってきた同期のつーちゃんが腕をこづいてきた。
「うるさいー。今浸ってんだからほっといてー」
「芹香さんかっこいいよねー。仕事出来るしユーモアあるし」
「そうなのよ、素敵すぎるのよ。私も頑張んなくちゃっ」
「ほんと貴美好きだよねー。もうストーカーの域だよ」
「なっ。ストーカーだなんて失礼な!!純粋なファンなのー」
さっき一瞬手が触れた事を思い出して手を眺める。
「あー。もうどうしよう。私ほんと変態かもしれないー」
一人悶々とする私の横でつーちゃんは苦笑いしていた。
お昼休み
みんなでご飯を食べた後、一人屋上で息抜き。
お稽古場の中に一日中居ると息が詰まるのでリフレッシュも兼ねてよくやってくる。
みんな日焼けとか気にしてあんまり来ないから一人になれるし気持ちの整理をして午後のお稽古に臨める。
「あー。頑張ってよかったー」
「なんかいい事でもあった?」
屋上のベンチに腰掛けて伸びをした時、後ろから突然聞こえた声に振り返る。
「明日海さん・・・」
「ご機嫌みたいだねー」
「えへへー。実はですね、さっき芹香さんに爪を褒められまして・・・」
思わず顔がほころぶのが自分でもわかる。
「ほー。どれどれ」
ベンチに座った私の前にすっと片膝をついてしゃがみ込んで両手を取りまじまじと観察される。何だか王子さまみたい。
さすが天然プレイボーイ。いや、ガールか。
明日海さんは組のトップさんなのに一緒にわいわいしてくださる本当の姉さんのような存在。
「キキに褒められる為に頑張っちゃったんだー?」
「気付いてもらえるなんて思わなくて。ホント優しいですよね」
「キキは、好きな子以外には目がいかないからねー。」
それは、やめとけ。私は対象外だってことかな。
「いいんです。ただ純粋に好きで。私に振り向いて欲しいとかおこがましい事は思ってません。ただ見てられるだけで幸せなんです」
「そういう意味じゃないんだけどねー。まあ、本人から聞きなよ。ね、キキ」
言葉と共に屋上の入り口を向いた明日海さんにつられて振り返ればドアから出てきたのはまぎれもなく芹香さん
じゃあさっきの聞かれてた?
嘘でしょ、一生の不覚。絶対に秘密にして生きていくと決めていたのに。
消えてしまいたい。
「自分に正直にならなきゃ幸せはこないよ」
右肩に手をぽんと乗せ耳元でそう言って、ばちんとウインクをすると去っていかれた。
そして取り残された私と芹香さん。
シーンとした空気を破ったのは芹香さんだった。
「ねえ。さっきの好きって、恋として好きって事?それとも上級生として?」
真剣な声の芹香さんに心臓が跳ね上がる。
芹香さんの顔を見ていられなくて思わず俯いた。
舞台に立つときより速く大きく鳴る鼓動。
本気で好きとか言って引かれたらもう今まで通りの私達ではいれない。
「なあ」
一歩ずつ足音がこっちに近づいてきて、ぎゅっとスカートを握りしめて思わず大きい声が出た。
「上級生として尊敬してます!!!」
「そっか」
ピタッと立ち止まる気配がした。
‘‘自分に素直にならなきゃ幸せなれないよ’’
「・・・でもそれ以上に大好きです。純粋に」
「それは私に恋してるって取っていい?」
ぎゅっと目を瞑ってうなづいた。
もうだめ、終わった。
芹香さんの返答はないけど、目を開ける勇気もなかった。
このまま逃げてしまおうかと思った瞬間、ふわっと香った芹香さんの香り
「私も好きやで。純粋に」
「えっ。えーー?」
気づいたら芹香さんの腕の中にいた。
「良かったー。そんなんじゃないですって言われたらどないしようかと思ったわー」
「あのっ、芹香さんっ」
「さやか」
「私の名前さやかって言うんよー。」
「しっ知ってます。あっあの・・・恥ずかしいんで離して下さい」
「やだ。やっと捕まえたのに。なあ、さかやって呼んで」
「無理です!!死んじゃいます」
いきなり下の名前とかハードルが高すぎる。
ぎゅーっと抱き締める力を強められる。
「何それ。じゃあ名前で呼んでくれるまで離さない。いーのかなー。お稽古に間に合わなくなっちゃうだろうなー」
「なっ。それは芹香さんも一緒でしょ」
「甘いな。私は午後のお稽古は出番少ないからいーんだよーだ」
「ずるいっ。さっ、さやちゃん離して」
最後にハートを付けるようにちょっと可愛子ぶって誤魔化してみたけど、瞬きを数回したまま反応がなくてだんだん自分のしたことが恥ずかしくて堪らくなってきた。
「笑うなりして下さいよー」
「ぐっときた。」
「は?」
「午後はサボり決定ー。」
真剣な顔で握られた両手。
気づけばよいしょっと担がれ、そのまま颯爽と歩き出す芹香さん
「ちょっ。どこ行くんですかー」
「着いてからのお楽しみ。まあ悪いようにはせえへんから」
不敵な笑みを浮かべる芹香さんに身の危険を感じた瞬間
まっ、待って
大丈夫やって。明日お稽古参加出来る位に手加減しとくから
誰か助けてー
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