K.TUKISHIRO
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「こっ・・・こんなの無理だよー」
朝から私は矯正下着をつけさせられ、お兄ちゃんの私服を着せられ両親に家を送り出されようとしている。
こんな事になったのもうちのバカ兄貴の所為。
「絶対すぐバレる。バレた時の方が我が家の終わりだよ」
「大丈夫、我が家の行く末はお前の演技力にかかっている。上手く嫌われてくるんだぞ」
両肩をポンと叩かれ真剣な眼差しの父に押されて、家を出た途端零れたため息。
なんで私がこんな事しないといけない訳。
お兄ちゃんが悪いんじゃん。
彼女居るくせにお父さんにちゃんと言っておかないからお見合い話とか持ってこられて受けちゃうんだよ。
挙句に彼女と逃亡。
慌てた両親に兄の代わりにと差し出されたのが私。
私達、元々顔が似てはいるし最近髪をショートにしたとはいえこんなのバレない訳がない。
こんな事考えた事自体恐ろしい。
人は追い詰められたら絶対無理な事でも出来ると思ってしまうのだろうか。
しかもそんな大事なお見合いを先方の希望だからって1対1で行かせる?
フォローしてくれる人いないじゃない。
待ち合わせの喫茶店は通い慣れた店。
昔ながらの喫茶店で小さい頃からお父さんに連れられここに来てはナポリタンを食べたな。マスターの作るナポリタンは世界一
中に入れば私に気づいて席を立ったお姉さんが手を振って合図してくれる。
わあ、何て綺麗な人だろう。背も高いし、足も長い。
でも何というか、普通?お見合いって女の子はワンピースとかなのかなって勝手に思ってた私。
彼女は、パンツスタイルのよく似合う何なら私より男の人みたいな中性的な面立ちだった。
いや、こんな場に男のフリしてやってきたお前に普通を語られたくないって感じだろうけど。
「はっ・・・はじめまして高瀬と申します。」
「こんにちは、月城かなとと申します。」
頑張って今日一の低い声で挨拶をする。
元々低めの声ではあるので
返ってきた返事と笑顔に思わず見惚れる。綺麗。
窓際の席に座っていた月城さんの向かいに腰掛ける。窓からは大きな庭園が広がっている。
「何飲まれますか?」
「ロイヤルミルク・・・いや、コーヒーで」
反射的にいつも頼むミルクティーをお願いしそうになったがいい歳した男の人がそれはないかと思いとどまり咄嗟にコーヒーを頼んでしまったけど、私コーヒー飲めないんだった。
しばらくして運ばれてきたコーヒー
うん、匂いで頭が痛くなりそう。
「大丈夫ですか?」
「あっ。だっ大丈夫です。ちょっと緊張してて」
あははと笑うけど、だめだめ。愛想良くしたらだめ。
今日の最大の目標は穏便に嫌われて帰る事。
緊張と人見知りが祟って会話の糸口が見つけられず誤魔化すためにコーヒーに口を付けたけどやっぱり苦くて思わず眉間に皺がよる。
「大丈夫ですか?」
「あっ熱くて。あはは。」
「アイスコーヒーなのに?」
「へ?あっ・・・冷たくて歯に染みて」
そう、頼んだのはアイスコーヒーだった。熱い訳がない。
咄嗟に出た言葉に知覚過敏かよっと心の中でツッコミながら我ながらこんな意味わからない事言い出すやつと見合いとか絶対嫌だろうなと思った。
私達しかいない店内は静かにジャズの音楽が流れるだけ。何か話さなきゃ。
「月城さんはお仕事は何を」
「演じる仕事をしています」
人見知りな私が上手く会話できる訳もなく、取り敢えずお見合い定型文。
女優さんと言うことか。
そんな人がお見合いとかして大丈夫なのかな。
「宝塚歌劇団ってご存知ですか?」
「観たことはありませんが、存じてます」
「そこに所属してます」
ああ、だからこんなに美しいのか。
さっきから所作が綺麗だなと思ってたけど納得がいった。
つまり、格好からして男役さんと呼ばれる人なんだな。
尚のことお兄ちゃんには勿体なさすぎる。
「高瀬さんはお仕事は何を?」
「しがないサラリーマンです」
今時そんな古風な言い方する人いるんですねと笑われた。
お兄ちゃんは大手企業に勤めるサラリーマンだし、ここは自分を大きく見せて嫌な野郎を演じた方が良かったかな。
でも、お兄ちゃんをそんな風に悪く演じるのもなんとなく気が引けて今日の任務を放棄しそうになる。かと言って気に入られてしまったら後々困るんだけど。
「月城さんは料理とかされるんですか?」
「中々出来ない事が多いですね。高瀬さんは?」
「私・・・いや、僕は全然」
お兄ちゃんが料理してるとことか見た事ない。
彼女が料理上手だから皿洗い専門って言ってたな。あ、そうだ
「母が作る料理が美味しくて」
マザコン大作戦。
今日の為に女の人に嫌われる男性の特徴を調べてきたのだ。
「へえ、お母様お料理お上手なんですね」
「ええ、もうピカイチです」
自信満々に答えれば苦笑いされてるのが分かる。
よしよし、順調。
この後も切々と母の自慢話をしてマザコンをアピールした。
これくらい許されるよね、お兄ちゃん。
落ち着かなくて、苦いコーヒーをちびちびのんでたからか冷えてしまってお手洗いに立てば会計の横のガラスケースにずらりと並んだケーキに思わず足が止まる。ああ、美味しそう。
「ケーキお好きなんですか?」
気付いたら後ろにいた月城さんに声をかけられて慌てて首を振る。
お兄ちゃんは甘い物好きじゃないからダメダメ。
「いっ・・・妹が、すきなので」
「へえ、妹さんと仲良しなんですね」
「そんな事ないです。あんな妹、憎たらしいばっかりで一人っ子なら良かった位です」
妹にお土産でも買って帰ってやる優しい兄かと思いきや・・・なんて呆れたような顔で見られるけど、逃げるようにトイレに向かう。
待って。私はどっちに行けば・・・。
今日は男の人として来てるし、月城さんに女子トイレに入るとこなんて見られたら変態だと思われてしまう。
でも、男子トイレに入るなんて無理。悩んだ末Uターンして席に戻った。
早々に帰ってきた私を見て不思議そうに首を傾げている月城さん。
「トイレ使用中だったので」
「他にお客さんいなさそうですけど」
不思議そうにあたりを見回す月城さんにはっとする。
そうだった。私達以外お客さんなんて居なくて、マスターがカウンターで水出しコーヒーのセットをしてる位。
「ほっ他の店員さんが使ってるのかな」
「はあ・・・」
段々ただの変な人と化してるけど大丈夫かな私。
自分で自分が情けなくなってくる。
話題と気分を変える為に庭にでも行くかな。
「ここの庭園綺麗なんですよ、外に出ませんか?」
「そうなんですか、是非見てみたいです」
先に行ってて下さいと伝えてこっそりお手洗いに行って月城さんを追いかける。
庭園へと通じる出口を出て、歩きだしたはいいけどまたもや会話に困った。
女優さんにあんまりプライベートな事を沢山聞いていいのかよく分からなかったけど、私ならちゃんと自分を見てもらいたい。
本当の私を見せることなんて出来ない私が思うことでは無いと思うけど。
月城さんから色々話してくださったからなんだか少し気を抜いて過ごせた気がする。
たわいも無い、趣味の話とか仕事の話とかしながら歩いている途中で月城さんがふと
「あっ。ほら見て」
促すようにそういって手を伸ばした月城さん手と私の手が触れた。
「紫陽花が咲いてますよ。私、紫陽花好きなんです」
そう言って嬉しそうに紫陽花に駆け寄って紫陽花を見つめる月城さんの横顔がとても綺麗だった。
「高瀬さん?」
「へ?なっ何でもないです」
ぼーっと紫陽花じゃなくて月城さんの横顔を見つめてしまってた私。
ふとこちらに顔を向けた月城さんに不思議そうな目で見られ、その大きな瞳に吸い込まれそうになった。
「今日はとても楽しかったです。」
「こちらこそ。ありがとうございました」
社交辞令の楽しかったです挨拶もいただき、今日の任務終了。
はあ、無事終わった。
結局あんまりこれといってとどめをさせなかったな。
でも大分変な奴で好かれる要素皆無だったしきっと大丈夫。
途中で心が折れそうになったけど。
***
「貴美っ。いったい何したんだっ」
数日後、血相を変えて電話をかけてきた父の慌てっぷりにこっちが冷静になってしまう。
「嫌われるように頑張ったけど、そんな酷いことはして・・・」
ないとは思う。多分。
「月城さんがお付き合いしたいそうだ」
「はあ?」
思わず携帯を耳から離して叫んだ。
なんで?そんなはずはない。絶対ない。
え?どこが悪かったの。
しっかり呆れられて帰ってきたはずなのに。
数日後また例の喫茶店で会う事になった私達。
お兄ちゃんは逃亡したまま連絡なしなのでまたもや私が駆り出されている。
これ永遠に私が会い続けるの?
いや、私は結婚出来ないから。
そして今日も他のお客さんの姿はない。
いつも賑わってたイメージなんだけどな。最近はこうなのかな。
今日は私の方が先に着いたのでこの前と同じ席に座って月城さんを待つ。
カランと音がして入口を見れば月城さん。
「こんにちは、高瀬さん」
「こっ・・・こんにちは」
今日も美しい。ってなにどきどきしてるの私。
「何でまた会って下さろうと」
「え?この前楽しかったので」
理由をどうしても聞きたかった。
でも返ってきた答えはかなりシンプルだった。
・・・月城さんはちょっと変わってらっしゃるのかな。
自分で演じときながらあんな変な言動のやつにひっかかったらダメですよと今後が少し心配になった。
しかし、お付き合いしたいとなるとこれからどうしたものか。
連絡先を交換して、次からは直接連絡を取り合うこととなり忙しい合間を縫って何回かお出かけとかご飯とか行かせてもらった。
そして週末、初めてお邪魔する月城さんのお家。
ずっと見たかった映画のブルーレイを月城さんが持っているらしく、一緒に見ることになった。
折角だからご飯食べながら見ようと一緒に買い物をして、月城さんのお家に向かった。
シンプルな家具たちが置かれたおうち。まさにイメージ通りのおうちと言ったところだろうか
「さあ作りましょうかね」
「普段お料理しないんじゃなかったでしたっけ」
腕まくりしてキッチンに立とうとした私に月城さんが首をかしげた。
しまった。
友達の家に行けば料理担当みたいなものだからついいつもの癖で・・・。
「出来ないながらに作りますから心配せず座っててください」
そう促されて私はリビングにてくつろがせていただくこととなった。
料理をする音といい匂い。
手持ちぶさたになり、更に昨日からお家にお邪魔するということで緊張してた私は気が緩んでソファーで微睡んでしまっていたらしく、月城さんの私を呼ぶ声がした気がして重いまぶたを開けば近距離に綺麗なお顔が。
「わっ」
「そんなに驚かなくても。ご飯が出来ましたよ」
「はっ、はい。ごめんなさい」
「ふふっ。」
何なんだこのドキドキは。
綺麗な人と2人っきりだからなのか大きく高鳴る私の心臓。
ご飯を食べてリビングのテーブルとソファーの間に横並びで座った私達。
横の月城さんが気になって何だか映画に集中出来ない。
急にこちらを向いて大きくて綺麗な瞳が私を捉える。
「ねえ」
目を閉じて床に手をついてぐっと近づいてきた月城さんに思わず身構える。
「どっ、どうしたんですか」
「女の子が目を瞑ったらする事は一つでしょう」
「だっ・・・だめだよこういうのは」
「なんで?普通でしょ」
片目を開いて怪訝そうな顔をしている。
やばい。このままだと正体がバレてしまう。
いや、いっそのことバレてしまった方がいいのかも。
でもそしたら月城さんは騙されてた事で傷を負うかもしれない。
でもでもいつかバレるのに。ああもうどうしたらいいの。
「腕細いんですね」
制止しようと前に出した腕を掴まれ、しみじみと見つめられる。
言わなきゃ、本当の事。
「つ・・きしろさん」
「れいこ。そう呼んでください」
そう言って腕を引き寄せられ綺麗な瞳に見つめられたままそっと触れた唇。
ドキドキしすぎて心臓パンクしそう。
でも彼女の想いはお兄ちゃんに向けられたもの。罪悪感に苛まれる。
それ以上に心が何故か苦しかった。
「もっと近づきますか」
そう言って自分のシャツに手をかけたれいこさん。
「まっ、待って。結婚前にこういうのは良くないと思います」
「昭和過ぎでしょ」
一瞬動きが止まり目を見開いて、いや、むしろ明治くらいだよとお腹を抱えて笑い出すから顔が熱くなる。
だっ、だってさどうにかして止めなきゃと思ったんだもん。
「そんな笑わなくてもいいじゃないですかっ」
「いや、何だか可愛くて」
笑い過ぎて涙を拭いながら、これじゃどっちが男か分かりませんねとなお笑った。
そうか、私が攻めればいいんだ。
そしたら私が触れられる事もない。
「れいこさんがその気なら僕は構いませんが」
そういって軽く押せばやけにあっさりと床に倒れるれいこさんに跨がればじっと見つめられて手が震えそう。
だって女の子とこんな事した事ないもん。
というかこんなとこでするものなの?
「ふふっ、ベット行きますか」
私の迷う心を読まれたように余裕そうに妖艶な微笑みを向けるれいこさんにドクリと胸が高鳴った。
彼女は本気だ。私と、その・・・そういう事をするのを望んでる。
いや、厳密に言えば私じゃなくてお兄ちゃんと。
でも私はれいこさんの求めるような事は出来ない
「私、攻められるより攻めたい方なんだけど。ねえ、貴美ちゃん」
上半身を起こして私を抱き寄せ耳元で私の名前を囁いたれいこさんの低く色っぽい声が耳にこだまする。
何で私の名前を。反射的に体がれいこさんから飛び退く
「怖がらないで。おいで」
正体がバレていたという動揺を超えて、差し出された手と優しい眼差しに導かれるように気がつけばその手を取っていた。
れいこさんの香りに包まれたベットルームですっかり着る物を失って正体を暴かれている。
座ったれいこさんに向かい合うように跨った私はそのまま抱きしめられ、触れた柔らかく甘い唇に目眩がしそう。
色々疑問とか頭の中を渦巻いているのにれいこさんの舌が私の舌と絡まって、どうしよう何にも考えられない。
「苦しかったでしょう」
申し訳なさそうに矯正下着の跡の残る私の胸元に口付けを落とすれいこさんに見惚れていた。
恥ずかしい事してるのにこんな姿でも美しいなんて罪な人だ。
「ごめんね。こんな事に巻き込んで」
でもとれいこさんが紡いだ言葉に息を呑む
「貴美ちゃんを好きになっちゃったの。こんな私を受け入れてくれる?」
そんな目で見られたら許さないわけにいかないじゃない。
静かに頷けば、ゆっくりと視界が傾く。
「ごめんね、今すぐ全部欲しい」
「れいこさんっ。だめっ。もっ・・・」
「いいよ」
れいこさんの綺麗な指に導かれて快楽の海に沈んでいく。
*****
「どこが気持ちいいの?」
「やっ」
耳元で吐息混じりにうんと低い声で聞けば真っ赤な顔で目をぎゅっと瞑って首を横に振る。
「分からないの?」
中に沈ませた指をぐっと更に奥へと潜り込ませれば、良いとこに当たったみたいで一層苦しそうな声を上げる。
「はあっ」
「どう?ここ」
「やっ・・・んんっ」
「すき?」
「だ・・・めっ」
すきの間違いでしょう?
彼女の口から聞きたくて、手を止める。
絶頂の一歩手前でお預けをくらった彼女は目を見開いたが必死に理性を保とうと葛藤しているようだった。
「止めていいの?」
「・・・っ」
「苦しくない?」
余裕のある風を装って問いかけるけどその蒸気した頬、欲情に濡れた瞳と視線が絡まるだけで自分が抑えられなくなりそう。
彼女の返事まで我慢できずに苦しいと主張している小さな芽をそっと親指の腹で撫でる
「ふっ・・・あ」
「気持ちよくなりたくない?」
もどかしいのか腰が揺れる。
私を求めて欲しい。ほら、言って
「れ・・・こさん、お願い。も、だめ。気持ちよくして」
腕を力なく掴んで懇願されて自分の中の何かがぷつりと切れたような気がした。
気づけば荒々しく口付けて、貴美ちゃんの中に再び潜り込み絶頂へと導く。
「教えて、気持ちい?」
「あっ・・・気持ちいいっ。」
「可愛い」
「れ・・・こさんっ・・・すきっ」
「っ・・・」
限界を迎えた貴美ちゃんの体は大きく跳ね力なくベットへ沈む。
最後の言葉を噛み締めるようにぎゅっときつく抱きしめる。
ずるい。こんなタイミングで言うなんて。
「私も大好き」
まだ呼吸の整わない紅い唇にそっと口づけを落とした。
「ごめんなさい。騙してて。」
「ごめん。騙してたのは私の方なの」
****
父の学校関係のお偉いさんから持ち込まれたお見合い話。
仕事柄結婚とかすぐできないし、断ったけど芸の肥やしにとか言いくるめられて帰ってきたらしい父。
そう言われても無理なものは無理なんだけど、とりあえず会うだけ会うように言われた相手。
どうやって当日断ろうか考えてた矢先、お相手から連絡がきた。
どうやら相手方も私と同じ状況で断り切れなかったみたいで、困っていた。
そこで私達は作戦を立てた。
このまま会って断っても面倒くさい事になるのは間違いない。
だから彼女さんと逃げた事にして妹さんが差し向けられるようにする。そして妹さんと会い、私が断る。
向こうのご両親も妹を差し出してるから断られても諦めがつくし、私も更に推される事もなく引き下がってもらえる。
ただ、男装して?やってくる妹さんに気づかないふりして会うなんて私に出来るのだろうか。
待ち合わせの喫茶店で、入ってきたのはすらっとした綺麗な顔立ちの子。
この子か。いけるよ、男の子でも。綺麗な中性的な子って感じで。
私達の企みを知らず、懸命に私に断られるようにと振る舞う彼女の懸命さと兄想いの心に私も応えようとどんどん冷めていく相手を演じた。
本当なら今日が終わった時点で断って終わりの予定だったのだが、何だか彼女の懸命さに心癒されてしまってまた会いたいと思った。
もうちょっと妹さんを貸して下さいとメールを入れて父に返事をした。
「お付き合いします」
あの子とね。
「分かった。返事は私からしておく」
そう言った父は早速電話を入れていた。
次に会った時、待ち合わせはまたあの喫茶店。
前回同様、お店は貸切だから他のお客さんなんていないから安心して会う事が出来る。
彼女が知る由もないと思うけど。
ただ、彼女は前回よりよそよそしかった。
何でこんな事になってしまったんだろうと言わんばかりの顔をしてる。
分かりやすい子。クルクル変わる表情が可愛くて見てて飽きない。
「ここのナポリタンが美味しいって聞いて」
「そうなんですよ!」
お兄さんから聞いていた彼女の好み情報を交えて話せば目をキラキラさせて
可愛いな。
貴美ちゃんはナポリタンとコーヒー
私はオムライスとミルクティーを頼んだ。
また飲めもしないコーヒーを頼もうとしてたから私がミルクティーを頼んでミルクティーの気分じゃなくなったと言って交換してもらった。
安心したような顔に全く世話の焼ける子だななんて大人ぶってみるけどそんな事させてるのは私たちのせいなんだから申し訳ない気持ちもある。
「一口食べたい」
「あ、シェアします?取り皿とフォーク貰いますね」
「私のもあげる。はい」
「え」
一口分差し出したスプーンに戸惑いを隠せてない
「こんなとこ見られたらまずいのでは」
「男役同士でもやるくらいなので全然大丈夫ですよ、はい」
「いっ、いただきますっ」
前に乗り出して一口食べるその姿をじっと見てたら、恥ずかしいのか目を逸らされた。
「美味しい」
「ケチャップなのがいいですよね」
「そうなんですよ、ケチャップなのがいいんです」
好みも合いそうだな、なんてしみじみ考えている自分に笑ってしまった。
さて、いつこの事実を伝えようか。
彼女の連絡先も教えてもらって直接連絡できるようになってからはお稽古の合間を縫ってご飯に行ったり、休演日に私の買い物に付き合ってもらったりと何回か会ううちにもう完全に虜になってて。
先日のデートで映画の話題になって、うちで鑑賞会をすることになった。
貴美ちゃんが見たかった映画が私が見たことあるやつで、Blu-ray持ってるからうちでって咄嗟に言っちゃって慌てて購入した。
なんだかんだ理由を付けて家に呼んで囲い込もうと企てていた。
逃げれない状態に追いやって私のものにする。
我ながら非道だと思うけど、欲しくなってしまった彼女の心を動かすにはこうするしかない。
まあ、ちょっと位は私の事意識してくれているはず。
この前の話を聞いてる時から思ってたけど、料理得意なんだろうな。
そんな人に料理初級の私が作るのもどうかと思ったが、もうちょっとそのまま嘘をつき続けて欲しかったから素知らぬふりでつついてみれば焦ったようにリビングに座り込んだ。
料理なんて自分の為にばかりで、人に食べさせることそんなにないから私の方が緊張しちゃってあーでもないこーでもないしてたら意外と時間がかかってしまった。
出来たとキッチンから声を掛けるけど返答がない。
よく見たら何だかちょっと傾いてる。
寝ちゃってる?
出来るだけ音を立てないようそっと近づいて覗き込めばやっぱり。
閉じられた瞳、くるんと長いまつ毛と血色のよい唇
このままキスしたら君は驚くだろうか。
いや、今の私達なら何を驚くことがあろうか。
だって付き合ってるんだもんね。
そんな事考えてたらゆっくりと開いた瞳に私が映る。
ぼーっと私を二、三秒見つめた後目を見開いた。
「わっ!」
「そんなに驚かなくても」
「ごめんなさい、寝ちゃって」
ご飯を食べた後、彼女が見たいと言っていたブルーレイをセットして横に並んで座る。
再生ボタンを押せば真剣に見入っているから面白くなくなってしまった。
鑑賞会って言ったのは私だけど、そんなに真面目に見たらだめでしょ。
そんなの二人っきりになる口実なんだよ
「ねえ」
こちらに気を向かせたくなった私は目を閉じて床に手をついてぐっと顔を近づけてみる。
「どっ、どうしたんですか」
「女の子が目を瞑ったらする事は一つでしょう」
「だっ・・・だめだよこういうのは」
「なんで?普通でしょ」
何も言わずに奪えばいいのに。
なんて自分勝手な事を思いながら片目を開けてみればあたふたしている。
私を近づけまいと前に出された腕を掴む。
「腕細いんですね」
「つ・・きしろさん」
「れいこ。そう呼んでください」
動揺している彼女をよそに私は追い詰めにかかっていた。
そっと触れた唇の感触に全身に血が巡っていくのが分かる。
「もっと近づきますか」
欲望をぐっと抑えて、冷静にけしかけてみたらあまりに昭和な反応が返ってきて思わずお腹を抱えて笑ってしまった。婚前交渉禁止とか
ツボに入ってしまって笑い転げる私に不満気な顔をするから正直に可愛く思ったと伝えれば今度は真っ赤な顔をしている。
「れいこさんがその気なら僕は構いませんが」
まだ頑張ってくれようとするので、わざとらしく押し倒されてみる。
手、震えてるよ?
言わんとすることが顔に出すぎててまた笑いそうになる。
「ふふっ、ベット行きますか」
ものすごく考えてる。
手に取るように考えてることが分かるから貴美ちゃんの行動を待ちたい所なんだけど、もう我慢できないかもしれない。
「私、攻められるより攻めたい方なんだけど。ねえ、貴美ちゃん」
上半身を起こして抱き寄せ耳元で彼女の名前を囁けば
反射的に飛び退いた。
「怖がらないで。おいで」
戸惑いながらもそっと手を取った彼女を腕に閉じ込めた。
ついに捕まえた。私だけのもの。
もう我慢できない。
全部ここで私のものにしたい。それしかなかった。
***
騙してごめんね。
布団にくるまって本当の事を話した後、本当に申し訳無くて謝ってはみたものの黙り込んでしまった貴美ちゃん。
こんな私をまだ好きでいてくれるだろうか。
「でもれいこさんが好きなのに変わりはありません」
「ありがとう。私もすき。どうしようもなく好きなの」
ふふっと笑った彼女の嬉しそうな顔が堪らなく愛おしくて幸せ。
ありのままの2人で生きていくと誓った今日
絶対に幸せにするから
急にかっこよくならないでくださいよ
女の子な私の方が良かった?
え?れいこさんが自体が好きなのでどちらでも好きですよ
なっ、なにー!もー!
顔緩んでますよ?
そんな事言うと唇塞ぐからね
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朝から私は矯正下着をつけさせられ、お兄ちゃんの私服を着せられ両親に家を送り出されようとしている。
こんな事になったのもうちのバカ兄貴の所為。
「絶対すぐバレる。バレた時の方が我が家の終わりだよ」
「大丈夫、我が家の行く末はお前の演技力にかかっている。上手く嫌われてくるんだぞ」
両肩をポンと叩かれ真剣な眼差しの父に押されて、家を出た途端零れたため息。
なんで私がこんな事しないといけない訳。
お兄ちゃんが悪いんじゃん。
彼女居るくせにお父さんにちゃんと言っておかないからお見合い話とか持ってこられて受けちゃうんだよ。
挙句に彼女と逃亡。
慌てた両親に兄の代わりにと差し出されたのが私。
私達、元々顔が似てはいるし最近髪をショートにしたとはいえこんなのバレない訳がない。
こんな事考えた事自体恐ろしい。
人は追い詰められたら絶対無理な事でも出来ると思ってしまうのだろうか。
しかもそんな大事なお見合いを先方の希望だからって1対1で行かせる?
フォローしてくれる人いないじゃない。
待ち合わせの喫茶店は通い慣れた店。
昔ながらの喫茶店で小さい頃からお父さんに連れられここに来てはナポリタンを食べたな。マスターの作るナポリタンは世界一
中に入れば私に気づいて席を立ったお姉さんが手を振って合図してくれる。
わあ、何て綺麗な人だろう。背も高いし、足も長い。
でも何というか、普通?お見合いって女の子はワンピースとかなのかなって勝手に思ってた私。
彼女は、パンツスタイルのよく似合う何なら私より男の人みたいな中性的な面立ちだった。
いや、こんな場に男のフリしてやってきたお前に普通を語られたくないって感じだろうけど。
「はっ・・・はじめまして高瀬と申します。」
「こんにちは、月城かなとと申します。」
頑張って今日一の低い声で挨拶をする。
元々低めの声ではあるので
返ってきた返事と笑顔に思わず見惚れる。綺麗。
窓際の席に座っていた月城さんの向かいに腰掛ける。窓からは大きな庭園が広がっている。
「何飲まれますか?」
「ロイヤルミルク・・・いや、コーヒーで」
反射的にいつも頼むミルクティーをお願いしそうになったがいい歳した男の人がそれはないかと思いとどまり咄嗟にコーヒーを頼んでしまったけど、私コーヒー飲めないんだった。
しばらくして運ばれてきたコーヒー
うん、匂いで頭が痛くなりそう。
「大丈夫ですか?」
「あっ。だっ大丈夫です。ちょっと緊張してて」
あははと笑うけど、だめだめ。愛想良くしたらだめ。
今日の最大の目標は穏便に嫌われて帰る事。
緊張と人見知りが祟って会話の糸口が見つけられず誤魔化すためにコーヒーに口を付けたけどやっぱり苦くて思わず眉間に皺がよる。
「大丈夫ですか?」
「あっ熱くて。あはは。」
「アイスコーヒーなのに?」
「へ?あっ・・・冷たくて歯に染みて」
そう、頼んだのはアイスコーヒーだった。熱い訳がない。
咄嗟に出た言葉に知覚過敏かよっと心の中でツッコミながら我ながらこんな意味わからない事言い出すやつと見合いとか絶対嫌だろうなと思った。
私達しかいない店内は静かにジャズの音楽が流れるだけ。何か話さなきゃ。
「月城さんはお仕事は何を」
「演じる仕事をしています」
人見知りな私が上手く会話できる訳もなく、取り敢えずお見合い定型文。
女優さんと言うことか。
そんな人がお見合いとかして大丈夫なのかな。
「宝塚歌劇団ってご存知ですか?」
「観たことはありませんが、存じてます」
「そこに所属してます」
ああ、だからこんなに美しいのか。
さっきから所作が綺麗だなと思ってたけど納得がいった。
つまり、格好からして男役さんと呼ばれる人なんだな。
尚のことお兄ちゃんには勿体なさすぎる。
「高瀬さんはお仕事は何を?」
「しがないサラリーマンです」
今時そんな古風な言い方する人いるんですねと笑われた。
お兄ちゃんは大手企業に勤めるサラリーマンだし、ここは自分を大きく見せて嫌な野郎を演じた方が良かったかな。
でも、お兄ちゃんをそんな風に悪く演じるのもなんとなく気が引けて今日の任務を放棄しそうになる。かと言って気に入られてしまったら後々困るんだけど。
「月城さんは料理とかされるんですか?」
「中々出来ない事が多いですね。高瀬さんは?」
「私・・・いや、僕は全然」
お兄ちゃんが料理してるとことか見た事ない。
彼女が料理上手だから皿洗い専門って言ってたな。あ、そうだ
「母が作る料理が美味しくて」
マザコン大作戦。
今日の為に女の人に嫌われる男性の特徴を調べてきたのだ。
「へえ、お母様お料理お上手なんですね」
「ええ、もうピカイチです」
自信満々に答えれば苦笑いされてるのが分かる。
よしよし、順調。
この後も切々と母の自慢話をしてマザコンをアピールした。
これくらい許されるよね、お兄ちゃん。
落ち着かなくて、苦いコーヒーをちびちびのんでたからか冷えてしまってお手洗いに立てば会計の横のガラスケースにずらりと並んだケーキに思わず足が止まる。ああ、美味しそう。
「ケーキお好きなんですか?」
気付いたら後ろにいた月城さんに声をかけられて慌てて首を振る。
お兄ちゃんは甘い物好きじゃないからダメダメ。
「いっ・・・妹が、すきなので」
「へえ、妹さんと仲良しなんですね」
「そんな事ないです。あんな妹、憎たらしいばっかりで一人っ子なら良かった位です」
妹にお土産でも買って帰ってやる優しい兄かと思いきや・・・なんて呆れたような顔で見られるけど、逃げるようにトイレに向かう。
待って。私はどっちに行けば・・・。
今日は男の人として来てるし、月城さんに女子トイレに入るとこなんて見られたら変態だと思われてしまう。
でも、男子トイレに入るなんて無理。悩んだ末Uターンして席に戻った。
早々に帰ってきた私を見て不思議そうに首を傾げている月城さん。
「トイレ使用中だったので」
「他にお客さんいなさそうですけど」
不思議そうにあたりを見回す月城さんにはっとする。
そうだった。私達以外お客さんなんて居なくて、マスターがカウンターで水出しコーヒーのセットをしてる位。
「ほっ他の店員さんが使ってるのかな」
「はあ・・・」
段々ただの変な人と化してるけど大丈夫かな私。
自分で自分が情けなくなってくる。
話題と気分を変える為に庭にでも行くかな。
「ここの庭園綺麗なんですよ、外に出ませんか?」
「そうなんですか、是非見てみたいです」
先に行ってて下さいと伝えてこっそりお手洗いに行って月城さんを追いかける。
庭園へと通じる出口を出て、歩きだしたはいいけどまたもや会話に困った。
女優さんにあんまりプライベートな事を沢山聞いていいのかよく分からなかったけど、私ならちゃんと自分を見てもらいたい。
本当の私を見せることなんて出来ない私が思うことでは無いと思うけど。
月城さんから色々話してくださったからなんだか少し気を抜いて過ごせた気がする。
たわいも無い、趣味の話とか仕事の話とかしながら歩いている途中で月城さんがふと
「あっ。ほら見て」
促すようにそういって手を伸ばした月城さん手と私の手が触れた。
「紫陽花が咲いてますよ。私、紫陽花好きなんです」
そう言って嬉しそうに紫陽花に駆け寄って紫陽花を見つめる月城さんの横顔がとても綺麗だった。
「高瀬さん?」
「へ?なっ何でもないです」
ぼーっと紫陽花じゃなくて月城さんの横顔を見つめてしまってた私。
ふとこちらに顔を向けた月城さんに不思議そうな目で見られ、その大きな瞳に吸い込まれそうになった。
「今日はとても楽しかったです。」
「こちらこそ。ありがとうございました」
社交辞令の楽しかったです挨拶もいただき、今日の任務終了。
はあ、無事終わった。
結局あんまりこれといってとどめをさせなかったな。
でも大分変な奴で好かれる要素皆無だったしきっと大丈夫。
途中で心が折れそうになったけど。
***
「貴美っ。いったい何したんだっ」
数日後、血相を変えて電話をかけてきた父の慌てっぷりにこっちが冷静になってしまう。
「嫌われるように頑張ったけど、そんな酷いことはして・・・」
ないとは思う。多分。
「月城さんがお付き合いしたいそうだ」
「はあ?」
思わず携帯を耳から離して叫んだ。
なんで?そんなはずはない。絶対ない。
え?どこが悪かったの。
しっかり呆れられて帰ってきたはずなのに。
数日後また例の喫茶店で会う事になった私達。
お兄ちゃんは逃亡したまま連絡なしなのでまたもや私が駆り出されている。
これ永遠に私が会い続けるの?
いや、私は結婚出来ないから。
そして今日も他のお客さんの姿はない。
いつも賑わってたイメージなんだけどな。最近はこうなのかな。
今日は私の方が先に着いたのでこの前と同じ席に座って月城さんを待つ。
カランと音がして入口を見れば月城さん。
「こんにちは、高瀬さん」
「こっ・・・こんにちは」
今日も美しい。ってなにどきどきしてるの私。
「何でまた会って下さろうと」
「え?この前楽しかったので」
理由をどうしても聞きたかった。
でも返ってきた答えはかなりシンプルだった。
・・・月城さんはちょっと変わってらっしゃるのかな。
自分で演じときながらあんな変な言動のやつにひっかかったらダメですよと今後が少し心配になった。
しかし、お付き合いしたいとなるとこれからどうしたものか。
連絡先を交換して、次からは直接連絡を取り合うこととなり忙しい合間を縫って何回かお出かけとかご飯とか行かせてもらった。
そして週末、初めてお邪魔する月城さんのお家。
ずっと見たかった映画のブルーレイを月城さんが持っているらしく、一緒に見ることになった。
折角だからご飯食べながら見ようと一緒に買い物をして、月城さんのお家に向かった。
シンプルな家具たちが置かれたおうち。まさにイメージ通りのおうちと言ったところだろうか
「さあ作りましょうかね」
「普段お料理しないんじゃなかったでしたっけ」
腕まくりしてキッチンに立とうとした私に月城さんが首をかしげた。
しまった。
友達の家に行けば料理担当みたいなものだからついいつもの癖で・・・。
「出来ないながらに作りますから心配せず座っててください」
そう促されて私はリビングにてくつろがせていただくこととなった。
料理をする音といい匂い。
手持ちぶさたになり、更に昨日からお家にお邪魔するということで緊張してた私は気が緩んでソファーで微睡んでしまっていたらしく、月城さんの私を呼ぶ声がした気がして重いまぶたを開けば近距離に綺麗なお顔が。
「わっ」
「そんなに驚かなくても。ご飯が出来ましたよ」
「はっ、はい。ごめんなさい」
「ふふっ。」
何なんだこのドキドキは。
綺麗な人と2人っきりだからなのか大きく高鳴る私の心臓。
ご飯を食べてリビングのテーブルとソファーの間に横並びで座った私達。
横の月城さんが気になって何だか映画に集中出来ない。
急にこちらを向いて大きくて綺麗な瞳が私を捉える。
「ねえ」
目を閉じて床に手をついてぐっと近づいてきた月城さんに思わず身構える。
「どっ、どうしたんですか」
「女の子が目を瞑ったらする事は一つでしょう」
「だっ・・・だめだよこういうのは」
「なんで?普通でしょ」
片目を開いて怪訝そうな顔をしている。
やばい。このままだと正体がバレてしまう。
いや、いっそのことバレてしまった方がいいのかも。
でもそしたら月城さんは騙されてた事で傷を負うかもしれない。
でもでもいつかバレるのに。ああもうどうしたらいいの。
「腕細いんですね」
制止しようと前に出した腕を掴まれ、しみじみと見つめられる。
言わなきゃ、本当の事。
「つ・・きしろさん」
「れいこ。そう呼んでください」
そう言って腕を引き寄せられ綺麗な瞳に見つめられたままそっと触れた唇。
ドキドキしすぎて心臓パンクしそう。
でも彼女の想いはお兄ちゃんに向けられたもの。罪悪感に苛まれる。
それ以上に心が何故か苦しかった。
「もっと近づきますか」
そう言って自分のシャツに手をかけたれいこさん。
「まっ、待って。結婚前にこういうのは良くないと思います」
「昭和過ぎでしょ」
一瞬動きが止まり目を見開いて、いや、むしろ明治くらいだよとお腹を抱えて笑い出すから顔が熱くなる。
だっ、だってさどうにかして止めなきゃと思ったんだもん。
「そんな笑わなくてもいいじゃないですかっ」
「いや、何だか可愛くて」
笑い過ぎて涙を拭いながら、これじゃどっちが男か分かりませんねとなお笑った。
そうか、私が攻めればいいんだ。
そしたら私が触れられる事もない。
「れいこさんがその気なら僕は構いませんが」
そういって軽く押せばやけにあっさりと床に倒れるれいこさんに跨がればじっと見つめられて手が震えそう。
だって女の子とこんな事した事ないもん。
というかこんなとこでするものなの?
「ふふっ、ベット行きますか」
私の迷う心を読まれたように余裕そうに妖艶な微笑みを向けるれいこさんにドクリと胸が高鳴った。
彼女は本気だ。私と、その・・・そういう事をするのを望んでる。
いや、厳密に言えば私じゃなくてお兄ちゃんと。
でも私はれいこさんの求めるような事は出来ない
「私、攻められるより攻めたい方なんだけど。ねえ、貴美ちゃん」
上半身を起こして私を抱き寄せ耳元で私の名前を囁いたれいこさんの低く色っぽい声が耳にこだまする。
何で私の名前を。反射的に体がれいこさんから飛び退く
「怖がらないで。おいで」
正体がバレていたという動揺を超えて、差し出された手と優しい眼差しに導かれるように気がつけばその手を取っていた。
れいこさんの香りに包まれたベットルームですっかり着る物を失って正体を暴かれている。
座ったれいこさんに向かい合うように跨った私はそのまま抱きしめられ、触れた柔らかく甘い唇に目眩がしそう。
色々疑問とか頭の中を渦巻いているのにれいこさんの舌が私の舌と絡まって、どうしよう何にも考えられない。
「苦しかったでしょう」
申し訳なさそうに矯正下着の跡の残る私の胸元に口付けを落とすれいこさんに見惚れていた。
恥ずかしい事してるのにこんな姿でも美しいなんて罪な人だ。
「ごめんね。こんな事に巻き込んで」
でもとれいこさんが紡いだ言葉に息を呑む
「貴美ちゃんを好きになっちゃったの。こんな私を受け入れてくれる?」
そんな目で見られたら許さないわけにいかないじゃない。
静かに頷けば、ゆっくりと視界が傾く。
「ごめんね、今すぐ全部欲しい」
「れいこさんっ。だめっ。もっ・・・」
「いいよ」
れいこさんの綺麗な指に導かれて快楽の海に沈んでいく。
*****
「どこが気持ちいいの?」
「やっ」
耳元で吐息混じりにうんと低い声で聞けば真っ赤な顔で目をぎゅっと瞑って首を横に振る。
「分からないの?」
中に沈ませた指をぐっと更に奥へと潜り込ませれば、良いとこに当たったみたいで一層苦しそうな声を上げる。
「はあっ」
「どう?ここ」
「やっ・・・んんっ」
「すき?」
「だ・・・めっ」
すきの間違いでしょう?
彼女の口から聞きたくて、手を止める。
絶頂の一歩手前でお預けをくらった彼女は目を見開いたが必死に理性を保とうと葛藤しているようだった。
「止めていいの?」
「・・・っ」
「苦しくない?」
余裕のある風を装って問いかけるけどその蒸気した頬、欲情に濡れた瞳と視線が絡まるだけで自分が抑えられなくなりそう。
彼女の返事まで我慢できずに苦しいと主張している小さな芽をそっと親指の腹で撫でる
「ふっ・・・あ」
「気持ちよくなりたくない?」
もどかしいのか腰が揺れる。
私を求めて欲しい。ほら、言って
「れ・・・こさん、お願い。も、だめ。気持ちよくして」
腕を力なく掴んで懇願されて自分の中の何かがぷつりと切れたような気がした。
気づけば荒々しく口付けて、貴美ちゃんの中に再び潜り込み絶頂へと導く。
「教えて、気持ちい?」
「あっ・・・気持ちいいっ。」
「可愛い」
「れ・・・こさんっ・・・すきっ」
「っ・・・」
限界を迎えた貴美ちゃんの体は大きく跳ね力なくベットへ沈む。
最後の言葉を噛み締めるようにぎゅっときつく抱きしめる。
ずるい。こんなタイミングで言うなんて。
「私も大好き」
まだ呼吸の整わない紅い唇にそっと口づけを落とした。
「ごめんなさい。騙してて。」
「ごめん。騙してたのは私の方なの」
****
父の学校関係のお偉いさんから持ち込まれたお見合い話。
仕事柄結婚とかすぐできないし、断ったけど芸の肥やしにとか言いくるめられて帰ってきたらしい父。
そう言われても無理なものは無理なんだけど、とりあえず会うだけ会うように言われた相手。
どうやって当日断ろうか考えてた矢先、お相手から連絡がきた。
どうやら相手方も私と同じ状況で断り切れなかったみたいで、困っていた。
そこで私達は作戦を立てた。
このまま会って断っても面倒くさい事になるのは間違いない。
だから彼女さんと逃げた事にして妹さんが差し向けられるようにする。そして妹さんと会い、私が断る。
向こうのご両親も妹を差し出してるから断られても諦めがつくし、私も更に推される事もなく引き下がってもらえる。
ただ、男装して?やってくる妹さんに気づかないふりして会うなんて私に出来るのだろうか。
待ち合わせの喫茶店で、入ってきたのはすらっとした綺麗な顔立ちの子。
この子か。いけるよ、男の子でも。綺麗な中性的な子って感じで。
私達の企みを知らず、懸命に私に断られるようにと振る舞う彼女の懸命さと兄想いの心に私も応えようとどんどん冷めていく相手を演じた。
本当なら今日が終わった時点で断って終わりの予定だったのだが、何だか彼女の懸命さに心癒されてしまってまた会いたいと思った。
もうちょっと妹さんを貸して下さいとメールを入れて父に返事をした。
「お付き合いします」
あの子とね。
「分かった。返事は私からしておく」
そう言った父は早速電話を入れていた。
次に会った時、待ち合わせはまたあの喫茶店。
前回同様、お店は貸切だから他のお客さんなんていないから安心して会う事が出来る。
彼女が知る由もないと思うけど。
ただ、彼女は前回よりよそよそしかった。
何でこんな事になってしまったんだろうと言わんばかりの顔をしてる。
分かりやすい子。クルクル変わる表情が可愛くて見てて飽きない。
「ここのナポリタンが美味しいって聞いて」
「そうなんですよ!」
お兄さんから聞いていた彼女の好み情報を交えて話せば目をキラキラさせて
可愛いな。
貴美ちゃんはナポリタンとコーヒー
私はオムライスとミルクティーを頼んだ。
また飲めもしないコーヒーを頼もうとしてたから私がミルクティーを頼んでミルクティーの気分じゃなくなったと言って交換してもらった。
安心したような顔に全く世話の焼ける子だななんて大人ぶってみるけどそんな事させてるのは私たちのせいなんだから申し訳ない気持ちもある。
「一口食べたい」
「あ、シェアします?取り皿とフォーク貰いますね」
「私のもあげる。はい」
「え」
一口分差し出したスプーンに戸惑いを隠せてない
「こんなとこ見られたらまずいのでは」
「男役同士でもやるくらいなので全然大丈夫ですよ、はい」
「いっ、いただきますっ」
前に乗り出して一口食べるその姿をじっと見てたら、恥ずかしいのか目を逸らされた。
「美味しい」
「ケチャップなのがいいですよね」
「そうなんですよ、ケチャップなのがいいんです」
好みも合いそうだな、なんてしみじみ考えている自分に笑ってしまった。
さて、いつこの事実を伝えようか。
彼女の連絡先も教えてもらって直接連絡できるようになってからはお稽古の合間を縫ってご飯に行ったり、休演日に私の買い物に付き合ってもらったりと何回か会ううちにもう完全に虜になってて。
先日のデートで映画の話題になって、うちで鑑賞会をすることになった。
貴美ちゃんが見たかった映画が私が見たことあるやつで、Blu-ray持ってるからうちでって咄嗟に言っちゃって慌てて購入した。
なんだかんだ理由を付けて家に呼んで囲い込もうと企てていた。
逃げれない状態に追いやって私のものにする。
我ながら非道だと思うけど、欲しくなってしまった彼女の心を動かすにはこうするしかない。
まあ、ちょっと位は私の事意識してくれているはず。
この前の話を聞いてる時から思ってたけど、料理得意なんだろうな。
そんな人に料理初級の私が作るのもどうかと思ったが、もうちょっとそのまま嘘をつき続けて欲しかったから素知らぬふりでつついてみれば焦ったようにリビングに座り込んだ。
料理なんて自分の為にばかりで、人に食べさせることそんなにないから私の方が緊張しちゃってあーでもないこーでもないしてたら意外と時間がかかってしまった。
出来たとキッチンから声を掛けるけど返答がない。
よく見たら何だかちょっと傾いてる。
寝ちゃってる?
出来るだけ音を立てないようそっと近づいて覗き込めばやっぱり。
閉じられた瞳、くるんと長いまつ毛と血色のよい唇
このままキスしたら君は驚くだろうか。
いや、今の私達なら何を驚くことがあろうか。
だって付き合ってるんだもんね。
そんな事考えてたらゆっくりと開いた瞳に私が映る。
ぼーっと私を二、三秒見つめた後目を見開いた。
「わっ!」
「そんなに驚かなくても」
「ごめんなさい、寝ちゃって」
ご飯を食べた後、彼女が見たいと言っていたブルーレイをセットして横に並んで座る。
再生ボタンを押せば真剣に見入っているから面白くなくなってしまった。
鑑賞会って言ったのは私だけど、そんなに真面目に見たらだめでしょ。
そんなの二人っきりになる口実なんだよ
「ねえ」
こちらに気を向かせたくなった私は目を閉じて床に手をついてぐっと顔を近づけてみる。
「どっ、どうしたんですか」
「女の子が目を瞑ったらする事は一つでしょう」
「だっ・・・だめだよこういうのは」
「なんで?普通でしょ」
何も言わずに奪えばいいのに。
なんて自分勝手な事を思いながら片目を開けてみればあたふたしている。
私を近づけまいと前に出された腕を掴む。
「腕細いんですね」
「つ・・きしろさん」
「れいこ。そう呼んでください」
動揺している彼女をよそに私は追い詰めにかかっていた。
そっと触れた唇の感触に全身に血が巡っていくのが分かる。
「もっと近づきますか」
欲望をぐっと抑えて、冷静にけしかけてみたらあまりに昭和な反応が返ってきて思わずお腹を抱えて笑ってしまった。婚前交渉禁止とか
ツボに入ってしまって笑い転げる私に不満気な顔をするから正直に可愛く思ったと伝えれば今度は真っ赤な顔をしている。
「れいこさんがその気なら僕は構いませんが」
まだ頑張ってくれようとするので、わざとらしく押し倒されてみる。
手、震えてるよ?
言わんとすることが顔に出すぎててまた笑いそうになる。
「ふふっ、ベット行きますか」
ものすごく考えてる。
手に取るように考えてることが分かるから貴美ちゃんの行動を待ちたい所なんだけど、もう我慢できないかもしれない。
「私、攻められるより攻めたい方なんだけど。ねえ、貴美ちゃん」
上半身を起こして抱き寄せ耳元で彼女の名前を囁けば
反射的に飛び退いた。
「怖がらないで。おいで」
戸惑いながらもそっと手を取った彼女を腕に閉じ込めた。
ついに捕まえた。私だけのもの。
もう我慢できない。
全部ここで私のものにしたい。それしかなかった。
***
騙してごめんね。
布団にくるまって本当の事を話した後、本当に申し訳無くて謝ってはみたものの黙り込んでしまった貴美ちゃん。
こんな私をまだ好きでいてくれるだろうか。
「でもれいこさんが好きなのに変わりはありません」
「ありがとう。私もすき。どうしようもなく好きなの」
ふふっと笑った彼女の嬉しそうな顔が堪らなく愛おしくて幸せ。
ありのままの2人で生きていくと誓った今日
絶対に幸せにするから
急にかっこよくならないでくださいよ
女の子な私の方が良かった?
え?れいこさんが自体が好きなのでどちらでも好きですよ
なっ、なにー!もー!
顔緩んでますよ?
そんな事言うと唇塞ぐからね
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