K.TUKISHIRO
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こっちにおいでー。
可愛いー
「あっ・・・あのっ。」
ねえ、これどうかな?
「いいと思います。」
貴美さん、これって。
「それはね、ここをこうして」
貴美ちゃん。重そうだね持ってあげるよ
「ありがとうございます。でも大丈夫です。公演中に怪我とかしたら大変ですし。」
ねー、貴美ちゃん
これさー、貴美
はい。
皆さん貴美ちゃんに頼りすぎではないですか?そして近い。
いつも次から次へと色んな人に話しかけられてる貴美ちゃん。
花組から組み替えしてきた、ひとこの同期。
可愛いけど、物静か。
はっきり自分の気持ちを言ってるところを見たことがない。
本心が見えなくて何を考えてるのか分からない。
いつも断れずにいろいろ抱えてる。
もっと思った事いったらいいのに。
遠くからみてる分には十分。
一緒にいたら控えめすぎて疲れそう。
今日も人の相談ばっかり受けて自分の練習全然出来てなさそう。いつも結局皆が帰った後一人で練習してるのを見かけたりする。
「れいこさん、お疲れ様です。頑張って下さい。あと、良かったら使って下さい。」
ある日のお稽古場、自主稽古で残る私の手に乗せられたチョコと絆創膏。
何で分かったの?歩き方変だった?絆創膏をじっと見つめてたら貴美ちゃんが不安そうに覗き込んできた。
「何となく庇って歩いてらっしゃるようだったから。違いました?」
「・・・違わない。ありがとう」
良かったとにこりと微笑んで去っていく貴美ちゃんを絆創膏を握りしめたまま茫然と見送る。
「ほら、貴美行くよおいで」
ちぎさんに手を引かれながら歩くけど、ちぎさん歩くの早いから小走りで追いかけてる
「早くしないとちゅーするからね?」
急に立ち止まって振り返ったちぎさんにぶつかりそうになるのをふんばってた貴美ちゃんを引き寄せておでこをくっつけて唇を尖らせて言うちぎさん。
「なっ・・・ゆうみさんに怒られますよ?」
「ちぎさーん?」
「げっ。逃げろっ。」
「浮気は許しませーん」
さすがちぎさんの事となると目敏いゆうみに見つかり、貴美ちゃんの手をひいたままゆうみから逃げ回るちぎさん。
なんだか楽しそう。
ちぎさんもゆうみも貴美ちゃんのこと可愛がってるもんなー。楽しそうに走り回る三人を眺めてたらあいみが不思議そうに手のひらの絆創膏を見つめてる
「え?怪我したの?」
「んー、ちょっと靴擦れで痛かったんだけど大した事では」
「気づかなかった」
そうだよね?他の人たちは全く気付いてないと思う。
貴美ちゃんって本当よく気づく子なんだな。
気づけば貴美ちゃん観察してる私がいた
*****************
「貴美ー。」
「のっ・・・のぞさまっ。」
「はぁー。癒してー」
ぎゅーっと言いながら正面から抱きしめる望海さん。
花組時代から仲良しらしい。顔真っ赤。
いいな望海さんと仲良し。
「あー。癒されるー。」
抱きしめたまま左右に揺らしてる。
そして抱きしめた手を緩めてちゅっと音を立ててキスして耳元で何か囁いてる。
さらに真っ赤な貴美ちゃんと目があった。
ああ、付き合ってるのかあの二人は
「こら、だいもん。手は出すなっていつも言ってるでしょー」
「ちゅーはセーフですー」
ちぎさんに怒られて拗ねてるけど、もし付き合ってないのならそれはアウトだと思います。
「心が手に入らないなら唇だけでも欲しいもん。そりゃ心が一番欲しいさ。あぁ、いつになったら落ちてくれるのかなー」
今度は後ろから抱きしめて肩の上に顎をのせてゆらゆらしてる。
「のぞさまにはもっと素敵な人がいます」
「貴美しかいないのー。貴美ーねーねーねー。私じゃダメなのー?」
強請るようにしがみついてる望海さんの方が恋する女の子って感じ
「あー好き。こんなに大好きなのよー?」
「ふふっ。のぞさま子供みたい」
望海さんの腕に手を添えて微笑んだ顔が可愛かった。
次の公演で望海さんの相手役として出演予定だから公私ともにお相手になりたいと恋する女の子、望海さんが言ってるのを面白そうにからかう雪組生。
「のぞさまは物好きですよね」
「貴美好きなだけー。そろそろモテてるのに気づいたらー?いっぱい狙われてるんだよー?」
「そんな訳ないじゃないですかー」
笑い飛ばしてるけど周りのみんなの目がギラギラしてるのに本気で気づかないのかな
************************
全然だめだっ。
こんなんじゃない。
頭を抱えて座り込んだ稽古場
がちゃりと扉が開く音がして貴美が入ってきた。
「失礼しまーす。忘れ物してしまって。・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫」
「本当ですか?無理しないでくださいね」
「うん。」
疲れた時には甘い物です。としゃがんだ貴美ちゃんにそっと手を握られチョコを掌に乗せられる。いつもチョコ持ち歩いてるのかな・・・。
「全然思ったように体が動かないの。気持ちもついていってなくてね。でも皆んなにはこうすべきだって言われてどうしたらいいか分からなくて。こんな上級生がっかりだよね」
気づけば愚痴みたいになってた。かっこ悪いな私
「そんなことないです。れいこさんはれいこさんのままでいいと思います。だってどんなに曲げたってれいこさんの信念は変えられないと思うから。その方が辛いだろうから」
ちょっと抱きしめて欲しいと言った私に、どうぞと床に座り手を広げて微笑む貴美ちゃんの胸に飛び込む。
ぎゅっと抱きしめられ背中を優しく撫でられ静かな時間が流れる。そのままでもいいと言われて、いつもならそんな訳ないって思ってしまうのにすっと心にはいってきて。
縋り付くように抱きついたりして大人気ないとわかってるけど、耳元の貴美ちゃんの心臓の音と抱きしめられた暖かさが心地いい
「れいこさん、髪サラサラですね。ちょっと触ってもいいですか?」
「うん。」
優しく撫でられた頭。
その心地よさにそんなに重く考えなくてもいいのかなと思えてくるどれだけ時間が経ったのだろう。
いつのまにか抱きついたまま眠ってしまっていたようで。
「んっ」
「おはようございます」
「ごめっ。心地良くてつい」
最近よく眠れなかったからかな、ぐっすり寝てしまっていたみたい。足しびれたんじゃないかな。
「今日はもう帰って休んだ方がいいです。無理し過ぎたら体壊してしまいますから。」
「うん。今日は帰ろうかな。ありがとう。」
私に手を引かれて立ち上がった貴美ちゃんはバランスを崩して後ろに倒れそうになったので抱き留める。
ふと思った。私にこんな風に優しくしてくれるのなら他の子にもこんな風な事してるのかな。
みんな頼りたくなる・・・いつか聞いた言葉がふとよぎった。
腕の中の真っ赤な顔してる貴美ちゃんにいじめたい心が疼いて顔を近づける
「ふふっ。」
「はわっ。れっ・・・れいこさっ」
私の腕の中で真っ赤な顔して離れようと両手で私を押し返す
「なぁに?」
「ちっ近くて緊張しちゃいます」
「そう?もっと近づく?」
ぐっと腕に力を入れれば、泣きそうな顔でれいこさんはそんな意地悪しないと思ってたのに。
と恨めしそうに見られるけど、余計可愛く見えるなんて変態かな
「はははっ。ごめんごめん。可愛くてつい」
「かっ・・・可愛い・・・。」
一瞬目を見開いて更に真っ赤になる。あんまり意地悪して逃げられたら嫌だからここまでにしておこう
「遅くなっちゃったね。送ってくよ」
「そんなっ。気にしないで下さい。」
「いいからいいから。」
せっかくだから家を知っておくのもいいかもなんていう私の下心は隠して紳士を装うのであった。
*********************
「いつもありがとうございます。貴美さんの事大好きです」
「役に立ててるなら良かった。ありがとう。私も大好きだよ」
「あの。貴美さん。私本気で貴美さんの事好きです。恋愛対象として見てもらえるよう頑張るのでどうか私の事も少し見てもらえたら嬉しいです」
「・・・あっありがとう。気持ち嬉しいよ。・・・でも」
ぱあっと明るくなってがんばりますと意気込んで去っていった。
「ちょっ・・・」
告白シーンにたまたま出くわしてしまったのだが、立ち尽くす貴美ちゃんに自分の黒い感情と戒めをぶつけてしまった
「あんな態度、期待させるだけじゃない?」
「れいこさん・・・。」
「可哀想だよ。その気がないならそう言ってあげなきゃ」
「そっ・・・そうですよね。」
「優しいのはいい事だけど、最終的にお互いが苦しむことになるからね。はっきり言った方が相手の為になる事もあるよ」
貴美ちゃんの優しさは毒だ。
皆んなその甘い毒に虜になっていく。
すがったその優しさが今更憎らしくなるなんて、みんなに優しくしないで。
その優しさを私だけに向けて欲しい。
そんな事を思う様になってしまった自分に戸惑う
しょぼんとしてる貴美ちゃんには悪いけど教えとかないと泣くことになる日がくるかもしれないから。
それにしても男役だけならず、娘役にも恋焦がれられるってどんな魔力なんだ
*********************
お稽古終わりに自主稽古で残る貴美さんを呼び止めて思い切って自分の気持ちを伝えてみた。
「あがっちゃん・・・ありがとう。でもごめんね。」
分かっていた返事。
でも心のどこかでは奇跡が起こるかもなんて考えてた自分がいる。
「わかりました。一回だけ抱きしめてもいいですか?思い出に。」
「え?わっ・・・分かった」
彼女は恥ずかしそうにそっと私の腕の中におさまった。
この温もりを手放す前に変わらない思いを彼女の心に刻みつけたい。
「これからもずっと好きだと思うんです。変わらずに上級生として大好きです。だから今まで通りに接していただけますか」
「うん。ありがとう。」
香水とかじゃない貴美さんの甘く優しい香り。
背中に回された手が優しくあやす様にとんとんと叩かれる。
思わず抱きしめる力を強めて味わう。貴美さんの柔らかさ
「もっ・・・もう大丈夫かな」
名残惜しく腕を解けば真っ赤な貴美さん。
こんなの慣れてないから恥ずかしいとはにかんで俯く姿に抑えられなくなって気がつけばその頬を捉えて唇を塞いでいた
「んうっ・・・」
目を見開いて私から逃げようともがいてるけど更に深く口付ける。もう少しだけ・・・。
壁際まで追い詰めて逃げ場をなくす。
ごめんなさい、でも可愛くてたまらない。
ずるずるとしゃがみこんだ貴美さんのシャツに手を掛けた所でお稽古場の扉が開いた
それって同意の上?
びっくりして振り返ると見るからに怒ってるれいこさんが腕を組んで立ってた
「れっ・・」
れいこさんを見て貴美さんは泣き出してしまった。
*****************
通りかかったお稽古場
扉の窓から横目に映った貴美ちゃんがあがたに抱きしめられる瞬間。
また告白されてるのかな、それとも両思いで愛を確かめ合ってるとこ?覗くつもりなんてなかったけどなんか足が止まってしまって。
そしたら貴美ちゃんを抱きしめる腕を離したあがたが頬に手を手をかけて・・・
抵抗してるように見える。
止めに入ろうとした瞬間ふと足が止まる。
もしかして私の歪んだ心がそう見せているだけなら私はただの邪魔者。いや、でもそれならそれでいい。扉のノブに手をかけた。
「それって同意の上?」
肩がはねて振り返るあがた
私を見るなり貴美ちゃんの目からはポロポロと涙が溢れ出した
「だっ・・大丈夫です。」
見るからに大丈夫じゃない
「違います。私が貴美さんへの想いを抑えきれなくて・・・。ごめんなさい」
しゃがみ込んで俯いているあがた
「帰るよ。」
貴美ちゃんの手を引いて立ち上がらせてお稽古場を出ようと歩き出す
「あがっちゃん。」
「ほらっ。」
貴美ちゃんは私に手を引かれながら振返り心配そうな顔であがたの名前を呼んで、ごめんね。と言った。
意味が分からない。
何であんな事されて貴美が謝るわけ。
あがたへの怒りより貴美ちゃんへの怒りの方が勝ってしまって掴む手に力が入ってしまう。
「れいこさん・・・痛い・・・です」
早足になる私に必死についてきた貴美ちゃんの言葉で我に帰る
「あ・・・ごめん。送ってくよ。荷物とっておいで」
「でっ・・・でも」
「はやく」
「はっ・・・はい」
自分が思ったより低い声が出て、怯えてるのが分かるけど今は自分を抑えられそうにない。
ロッカーへ走って荷物を取りに行った貴美ちゃんの背中を見送って壁にもたれかかって待つ。
皆んなが挨拶をして帰っていく姿を見送る。
きゃーかっこいいなんていう声も聞こえてるけど今日はそんなのに浮かれる気分じゃない。
走って戻ってきた貴美ちゃんの持ってるおっきい鞄を取り上げて歩き出す
「あっ・・自分で持ちますっ」
「いいから」
早足で車に向かう私に小走りでついてくる貴美ちゃんを車に乗る様促し発進する
「あの・・・家こっちじゃないんですが・・・」
静まり返った車内、沈黙に耐え切れず窓の景色を眺めていた貴美ちゃんが遠慮がちに言う
「知ってる」
どこへ向かっているのか恐る恐る伺ってくる貴美ちゃんに行先を告げればこないだからの事もあるし、怒られると思ってるんだろうな。意気消沈してる。
そんな話してる間に辿り着いたうちの駐車場
「小道具系の荷物のバックはそのまま乗せとくよ。明日送ってくから。いい?」
「はい。」
必要な荷物だけ手に取り部屋に向かう。
エントランスのオートロックを解除してる時に”明日”に対しての疑問が生まれたらしい。
気づいてなさそうだったからそのまま流してしまおうと思ったんだけどな。
朝までお説教なんだと思ったのか真っ青な顔で着いてくる貴美ちゃん
「お邪魔します」
リビングに通して座るように促すとソファーの端っこの方にちょこんと腰掛けた。
取り敢えず、お腹も空いてるだろうからご飯をと言いたいとこだがこの状況じゃ喉も通らないだろうから、先に話をしよう。
「助けていただいておいてこんな事お願いするのはどうかと思うのですが、どうか今まで通りに接してあげて下さい」
横に座った私にお願いしますと静かに頭を下げた。
あんな事されてよく庇おうって思うよね。
あまりのお人好しさにあきれてしまう。
「本当はあんな事する子じゃないんです。」
魔がさしただけだから見逃してやれ、そう言いたいのか。
まあ、あがたは普段真面目だし私だってあの子が仲間外れになったりするのは不本意だ。
「いつでも誰かが助けてくれる訳じゃないからね。」
しょんぼりしてるけど怒りたいんじゃない。
「怖かったよね」
頭に手を乗せてぽんぽんと撫でた後頬に手を滑らせる。
私が止めなければあのまま襲われてたかもしれない。
体格差できっと貴美ちゃんには逃げられないだろうから。考えただけで私の方がおかしくなりそう
「れいこさん・・・」
目が潤んできてまた泣きそう
「れいこさんを見て安心して泣いてしまって。すみません。恥ずかしいです、自分の責任なのに」
貴美ちゃんの優しさに甘えたあがたも悪いんだよ。でもきてくれたのがれいこさんで良かったです。
なんて力なく微笑んでそんな事言うから勘違いされて漬け込まれるんだよ。私を頼りにしてくれてるんだって。期待しちゃうんだよ
「そういう事言うからだよ」
「え?」
「ほんと悪い子。私だけかもって勘違いさせて」
顔がみるみる曇っていく。
でもほんとにそう。虜にするだけ虜にして
「すみません。そんなつもりじゃ。でも、本当にれいこさんが止めてくれて嬉しかったんです」
向かい合った私たち、突然握られた手。
真剣な眼差しの貴美ちゃんに引き込まれそうになる
「来たのがあの彼だったら良かったね」
「かれ?」
でも今は皮肉しか言えない。
この前見てしまった。貴美ちゃんが男の子と抱き合ってるとこ。劇団のスタッフさん。
幼馴染らしいけど人も居ないとこだったけどあんなとこで抱き合ってたら誰かに見られたら誤解されたりすることもあるから気をつけた方がいいって注意したんだよな。
「え?彼にとって私は恋愛対象じゃないんですよ?」
「でも好きなんでしょ?」
だって今は叶わない恋だけど、いつか叶うと信じてるって言ったじゃない。
「まさか!彼が好きなのは、その・・・男性なので。」
その彼の好きな人も貴美の友達らしく相談に乗っていたらしい。
そうなんだ・・・。予想外すぎる答え。叶わないって言ったのは、その友達には彼女がいるらしく、いつまでも言えない想い。
その友達は恋愛対象は女の子だから。
「友達ですらいられなくなってしまうのが怖いんです。中々そういうのって受け入れられないじゃないですか。でも私はいいと思うんです。だって好きになった人がたまたま男の人だったってだけで。世間がそれをいいものだと思わなくても人に迷惑かける訳じゃないし構わないと思います。彼を応援してます」
いっぺんの曇りもない顔で言われるとそうなんだろうって思う。貴美っていつも人の事否定とか絶対しないな。世の中色んな考えがあるのでまずはそんな考えもあるんだなって思います。それがよいか悪いかは別として。そう返ってきた。寛大な心を持ってるんだな。
「それに私の好きな人は別の人ですし」
「そっかー。どんな人?相談とか乗るよ?」
他に好きな人がいるんだ。
平静を装って答えるけど、また心にもない事をこの口はペラペラと。でも気になる貴美ちゃんの好きな人。
どんな人なんだろう。私もそんな人になったらいつか私を見てくれる日がくるかも・・・
「いえ、大丈夫です。それはそれで叶わない恋なので。憧れで見てるだけでいいんです近づきたいだなんて思ってません。」
恥ずかしいのか急に早口になって否定する。望海さんかな?でもキスとかする仲って事は違うかな
「でも好きなんでしょ?」
真剣な顔で頷く。そんなに想われるなんて羨ましい
「でも少しでも話せば気持ちも前向きになるかもしれないよ」
「いやいや」
「でもさ」
「本当に大丈夫ですっ。本人に相談するなんて変な話じゃないですかっ」
真っ赤な顔して否定してきた貴美ちゃんの言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
そして貴美ちゃんも自分が言った事の意味に気づくまで数秒
「え?」
「え?」
呆然とした後、頬に両手を当て涙目になってる
「えっと・・・今日は帰りますっ。」
鞄をバッと掴んで立ち上がった貴美ちゃんの腕をすかさず掴む。淡い期待に鼓動が高鳴る
「待って。その意味知りたい。教えて?」
「つっ・・・つまり!好きな人本人に恋愛相談とか変な話じゃないですか・・・はっ離してくださいっ」
泣きそうな顔して訴えてくるけど、それは誰なのか知りたいの。その口から聞きたい。
「好きな人って?」
「わっ。分かってて聞いてますよね」
何にも言わずに待ってると、数秒見つめあって観念したように小さく呟いた
「・・・れいこさんが好きです」
「じゃあ、私の恋愛相談に乗って?」
にこりと笑って言えば引き攣って今の聞いてたのかと言わんばかりの顔
「私に相談するんですか?」
「うん。私の好きな子はね」
話出した途端耳を塞いで背を向けようと体をよじる
「ごめんなさい。私好きな人の恋愛相談に乗れるほど大人じゃないです。どうか、私が言った事忘れて今まで通り接して下さい。でも恋愛相談には乗れません。」
「その子はね」
手を退け無視して話し始めた私に観念して泣きそうな顔のまま黙って聞いている
「好きな人が告白されて、更には無理矢理キスされて怒ってたのにその子はキスした子を見逃せって言うんだよ。しかも私に助けられて嬉しかったとか殺し文句まで言われて。ひどくない?」
「それって・・・」
「私は好きな人本人に恋愛相談できるよ?」
「へ?」
気の抜けた顔と声に笑いが込み上げるけど笑ったら怒られそうだから我慢我慢。
「他の人に隙を見せないで。」
「えっ。待ってください。れいこさんの好きな人って」
貴美を指差して微笑む
「貴美。気づいたら貴美が頭から離れなくて。責任とって?」
望海さんとのキスもだめ
望海さんは私がれいこさん好きなの知ってるので。
知っててキスしてたのか。
れいこちゃんが見てるよって言われて・・・。
あの時かっ
.
.
可愛いー
「あっ・・・あのっ。」
ねえ、これどうかな?
「いいと思います。」
貴美さん、これって。
「それはね、ここをこうして」
貴美ちゃん。重そうだね持ってあげるよ
「ありがとうございます。でも大丈夫です。公演中に怪我とかしたら大変ですし。」
ねー、貴美ちゃん
これさー、貴美
はい。
皆さん貴美ちゃんに頼りすぎではないですか?そして近い。
いつも次から次へと色んな人に話しかけられてる貴美ちゃん。
花組から組み替えしてきた、ひとこの同期。
可愛いけど、物静か。
はっきり自分の気持ちを言ってるところを見たことがない。
本心が見えなくて何を考えてるのか分からない。
いつも断れずにいろいろ抱えてる。
もっと思った事いったらいいのに。
遠くからみてる分には十分。
一緒にいたら控えめすぎて疲れそう。
今日も人の相談ばっかり受けて自分の練習全然出来てなさそう。いつも結局皆が帰った後一人で練習してるのを見かけたりする。
「れいこさん、お疲れ様です。頑張って下さい。あと、良かったら使って下さい。」
ある日のお稽古場、自主稽古で残る私の手に乗せられたチョコと絆創膏。
何で分かったの?歩き方変だった?絆創膏をじっと見つめてたら貴美ちゃんが不安そうに覗き込んできた。
「何となく庇って歩いてらっしゃるようだったから。違いました?」
「・・・違わない。ありがとう」
良かったとにこりと微笑んで去っていく貴美ちゃんを絆創膏を握りしめたまま茫然と見送る。
「ほら、貴美行くよおいで」
ちぎさんに手を引かれながら歩くけど、ちぎさん歩くの早いから小走りで追いかけてる
「早くしないとちゅーするからね?」
急に立ち止まって振り返ったちぎさんにぶつかりそうになるのをふんばってた貴美ちゃんを引き寄せておでこをくっつけて唇を尖らせて言うちぎさん。
「なっ・・・ゆうみさんに怒られますよ?」
「ちぎさーん?」
「げっ。逃げろっ。」
「浮気は許しませーん」
さすがちぎさんの事となると目敏いゆうみに見つかり、貴美ちゃんの手をひいたままゆうみから逃げ回るちぎさん。
なんだか楽しそう。
ちぎさんもゆうみも貴美ちゃんのこと可愛がってるもんなー。楽しそうに走り回る三人を眺めてたらあいみが不思議そうに手のひらの絆創膏を見つめてる
「え?怪我したの?」
「んー、ちょっと靴擦れで痛かったんだけど大した事では」
「気づかなかった」
そうだよね?他の人たちは全く気付いてないと思う。
貴美ちゃんって本当よく気づく子なんだな。
気づけば貴美ちゃん観察してる私がいた
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「貴美ー。」
「のっ・・・のぞさまっ。」
「はぁー。癒してー」
ぎゅーっと言いながら正面から抱きしめる望海さん。
花組時代から仲良しらしい。顔真っ赤。
いいな望海さんと仲良し。
「あー。癒されるー。」
抱きしめたまま左右に揺らしてる。
そして抱きしめた手を緩めてちゅっと音を立ててキスして耳元で何か囁いてる。
さらに真っ赤な貴美ちゃんと目があった。
ああ、付き合ってるのかあの二人は
「こら、だいもん。手は出すなっていつも言ってるでしょー」
「ちゅーはセーフですー」
ちぎさんに怒られて拗ねてるけど、もし付き合ってないのならそれはアウトだと思います。
「心が手に入らないなら唇だけでも欲しいもん。そりゃ心が一番欲しいさ。あぁ、いつになったら落ちてくれるのかなー」
今度は後ろから抱きしめて肩の上に顎をのせてゆらゆらしてる。
「のぞさまにはもっと素敵な人がいます」
「貴美しかいないのー。貴美ーねーねーねー。私じゃダメなのー?」
強請るようにしがみついてる望海さんの方が恋する女の子って感じ
「あー好き。こんなに大好きなのよー?」
「ふふっ。のぞさま子供みたい」
望海さんの腕に手を添えて微笑んだ顔が可愛かった。
次の公演で望海さんの相手役として出演予定だから公私ともにお相手になりたいと恋する女の子、望海さんが言ってるのを面白そうにからかう雪組生。
「のぞさまは物好きですよね」
「貴美好きなだけー。そろそろモテてるのに気づいたらー?いっぱい狙われてるんだよー?」
「そんな訳ないじゃないですかー」
笑い飛ばしてるけど周りのみんなの目がギラギラしてるのに本気で気づかないのかな
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全然だめだっ。
こんなんじゃない。
頭を抱えて座り込んだ稽古場
がちゃりと扉が開く音がして貴美が入ってきた。
「失礼しまーす。忘れ物してしまって。・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫」
「本当ですか?無理しないでくださいね」
「うん。」
疲れた時には甘い物です。としゃがんだ貴美ちゃんにそっと手を握られチョコを掌に乗せられる。いつもチョコ持ち歩いてるのかな・・・。
「全然思ったように体が動かないの。気持ちもついていってなくてね。でも皆んなにはこうすべきだって言われてどうしたらいいか分からなくて。こんな上級生がっかりだよね」
気づけば愚痴みたいになってた。かっこ悪いな私
「そんなことないです。れいこさんはれいこさんのままでいいと思います。だってどんなに曲げたってれいこさんの信念は変えられないと思うから。その方が辛いだろうから」
ちょっと抱きしめて欲しいと言った私に、どうぞと床に座り手を広げて微笑む貴美ちゃんの胸に飛び込む。
ぎゅっと抱きしめられ背中を優しく撫でられ静かな時間が流れる。そのままでもいいと言われて、いつもならそんな訳ないって思ってしまうのにすっと心にはいってきて。
縋り付くように抱きついたりして大人気ないとわかってるけど、耳元の貴美ちゃんの心臓の音と抱きしめられた暖かさが心地いい
「れいこさん、髪サラサラですね。ちょっと触ってもいいですか?」
「うん。」
優しく撫でられた頭。
その心地よさにそんなに重く考えなくてもいいのかなと思えてくるどれだけ時間が経ったのだろう。
いつのまにか抱きついたまま眠ってしまっていたようで。
「んっ」
「おはようございます」
「ごめっ。心地良くてつい」
最近よく眠れなかったからかな、ぐっすり寝てしまっていたみたい。足しびれたんじゃないかな。
「今日はもう帰って休んだ方がいいです。無理し過ぎたら体壊してしまいますから。」
「うん。今日は帰ろうかな。ありがとう。」
私に手を引かれて立ち上がった貴美ちゃんはバランスを崩して後ろに倒れそうになったので抱き留める。
ふと思った。私にこんな風に優しくしてくれるのなら他の子にもこんな風な事してるのかな。
みんな頼りたくなる・・・いつか聞いた言葉がふとよぎった。
腕の中の真っ赤な顔してる貴美ちゃんにいじめたい心が疼いて顔を近づける
「ふふっ。」
「はわっ。れっ・・・れいこさっ」
私の腕の中で真っ赤な顔して離れようと両手で私を押し返す
「なぁに?」
「ちっ近くて緊張しちゃいます」
「そう?もっと近づく?」
ぐっと腕に力を入れれば、泣きそうな顔でれいこさんはそんな意地悪しないと思ってたのに。
と恨めしそうに見られるけど、余計可愛く見えるなんて変態かな
「はははっ。ごめんごめん。可愛くてつい」
「かっ・・・可愛い・・・。」
一瞬目を見開いて更に真っ赤になる。あんまり意地悪して逃げられたら嫌だからここまでにしておこう
「遅くなっちゃったね。送ってくよ」
「そんなっ。気にしないで下さい。」
「いいからいいから。」
せっかくだから家を知っておくのもいいかもなんていう私の下心は隠して紳士を装うのであった。
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「いつもありがとうございます。貴美さんの事大好きです」
「役に立ててるなら良かった。ありがとう。私も大好きだよ」
「あの。貴美さん。私本気で貴美さんの事好きです。恋愛対象として見てもらえるよう頑張るのでどうか私の事も少し見てもらえたら嬉しいです」
「・・・あっありがとう。気持ち嬉しいよ。・・・でも」
ぱあっと明るくなってがんばりますと意気込んで去っていった。
「ちょっ・・・」
告白シーンにたまたま出くわしてしまったのだが、立ち尽くす貴美ちゃんに自分の黒い感情と戒めをぶつけてしまった
「あんな態度、期待させるだけじゃない?」
「れいこさん・・・。」
「可哀想だよ。その気がないならそう言ってあげなきゃ」
「そっ・・・そうですよね。」
「優しいのはいい事だけど、最終的にお互いが苦しむことになるからね。はっきり言った方が相手の為になる事もあるよ」
貴美ちゃんの優しさは毒だ。
皆んなその甘い毒に虜になっていく。
すがったその優しさが今更憎らしくなるなんて、みんなに優しくしないで。
その優しさを私だけに向けて欲しい。
そんな事を思う様になってしまった自分に戸惑う
しょぼんとしてる貴美ちゃんには悪いけど教えとかないと泣くことになる日がくるかもしれないから。
それにしても男役だけならず、娘役にも恋焦がれられるってどんな魔力なんだ
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お稽古終わりに自主稽古で残る貴美さんを呼び止めて思い切って自分の気持ちを伝えてみた。
「あがっちゃん・・・ありがとう。でもごめんね。」
分かっていた返事。
でも心のどこかでは奇跡が起こるかもなんて考えてた自分がいる。
「わかりました。一回だけ抱きしめてもいいですか?思い出に。」
「え?わっ・・・分かった」
彼女は恥ずかしそうにそっと私の腕の中におさまった。
この温もりを手放す前に変わらない思いを彼女の心に刻みつけたい。
「これからもずっと好きだと思うんです。変わらずに上級生として大好きです。だから今まで通りに接していただけますか」
「うん。ありがとう。」
香水とかじゃない貴美さんの甘く優しい香り。
背中に回された手が優しくあやす様にとんとんと叩かれる。
思わず抱きしめる力を強めて味わう。貴美さんの柔らかさ
「もっ・・・もう大丈夫かな」
名残惜しく腕を解けば真っ赤な貴美さん。
こんなの慣れてないから恥ずかしいとはにかんで俯く姿に抑えられなくなって気がつけばその頬を捉えて唇を塞いでいた
「んうっ・・・」
目を見開いて私から逃げようともがいてるけど更に深く口付ける。もう少しだけ・・・。
壁際まで追い詰めて逃げ場をなくす。
ごめんなさい、でも可愛くてたまらない。
ずるずるとしゃがみこんだ貴美さんのシャツに手を掛けた所でお稽古場の扉が開いた
それって同意の上?
びっくりして振り返ると見るからに怒ってるれいこさんが腕を組んで立ってた
「れっ・・」
れいこさんを見て貴美さんは泣き出してしまった。
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通りかかったお稽古場
扉の窓から横目に映った貴美ちゃんがあがたに抱きしめられる瞬間。
また告白されてるのかな、それとも両思いで愛を確かめ合ってるとこ?覗くつもりなんてなかったけどなんか足が止まってしまって。
そしたら貴美ちゃんを抱きしめる腕を離したあがたが頬に手を手をかけて・・・
抵抗してるように見える。
止めに入ろうとした瞬間ふと足が止まる。
もしかして私の歪んだ心がそう見せているだけなら私はただの邪魔者。いや、でもそれならそれでいい。扉のノブに手をかけた。
「それって同意の上?」
肩がはねて振り返るあがた
私を見るなり貴美ちゃんの目からはポロポロと涙が溢れ出した
「だっ・・大丈夫です。」
見るからに大丈夫じゃない
「違います。私が貴美さんへの想いを抑えきれなくて・・・。ごめんなさい」
しゃがみ込んで俯いているあがた
「帰るよ。」
貴美ちゃんの手を引いて立ち上がらせてお稽古場を出ようと歩き出す
「あがっちゃん。」
「ほらっ。」
貴美ちゃんは私に手を引かれながら振返り心配そうな顔であがたの名前を呼んで、ごめんね。と言った。
意味が分からない。
何であんな事されて貴美が謝るわけ。
あがたへの怒りより貴美ちゃんへの怒りの方が勝ってしまって掴む手に力が入ってしまう。
「れいこさん・・・痛い・・・です」
早足になる私に必死についてきた貴美ちゃんの言葉で我に帰る
「あ・・・ごめん。送ってくよ。荷物とっておいで」
「でっ・・・でも」
「はやく」
「はっ・・・はい」
自分が思ったより低い声が出て、怯えてるのが分かるけど今は自分を抑えられそうにない。
ロッカーへ走って荷物を取りに行った貴美ちゃんの背中を見送って壁にもたれかかって待つ。
皆んなが挨拶をして帰っていく姿を見送る。
きゃーかっこいいなんていう声も聞こえてるけど今日はそんなのに浮かれる気分じゃない。
走って戻ってきた貴美ちゃんの持ってるおっきい鞄を取り上げて歩き出す
「あっ・・自分で持ちますっ」
「いいから」
早足で車に向かう私に小走りでついてくる貴美ちゃんを車に乗る様促し発進する
「あの・・・家こっちじゃないんですが・・・」
静まり返った車内、沈黙に耐え切れず窓の景色を眺めていた貴美ちゃんが遠慮がちに言う
「知ってる」
どこへ向かっているのか恐る恐る伺ってくる貴美ちゃんに行先を告げればこないだからの事もあるし、怒られると思ってるんだろうな。意気消沈してる。
そんな話してる間に辿り着いたうちの駐車場
「小道具系の荷物のバックはそのまま乗せとくよ。明日送ってくから。いい?」
「はい。」
必要な荷物だけ手に取り部屋に向かう。
エントランスのオートロックを解除してる時に”明日”に対しての疑問が生まれたらしい。
気づいてなさそうだったからそのまま流してしまおうと思ったんだけどな。
朝までお説教なんだと思ったのか真っ青な顔で着いてくる貴美ちゃん
「お邪魔します」
リビングに通して座るように促すとソファーの端っこの方にちょこんと腰掛けた。
取り敢えず、お腹も空いてるだろうからご飯をと言いたいとこだがこの状況じゃ喉も通らないだろうから、先に話をしよう。
「助けていただいておいてこんな事お願いするのはどうかと思うのですが、どうか今まで通りに接してあげて下さい」
横に座った私にお願いしますと静かに頭を下げた。
あんな事されてよく庇おうって思うよね。
あまりのお人好しさにあきれてしまう。
「本当はあんな事する子じゃないんです。」
魔がさしただけだから見逃してやれ、そう言いたいのか。
まあ、あがたは普段真面目だし私だってあの子が仲間外れになったりするのは不本意だ。
「いつでも誰かが助けてくれる訳じゃないからね。」
しょんぼりしてるけど怒りたいんじゃない。
「怖かったよね」
頭に手を乗せてぽんぽんと撫でた後頬に手を滑らせる。
私が止めなければあのまま襲われてたかもしれない。
体格差できっと貴美ちゃんには逃げられないだろうから。考えただけで私の方がおかしくなりそう
「れいこさん・・・」
目が潤んできてまた泣きそう
「れいこさんを見て安心して泣いてしまって。すみません。恥ずかしいです、自分の責任なのに」
貴美ちゃんの優しさに甘えたあがたも悪いんだよ。でもきてくれたのがれいこさんで良かったです。
なんて力なく微笑んでそんな事言うから勘違いされて漬け込まれるんだよ。私を頼りにしてくれてるんだって。期待しちゃうんだよ
「そういう事言うからだよ」
「え?」
「ほんと悪い子。私だけかもって勘違いさせて」
顔がみるみる曇っていく。
でもほんとにそう。虜にするだけ虜にして
「すみません。そんなつもりじゃ。でも、本当にれいこさんが止めてくれて嬉しかったんです」
向かい合った私たち、突然握られた手。
真剣な眼差しの貴美ちゃんに引き込まれそうになる
「来たのがあの彼だったら良かったね」
「かれ?」
でも今は皮肉しか言えない。
この前見てしまった。貴美ちゃんが男の子と抱き合ってるとこ。劇団のスタッフさん。
幼馴染らしいけど人も居ないとこだったけどあんなとこで抱き合ってたら誰かに見られたら誤解されたりすることもあるから気をつけた方がいいって注意したんだよな。
「え?彼にとって私は恋愛対象じゃないんですよ?」
「でも好きなんでしょ?」
だって今は叶わない恋だけど、いつか叶うと信じてるって言ったじゃない。
「まさか!彼が好きなのは、その・・・男性なので。」
その彼の好きな人も貴美の友達らしく相談に乗っていたらしい。
そうなんだ・・・。予想外すぎる答え。叶わないって言ったのは、その友達には彼女がいるらしく、いつまでも言えない想い。
その友達は恋愛対象は女の子だから。
「友達ですらいられなくなってしまうのが怖いんです。中々そういうのって受け入れられないじゃないですか。でも私はいいと思うんです。だって好きになった人がたまたま男の人だったってだけで。世間がそれをいいものだと思わなくても人に迷惑かける訳じゃないし構わないと思います。彼を応援してます」
いっぺんの曇りもない顔で言われるとそうなんだろうって思う。貴美っていつも人の事否定とか絶対しないな。世の中色んな考えがあるのでまずはそんな考えもあるんだなって思います。それがよいか悪いかは別として。そう返ってきた。寛大な心を持ってるんだな。
「それに私の好きな人は別の人ですし」
「そっかー。どんな人?相談とか乗るよ?」
他に好きな人がいるんだ。
平静を装って答えるけど、また心にもない事をこの口はペラペラと。でも気になる貴美ちゃんの好きな人。
どんな人なんだろう。私もそんな人になったらいつか私を見てくれる日がくるかも・・・
「いえ、大丈夫です。それはそれで叶わない恋なので。憧れで見てるだけでいいんです近づきたいだなんて思ってません。」
恥ずかしいのか急に早口になって否定する。望海さんかな?でもキスとかする仲って事は違うかな
「でも好きなんでしょ?」
真剣な顔で頷く。そんなに想われるなんて羨ましい
「でも少しでも話せば気持ちも前向きになるかもしれないよ」
「いやいや」
「でもさ」
「本当に大丈夫ですっ。本人に相談するなんて変な話じゃないですかっ」
真っ赤な顔して否定してきた貴美ちゃんの言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
そして貴美ちゃんも自分が言った事の意味に気づくまで数秒
「え?」
「え?」
呆然とした後、頬に両手を当て涙目になってる
「えっと・・・今日は帰りますっ。」
鞄をバッと掴んで立ち上がった貴美ちゃんの腕をすかさず掴む。淡い期待に鼓動が高鳴る
「待って。その意味知りたい。教えて?」
「つっ・・・つまり!好きな人本人に恋愛相談とか変な話じゃないですか・・・はっ離してくださいっ」
泣きそうな顔して訴えてくるけど、それは誰なのか知りたいの。その口から聞きたい。
「好きな人って?」
「わっ。分かってて聞いてますよね」
何にも言わずに待ってると、数秒見つめあって観念したように小さく呟いた
「・・・れいこさんが好きです」
「じゃあ、私の恋愛相談に乗って?」
にこりと笑って言えば引き攣って今の聞いてたのかと言わんばかりの顔
「私に相談するんですか?」
「うん。私の好きな子はね」
話出した途端耳を塞いで背を向けようと体をよじる
「ごめんなさい。私好きな人の恋愛相談に乗れるほど大人じゃないです。どうか、私が言った事忘れて今まで通り接して下さい。でも恋愛相談には乗れません。」
「その子はね」
手を退け無視して話し始めた私に観念して泣きそうな顔のまま黙って聞いている
「好きな人が告白されて、更には無理矢理キスされて怒ってたのにその子はキスした子を見逃せって言うんだよ。しかも私に助けられて嬉しかったとか殺し文句まで言われて。ひどくない?」
「それって・・・」
「私は好きな人本人に恋愛相談できるよ?」
「へ?」
気の抜けた顔と声に笑いが込み上げるけど笑ったら怒られそうだから我慢我慢。
「他の人に隙を見せないで。」
「えっ。待ってください。れいこさんの好きな人って」
貴美を指差して微笑む
「貴美。気づいたら貴美が頭から離れなくて。責任とって?」
望海さんとのキスもだめ
望海さんは私がれいこさん好きなの知ってるので。
知っててキスしてたのか。
れいこちゃんが見てるよって言われて・・・。
あの時かっ
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