ep.10
カインとレノックスが付き合い始めてからというもの——実を言うと、そこまで大きく生活に変化があったわけではない。毎朝一緒に鍛錬をするのも、朝食をとるのも同じ。賢者がさり気なく二人が一緒の任務を多く組んでくれたり、周りの目が少し変わったりしたくらいで、カインとレノックス当人達は変わりなかった。元から互いを好いていたし、それを伝えるのも当たり前だったから。
——そんな中で、変わったことがあるとすれば。
めぇめぇ、と羊たちが鳴いていて、シーツを引っ張られる感覚がする。毎朝レノックスに散歩に連れ出してもらえるよう、羊たちが覚えた催促だ。決まった時間にそうするので、今や天然の目覚まし時計である。
その催促でレノックスが一番に目を覚ますと。腕の中に抱いたカインが、じっとレノックスの顔を見つめていた。
「……カイン」
「おはよ、レノ」
「ああ。おはよう」
挨拶を交わしただけなのに、レノックスを見つめたまま、カインは嬉しそうに頬を緩める。——初めて迎えた、レノックスと同じベッドでの朝。触れるまで相手が見えないという傷を負ったカインにとって、目が覚めてすぐに大好きな恋人が視界に入るというのは、何よりも幸せなことなのだろう。
「すまない、羊たちに起こされてしまったか?」
「いや、自然にだ。さっき目が覚めたばかりだよ。レノの寝顔が見れてラッキーだな」
「……じゃあ今度は、俺がお前の寝顔を見る番だな」
「へへ……それ、今夜か?」
「そうだ。楽しみにしてる」
「うん……」
瞳を潤ませてはにかむカインの、可愛らしい寝癖を手ぐしで梳いてやる。このまま彼を抱きしめて幸せな微睡みに沈みたいところだが、羊たちの催促は止まらない。カーテン越しに眩しい朝日が差し込んできている。
「わかった、わかった。起きるから。……すまないな、カイン。動けるか?」
「ん……大丈夫だ。俺も着いていくよ」
カインを抱いていた腕を離し、レノックスは身を起こす。少し身体がだるくて背を伸ばすと、背後のカインが「あわ」と妙な声を上げた。
「どうした?」
「え、あ、いや……その……」
カインも身を起こしたが、シーツを抱えてレノックスから視線を逸らす。共に何一つ身にまとってはいないが、カインの身体には至るところに昨晩の激しい初夜の痕跡が残っていた。そしてそれは、レノックスの背中にも。
「ご……ごめ、レノ、背中痛くないか……?」
「背中? ……ああ。気にしなくていい。それだけ気持ちよかったんだろう?」
「ッ……う……」
小さく頷くカインのその仕草は、まるで初心な少年のよう。普段はそのリーダー気質や面倒見の良さもあって若い魔法使いたちの兄のような振る舞いをしているカインだが、昨晩はたっぷりと甘えてきて可愛らしかった。
「……そういえば、カイン。寝間着以外の服は持ってきたのか?」
「え? ……あ……忘れてた」
「じゃあ俺のを貸そう。……寝間着で取りに行くのは、少し危険だ」
カインの寝間着はくたびれたタンクトップに薄いパーカーだけで、レノックスの言っている意味がわからないほど鈍いカインではない。下着だけは履いて、貸してもらったレノックスの練習着の予備に着替える。カインよりも一回りは体格のいいレノックスの服は、当然ながらかなりのオーバーサイズだ。またレノックスの腕の中に包まれているかのようで、胸が甘く高鳴っている。
着替えを終えたレノックスが立ち上がると、羊たちはお待ちかねと言わんばかりに彼の足元へ群がってきた。羊の壁のようになっているところをかき分けて、手を繋ぐ。レノックスの腕に寄り添うように、カインは身を寄せた。
「……へへ。じゃ、行こうぜ」
「……ああ」
オーバーサイズなレノックスの服を着て、ぴったりとくっつくように寄り添って。誰が見ても昨晩のことは察せられてしまうが、気にしない。初めての朝。身も心も深く重ね合ったのだと、むしろ周りに喧伝してやりたいくらいだ。
これからカインは、レノックスの部屋で目を覚ます朝が増えるかもしれない。今のベッドはレノックスが賢者の魔法使いとして来る前から用意されていたものだから、当然一人用である。大の大人が、しかも体格のいい男性二人となれば狭いのだが、そのぶんぴったりとくっついて眠れるのが嬉しい。
今は賢者や皆を守る使命があるが、もし遠い未来、彼と二人で暮らすことがあるのなら。同じベッドで目を覚ますなんてことは、当たり前の日常になっていくのだろう。レノックスの隣を歩きながら、そんないつかの未来を想像する。
「レノ」
「なんだ?」
「俺、レノと恋人になれて……世界で一番、幸せ者だな」
「……はは。俺も、おまえと一緒に居られて、幸せだ」
くすぐったいくらいに真っ直ぐな、愛の言葉をささやき合う。お互い少し感情に鈍いから、きっとこれくらいがいちばんなのだ。
気持ちのよい朝日がいっぱいに降り注ぐ場所へ、二人は、並んで歩いていく。
——そんな中で、変わったことがあるとすれば。
めぇめぇ、と羊たちが鳴いていて、シーツを引っ張られる感覚がする。毎朝レノックスに散歩に連れ出してもらえるよう、羊たちが覚えた催促だ。決まった時間にそうするので、今や天然の目覚まし時計である。
その催促でレノックスが一番に目を覚ますと。腕の中に抱いたカインが、じっとレノックスの顔を見つめていた。
「……カイン」
「おはよ、レノ」
「ああ。おはよう」
挨拶を交わしただけなのに、レノックスを見つめたまま、カインは嬉しそうに頬を緩める。——初めて迎えた、レノックスと同じベッドでの朝。触れるまで相手が見えないという傷を負ったカインにとって、目が覚めてすぐに大好きな恋人が視界に入るというのは、何よりも幸せなことなのだろう。
「すまない、羊たちに起こされてしまったか?」
「いや、自然にだ。さっき目が覚めたばかりだよ。レノの寝顔が見れてラッキーだな」
「……じゃあ今度は、俺がお前の寝顔を見る番だな」
「へへ……それ、今夜か?」
「そうだ。楽しみにしてる」
「うん……」
瞳を潤ませてはにかむカインの、可愛らしい寝癖を手ぐしで梳いてやる。このまま彼を抱きしめて幸せな微睡みに沈みたいところだが、羊たちの催促は止まらない。カーテン越しに眩しい朝日が差し込んできている。
「わかった、わかった。起きるから。……すまないな、カイン。動けるか?」
「ん……大丈夫だ。俺も着いていくよ」
カインを抱いていた腕を離し、レノックスは身を起こす。少し身体がだるくて背を伸ばすと、背後のカインが「あわ」と妙な声を上げた。
「どうした?」
「え、あ、いや……その……」
カインも身を起こしたが、シーツを抱えてレノックスから視線を逸らす。共に何一つ身にまとってはいないが、カインの身体には至るところに昨晩の激しい初夜の痕跡が残っていた。そしてそれは、レノックスの背中にも。
「ご……ごめ、レノ、背中痛くないか……?」
「背中? ……ああ。気にしなくていい。それだけ気持ちよかったんだろう?」
「ッ……う……」
小さく頷くカインのその仕草は、まるで初心な少年のよう。普段はそのリーダー気質や面倒見の良さもあって若い魔法使いたちの兄のような振る舞いをしているカインだが、昨晩はたっぷりと甘えてきて可愛らしかった。
「……そういえば、カイン。寝間着以外の服は持ってきたのか?」
「え? ……あ……忘れてた」
「じゃあ俺のを貸そう。……寝間着で取りに行くのは、少し危険だ」
カインの寝間着はくたびれたタンクトップに薄いパーカーだけで、レノックスの言っている意味がわからないほど鈍いカインではない。下着だけは履いて、貸してもらったレノックスの練習着の予備に着替える。カインよりも一回りは体格のいいレノックスの服は、当然ながらかなりのオーバーサイズだ。またレノックスの腕の中に包まれているかのようで、胸が甘く高鳴っている。
着替えを終えたレノックスが立ち上がると、羊たちはお待ちかねと言わんばかりに彼の足元へ群がってきた。羊の壁のようになっているところをかき分けて、手を繋ぐ。レノックスの腕に寄り添うように、カインは身を寄せた。
「……へへ。じゃ、行こうぜ」
「……ああ」
オーバーサイズなレノックスの服を着て、ぴったりとくっつくように寄り添って。誰が見ても昨晩のことは察せられてしまうが、気にしない。初めての朝。身も心も深く重ね合ったのだと、むしろ周りに喧伝してやりたいくらいだ。
これからカインは、レノックスの部屋で目を覚ます朝が増えるかもしれない。今のベッドはレノックスが賢者の魔法使いとして来る前から用意されていたものだから、当然一人用である。大の大人が、しかも体格のいい男性二人となれば狭いのだが、そのぶんぴったりとくっついて眠れるのが嬉しい。
今は賢者や皆を守る使命があるが、もし遠い未来、彼と二人で暮らすことがあるのなら。同じベッドで目を覚ますなんてことは、当たり前の日常になっていくのだろう。レノックスの隣を歩きながら、そんないつかの未来を想像する。
「レノ」
「なんだ?」
「俺、レノと恋人になれて……世界で一番、幸せ者だな」
「……はは。俺も、おまえと一緒に居られて、幸せだ」
くすぐったいくらいに真っ直ぐな、愛の言葉をささやき合う。お互い少し感情に鈍いから、きっとこれくらいがいちばんなのだ。
気持ちのよい朝日がいっぱいに降り注ぐ場所へ、二人は、並んで歩いていく。
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