K.TUKISHIRO
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ずっと前から彼女のファンで。
舞台を観に行く事ももちろんあるんだけど、仕事柄中々観に行けない事も多いから発売されたメディア類は必ず買っている。
番組の中でも一番会いたい人だと言い続け、なんならファンクラブに入ってる位大ファン
舞台の上、画面越しの彼女に何度ときめいたか分からない。
今まで卒業された上級生の方々が共演されるたびに紹介しようかと言ってくれたのを断ってきた。
だって会っちゃったらどうしたらいいか分からないもの。
その彼女が、手を伸ばせば掴める所に居る。
「月城さん?」
どうしよう、名前呼ばれちゃった。
心配そうに覗き込まれるけど、ああ、可愛い。
どうしよう上手く声が出ない。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む彼女に首を縦に振る事しかできない私はへたれ
遡る事数時間前
今日は月組社会科見学の日。
貴美ちゃんの出る舞台のお稽古場見学。
決まった日からこの日をどんなに待ちわびたことだろう。
昨日なんてよく眠れなかった。
お稽古風景を観させていただいて、後半はくじ引きで当たった人の選曲で一緒に歌える。
なんて素晴らしい企画なのだろうか。
他のキャストさんとの枠もあるから貴美ちゃんにお願い出来るチャンスは2回
箱の中から一枚の紙が引き抜かれる。
お願い、私でありますように。
「えっと、風間柚乃さん」
「やった!」
拍手とともにガッツポーズで立ち上がる風間
歌合わせをする為別室へ一緒に出ていく背中を羨ましく見つめる。
「れいこ、まだチャンスはあるからさ」
隣の珠城さんに慰められ気持ちを取り直して戻ってきた2人のパフォーマンスを見つめる。
その間にあってた他のキャストさんのパフォーマンスも2人が気になってしまって入ってこなかった。
2人の曲はホールニューワールド
腰に手なんか回しちゃって。ずるい。
見つめる視線が鋭かったみたいで横で珠城さんが苦笑してる。
チャンスはあと一回
貴美ちゃんの手の中の紙、お願い。私でありますように
思わず太ももに置いていた手を祈るように合わせていた。
「月城かなとさん」
「れいこ、やったじゃん!!」
名前を読み上げてこちらを見た貴美ちゃんと目が合った瞬間鷲掴みにされたように苦しくなる胸。
もう周りの人達なんて見えなくて彼女と私だけの世界のように感じた。
願ってやまなかったはずなのにいざそのときが来るとてんで反応もできない。
固まってしまった私に横に座ってる珠城さんが肘でツンツンしてきてはっと我に返った。
「れーいーこー」
「はっ、はいっ」
「緊張し過ぎでしょー」
みんなに笑われながら席を立ち、2人で別室で歌合せに入る。
軽くご挨拶をして、選んだ曲を伝える。
今回二曲で迷ってて、もし奇跡が起きて選ばれたら貴美ちゃんに決めてもらおうと思っていた。
「折角なら二曲どうでしょうか」
「えっ」
「短めの曲ですし」
微笑んで楽譜をiPadで探しだす。
まさか両方なんて選択肢なかったから私の方が慌ててしまう。
それはあまりに贅沢すぎるのでは。
まずは貴美ちゃんの音合わせから。
ピアノで音を取りながら彼女が口を開いた瞬間鳥肌が立った。
「この星のどこか同じ夢を」
選んだ曲は夢はひそかにと扉あけて
楽譜を追いながら歌ってるだけでこんなに凄いなんて。
今度は先生がピアノを弾いて下さり二人で歌う。
一回歌っただけで私と歌合せに入ったんだけど、さっきと全然違う。
楽譜通り歌う。と感情を入れて歌う。こんなに違うものなんだ。
まさにプリンセスそのものだった。
ふりをつけていく時に貴美ちゃんがふと手を挙げた。
「あの、ちょっと憧れてたのがあるんですけど一個提案いいですか」
貴美ちゃんの希望はデュエットダンスの最後みたいな、引き寄せて、くるりと回った貴美ちゃんを腕の中に抱いてバックハグ。
「最後、貴美さんが少し顔を私に向けて見つめあうとよりぽくなりますね」
「わー。どきどきしちゃいますね」
貴美ちゃんの提案にちょっと宝塚っぽさを足してみた。
試しにやってみようとふわっと手を取り引き寄せれば、軽やかにくるりと回って私の腕の中へ。さすが、上手い。
この至近距離で微笑まれて私の心臓はもつんだろうか。
「それなら・・・」
軽やかにやってのけた貴美ちゃんに演出家の方が提案してくださった、より宝塚さ。
それは自分から提案なんてとてもとても畏れ多くてできない事だから私には願ってもない機会なので二つ返事で了承する。
2曲分の練習を終えた私たちはみんながいるお稽古場に戻り、それぞれの少し離れた位置に立つ。
「ねえ、ちょっとおかしな事言ってもいい?」
「そう言うの大好きだ」
曲が流れ始め、このセリフで皆様察したらしく、私のオーバーなにこにこっぷりにみんながかなり笑ってる。
「どこにも出口のない日々が突然に変わりそう」
「僕も同じ事考えてた。だって、どこにも居場所のない日々で探し続けていたこんな人を」
私の所まで駆け寄り私の斜め後ろを寄り添ってステップを踏む
振り返った私が貴美ちゃんの鼻をつんとつつけば、貴美ちゃんは頬に手を当てて恥ずかしがりながら離れていく。
少し離れたところで立ち止まってチラッと私を返り見た貴美ちゃんにありったけの愛を込めてウインクして投げキッスする。
バカップルになっちゃいそうな雰囲気を醸し出すよう、私の思いを最大限に表に出す。
「僕と結婚してくれ」
「もちろん」
跪き、手を差し出して求婚すれば笑顔で手をちょんと乗せてくれる。
拍手に照れながら、この浮足だった気持ちを静めて1曲目の始まりと同じ位置に立つ
「この星のどこか同じ夢を」
「心に描いて永遠を待つよ」
「涙あふれても勇気が導き」
見つめ合いながら一歩ずつ歩み寄る
『いつか必ず出会う』
「私の光」
『愛を信じてる』
一番の終わりに手を取って引き寄せてワルツを踊る。
私のパートは踊りながらだから足を踏んだりしないよう細心の注意を払って。
「あなたを夢見る」
くるっと私から離れて両手を差し出し私を見つめる瞳に、ときめきが止まらなくてこの時が永遠に続けばとさえ思ってしまう。
『いつか必ず出会う』
手を引き寄せ後ろからそっと細い体を抱きしめて
「私の光」
まっすぐ前を見つめてる貴美ちゃんの横顔を覗き込むように見つめる。
『愛を信じてる』
首だけこちらを振り向いた貴美ちゃんと見つめあう。
歌い終わった後頬に手を当てそしてキス
皆んなから黄色い悲鳴が聞こえるけど高揚感に浸っている私。
ああ、今最高に幸せ。
もうあと数ミリで触れれる、柔らかそうな桃色の唇。
今までで一番近い距離のキス。
娘役さん相手でもこんな近くまでしない。
このまま事故のフリしてキスしたいところだけど、プロとして失敗したと思われたくないからぐっと堪える。
貴美ちゃんに聞こえてしまうんじゃないかって位にうるさい鼓動
こんなにキスシーンでドキドキした事ない。
離れ難いけど、そっと離れて手を取ってお辞儀する。
幸せな時間はあっという間で席に戻った私はもう燃え尽きたような気分。
「れいこ、思い切り過ぎじゃない」
「もう死んでもいい。いや、この映像を何回か見るまでは死ねない。いやどうしよう」
「れいこがバグった」
頭を抱えてるとなりで珠城さんは爆笑してる。
もうそこからの記憶はほぼない。
気づけば収録は終わっていた。
かなり間抜けな顔で座ってたんだろう。
収録が終わった後、せっかくなら写真撮ってもらいなよと珠城さんに背中を押されて思い切って声をかけた。
「貴美さん、今日はありがとうございました。あのっ、写真撮って貰ってもいいですか?」
「月城さん、こちらこそありがとうございました。もちろん」
微笑んだ貴美ちゃんは自分の携帯を取り出して、私の行く末を見届けようと自分の座ってた席からこちらを見ていた組子と、私にカメラを向けた。
「んーもうちょっと寄って貰ったら皆さん入りますね」
みんなを画面に収めようと後ろに下がっていく。
ちょっ、ちょっと待って。
「いや、そうじゃないだろ」
「へ?」
貴美ちゃんの後ろを通りかかって、下がってきた彼女にぶつかられた加藤さんがポンと頭に手を乗せた。突っ込んでくれて良かった。まさにそうです、そうじゃなくて
「貴美と一緒に撮ろうって事だろ」
「え?そうなの?」
「はい・・・」
キョトンと私を見つめる貴美ちゃんが鈍感過ぎて、私なんかが入っていいのかなとか加藤さんに真剣な顔して言ってるのも可愛くて私は心の中で大興奮中です。
「はい、俺が撮ってやるから」
「ありがと、かーくん」
そう言って私達の方に小走りで来て私の横に並んだ貴美ちゃん。
こちらに体を傾けてるから近い・・・。
なんとなく流れで皆んなも一緒に入って写真撮ってもらう。
「はい、2人でも撮るんでしょ。シンデレラコンビさん」
本当は2人で撮りたかったなんて我儘言えなくて。
みんなが一緒でも写真撮れて、しかもお隣でなんて幸せだからそれで充分だったんだけど加藤さんが助け舟を出してくださり、2人で写真を撮って貰える事になった。
「最後の2人のポーズが良かったと思うよ」
「じゃあ、折角なので記念に」
もう二度とこんな体験できないもんね、貴重だ。と言いながら手を取ってくれた貴美ちゃんをもう一度合法的に抱きしめる事に成功してしまった。
恥ずかしいけど、幸せ。
みんなまで面白がって自分の携帯で撮ってる。
絶対送ってもらおう。
普通に2人並んだ写真までとって貰ってもう私の心は満たされまくってます。
「後で送ってくださいっ」
「もちろん。」
「連絡先交換しとかないと送れないぞ」
「はっ。そうだ。教えて頂いちゃっていいですか」
加藤さん、あなたは神様ですか。
もう、今日のMVPはあなたです。
「いつもぼけぼけしてるからな、本当」
「ありがとう、お母さん」
本当。お母さんみたい。
貴美ちゃんの連絡先まで教えて貰えちゃうなんて、もう人生の運使い果たしたかも。
どうしよう、どうしよう。
帰ってる途中に画像が送られてきて口元が緩み過ぎて必死に平静を装って帰宅の途に就いた。
****
「はあ」
「どうした、れいこ」
今日は珠城さんとプルミエール撮影の日。
携帯を握りしめてため息をつく私に珠城さんが不思議そうに見つめる。
「はあ」
「だから何なの」
チラッと珠城さんを見て盛大にため息をつく私に苦笑いする珠城さんに携帯の画面を見せた
「これ、こないだの。待ち受けにしたんだ」
この前一緒に撮って貰った2人の写真。
面白がって撮ってた組の皆んなも送ってくれたんだけど、貴美ちゃんが送ってくれた画像を待ち受けにしている。
よく撮れてるねーと呑気に待ち受けを見つめる珠城さん。
もう一度待ち受けを見つめて頭を抱える。
「頭から離れなくて」
「え?」
「四六時中彼女の事考えてるんです」
これが憧れの人に直接会ってしまったからとかならどんなによかっただろう。
あのキスシーンがいけなかったのかもしれない。
あの歌声、私を見つめる瞳、桃色の唇を思い出しては眠れない日々を過ごしている。
あんなに大好きだった舞台のBlu-rayも相手役さんにもやもやを抱いてしまって見れなくなってしまった。
「恋って事?憧れの人に会えたからとかじゃなくて?」
もう完全に恋。力なく首を横に振る。
「どうしたらいいか分からなくなってしまいました」
「それなら距離縮めてかなきゃ。連絡取ってるの?」
「いや」
画像を送ってもらってお礼の返事をした後は連絡取ってない。
連絡すべき!と力説する珠城さんに押されてLINEを開いたけど、やっぱり無理。
だってなんて送ればいいの、お天気いいですねとか?
「やっぱり無理」
「何弱腰になってんの。他の人に取られていいわけ」
「・・・やだ」
扱いづらい後輩を持つと苦労するだろう。
でも、とかいいからとか揉めてる時、すぽんという小さい音が聞こえた。
「あ」
「あーーー」
押してしまったスタンプ。
しかも、投げキッスしている動くスタンプ
嘘でしょ。送信取り消ししようとした瞬間、既読がついた。
終わった・・・。
「れっ・・・れいこ・・・」
一緒に画面を覗き込んでた珠城さんに憐れんだような目を向けられる。
「もう生きていけない」
「弁解すれば大丈夫だって」
ごめんなさい。間違えて押してしまいました
沈んだ気持ちを抑えながら、そう正直に打っている途中に返事がきた。
"この前のお稽古場撮影の月城さんみたいですね"
そのあとすぐこの前のウインクした後の反応みたいにほっぺたに手を当てて照れてる可愛いねこのスタンプがきた。
なんだか上手く誤魔化せそうな気がしてきた。
「よかったじゃん」
「あ」
肩をバシバシ叩かれて、握っていた携帯に手が触れたらしく送られてしまったさっきの書きかけの文
"ごめんなさい。間違えて"
そしてまたすぐ付いた既読
今度こそ終わった。折角うまくいきそうだったのに。
待てど暮らせど返事は返ってこなかった。
撮影終わりの別れ際、きっと仕事中なんだよって慰めてくれたけどもう心はブルーで立ち直れそうにもなかった。
家に帰って、携帯が手元にあったら気になって見ちゃうからリビングのテーブルに伏せて置いて考えないようにする。
だけどやっぱり気になっちゃって結局、音が鳴ったら反射的に反応して見ちゃうの繰り返し
ぴろん
貴美ちゃんだっ。
慌ててLINEを開く。
がーんというスタンプが送られてきた。
"楽屋で待機してたら嬉しいスタンプが来たから飛び上がって喜んだのに間違えたって言われたのでがっくりしました。
その後すぐ呼ばれて楽屋を出たのでショックのせいで歌詞間違えちゃいましたよ。"
ぷくっと頬を膨らました顔文字が最後に付いててなんだか可愛らしくて吹き出してしまった。
"なんて。久しぶりの歌収録で緊張してたので力抜けました。ありがとうございます。"
収録だったのか。テレビ放送かな?CDとかかな。
ああ、どうしようもなくこみ上げる想い。
こんなただのファンの域から片足だけ出た位の顔見知り程度の仲なのに愛しくて。
思わずLINEの通話ボタンを押した。
「もっ・・・もしもし?」
「あ、あの月城かなとです」
「こんばんは」
「こんばんは。あの、」
勢いで通話ボタン押しちゃったけど、何話すかとか全然考えてなくて。
なに話そうか懸命に考えてる間に貴美ちゃんの甘い声が包んだ。
「月城さんのいじわる」
「え?」
「翻弄するだけ翻弄して酷い」
冗談まじりに怒ってる貴美ちゃんの声でほぐれていく緊張。
「あれは間違えたんだけど、間違えてなくて。その。」
「何ですかそれ」
上手く言えない私を笑い飛ばしてくれる
「あっあの、今度舞台観に来てくれませんか?」
「いいんですか?是非見たいです」
「もし、あわよくば、出来るならば」
「何ですか」
しどろもどろで中々本題に辿り着けない私にくすくす笑ってる
「終わった後、ご飯・・・とかどうでしょう」
言った。言いましたよ、珠城さん!
「・・・ごめんなさい、ご飯は」
申し訳なさそうな声に沈む心。
ああ、ダメか。そうだよね、
お忙しいだろうし、そんな簡単にご飯ご一緒できる訳なんてないよね。
「・・・なーんて。嘘です。びっくりしました?」
「へ?」
びっくりしすぎて言葉が出てきません。
電話越しではさっき以上にケラケラ笑ってる。
「ちょっといじわるの仕返ししてみました。ご飯も楽しみにしてます」
「はい」
他にもっと言えた事があっただろうに貴美ちゃんの心臓に悪い、可愛すぎる反撃に言葉が見つからなさすぎて固まっていた。
電話を切った後、ソファーで喜びと可愛さに打ちひしがれて悶え苦しんで夜が更けていくのだった。
********
今日は貴美ちゃんが来てくれる日。
「れいこ、気合い入ってるね」
「はい、私服もばっちりです」
お芝居は集中してたから良かったんだけど、ショーの時から気になって気になって仕方がない。
気が抜けた訳じゃないけど、お客様の顔がより見える演出が多いからつい。
こないだの稽古場見学でみんな顔見知りになってるから組のみんなが簡単に近寄れないよう、通路側じゃなくて敢えてど真ん中の席を用意して皆んなを遠ざけるという子供じみた抵抗してみたり。
私は銀橋からウインクしてみたり指差してみたり頑張ってアピールすれば一喜一憂してくれて、すぐに駆け寄って抱き締めてしまいたい衝動を抑えながらの公演となった。
皆んなも触れない距離な分指差しやらアピールが凄かった。
終わってからの今日の私は物凄い勢いで準備して劇場を出る。
「お待たせしました」
「全然。お疲れ様でした。」
待ち合わせて、お待たせ。からの一緒に車まで歩き出すこのデート感がたまらない。
「本当に素敵でした。」
「ありがとうございます。私、実はずっと貴美さんのファンなんです」
お店はちょっと落ち着いたイタリアンの個室を予約しておいた。
食事を始めてしばらくして意を決してファン公言してみた。
「テレビでも言ってくださってるそうですね。噂で聞いてました」
知ってたんだ。
どうしよう。嬉しい。私の好きは届いていた。
ファンとしての好きだけど。
「バースデーカードとかサイン付きで送られるじゃないですか。手書きって大変ですよね」
「よくご存知ですね」
「実はファンクラブ入ってます。本名で」
「えっ、そうなんですか!やだ恥ずかしいです」
私がそこまでの本気ファンだったとは思わなかったようでびっくりした後恥ずかしそうに俯いた。
「じゃあ、月城さんにはこれから特別バージョンで書きますね」
いたずらっ子みたいな笑顔に釣られて顔が緩む。
「嬉しい。私は個人的に送りますねバースデーカード」
「え、それ凄く嬉しいです」
その顔が物凄く可愛くて今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。
お店を出た後、夜景を見に少しドライブへ向かった。
「綺麗」
感嘆のため息をつく貴美さんの横顔が綺麗でそちらに見惚れていた。
「貴美さんの方が綺麗だよ」
「え?」
思わず言ってしまった。
「月城さんの方が綺麗ですよ。あ、男役さんにこんな事言うのは間違ってるかもしれませんが」
「あの、こんなとこでこんな事いうのなんなんですが今度私のフォトブックが発売されるんですがゲストで出ていただけないでしょうか」
「私なんかがいいんでしょうか」
「貴美さんじゃなきゃだめなんです」
「え?」
「あなたじゃなきゃ意味がないんです」
多分あなたは私が中身をよく知らずに好きとかファンとか言ってるんだと思ってるんでしょうけど、人柄は舞台に出るって言いますから。
まず、あなたと共演した上級生から人柄も聞いてます。
いや聞き出したんです。
ずっと紹介を断ってたのはいつかあなたと紹介じゃなく出会いたかったからです。
あと、あなたのインタビュー記事は全部読んでます。
なんなら切り抜いてスクラップしてます、見ますか?
SNSだって毎日チェックしてるんです。
つまり、どんなあなたでも受け止めますから全部でぶつかってきて下さい
つまり全て好きです。
ああ、私のこの想いを全部口に出して言えたらどんなにいいだろう。
「大ファンなので」
「ふふっ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
公私共に彼女を私のものにすべく私の壮大な計画は進行するのだった。
舞台を観に行く事ももちろんあるんだけど、仕事柄中々観に行けない事も多いから発売されたメディア類は必ず買っている。
番組の中でも一番会いたい人だと言い続け、なんならファンクラブに入ってる位大ファン
舞台の上、画面越しの彼女に何度ときめいたか分からない。
今まで卒業された上級生の方々が共演されるたびに紹介しようかと言ってくれたのを断ってきた。
だって会っちゃったらどうしたらいいか分からないもの。
その彼女が、手を伸ばせば掴める所に居る。
「月城さん?」
どうしよう、名前呼ばれちゃった。
心配そうに覗き込まれるけど、ああ、可愛い。
どうしよう上手く声が出ない。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む彼女に首を縦に振る事しかできない私はへたれ
遡る事数時間前
今日は月組社会科見学の日。
貴美ちゃんの出る舞台のお稽古場見学。
決まった日からこの日をどんなに待ちわびたことだろう。
昨日なんてよく眠れなかった。
お稽古風景を観させていただいて、後半はくじ引きで当たった人の選曲で一緒に歌える。
なんて素晴らしい企画なのだろうか。
他のキャストさんとの枠もあるから貴美ちゃんにお願い出来るチャンスは2回
箱の中から一枚の紙が引き抜かれる。
お願い、私でありますように。
「えっと、風間柚乃さん」
「やった!」
拍手とともにガッツポーズで立ち上がる風間
歌合わせをする為別室へ一緒に出ていく背中を羨ましく見つめる。
「れいこ、まだチャンスはあるからさ」
隣の珠城さんに慰められ気持ちを取り直して戻ってきた2人のパフォーマンスを見つめる。
その間にあってた他のキャストさんのパフォーマンスも2人が気になってしまって入ってこなかった。
2人の曲はホールニューワールド
腰に手なんか回しちゃって。ずるい。
見つめる視線が鋭かったみたいで横で珠城さんが苦笑してる。
チャンスはあと一回
貴美ちゃんの手の中の紙、お願い。私でありますように
思わず太ももに置いていた手を祈るように合わせていた。
「月城かなとさん」
「れいこ、やったじゃん!!」
名前を読み上げてこちらを見た貴美ちゃんと目が合った瞬間鷲掴みにされたように苦しくなる胸。
もう周りの人達なんて見えなくて彼女と私だけの世界のように感じた。
願ってやまなかったはずなのにいざそのときが来るとてんで反応もできない。
固まってしまった私に横に座ってる珠城さんが肘でツンツンしてきてはっと我に返った。
「れーいーこー」
「はっ、はいっ」
「緊張し過ぎでしょー」
みんなに笑われながら席を立ち、2人で別室で歌合せに入る。
軽くご挨拶をして、選んだ曲を伝える。
今回二曲で迷ってて、もし奇跡が起きて選ばれたら貴美ちゃんに決めてもらおうと思っていた。
「折角なら二曲どうでしょうか」
「えっ」
「短めの曲ですし」
微笑んで楽譜をiPadで探しだす。
まさか両方なんて選択肢なかったから私の方が慌ててしまう。
それはあまりに贅沢すぎるのでは。
まずは貴美ちゃんの音合わせから。
ピアノで音を取りながら彼女が口を開いた瞬間鳥肌が立った。
「この星のどこか同じ夢を」
選んだ曲は夢はひそかにと扉あけて
楽譜を追いながら歌ってるだけでこんなに凄いなんて。
今度は先生がピアノを弾いて下さり二人で歌う。
一回歌っただけで私と歌合せに入ったんだけど、さっきと全然違う。
楽譜通り歌う。と感情を入れて歌う。こんなに違うものなんだ。
まさにプリンセスそのものだった。
ふりをつけていく時に貴美ちゃんがふと手を挙げた。
「あの、ちょっと憧れてたのがあるんですけど一個提案いいですか」
貴美ちゃんの希望はデュエットダンスの最後みたいな、引き寄せて、くるりと回った貴美ちゃんを腕の中に抱いてバックハグ。
「最後、貴美さんが少し顔を私に向けて見つめあうとよりぽくなりますね」
「わー。どきどきしちゃいますね」
貴美ちゃんの提案にちょっと宝塚っぽさを足してみた。
試しにやってみようとふわっと手を取り引き寄せれば、軽やかにくるりと回って私の腕の中へ。さすが、上手い。
この至近距離で微笑まれて私の心臓はもつんだろうか。
「それなら・・・」
軽やかにやってのけた貴美ちゃんに演出家の方が提案してくださった、より宝塚さ。
それは自分から提案なんてとてもとても畏れ多くてできない事だから私には願ってもない機会なので二つ返事で了承する。
2曲分の練習を終えた私たちはみんながいるお稽古場に戻り、それぞれの少し離れた位置に立つ。
「ねえ、ちょっとおかしな事言ってもいい?」
「そう言うの大好きだ」
曲が流れ始め、このセリフで皆様察したらしく、私のオーバーなにこにこっぷりにみんながかなり笑ってる。
「どこにも出口のない日々が突然に変わりそう」
「僕も同じ事考えてた。だって、どこにも居場所のない日々で探し続けていたこんな人を」
私の所まで駆け寄り私の斜め後ろを寄り添ってステップを踏む
振り返った私が貴美ちゃんの鼻をつんとつつけば、貴美ちゃんは頬に手を当てて恥ずかしがりながら離れていく。
少し離れたところで立ち止まってチラッと私を返り見た貴美ちゃんにありったけの愛を込めてウインクして投げキッスする。
バカップルになっちゃいそうな雰囲気を醸し出すよう、私の思いを最大限に表に出す。
「僕と結婚してくれ」
「もちろん」
跪き、手を差し出して求婚すれば笑顔で手をちょんと乗せてくれる。
拍手に照れながら、この浮足だった気持ちを静めて1曲目の始まりと同じ位置に立つ
「この星のどこか同じ夢を」
「心に描いて永遠を待つよ」
「涙あふれても勇気が導き」
見つめ合いながら一歩ずつ歩み寄る
『いつか必ず出会う』
「私の光」
『愛を信じてる』
一番の終わりに手を取って引き寄せてワルツを踊る。
私のパートは踊りながらだから足を踏んだりしないよう細心の注意を払って。
「あなたを夢見る」
くるっと私から離れて両手を差し出し私を見つめる瞳に、ときめきが止まらなくてこの時が永遠に続けばとさえ思ってしまう。
『いつか必ず出会う』
手を引き寄せ後ろからそっと細い体を抱きしめて
「私の光」
まっすぐ前を見つめてる貴美ちゃんの横顔を覗き込むように見つめる。
『愛を信じてる』
首だけこちらを振り向いた貴美ちゃんと見つめあう。
歌い終わった後頬に手を当てそしてキス
皆んなから黄色い悲鳴が聞こえるけど高揚感に浸っている私。
ああ、今最高に幸せ。
もうあと数ミリで触れれる、柔らかそうな桃色の唇。
今までで一番近い距離のキス。
娘役さん相手でもこんな近くまでしない。
このまま事故のフリしてキスしたいところだけど、プロとして失敗したと思われたくないからぐっと堪える。
貴美ちゃんに聞こえてしまうんじゃないかって位にうるさい鼓動
こんなにキスシーンでドキドキした事ない。
離れ難いけど、そっと離れて手を取ってお辞儀する。
幸せな時間はあっという間で席に戻った私はもう燃え尽きたような気分。
「れいこ、思い切り過ぎじゃない」
「もう死んでもいい。いや、この映像を何回か見るまでは死ねない。いやどうしよう」
「れいこがバグった」
頭を抱えてるとなりで珠城さんは爆笑してる。
もうそこからの記憶はほぼない。
気づけば収録は終わっていた。
かなり間抜けな顔で座ってたんだろう。
収録が終わった後、せっかくなら写真撮ってもらいなよと珠城さんに背中を押されて思い切って声をかけた。
「貴美さん、今日はありがとうございました。あのっ、写真撮って貰ってもいいですか?」
「月城さん、こちらこそありがとうございました。もちろん」
微笑んだ貴美ちゃんは自分の携帯を取り出して、私の行く末を見届けようと自分の座ってた席からこちらを見ていた組子と、私にカメラを向けた。
「んーもうちょっと寄って貰ったら皆さん入りますね」
みんなを画面に収めようと後ろに下がっていく。
ちょっ、ちょっと待って。
「いや、そうじゃないだろ」
「へ?」
貴美ちゃんの後ろを通りかかって、下がってきた彼女にぶつかられた加藤さんがポンと頭に手を乗せた。突っ込んでくれて良かった。まさにそうです、そうじゃなくて
「貴美と一緒に撮ろうって事だろ」
「え?そうなの?」
「はい・・・」
キョトンと私を見つめる貴美ちゃんが鈍感過ぎて、私なんかが入っていいのかなとか加藤さんに真剣な顔して言ってるのも可愛くて私は心の中で大興奮中です。
「はい、俺が撮ってやるから」
「ありがと、かーくん」
そう言って私達の方に小走りで来て私の横に並んだ貴美ちゃん。
こちらに体を傾けてるから近い・・・。
なんとなく流れで皆んなも一緒に入って写真撮ってもらう。
「はい、2人でも撮るんでしょ。シンデレラコンビさん」
本当は2人で撮りたかったなんて我儘言えなくて。
みんなが一緒でも写真撮れて、しかもお隣でなんて幸せだからそれで充分だったんだけど加藤さんが助け舟を出してくださり、2人で写真を撮って貰える事になった。
「最後の2人のポーズが良かったと思うよ」
「じゃあ、折角なので記念に」
もう二度とこんな体験できないもんね、貴重だ。と言いながら手を取ってくれた貴美ちゃんをもう一度合法的に抱きしめる事に成功してしまった。
恥ずかしいけど、幸せ。
みんなまで面白がって自分の携帯で撮ってる。
絶対送ってもらおう。
普通に2人並んだ写真までとって貰ってもう私の心は満たされまくってます。
「後で送ってくださいっ」
「もちろん。」
「連絡先交換しとかないと送れないぞ」
「はっ。そうだ。教えて頂いちゃっていいですか」
加藤さん、あなたは神様ですか。
もう、今日のMVPはあなたです。
「いつもぼけぼけしてるからな、本当」
「ありがとう、お母さん」
本当。お母さんみたい。
貴美ちゃんの連絡先まで教えて貰えちゃうなんて、もう人生の運使い果たしたかも。
どうしよう、どうしよう。
帰ってる途中に画像が送られてきて口元が緩み過ぎて必死に平静を装って帰宅の途に就いた。
****
「はあ」
「どうした、れいこ」
今日は珠城さんとプルミエール撮影の日。
携帯を握りしめてため息をつく私に珠城さんが不思議そうに見つめる。
「はあ」
「だから何なの」
チラッと珠城さんを見て盛大にため息をつく私に苦笑いする珠城さんに携帯の画面を見せた
「これ、こないだの。待ち受けにしたんだ」
この前一緒に撮って貰った2人の写真。
面白がって撮ってた組の皆んなも送ってくれたんだけど、貴美ちゃんが送ってくれた画像を待ち受けにしている。
よく撮れてるねーと呑気に待ち受けを見つめる珠城さん。
もう一度待ち受けを見つめて頭を抱える。
「頭から離れなくて」
「え?」
「四六時中彼女の事考えてるんです」
これが憧れの人に直接会ってしまったからとかならどんなによかっただろう。
あのキスシーンがいけなかったのかもしれない。
あの歌声、私を見つめる瞳、桃色の唇を思い出しては眠れない日々を過ごしている。
あんなに大好きだった舞台のBlu-rayも相手役さんにもやもやを抱いてしまって見れなくなってしまった。
「恋って事?憧れの人に会えたからとかじゃなくて?」
もう完全に恋。力なく首を横に振る。
「どうしたらいいか分からなくなってしまいました」
「それなら距離縮めてかなきゃ。連絡取ってるの?」
「いや」
画像を送ってもらってお礼の返事をした後は連絡取ってない。
連絡すべき!と力説する珠城さんに押されてLINEを開いたけど、やっぱり無理。
だってなんて送ればいいの、お天気いいですねとか?
「やっぱり無理」
「何弱腰になってんの。他の人に取られていいわけ」
「・・・やだ」
扱いづらい後輩を持つと苦労するだろう。
でも、とかいいからとか揉めてる時、すぽんという小さい音が聞こえた。
「あ」
「あーーー」
押してしまったスタンプ。
しかも、投げキッスしている動くスタンプ
嘘でしょ。送信取り消ししようとした瞬間、既読がついた。
終わった・・・。
「れっ・・・れいこ・・・」
一緒に画面を覗き込んでた珠城さんに憐れんだような目を向けられる。
「もう生きていけない」
「弁解すれば大丈夫だって」
ごめんなさい。間違えて押してしまいました
沈んだ気持ちを抑えながら、そう正直に打っている途中に返事がきた。
"この前のお稽古場撮影の月城さんみたいですね"
そのあとすぐこの前のウインクした後の反応みたいにほっぺたに手を当てて照れてる可愛いねこのスタンプがきた。
なんだか上手く誤魔化せそうな気がしてきた。
「よかったじゃん」
「あ」
肩をバシバシ叩かれて、握っていた携帯に手が触れたらしく送られてしまったさっきの書きかけの文
"ごめんなさい。間違えて"
そしてまたすぐ付いた既読
今度こそ終わった。折角うまくいきそうだったのに。
待てど暮らせど返事は返ってこなかった。
撮影終わりの別れ際、きっと仕事中なんだよって慰めてくれたけどもう心はブルーで立ち直れそうにもなかった。
家に帰って、携帯が手元にあったら気になって見ちゃうからリビングのテーブルに伏せて置いて考えないようにする。
だけどやっぱり気になっちゃって結局、音が鳴ったら反射的に反応して見ちゃうの繰り返し
ぴろん
貴美ちゃんだっ。
慌ててLINEを開く。
がーんというスタンプが送られてきた。
"楽屋で待機してたら嬉しいスタンプが来たから飛び上がって喜んだのに間違えたって言われたのでがっくりしました。
その後すぐ呼ばれて楽屋を出たのでショックのせいで歌詞間違えちゃいましたよ。"
ぷくっと頬を膨らました顔文字が最後に付いててなんだか可愛らしくて吹き出してしまった。
"なんて。久しぶりの歌収録で緊張してたので力抜けました。ありがとうございます。"
収録だったのか。テレビ放送かな?CDとかかな。
ああ、どうしようもなくこみ上げる想い。
こんなただのファンの域から片足だけ出た位の顔見知り程度の仲なのに愛しくて。
思わずLINEの通話ボタンを押した。
「もっ・・・もしもし?」
「あ、あの月城かなとです」
「こんばんは」
「こんばんは。あの、」
勢いで通話ボタン押しちゃったけど、何話すかとか全然考えてなくて。
なに話そうか懸命に考えてる間に貴美ちゃんの甘い声が包んだ。
「月城さんのいじわる」
「え?」
「翻弄するだけ翻弄して酷い」
冗談まじりに怒ってる貴美ちゃんの声でほぐれていく緊張。
「あれは間違えたんだけど、間違えてなくて。その。」
「何ですかそれ」
上手く言えない私を笑い飛ばしてくれる
「あっあの、今度舞台観に来てくれませんか?」
「いいんですか?是非見たいです」
「もし、あわよくば、出来るならば」
「何ですか」
しどろもどろで中々本題に辿り着けない私にくすくす笑ってる
「終わった後、ご飯・・・とかどうでしょう」
言った。言いましたよ、珠城さん!
「・・・ごめんなさい、ご飯は」
申し訳なさそうな声に沈む心。
ああ、ダメか。そうだよね、
お忙しいだろうし、そんな簡単にご飯ご一緒できる訳なんてないよね。
「・・・なーんて。嘘です。びっくりしました?」
「へ?」
びっくりしすぎて言葉が出てきません。
電話越しではさっき以上にケラケラ笑ってる。
「ちょっといじわるの仕返ししてみました。ご飯も楽しみにしてます」
「はい」
他にもっと言えた事があっただろうに貴美ちゃんの心臓に悪い、可愛すぎる反撃に言葉が見つからなさすぎて固まっていた。
電話を切った後、ソファーで喜びと可愛さに打ちひしがれて悶え苦しんで夜が更けていくのだった。
********
今日は貴美ちゃんが来てくれる日。
「れいこ、気合い入ってるね」
「はい、私服もばっちりです」
お芝居は集中してたから良かったんだけど、ショーの時から気になって気になって仕方がない。
気が抜けた訳じゃないけど、お客様の顔がより見える演出が多いからつい。
こないだの稽古場見学でみんな顔見知りになってるから組のみんなが簡単に近寄れないよう、通路側じゃなくて敢えてど真ん中の席を用意して皆んなを遠ざけるという子供じみた抵抗してみたり。
私は銀橋からウインクしてみたり指差してみたり頑張ってアピールすれば一喜一憂してくれて、すぐに駆け寄って抱き締めてしまいたい衝動を抑えながらの公演となった。
皆んなも触れない距離な分指差しやらアピールが凄かった。
終わってからの今日の私は物凄い勢いで準備して劇場を出る。
「お待たせしました」
「全然。お疲れ様でした。」
待ち合わせて、お待たせ。からの一緒に車まで歩き出すこのデート感がたまらない。
「本当に素敵でした。」
「ありがとうございます。私、実はずっと貴美さんのファンなんです」
お店はちょっと落ち着いたイタリアンの個室を予約しておいた。
食事を始めてしばらくして意を決してファン公言してみた。
「テレビでも言ってくださってるそうですね。噂で聞いてました」
知ってたんだ。
どうしよう。嬉しい。私の好きは届いていた。
ファンとしての好きだけど。
「バースデーカードとかサイン付きで送られるじゃないですか。手書きって大変ですよね」
「よくご存知ですね」
「実はファンクラブ入ってます。本名で」
「えっ、そうなんですか!やだ恥ずかしいです」
私がそこまでの本気ファンだったとは思わなかったようでびっくりした後恥ずかしそうに俯いた。
「じゃあ、月城さんにはこれから特別バージョンで書きますね」
いたずらっ子みたいな笑顔に釣られて顔が緩む。
「嬉しい。私は個人的に送りますねバースデーカード」
「え、それ凄く嬉しいです」
その顔が物凄く可愛くて今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。
お店を出た後、夜景を見に少しドライブへ向かった。
「綺麗」
感嘆のため息をつく貴美さんの横顔が綺麗でそちらに見惚れていた。
「貴美さんの方が綺麗だよ」
「え?」
思わず言ってしまった。
「月城さんの方が綺麗ですよ。あ、男役さんにこんな事言うのは間違ってるかもしれませんが」
「あの、こんなとこでこんな事いうのなんなんですが今度私のフォトブックが発売されるんですがゲストで出ていただけないでしょうか」
「私なんかがいいんでしょうか」
「貴美さんじゃなきゃだめなんです」
「え?」
「あなたじゃなきゃ意味がないんです」
多分あなたは私が中身をよく知らずに好きとかファンとか言ってるんだと思ってるんでしょうけど、人柄は舞台に出るって言いますから。
まず、あなたと共演した上級生から人柄も聞いてます。
いや聞き出したんです。
ずっと紹介を断ってたのはいつかあなたと紹介じゃなく出会いたかったからです。
あと、あなたのインタビュー記事は全部読んでます。
なんなら切り抜いてスクラップしてます、見ますか?
SNSだって毎日チェックしてるんです。
つまり、どんなあなたでも受け止めますから全部でぶつかってきて下さい
つまり全て好きです。
ああ、私のこの想いを全部口に出して言えたらどんなにいいだろう。
「大ファンなので」
「ふふっ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
公私共に彼女を私のものにすべく私の壮大な計画は進行するのだった。