T.SERIKA
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「香盤見た?」
「みたみた。何であの子がヒロインなの」
「結局顔なんだよね」
今日は次の公演の香盤発表の日。
今回は全国ツアー組と芹香さん主演の東上公演組と別れる。
自分の名前をあり得ないところで見つけてしまった私は組子皆んなが香盤表の前にひしめき合う中、その波から逃げるようにすり抜けてお稽古場の端の方に座った。
聴こえてくるヒソヒソ話から耳を塞ぐように、自分の中に意識を向ける。
まだ研2になったばかり、大して今まで実績を残したわけじゃない私への視線はどちらかというと温かいものではないことは確か。
新人公演ヒロインも経験ない、目立たないタイプの私が花組のキラキラ王子芹香さんの相手役だなんて。
ヒソヒソと言われるほど顔がいい訳でもない。
「貴美おめでとう」
「のぞみ・・・ありがとう」
隣に腰掛けた同期ののぞみは自分の事のように喜んでくれた。
「貴美なら出来るよ」
「あすか・・・」
のぞみと反対側に座って肩をポンと叩かれる。
心強い同期たち。
2人はツアー組だから今回一緒に居れない。
もっと話したかったけど、いいタイミングで先生に呼ばれてお稽古場から出て行く2人の背中を見送りながら内心心細くて。
ヒロインだろうと目されていたみれいさんを応援してた皆さんからの視線が痛くて下を向いてぎゅっと目を瞑った。
「貴美、よろしくね」
「せっ・・・芹香さんっ。私からご挨拶に行かないと行けないのにすみません。よろしくお願いします。」
いつの間にか私の前に立っていらした芹香さん。
慌てて立ち上がって深々とお辞儀をすればくすくすと笑われる。
「固いよ、ほら力抜いて」
笑いながら肩を抱いてばちんとウインクして明日海さんのところにかけて行ってしまわれた。
かっこいい。思わずその背中を目で追えば明日海さんと目があってしまって微笑まれた。
こちらもかっこいい。
芹香さんとはちゃんとお話した事はない。
だって雲の上の存在のような憧れの上級生。
それでも下級生にも心を配って下さる素晴らしい方。
みんなに優しくて明るくて面白い。
人見知りの私は特に話しかける勇気なんてないので遠くから見てときめく、それだけでいいと思ってたのにこんなに近くで勉強させていただくチャンスをもらったので頑張らないと。
頂いたお役に真摯に向き合うこと。これしか私に出来ることはない。
辛くとも頑張るんだと自分を鼓舞してお稽古の準備を始めた。
歌稽古が始まり、難しい部分も沢山あるけどそれより楽しい。
歌っている間は不安を忘れられるから。
芹香さんと一緒に歌稽古入れるようになってからは更に楽しくて。
並んで歌いながら目を合わせるだけでときめく。
あの素晴らしい歌声を近くで聴けるのが幸せでたまらない。
今だけは独り占めしてるんだもん贅沢な話。
もっともっと頑張らないと。
歌稽古が終わったらお芝居の部分の自主稽古をして帰る。
この舞台の事だけを考える。
楽しみに観に来てくださるお客様の為、芹香さんに恥ずかしい思いさせない為。
あと、不安に呑み込まれないように。
「あ、やっぱりまだおった」
ガチャっと扉が開いて声がしたので振り返れば芹香さんが立ってらした。
芹香さん今日はお稽古の後、取材のお仕事っておっしゃってたもんな、もう終わったのかな。
ふと時計を見ればもう22時を指していた。
芹香さんを見送ったのが17時頃、もうこんな時間になってるなんて気づかなかった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ。もう帰ろう、頑張り過ぎはあかんよ」
「私、もう少し・・・」
「だーめ。お腹空いたからご飯食べに行こう」
あと1時間だけと思ったんだけどなぁ。
しかもご飯なんて畏れ多すぎる。
どう断ろうかとしどろもどろしてるところに痺れを切らした芹香さんが
「じゃあ、上級生命令。帰るよ」
そう言って微笑んだ。
命令って一見荒い言葉なのに私を帰らせるための優しさのこもった命令。
「はい、よろしくお願いします。」
「相変わらず固いなー。ほらほらもっと力抜いて。」
荷物を纏めて芹香さんに後ろから背中を押されながらお稽古場を出る。
「ほら、貴美はもっと私の事知ってキキさんに夢中にならなあかんからねー」
「なっ」
「だって私に恋に落ちるんでしょ?」
「そうですけど」
役の話なのになんだかまるで自分に言われてるような気になって恥ずかしくなってしまった。
自分でも顔が真っ赤だって分かる。
そんな私を見て芹香さんが意地悪な顔をしているのが分かる。
「ほら、はよ行こ」
差し出された手を握って劇場を後にした。
********
「貴美、今日みんなでパーティーするからおいでよ」
芹香さんと私はみんなと別でお稽古中なので、一緒の公演なのに花組の皆さんともなかなか会えない日々を過ごしていた。
お稽古終わり、ツアー組の柚香さんに呼び止められた。
「パーティーですか?」
「うん、よくやるんだけど貴美もどうかなって」
今日は自主稽古して帰ろうと思ってたんだけどな。
折角誘っていだだいたしな。
柚香さんに貰ったメモを握り締めて劇場を出る。
手ぶらって訳にもいかないし、何か持って行かないとなぁ。
何人来るんだろう。無難にデザートかな・・・。
色々考えたけど、結局ケーキ屋さんに寄ってメモの住所へと急いだ。
「わあ、大きなマンション」
思わず独り言が溢れる位大きいタワーマンション。
ドキドキしながら書かれた部屋番号と呼び出しを押せば、柚香さんとは
違う声ではーいという返答と共にエントランスのドアが開いた。
「おじゃまします」
玄関に足を踏み入れれば結構な数の靴が目に入る。
ドキドキするなー
「おっ、貴美いらっしゃーい」
「おじゃまします」
リビングに通されれば錚々たるメンバー。
私には場違いな程の上級生の皆さん。
お話の輪に入らなくていいよう、せっせと柚香さんのお手伝いをする。
「ほら、飲みなよ」
「あっ、ありがとうございます」
水美さんに呼び止められ、腰を下ろしたのが運の尽き。
美味しいご飯に、ワイン。
夜がふけるにつれて少しずつ人数が減っていく中、勧められるまま断れず飲み続けた私はすっかり酔ってしまってふわふわしてきた。
「大丈夫?」
「すみません」
横に座っている水美さんに肩を借りてしまっていたみたいで慌てて頭を起こそうとするけど頭が重くてゆう事をきかない。
床に手をついてこちらを向いた水美さんの綺麗なお顔が至近距離にある。
「かわいいね」
「んぅ・・・」
頭がぼーっとしすぎて何が起きてるのか理解出来るまでに数秒かかった。
唇に柔らかい感触。何が起こったの。
「まいてぃー気が早いよ」
「いいじゃん。早い者勝ちって事で」
水美さんの後ろに柚香さんのにやりと笑う顔を見たのを最後に私の視界は天井へと変わった。
「こんなに可愛くていい子なのに可哀想」
「でもお姉様方の言う事には逆らえないしねー。悪く思わないでね」
ぷちぷちと洋服のボタンを外される感覚はあるけど、お酒のせいで体が言う事をきかなくて弱く押し返すしか出来ない。
「ゆず・・・かさん」
「全然力入ってないよ」
「やめっ・・・て」
抱き起こされた私は座らされ後ろから水美さんに抱きしめられ、体を預けている。
水美さんの手は私の胸に添えられて・・・いや鷲掴むように手が動いて中心は人差し指と親指で摘まれている。
「おっぱい柔らかいねー。気持ちいい」
「みな・・・みさんやめて」
「こっちも忘れないでね」
足の間に柚香さんがいて、恥ずかしい部分が晒されてるのにそれを止めることも出来ない。
心とは相反して体は柚香さんの舌により与えられる刺激に素直に上り詰めようとしている。
だめっ、嫌だこんなのそう思うのに身体が言うことを聞かない。
「はあっ・・・だめぇっ」
痺れるような感覚が脳まで突き抜けて身体が跳ねる。
「可愛い。気持ちよかった?」
「泣いてるところも可愛いよ」
秘部から顔を上げた柚香さんが妖しい微笑みでこちらを見てる。
後ろから覗き込んできた水美さんに口付けられる。
「このまま私のものになる?」
「えー。それはだめだよー。2人でシェアしようよ」
「それはいいかも」
身体が熱くてぼーっとしている私をよそに2人は手を緩める気はないよう。
「これ位でへばってたらだめだよー」
柚香さんが自分のTシャツの裾に手をかけて脱ぐ姿はやたら色っぽかった。
「もっと気持ちいい事しようか」
「やっ・・・だめ、おねが・・・」
自分では制御できない自分の体
何度目か分からない絶頂を迎えて意識を手放した。
「んっ」
目が覚めたらソファーに横たわってて体は何も纏ってなかったけどタオルケットだけはかけてくれてあった。
さっきの事は現実なのか、夢なのか。
夢であって欲しいけど目を背けれない現状が全てを物語っている。
部屋の中に目を向ければ、壁にある時計は0時を回っていた。
柚香さんが床でぐっすり眠ってらっしゃる。
開け放たれた寝室の扉の向こうのベットの上に塊が見えるからあれは水美さんなんだろう。
本当は勝手に帰るなんて下級生として不敬以外の何者でもないけど、このままここにいるなんて無理。
そこらに散らばった服達を拾い集めて急いで身につけてタオルケットを柚香さんに掛け2人を起こさないようそっと部屋を出た。
「貴美?」
「せり・・・か・・・さん」
早く帰って記憶ごと洗い流したくて足速に自宅に向かう途中、向かい側から歩いて来た今1番会いたくなかったひと。
こんな姿見せたくない。自主稽古帰りなのかな。
「こんな時間にどうしたん?」
「いや、えっと・・・」
「飲み会?お酒くさいぞー」
ニコニコとこんな時間に1人で歩いたら危ないよと頭を撫でられて涙が込み上げてくる。
芹香さんはこんなに頑張ってらっしゃるのに私はお酒に呑まれてあんな事になって何やってるんだろう。
「どうした」
口を開いたら本格的に泣いてしまいそうで声を出せないで首だけ横に振ると芹香さんの手が優しく私の手を包む。
「一緒に帰ろうか」
答えを聞かないまま歩き出す芹香さんに手を引かれて元来た道へと歩き出す。
「芹香さん、私家反対なので一緒には・・・」
「明日はさ、お稽古休みだしちょっと私に付き合ってよ」
「あの、今日はちょっと」
こんな体のまま芹香さんと一緒にいるの辛い。
この繋がってる手も芹香さんを穢してしまうのではないかと不安で堪らなくて握り返せない。
「ええやん、少しくらい。嫌?」
「・・・いやではないです」
「じゃあ決定」
芹香さんの手は温かくて安心した。
歩き出して少ししてさっき慌てて飛び出して来たマンションが近づいてきてだんだん鼓動が大きくなって息が出来なくなってきた。どうしよう。
「どうした?」
「何でもないです」
きゅっと胸の前に拳を作っている私を不思議そうに見つめられるので精一杯普通を装う。芹香さんにこんな事知られたくない。
幻滅されたくない。
芹香さんのおうちにお邪魔して、温かいお茶を出してもらって一息つく。
「で、なんかあったん?」
「え?」
「会った時から思い詰めたような顔してたから」
「お稽古うまく出来なくてやけ酒してしまいました」
咄嗟に出た嘘。
こんな嘘しかつけない自分に幻滅するけど、今は本当の事を言うべきではない気がする。
「なん、おっさんみたいやな」
ぷっと笑ってくれたことに安心して思わず私まで笑ってしまった。
「そんなん言ってくれたら練習見たったのに。あんまり無理したらあかんって言ってるやろ?なんかあったら相談する事。いい?」
「はい」
どこまでも優しいこの方に迷惑をかけてはいけない。
*****
「なあ、貴美。ちゃんと自己管理までするんがプロやで」
「はい、すみません」
ふと、気が緩んでしまってとうとう芹香さんに注意されてしまった。
自業自得。
この前の事を引き合いに出されて呼び出されて柚香さんや水美さんのお宅に行く事がしばしば。
遅くまで帰してもらえないから体力的にも気持ち的にも限界が来ているのが自分でも分かるけど、どうしたらいいのか分からない。
落ち込んだお稽古終わり。
今日も呼び出しのLINEが来ていたので、自主稽古は諦めて劇団を出て重い足取りで歩き出す。
私がダメになるのを望んでいらっしゃるのだろう。
分かってるけど、この公演は諦めたくないから絶対に負けない。
覚悟を決めて劇団を出た。