ep.8
「カーイーンーちゃ〜ん!」
「恋バナしよ~!!」
「………………」
……誰だ、告げ口したのは。
キャッキャとはしゃぐ双子先生を前にカインは眉間を揉んだ。
今日はレノックスも一日任務で不在にしており、カインも午前は近辺の調査に向かっていた。午後に予定は何も無く、昼食を終えた食堂で、さて何をしようかと考えていたところにスノウとホワイトがやってきたのだ。カインの姿を見てすぐに、お目当てのおもちゃを見つけた時のような顔をして。
「最近な〜んか、みんなしてカインのこと応援してるから〜」
「我らも若いのと恋バナして若さ分けてもらいたいな〜って!」
「というわけで、存分に惚気けるがよい!」
「そうじゃそうじゃ!」
「……と言われましても……」
まだ何も話していないのに双子先生はずいぶん楽しそうだ。長い時を生きた割には、寧ろ長い時を生きたからこそなのか、スノウとホワイトは浮いた話を大いに好む。賢者の魔法使いが同じ賢者の魔法使いに恋をしているとなれば、彼らの絶好の的になるのも全く不思議な話ではない。むしろ今まで来られなかった方が不思議だ。向かいの席に座るカインは、困ったように頬をかく。
「ええと……そもそも、俺の好きな相手は分かってるのか……?」
「やっぱり懇意の相手が居るんじゃな!?」
「きゃー! 誰だろ誰だろ!」
「「きゃっきゃ!」」
「……」
話が進まない。
「いやいや、我らももうなんとな〜く分かっておるぞ? でもこういうのはやはり、本人の口から聞いてこそじゃ!」
「うむ! してカインよ、そなたの想い人の名は何と言う?」
「……れ、レノックス……」
「「きゃーー!! やっぱり!!」」
「…………」
——今日これからはずっとこの調子なのだろうか。惚気けたいとかそれ以前に、呆れの方が勝ってくる。
「ていうか、やっぱり……なのか。俺、そんなに分かりやすい……?」
「ここ最近の振る舞いを見ておれば、誰だってそなたがレノックスを特別に想っていることくらい分かるぞ?」
「嘘だろ!? 全然隠せてないってことか……」
「ほほほ、可愛らしいのう。隠さなくたっていいのにねー!」
「「ねー!」」
「お、俺は隠したかったんだ! でもなんか、気づいたらどんどんバレちまって……」
よくよく考えてみれば、カインがレノックスへの想いを自覚したのも、先にその気持ちに気づいていたシャイロックやフィガロの後押しあってこそである。心を読むのに長けた魔法使いからすれば、以前からカインの振る舞いは分かりやすいものだったのだろうし、想いを自覚してからは、特に読心に長けている訳でもない人達にも分かるくらいの露骨さになってしまったのだろう。
そうであれば、もはやレノックスに気づかれていないという保証はどこにもない。むしろ気づかれていると考える方が自然だ。少し前に二人で南の国の草原まで行った時には、理想の相手はレノックスのような人とまで言ってしまったのだから。
「そんなカインちゃんに朗報で〜す!」
ニコニコと笑顔を浮かべたままのスノウが、懐から一束の紙を取り出した。
「我らの方に依頼が届いておっての。ぜひカインとレノックスたちに任せようと思うのじゃ! 流石に二人きりというわけにはいかんが、レノックスと存分にイチャイチャしてくるがよい!」
「い、イチャイチャって……俺が一方的に好きなだけだから……!」
「カインが一方的に……?」
「ほほう……そうかそうか! カインはそう思っとるんじゃな!」
何だか含みのある言い方に引っ掛かりを覚えつつ、カインは軽く依頼書に目を通す。
場所は中央と南の国境付近、やや西寄りの地域だ。南の国では比較的開拓も進んでいる地域だが、大いなる厄災の影響で古代の魔物と思しき生き物の目撃情報も多く届いている。依頼書の内容も、村の外れの方に魔物らしきものが出るようになって云々、と書かれている。
「塔から行くなら、中央からも南からも遠いな」
「移動に関してはミスラに協力させるから問題ないぞ!」
「うむ。それから今回の依頼は、シャイロックとムルにも同行してもらうことになっておる」
「シャイロックたちが? ……なんで?」
「どうも、昔のムルがやんちゃしたところらしくてのう……」
「ああ……」
それだけで納得できてしまうのがムルらしいところだ。彼の昔の発明品や何やが危機にならなければ良いのだが。
「出発は明日の朝じゃ。頼んだぞ、カイン。……あとめっちゃ恋応援してるからね〜!」
「ね〜!!」
「……頑張るよ……」
「はいっ! 真面目な話終わり! それでそれで、カイン! レノックスのどのあたりが好きなんじゃ?」
「具体的には!? やっぱりあの誠実さかのう! それともメガネ推しだったり〜!?」
「「きゃっきゃ!」」
「……」
——この調子だとしばらく、夕飯時までは解放されなさそうだ。双子が満足してくれるまでレノックスの惚気を言うしかないかもしれない。
「あの……他言無用にしてくれよ……?」
「もちろんじゃ!」
これでも彼らは最年長で北の先生役だ。軽率に言いふらすようなことはしないと信じて、カインは脳裏にレノックスの姿を思い浮かべながら、そっと話し始めた。
「恋バナしよ~!!」
「………………」
……誰だ、告げ口したのは。
キャッキャとはしゃぐ双子先生を前にカインは眉間を揉んだ。
今日はレノックスも一日任務で不在にしており、カインも午前は近辺の調査に向かっていた。午後に予定は何も無く、昼食を終えた食堂で、さて何をしようかと考えていたところにスノウとホワイトがやってきたのだ。カインの姿を見てすぐに、お目当てのおもちゃを見つけた時のような顔をして。
「最近な〜んか、みんなしてカインのこと応援してるから〜」
「我らも若いのと恋バナして若さ分けてもらいたいな〜って!」
「というわけで、存分に惚気けるがよい!」
「そうじゃそうじゃ!」
「……と言われましても……」
まだ何も話していないのに双子先生はずいぶん楽しそうだ。長い時を生きた割には、寧ろ長い時を生きたからこそなのか、スノウとホワイトは浮いた話を大いに好む。賢者の魔法使いが同じ賢者の魔法使いに恋をしているとなれば、彼らの絶好の的になるのも全く不思議な話ではない。むしろ今まで来られなかった方が不思議だ。向かいの席に座るカインは、困ったように頬をかく。
「ええと……そもそも、俺の好きな相手は分かってるのか……?」
「やっぱり懇意の相手が居るんじゃな!?」
「きゃー! 誰だろ誰だろ!」
「「きゃっきゃ!」」
「……」
話が進まない。
「いやいや、我らももうなんとな〜く分かっておるぞ? でもこういうのはやはり、本人の口から聞いてこそじゃ!」
「うむ! してカインよ、そなたの想い人の名は何と言う?」
「……れ、レノックス……」
「「きゃーー!! やっぱり!!」」
「…………」
——今日これからはずっとこの調子なのだろうか。惚気けたいとかそれ以前に、呆れの方が勝ってくる。
「ていうか、やっぱり……なのか。俺、そんなに分かりやすい……?」
「ここ最近の振る舞いを見ておれば、誰だってそなたがレノックスを特別に想っていることくらい分かるぞ?」
「嘘だろ!? 全然隠せてないってことか……」
「ほほほ、可愛らしいのう。隠さなくたっていいのにねー!」
「「ねー!」」
「お、俺は隠したかったんだ! でもなんか、気づいたらどんどんバレちまって……」
よくよく考えてみれば、カインがレノックスへの想いを自覚したのも、先にその気持ちに気づいていたシャイロックやフィガロの後押しあってこそである。心を読むのに長けた魔法使いからすれば、以前からカインの振る舞いは分かりやすいものだったのだろうし、想いを自覚してからは、特に読心に長けている訳でもない人達にも分かるくらいの露骨さになってしまったのだろう。
そうであれば、もはやレノックスに気づかれていないという保証はどこにもない。むしろ気づかれていると考える方が自然だ。少し前に二人で南の国の草原まで行った時には、理想の相手はレノックスのような人とまで言ってしまったのだから。
「そんなカインちゃんに朗報で〜す!」
ニコニコと笑顔を浮かべたままのスノウが、懐から一束の紙を取り出した。
「我らの方に依頼が届いておっての。ぜひカインとレノックスたちに任せようと思うのじゃ! 流石に二人きりというわけにはいかんが、レノックスと存分にイチャイチャしてくるがよい!」
「い、イチャイチャって……俺が一方的に好きなだけだから……!」
「カインが一方的に……?」
「ほほう……そうかそうか! カインはそう思っとるんじゃな!」
何だか含みのある言い方に引っ掛かりを覚えつつ、カインは軽く依頼書に目を通す。
場所は中央と南の国境付近、やや西寄りの地域だ。南の国では比較的開拓も進んでいる地域だが、大いなる厄災の影響で古代の魔物と思しき生き物の目撃情報も多く届いている。依頼書の内容も、村の外れの方に魔物らしきものが出るようになって云々、と書かれている。
「塔から行くなら、中央からも南からも遠いな」
「移動に関してはミスラに協力させるから問題ないぞ!」
「うむ。それから今回の依頼は、シャイロックとムルにも同行してもらうことになっておる」
「シャイロックたちが? ……なんで?」
「どうも、昔のムルがやんちゃしたところらしくてのう……」
「ああ……」
それだけで納得できてしまうのがムルらしいところだ。彼の昔の発明品や何やが危機にならなければ良いのだが。
「出発は明日の朝じゃ。頼んだぞ、カイン。……あとめっちゃ恋応援してるからね〜!」
「ね〜!!」
「……頑張るよ……」
「はいっ! 真面目な話終わり! それでそれで、カイン! レノックスのどのあたりが好きなんじゃ?」
「具体的には!? やっぱりあの誠実さかのう! それともメガネ推しだったり〜!?」
「「きゃっきゃ!」」
「……」
——この調子だとしばらく、夕飯時までは解放されなさそうだ。双子が満足してくれるまでレノックスの惚気を言うしかないかもしれない。
「あの……他言無用にしてくれよ……?」
「もちろんじゃ!」
これでも彼らは最年長で北の先生役だ。軽率に言いふらすようなことはしないと信じて、カインは脳裏にレノックスの姿を思い浮かべながら、そっと話し始めた。
