無茶振りのあと
雨が降っていた。
「きつくないか?」
「大丈夫だ。ありがとな、レノ」
「どういたしまして」
カインの腕の包帯を巻き、レノックスはベッドの脇に置いた椅子に座り直した。一通り包帯の取り換えは終わって、あとはまたカインの自己治癒力に任せるしかないだろう。傷も塞がりつつあるとはいえ、全身のあちこち包帯まみれというのはやはり痛々しい。先日向かった討伐の依頼で、カインはまた全治二週間くらいの大怪我を負ってしまったのだった。
「一日中ベッドの上っていうのも暇なんだよなぁ。何しよう?」
「何しよう、じゃないだろう。今は何もしないのが仕事だ」
「あはは……それはそうか。でも、なんかしてないと落ち着けなくて」
「お前らしいが……」
カインが無理をしてしまいがちなのは、彼の元々の性分でもあるのだろう。腱が切れなかっただけ幸いだが、今のカインの脚では自力でトイレに向かうので精一杯というところだ。階段を降りて食堂に行くのも難しいため、今日は食事も部屋まで運んで持ってきた。
「あまり無茶をしないでくれ。おまえが怪我をしているところを見るのは、辛いから」
「ん……ごめんな、心配かけて。でも今回はさ、アーサー達が危なかったから、つい……」
「おまえの気持ちは分かる。でも、カインはアーサー様の従者であって……俺の恋人でもあるんだ。もう少し自分を大事にしたっていい……いや、してほしい」
「うん……」
カインはベッドの上で手を握り合わせた。どこか落ち着かなさそうに指を絡めて、視線を落とす。
「……やっぱり、まだ癖が抜けないみたいだ。騎士なんて、傷つくのが仕事みたいなものだし……自分を大事にするっていうのが、どうすればいいのか……」
「……」
レノックスにも、時々それが分からなくなる時がある。主君のファウストをはじめ周りの仲間を助けようと思ったとき、何かを守ろうとするとき、自分が負う怪我というリスクを無視してしまいがちだ。主君のためなら命なんていつでも捨てられる。そうやって生きてきた自分たちは、自分を労わって大切にするということが苦手なのだ。ーーけれど。
「……カイン」
「なんだ、レノ? って……」
レノックスはカインの頭をそっと撫でた。頭にも包帯が巻かれているから、そこには触れないように、優しく。
「……どうせ今日は、俺も外に行く用事はないから。たくさん甘えてほしい。してほしいことがあったら、なんでも言ってくれ」
「レノ……」
カインは頬を淡く染めて、潤んだ瞳でレノックスを見つめる。こうして二人きりになったときに見せる表情は、普段若い魔法使いたちの兄のような存在として振る舞う時よりずっと幼い。恋人であり歳上であるレノックスの前では、カインがずっと抑えてきた幼心や甘えたがりなところが顔を見せるのだ。
「じゃあ……ぎゅってしてほしい……ちゅーもしたい……」
「ああ」
レノックスはベッドに軽く乗り上げ、こちらに腕を伸ばしてきたカインの身体を、傷が痛まないようにそっと包み込む。
「……えっちもしたい……」
「それは怪我が治ってからだ。……今はこれで我慢してくれ」
「うぅ……」
カインが弱々しく背中に腕を回してきたのを合図にするように、触れ合うだけのキスを交わす。これ以上深いキスをしたら、レノックスだってその気になってしまうから。
「……へへ。いっぱいいちゃいちゃしたら、早く治るかも」
「なら、たくさんしてやる」
「ん……」
至近距離で見つめ合う、少し照れた幼い顔が愛おしい。自分を労わって大切にするのが苦手ならば、それを互いに補うように愛し合えばいいのだ。恋人として、互いを想い合う唯一無二として。
「レノ、大好きだ……」
「俺も、お前が好きだ。カイン」
真っ直ぐな愛の囁きが、今は何よりの薬だろう。
「きつくないか?」
「大丈夫だ。ありがとな、レノ」
「どういたしまして」
カインの腕の包帯を巻き、レノックスはベッドの脇に置いた椅子に座り直した。一通り包帯の取り換えは終わって、あとはまたカインの自己治癒力に任せるしかないだろう。傷も塞がりつつあるとはいえ、全身のあちこち包帯まみれというのはやはり痛々しい。先日向かった討伐の依頼で、カインはまた全治二週間くらいの大怪我を負ってしまったのだった。
「一日中ベッドの上っていうのも暇なんだよなぁ。何しよう?」
「何しよう、じゃないだろう。今は何もしないのが仕事だ」
「あはは……それはそうか。でも、なんかしてないと落ち着けなくて」
「お前らしいが……」
カインが無理をしてしまいがちなのは、彼の元々の性分でもあるのだろう。腱が切れなかっただけ幸いだが、今のカインの脚では自力でトイレに向かうので精一杯というところだ。階段を降りて食堂に行くのも難しいため、今日は食事も部屋まで運んで持ってきた。
「あまり無茶をしないでくれ。おまえが怪我をしているところを見るのは、辛いから」
「ん……ごめんな、心配かけて。でも今回はさ、アーサー達が危なかったから、つい……」
「おまえの気持ちは分かる。でも、カインはアーサー様の従者であって……俺の恋人でもあるんだ。もう少し自分を大事にしたっていい……いや、してほしい」
「うん……」
カインはベッドの上で手を握り合わせた。どこか落ち着かなさそうに指を絡めて、視線を落とす。
「……やっぱり、まだ癖が抜けないみたいだ。騎士なんて、傷つくのが仕事みたいなものだし……自分を大事にするっていうのが、どうすればいいのか……」
「……」
レノックスにも、時々それが分からなくなる時がある。主君のファウストをはじめ周りの仲間を助けようと思ったとき、何かを守ろうとするとき、自分が負う怪我というリスクを無視してしまいがちだ。主君のためなら命なんていつでも捨てられる。そうやって生きてきた自分たちは、自分を労わって大切にするということが苦手なのだ。ーーけれど。
「……カイン」
「なんだ、レノ? って……」
レノックスはカインの頭をそっと撫でた。頭にも包帯が巻かれているから、そこには触れないように、優しく。
「……どうせ今日は、俺も外に行く用事はないから。たくさん甘えてほしい。してほしいことがあったら、なんでも言ってくれ」
「レノ……」
カインは頬を淡く染めて、潤んだ瞳でレノックスを見つめる。こうして二人きりになったときに見せる表情は、普段若い魔法使いたちの兄のような存在として振る舞う時よりずっと幼い。恋人であり歳上であるレノックスの前では、カインがずっと抑えてきた幼心や甘えたがりなところが顔を見せるのだ。
「じゃあ……ぎゅってしてほしい……ちゅーもしたい……」
「ああ」
レノックスはベッドに軽く乗り上げ、こちらに腕を伸ばしてきたカインの身体を、傷が痛まないようにそっと包み込む。
「……えっちもしたい……」
「それは怪我が治ってからだ。……今はこれで我慢してくれ」
「うぅ……」
カインが弱々しく背中に腕を回してきたのを合図にするように、触れ合うだけのキスを交わす。これ以上深いキスをしたら、レノックスだってその気になってしまうから。
「……へへ。いっぱいいちゃいちゃしたら、早く治るかも」
「なら、たくさんしてやる」
「ん……」
至近距離で見つめ合う、少し照れた幼い顔が愛おしい。自分を労わって大切にするのが苦手ならば、それを互いに補うように愛し合えばいいのだ。恋人として、互いを想い合う唯一無二として。
「レノ、大好きだ……」
「俺も、お前が好きだ。カイン」
真っ直ぐな愛の囁きが、今は何よりの薬だろう。
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