F.NOZOMI
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
貴美ちゃんと出会って3ヶ月程
当たり前なんだけど、ここの教室でしか会ったことなくて。
もっと違う顔も、普段の姿を見てみたいだなんて貪欲な自分が顔を出し始めている。
今日も公演終わりに立ち寄って教室にお邪魔していた。
教室が終わる時間に間に合った時はお邪魔してちょっとお話しして帰るのが楽しみで。
なんて事ない話を飽きもせず聞いてもらうこの時間が私の癒しになっていた。
「あのさ」
思い切りすぎて思いの外大きな声が出たものだから何事かと見つめられる。
「もうすぐ、大劇場千秋楽を迎えて東京公演に行くの」
「そうなんですか。じゃあしばらく会えないんですね、寂しくなりますね」
そうか、と眉を下げて呟く姿に寂しかった気持ちが簡単に嬉しさに変わる。
会えなくて寂しいと思ってくれるの?
彼女の一挙一動で心が揺さぶられる。
本当は大劇場公演を見てもらいたかったんだけど、出会った頃にはもう私の手元にはチケットなくて。
旅行がてら東京公演観劇とかどうだろうなんて大胆なお誘いをしようとしていた。
できれば休演日前に来てもらって、休演日お出かけできたらなんて。あまりに踏み込みすぎかな。
「東京は行けないんです、ごめんなさい」
答えはNO。そうだよね、遠いしね。
教室の生徒になりたいと言った時と同じで、何となく2回目フラれたような感覚に陥っていた。
でも公演は見てみたいからいつか大劇場でと言ってくれたけど、次公演に向けてお稽古はあるけど観てもらえるのはまだまだ先の話になる。
「じゃあさ、こっちに戻ってきたら一緒に観に行こうよ」
「いいんですか」
戻ってくる頃には月組公演があってるはず。
観劇して、お茶でもして、それはそれで楽しそう。
先の約束ってなんかワクワクしちゃうんだよね。
*********
「ねえ、今日うちで宝塚鑑賞会しようよ」
「あやさんの家でですか?」
「うん。」
こないだあっさり振られたのけど、東京にいく前にもう少し距離を縮めたいなと思っていた。
まあ、好きだと言ってないし嫌いだとも言われてないから振られたうちには入らないんだろうけど。
教室内の話し相手からせめて外で会える位のレベル、友達になりたい。
最近教室の生徒さんの影響で宝塚に興味を持ってくれてるらしいからもっと知ってもらいたいし、明日は教室お休みだって聞いたから誘ってみた。
いきなりお泊まりとか微妙かなと思ったけど鑑賞会だし、時間を気にせずに宝塚を楽しんでもらいたいなんて色々自分の中で理由をつけて。
夜ご飯とおつまみを調達しにスーパーへ立ち寄ったのは良かったのだけど、優柔不断な私たちは献立を決めかねてスーパー内を二周目に突入しようとしていた。
「んー。何がいいですかねー」
携帯片手にカートを押しながら真剣に悩む貴美ちゃんを横目で見ながら、この普通がとっても幸せに感じて何だか顔が緩んでしまう。ああ、どうしよう本当に
「すき」
「すき?」
「すき・・・やき食べたいなー」
「じゃあすき焼きにしましょうか」
思わず心の声が出てしまったのを誤魔化す。
誤魔化せてたのかな、私。
もんもんとしてたらじゃあまずお肉からと微笑んでお肉コーナーへと向かう貴美ちゃんに置いていかれてしまって慌てて後をついていく。
無事食材を買い込んだ私達はどちらが買い物袋を持つかで揉めて、両者一歩も譲らなかったので結果2人で半分ずつ持ち手を持つ事で決着がついた。
もう全てが恋人同士みたいで堪らない。
緩みそうになる顔を引き締めて貴美ちゃんの横顔を盗み見ながら歩いた。
「おじゃましまーす」
きょろきょろと興味深げに部屋の中を見ながら進む貴美ちゃんをリビングへ案内する。取り敢えずお風呂入って夜ご飯食べて観賞会かな・・・。
「先にお風呂どうぞ。」
お泊まりが決まった時、いっぱい支度しなきゃと言い出したから、全部貸してあげるから着替えだけ持ってそのまま行こうと半ば強引に拉致してきたので帰ってから色々引っ張り出してお風呂へ見送る。
お借りしますとタオルをぎゅっと抱きしめてお風呂場へ行くその後ろ姿がなんだか可愛くて。私はすき焼きの準備。
私のスエットを着て恥ずかしそうにリビングに戻ってきたのだけど着せられてる感満載で笑ってしまった。
髪から私と同じシャンプーの香りが漂ってなんだか独占欲をくすぐる。すっぴんでも可愛いな、としみじみ見つめてしまってたらあんまり見ないでと逃げられてしまった。
その後、お風呂から戻ってきたら私の方がすっぴん綺麗だとじっくり見られ、あまりの距離の近さに私の方がドキドキさせられるという恥ずかしい目にあったのだけど。
「美味しいワインいただいたの」
ご飯食べ終わってリビングのローテーブルに移動した私達。
こないだ頂いたワインがあったから、おつまみを摘みながら観たいと思ってチーズとか買ってきたんだけど私がシャワー浴びてる間に色々おしゃれなおつまみまで作ってもらっちゃった。美味しそう。
棚に沢山並んだブルーレイ達、観たいもの選んでていいよと伝えてお風呂に入って戻ってくればテレビの前のローテーブルの上には何個かブルーレイが置いてあった。全部私が出てるやつじゃん。
「あやさんのが観たいです」
「恥ずかしいからだめ。今日は今度観に行く月組さんの事を予習ね」
「んー。じゃあ、あやさんのは会えない間に家で1人で観ます。」
今度キャトルレーヴに買いに行くからいいです、と膨れっ面で可愛い事言ってくれちゃって。
貸し出ししますから買わなくていいです。
宣伝部長としては買ってもらいたいとこなんだけど、貸すって事はまた来てもらう口実が出来るもん。つくづく邪な理由だなと自分でも思うけど。
月組さんのブルーレイをセットして貴美ちゃんの横に座り、肩を並べて鑑賞会の開始。私の解説付き鑑賞会はお酒も進んで気付けば貴美ちゃんの肩を借りて寝てしまってた。
目が覚めた時、もうショーも中詰めあたり。横の貴美ちゃんをチラッと見れば真剣に観てて、うっかり寝てしまった事申し訳なく思った。貴美ちゃんにも、月組のみんなにも。
「あれ?起きました?」
「ん、ごめん寝ちゃってた」
「寝顔も綺麗なんですね、思わずキスしちゃいそうになりましたよ」
こちらに顔を向けて微笑む貴美ちゃん。
なっ何急に。確かにキスできそうな距離感だけど。
私は思いもよらない言葉に一気に目が覚めて、飛び起きた。
言葉の意味を噛み締めた頃には自分で分かるくらい顔が真っ赤になってた。え、キスされても良かったよ私。ってなんて事を考えてるの
「ってさっき月城かなとさんがおっしゃってました」
へ?体育座りしたままにこにこと続ける貴美ちゃん。劇中のセリフって事?
「あなたのそう言ってる顔の方が綺麗ですよーって感じですよね。」
ふふっと画面を見ながら緩い喋り方しながら微笑む感じ酔ってたりするのかな。
え、まさかれいこちゃんに惚れたとか。良く考えれば自分の方を向いて欲しいと思ってる子に他の男の映像を見せるお馬鹿さんがいるかって感じだよね。ここに居ますけど。
恥ずかしさを我慢して私の映像見てもらって惚れてもらうべきだった?でももっと宝塚を好きになって欲しくて、だから・・・
「あやさん、大丈夫?」
ぐるぐると後悔の念に駆られていたら、貴美ちゃんが手を伸ばして私の頬に手を当てる。
お酒のせいか目も潤んでて何だか色っぽい声、初めて敬語じゃない喋り方にドキッとして反応するのが遅れた。
気づいた時には貴美ちゃんの顔が目の前にあって、もしかしてほんとにキスされる?ギュッと目を瞑った。
「お熱は無さそうですね」
「だっ・・・大丈夫。ありがと」
おでこに温かい感触。
そっと目を開ければ安心したような顔の貴美ちゃん。
真っ赤な私を見てブランケットもかけずに寝ちゃったから風邪ひいたんじゃないかと心配してくれたようでおでこをくっつけて熱がないかチェックされただけ。
ピアノ教室の子供達と同じ感覚で見られてないかな、私。
その後はちゃんとフィナーレまでちゃんと見たけど心ここに在らずだったのは間違いない。
「そろそろ寝よっか。貴美ちゃんベット使ってね」
「いえ、泊めていただく私がソファーで寝ます」
「だめ。お客さんをソファーになんて寝せられない」
なんて攻防戦の結果、一緒にベットで寝ようって事で決着がついた。ダブルベットだから、2人横に並んでも全然余裕なんけどなんだかくっつきすぎるのも、変に離れるのも違うかなと思って距離感を考えあぐねていた。
「あやさん、私寝相悪いからあやさんに迷惑かけちゃうかも」
「落っこちちゃうよ、こっちおいで」
すっと離れて端っこの方にいる貴美ちゃんを体ごと引き寄せてまん中まで連れてくる。
「何だかドキドキしちゃいますね。お泊まりとか社会人になってから全然なかったな」
天井を見たまましみじみと話す貴美ちゃんの話に耳を傾ける。
「私も久しぶり。泊まりに来てくれてありがとう」
「泊めてくれてありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみ」
この夜、私はトイレに起きてベットに戻った後寝ぼけて貴美ちゃんを抱きすくめて再び眠りにつくという大胆不敵な行動に出ていたらしく、目が覚めたら目の前には貴美ちゃんの後頭部。
まだ外は暗いからまだ起きなくていいな、とぼーっとサラサラの髪に顔を埋め、更にぎゅっと抱きしめてああ、細い体してるなぁ・・・って思わず撫で回しそうになったとこで私の腕が緩んだ隙に貴美ちゃんが寝返りをうってこちらを向いたのでぱっと目が覚めた。やばっ、何してるの私変態みたい。
こちらを向いた貴美ちゃんの目はまだ閉じたままで規則正しい寝息が聞こえるので目覚めてなさそうだから良かった。
まつ毛長いな。唇ぷるぷる
「あや・・・さん」
薄く開いた唇から零れた言葉。
ぐっ。ずるい。ずるい、ずるいよ。私の夢見てるの?
思わずそっとその唇に触れてしまったのは私だけの秘密。
どうしよう、触れちゃったよ。
その唇を見つめて自分の行動に呆然としてしまった。柔らかかったな。
その感触を思い出すように自分の唇にそっと手を当てた。
もうドキドキして眠れる訳ないと思っていたけど、あっさり眠りについたらしい私が目が覚めたら隣にいるはずの人が居なかった。
部屋の時計を見ればまだ9時を少し過ぎたところ。
キッチンの方からする何か焼いてる音といい匂いに釣られてふらふらと扉を開けた。
扉の開く音に気づいたらしく、フライパン片手に振り返り、おはようございますとにこりと微笑んだ貴美ちゃん。
「勝手にキッチン借りちゃいました」
世の旦那さんってこんな気持ちなんだな。
朝がこんなに愛おしくなるなんて思いもしなかった。
こんな可愛いお嫁さんがいたら毎日幸せ。全然キッチンでも何でも使って下さい。
むしろ毎日使っていただいてもいいんですけど、なんて霞がかった頭の中でまたおかしなこと考えながらキッチンの貴美ちゃんのところまでそのままふらふらと歩いていき後ろから抱きついて肩に顎を乗せた。
「あやさん、寝ぼけてるでしょ」
「そんな事ないよ」
そう言ったものの、やっぱりちょっと眠くてぐてっと体重をかけてもたれかかる私にくすっと笑った貴美ちゃんが身を捩って私の髪に手を伸ばした。
「ふふっ。寝癖、かわいい」
向かい合った私達、混じり合う視線。
思わずその手を掴んで顔を近づけた
ピーッピーッ
「あっ。パンが焼けたみたいですね」
オーブンの音とともに甘い時間はあっさりと終わりを告げた。
あれ、この流れはキスする流れだったのでは?今の完全にカップルのラブラブな朝的雰囲気だったよね。
あっさり私の腕を離れてオーブンの様子を見に行く姿を呆然と見つめる。
「あやさん、朝ご飯にしましょうか」
オーブンを開いて焼き具合を確かめながら微笑む。
うん、せっかく作ってくれたご飯が冷めたら申し訳ない。・・・でも。
「もうちょっと一緒に寝てほしい」
「へ?」
腕を掴んで寝室へ舞い戻り、再び貴美ちゃんを抱き枕にしたところで私の瞼は開く力を失った。
「本当にごめん」
「だから気にしなくていいんですって。私も二度寝しちゃいましたし」
次に目覚めたら14時。やってしまった。
私の腕の中でじっと見つめてる貴美ちゃんと目が合ってじわじわと覚醒した。どんだけ爆睡してるのよ私。
お昼とも言えない時間になってしまったし、せっかく作ってくれた朝ご飯が冷めてしまったのも申し訳なくて。
しょんぼりしてしまった私に貴美ちゃんは申し訳ないと思うのならまたいつかこうやって観賞会してくれればと言ってくれた。何ていい子なの。いつでもします。
東京へ行く前のゆっくりできる最後のお休みは充電満タンになって終わっていくのだった。
*********
「そんなの唇奪っちゃうべきでしたよ!」
「え?そういうもの?」
「そうですよ!それは向こうからのキスしてもいいよアピールだったんじゃないですか」
大休憩中、咲ちゃんにお休みの一件を相談したら肉食系なお答えをいただきました。
そうなの?私が鈍すぎるの?キスしそうになったって言われたあの時、私からするべきだったのかな。
いや、朝方にしちゃったはしちゃったんだけど。
絶対本人には言えないけど。
「じゃあ何もせずに帰しちゃったんですか?」
「うん・・・まあ、してない訳ではないけど」
「まさか!その先しちゃったとか」
「そっそんな訳ないでしょっ」
こんなとこでそんな事言わないでよっ。
恥ずかしいよっ。咲ちゃんを諫めれば小声で問い詰められる。
「だってベッドで朝を一緒に迎えて何もなかったはあり得ないです」
「そうなの?だって付き合ってもないんだよ」
「のぞ様が真面目すぎるんです」
いや。充分まじめな咲ちゃんに言われるとなんか居た堪れない。
「もしくは、その子の事そう好きでもないか」
「それはない」
きっぱりと言い切った後にそうでしょう?と優しく微笑んだ咲ちゃんを見て鎌かけられたんだと悟った。
好きすぎて手を出せないとか順番とか私らしいけど、そういう子は気づかないうちに誘惑して相手を本気にさせちゃうタイプですね。と脅しをかけられる。
確かに結構距離近かったのになんて事ない感じだった。私が意識されてなさすぎるだけなのかもしれないけど。
咲ちゃんの言葉が妙に納得できてしまって私の焦りを他所に時間は待ってくれないから東京公演までの時間は刻一刻と迫っていた。
.
当たり前なんだけど、ここの教室でしか会ったことなくて。
もっと違う顔も、普段の姿を見てみたいだなんて貪欲な自分が顔を出し始めている。
今日も公演終わりに立ち寄って教室にお邪魔していた。
教室が終わる時間に間に合った時はお邪魔してちょっとお話しして帰るのが楽しみで。
なんて事ない話を飽きもせず聞いてもらうこの時間が私の癒しになっていた。
「あのさ」
思い切りすぎて思いの外大きな声が出たものだから何事かと見つめられる。
「もうすぐ、大劇場千秋楽を迎えて東京公演に行くの」
「そうなんですか。じゃあしばらく会えないんですね、寂しくなりますね」
そうか、と眉を下げて呟く姿に寂しかった気持ちが簡単に嬉しさに変わる。
会えなくて寂しいと思ってくれるの?
彼女の一挙一動で心が揺さぶられる。
本当は大劇場公演を見てもらいたかったんだけど、出会った頃にはもう私の手元にはチケットなくて。
旅行がてら東京公演観劇とかどうだろうなんて大胆なお誘いをしようとしていた。
できれば休演日前に来てもらって、休演日お出かけできたらなんて。あまりに踏み込みすぎかな。
「東京は行けないんです、ごめんなさい」
答えはNO。そうだよね、遠いしね。
教室の生徒になりたいと言った時と同じで、何となく2回目フラれたような感覚に陥っていた。
でも公演は見てみたいからいつか大劇場でと言ってくれたけど、次公演に向けてお稽古はあるけど観てもらえるのはまだまだ先の話になる。
「じゃあさ、こっちに戻ってきたら一緒に観に行こうよ」
「いいんですか」
戻ってくる頃には月組公演があってるはず。
観劇して、お茶でもして、それはそれで楽しそう。
先の約束ってなんかワクワクしちゃうんだよね。
*********
「ねえ、今日うちで宝塚鑑賞会しようよ」
「あやさんの家でですか?」
「うん。」
こないだあっさり振られたのけど、東京にいく前にもう少し距離を縮めたいなと思っていた。
まあ、好きだと言ってないし嫌いだとも言われてないから振られたうちには入らないんだろうけど。
教室内の話し相手からせめて外で会える位のレベル、友達になりたい。
最近教室の生徒さんの影響で宝塚に興味を持ってくれてるらしいからもっと知ってもらいたいし、明日は教室お休みだって聞いたから誘ってみた。
いきなりお泊まりとか微妙かなと思ったけど鑑賞会だし、時間を気にせずに宝塚を楽しんでもらいたいなんて色々自分の中で理由をつけて。
夜ご飯とおつまみを調達しにスーパーへ立ち寄ったのは良かったのだけど、優柔不断な私たちは献立を決めかねてスーパー内を二周目に突入しようとしていた。
「んー。何がいいですかねー」
携帯片手にカートを押しながら真剣に悩む貴美ちゃんを横目で見ながら、この普通がとっても幸せに感じて何だか顔が緩んでしまう。ああ、どうしよう本当に
「すき」
「すき?」
「すき・・・やき食べたいなー」
「じゃあすき焼きにしましょうか」
思わず心の声が出てしまったのを誤魔化す。
誤魔化せてたのかな、私。
もんもんとしてたらじゃあまずお肉からと微笑んでお肉コーナーへと向かう貴美ちゃんに置いていかれてしまって慌てて後をついていく。
無事食材を買い込んだ私達はどちらが買い物袋を持つかで揉めて、両者一歩も譲らなかったので結果2人で半分ずつ持ち手を持つ事で決着がついた。
もう全てが恋人同士みたいで堪らない。
緩みそうになる顔を引き締めて貴美ちゃんの横顔を盗み見ながら歩いた。
「おじゃましまーす」
きょろきょろと興味深げに部屋の中を見ながら進む貴美ちゃんをリビングへ案内する。取り敢えずお風呂入って夜ご飯食べて観賞会かな・・・。
「先にお風呂どうぞ。」
お泊まりが決まった時、いっぱい支度しなきゃと言い出したから、全部貸してあげるから着替えだけ持ってそのまま行こうと半ば強引に拉致してきたので帰ってから色々引っ張り出してお風呂へ見送る。
お借りしますとタオルをぎゅっと抱きしめてお風呂場へ行くその後ろ姿がなんだか可愛くて。私はすき焼きの準備。
私のスエットを着て恥ずかしそうにリビングに戻ってきたのだけど着せられてる感満載で笑ってしまった。
髪から私と同じシャンプーの香りが漂ってなんだか独占欲をくすぐる。すっぴんでも可愛いな、としみじみ見つめてしまってたらあんまり見ないでと逃げられてしまった。
その後、お風呂から戻ってきたら私の方がすっぴん綺麗だとじっくり見られ、あまりの距離の近さに私の方がドキドキさせられるという恥ずかしい目にあったのだけど。
「美味しいワインいただいたの」
ご飯食べ終わってリビングのローテーブルに移動した私達。
こないだ頂いたワインがあったから、おつまみを摘みながら観たいと思ってチーズとか買ってきたんだけど私がシャワー浴びてる間に色々おしゃれなおつまみまで作ってもらっちゃった。美味しそう。
棚に沢山並んだブルーレイ達、観たいもの選んでていいよと伝えてお風呂に入って戻ってくればテレビの前のローテーブルの上には何個かブルーレイが置いてあった。全部私が出てるやつじゃん。
「あやさんのが観たいです」
「恥ずかしいからだめ。今日は今度観に行く月組さんの事を予習ね」
「んー。じゃあ、あやさんのは会えない間に家で1人で観ます。」
今度キャトルレーヴに買いに行くからいいです、と膨れっ面で可愛い事言ってくれちゃって。
貸し出ししますから買わなくていいです。
宣伝部長としては買ってもらいたいとこなんだけど、貸すって事はまた来てもらう口実が出来るもん。つくづく邪な理由だなと自分でも思うけど。
月組さんのブルーレイをセットして貴美ちゃんの横に座り、肩を並べて鑑賞会の開始。私の解説付き鑑賞会はお酒も進んで気付けば貴美ちゃんの肩を借りて寝てしまってた。
目が覚めた時、もうショーも中詰めあたり。横の貴美ちゃんをチラッと見れば真剣に観てて、うっかり寝てしまった事申し訳なく思った。貴美ちゃんにも、月組のみんなにも。
「あれ?起きました?」
「ん、ごめん寝ちゃってた」
「寝顔も綺麗なんですね、思わずキスしちゃいそうになりましたよ」
こちらに顔を向けて微笑む貴美ちゃん。
なっ何急に。確かにキスできそうな距離感だけど。
私は思いもよらない言葉に一気に目が覚めて、飛び起きた。
言葉の意味を噛み締めた頃には自分で分かるくらい顔が真っ赤になってた。え、キスされても良かったよ私。ってなんて事を考えてるの
「ってさっき月城かなとさんがおっしゃってました」
へ?体育座りしたままにこにこと続ける貴美ちゃん。劇中のセリフって事?
「あなたのそう言ってる顔の方が綺麗ですよーって感じですよね。」
ふふっと画面を見ながら緩い喋り方しながら微笑む感じ酔ってたりするのかな。
え、まさかれいこちゃんに惚れたとか。良く考えれば自分の方を向いて欲しいと思ってる子に他の男の映像を見せるお馬鹿さんがいるかって感じだよね。ここに居ますけど。
恥ずかしさを我慢して私の映像見てもらって惚れてもらうべきだった?でももっと宝塚を好きになって欲しくて、だから・・・
「あやさん、大丈夫?」
ぐるぐると後悔の念に駆られていたら、貴美ちゃんが手を伸ばして私の頬に手を当てる。
お酒のせいか目も潤んでて何だか色っぽい声、初めて敬語じゃない喋り方にドキッとして反応するのが遅れた。
気づいた時には貴美ちゃんの顔が目の前にあって、もしかしてほんとにキスされる?ギュッと目を瞑った。
「お熱は無さそうですね」
「だっ・・・大丈夫。ありがと」
おでこに温かい感触。
そっと目を開ければ安心したような顔の貴美ちゃん。
真っ赤な私を見てブランケットもかけずに寝ちゃったから風邪ひいたんじゃないかと心配してくれたようでおでこをくっつけて熱がないかチェックされただけ。
ピアノ教室の子供達と同じ感覚で見られてないかな、私。
その後はちゃんとフィナーレまでちゃんと見たけど心ここに在らずだったのは間違いない。
「そろそろ寝よっか。貴美ちゃんベット使ってね」
「いえ、泊めていただく私がソファーで寝ます」
「だめ。お客さんをソファーになんて寝せられない」
なんて攻防戦の結果、一緒にベットで寝ようって事で決着がついた。ダブルベットだから、2人横に並んでも全然余裕なんけどなんだかくっつきすぎるのも、変に離れるのも違うかなと思って距離感を考えあぐねていた。
「あやさん、私寝相悪いからあやさんに迷惑かけちゃうかも」
「落っこちちゃうよ、こっちおいで」
すっと離れて端っこの方にいる貴美ちゃんを体ごと引き寄せてまん中まで連れてくる。
「何だかドキドキしちゃいますね。お泊まりとか社会人になってから全然なかったな」
天井を見たまましみじみと話す貴美ちゃんの話に耳を傾ける。
「私も久しぶり。泊まりに来てくれてありがとう」
「泊めてくれてありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみ」
この夜、私はトイレに起きてベットに戻った後寝ぼけて貴美ちゃんを抱きすくめて再び眠りにつくという大胆不敵な行動に出ていたらしく、目が覚めたら目の前には貴美ちゃんの後頭部。
まだ外は暗いからまだ起きなくていいな、とぼーっとサラサラの髪に顔を埋め、更にぎゅっと抱きしめてああ、細い体してるなぁ・・・って思わず撫で回しそうになったとこで私の腕が緩んだ隙に貴美ちゃんが寝返りをうってこちらを向いたのでぱっと目が覚めた。やばっ、何してるの私変態みたい。
こちらを向いた貴美ちゃんの目はまだ閉じたままで規則正しい寝息が聞こえるので目覚めてなさそうだから良かった。
まつ毛長いな。唇ぷるぷる
「あや・・・さん」
薄く開いた唇から零れた言葉。
ぐっ。ずるい。ずるい、ずるいよ。私の夢見てるの?
思わずそっとその唇に触れてしまったのは私だけの秘密。
どうしよう、触れちゃったよ。
その唇を見つめて自分の行動に呆然としてしまった。柔らかかったな。
その感触を思い出すように自分の唇にそっと手を当てた。
もうドキドキして眠れる訳ないと思っていたけど、あっさり眠りについたらしい私が目が覚めたら隣にいるはずの人が居なかった。
部屋の時計を見ればまだ9時を少し過ぎたところ。
キッチンの方からする何か焼いてる音といい匂いに釣られてふらふらと扉を開けた。
扉の開く音に気づいたらしく、フライパン片手に振り返り、おはようございますとにこりと微笑んだ貴美ちゃん。
「勝手にキッチン借りちゃいました」
世の旦那さんってこんな気持ちなんだな。
朝がこんなに愛おしくなるなんて思いもしなかった。
こんな可愛いお嫁さんがいたら毎日幸せ。全然キッチンでも何でも使って下さい。
むしろ毎日使っていただいてもいいんですけど、なんて霞がかった頭の中でまたおかしなこと考えながらキッチンの貴美ちゃんのところまでそのままふらふらと歩いていき後ろから抱きついて肩に顎を乗せた。
「あやさん、寝ぼけてるでしょ」
「そんな事ないよ」
そう言ったものの、やっぱりちょっと眠くてぐてっと体重をかけてもたれかかる私にくすっと笑った貴美ちゃんが身を捩って私の髪に手を伸ばした。
「ふふっ。寝癖、かわいい」
向かい合った私達、混じり合う視線。
思わずその手を掴んで顔を近づけた
ピーッピーッ
「あっ。パンが焼けたみたいですね」
オーブンの音とともに甘い時間はあっさりと終わりを告げた。
あれ、この流れはキスする流れだったのでは?今の完全にカップルのラブラブな朝的雰囲気だったよね。
あっさり私の腕を離れてオーブンの様子を見に行く姿を呆然と見つめる。
「あやさん、朝ご飯にしましょうか」
オーブンを開いて焼き具合を確かめながら微笑む。
うん、せっかく作ってくれたご飯が冷めたら申し訳ない。・・・でも。
「もうちょっと一緒に寝てほしい」
「へ?」
腕を掴んで寝室へ舞い戻り、再び貴美ちゃんを抱き枕にしたところで私の瞼は開く力を失った。
「本当にごめん」
「だから気にしなくていいんですって。私も二度寝しちゃいましたし」
次に目覚めたら14時。やってしまった。
私の腕の中でじっと見つめてる貴美ちゃんと目が合ってじわじわと覚醒した。どんだけ爆睡してるのよ私。
お昼とも言えない時間になってしまったし、せっかく作ってくれた朝ご飯が冷めてしまったのも申し訳なくて。
しょんぼりしてしまった私に貴美ちゃんは申し訳ないと思うのならまたいつかこうやって観賞会してくれればと言ってくれた。何ていい子なの。いつでもします。
東京へ行く前のゆっくりできる最後のお休みは充電満タンになって終わっていくのだった。
*********
「そんなの唇奪っちゃうべきでしたよ!」
「え?そういうもの?」
「そうですよ!それは向こうからのキスしてもいいよアピールだったんじゃないですか」
大休憩中、咲ちゃんにお休みの一件を相談したら肉食系なお答えをいただきました。
そうなの?私が鈍すぎるの?キスしそうになったって言われたあの時、私からするべきだったのかな。
いや、朝方にしちゃったはしちゃったんだけど。
絶対本人には言えないけど。
「じゃあ何もせずに帰しちゃったんですか?」
「うん・・・まあ、してない訳ではないけど」
「まさか!その先しちゃったとか」
「そっそんな訳ないでしょっ」
こんなとこでそんな事言わないでよっ。
恥ずかしいよっ。咲ちゃんを諫めれば小声で問い詰められる。
「だってベッドで朝を一緒に迎えて何もなかったはあり得ないです」
「そうなの?だって付き合ってもないんだよ」
「のぞ様が真面目すぎるんです」
いや。充分まじめな咲ちゃんに言われるとなんか居た堪れない。
「もしくは、その子の事そう好きでもないか」
「それはない」
きっぱりと言い切った後にそうでしょう?と優しく微笑んだ咲ちゃんを見て鎌かけられたんだと悟った。
好きすぎて手を出せないとか順番とか私らしいけど、そういう子は気づかないうちに誘惑して相手を本気にさせちゃうタイプですね。と脅しをかけられる。
確かに結構距離近かったのになんて事ない感じだった。私が意識されてなさすぎるだけなのかもしれないけど。
咲ちゃんの言葉が妙に納得できてしまって私の焦りを他所に時間は待ってくれないから東京公演までの時間は刻一刻と迫っていた。
.