アキハと春華の初夜の話。
初夜
いつも通り仕事を終えて、いつも通りご飯を食べていつも通りベッドへ入ったのだけれど。
そのままいつも通りなら今頃二人で夢の中なのだが、今日は違った。
「……」
「……」
無言でお互い見つめ合う。真っ赤な瞳に自分が映るのが見える。
気づけば春華がアキハの腕を軽く抑え上乗りしていた。
何故こうなった……自分と同じように少し驚いた顔で見下ろす許嫁を見ながら頭をぐるぐる回す。
先の通り、ベッドまではいつも通りだった。
もう何の話題だったかは思い出せないが、二人で話をしているうちにとても盛り上がったのだ。それはもうアキハが笑いすぎてお腹を痛める程に。
そして気づけばこれ。
「……ごめん」
「ちょっと待った!」
「――っ!」
ゆっくり上から退こうとした春華の腰に、慌てて足を絡め引き寄せ動きを止めさせる。
バランスを崩し近くなった春華の顔から、焦りが見える。
「……危ないよ」
「ごめん。けど、チャンスかなーって」
「チャンス?」
「えっちの」
「あ、なたって人は」
ためらい無く発言すれば、言葉を詰まらせながら軽く呆れたようにため息を吐く春華に、アキハは顔を少しむっとさせる。
「だーって、春ちゃん全然手出してこないじゃん。きちんと付き合い出してもう数年経ったし、そろそろ良くない?」
「んー……」
「なるほど、春ちゃんはしたくない感じか」
「いや、そんな事は……ないけど」
「ムラムラする程の魅力は感じない?」
「そんな事ない」
「じゃあしようよ」
「まったく、雰囲気のかけらもないなー」
少し笑って何度かため息を吐いた後、春華はもぞもぞと手をアキハの肩を抱えるように移動し、体を密着させ、そしてゆっくり首もとに顔を埋めてきた。
「……十数年……早いものだね、僕らが出会ってから」
「――……うん」
耳元でぼそぼそと話す春華に、少しくすぐったさを感じながらも耳を傾ける。
「初めは妹のようにしか見えなかったのになぁ。いつからか――……」
アキハの髪を軽く弄りながら、まるで独り言のようにひっそり呟く春華にアキハは黙って様子を伺う。
「まあ、正直我慢してないと言えば嘘になる……例えばこの香り」
「え、なに、臭う?」
「臭いと思った事は無いよ、むしろ――……汗かいた時に強くなるアキハ自身の香り。それだけで何度欲情を覚えたか」
「そんなに嗅がれるとさすがに恥ずかしいんだけど……」
すんすん、と嗅ぐように息を吸い込む春華に、軽く身をよじるがやめてくれそうにない。
香り……まあ、分からなくもない。アキハもたまに春華の香りで興奮することはあった。
「例えばこの柔らかい身体。君はいつも遠慮なしに密着させてくるけど、それで僕が興奮しないとでも?」
「んっ」
つつつ、っと首もとから胸元へ。胸元から腰へ。指先が走り、思わず声を上げると少し楽しそうに手のひらを胸に押し付ける。
「……ドキドキしてる」
「そりゃあこんな事されたらさあ……」
ふふ、と軽く笑う春華に、再びアキハはむっとする。
今まで何をしても涼しい顔で受け止めてきた男が、実は内心冷静ではなかったなんて聞いて驚き、そして嬉しくならないわけがない。
心臓がこんなに高鳴ってしまうのは仕方ないと思う。
「君の声で果てそうになったこともあったかも」
「え!? いやそれは……――春ちゃん、思ったより変態だったりする?」
「……さあ」
自嘲気味に笑ったかと思うと、そのまま身を起こし、アキハの頬を撫で付ける。
「君の香りに、君の身体に、君の声に。君の全てに僕は何度も欲情した。それを毎度なんとか理性で押さえつけてたわけだけれど、それを解放するとなると僕でもどうなるか分からないよ。お互い初めてというのもあるし、優しくはしたいけれど……それでも?」
見下ろす春華は、優しく笑みを浮かべているが、アキハには少し、緊張を滲ませているように見えた。
たぶん、もしかしたら、ここで拒否すればいつも通り優しく受け止めるだろう。だがきっと内心春華は酷く傷つくのだ。アキハには見せないだろうが。
まあ、煽ったアキハが拒否するわけがないのだけれど。
「正直、好きな人にそんな風に言われて嫌な女はいないんじゃない?」
「そう?」
「少なくとも私は嬉しいし」
春華の首に腕を回し、顔を寄せさせる。
「……本当に?」
「うん。あまりに痛くて酷い事以外なら、春ちゃんに何されてもいいよ私は。春ちゃんも腹くくりな。今日しなくてもいずれは通る道なんだし」
「本当の本当にいいの?」
「どうぞ」
そう言って軽く口付ければ、春華はすぐに破願させた。
「そう言うなら、遠慮しないよ?」
「どんとこい!!」
そう言ってまた春華に唇を押し付けた。今度は強く、深く。
―――――
――びっっっっっくりしたああああああああああ!!!!!!!
翌朝。
春華が顔を洗うためにか、部屋から外へ出ていった事を確認し、アキハは全身をゆでダコにして思い切り心の中で叫んだ。
春華の行為は思った以上で、あるがまま身を任せていたら、気がつけば意識を失い、気がつけば朝だった。
ある程度覚悟はしていたが、まさかここまでとは……。正直死ぬかと思ったが、なんとか生きてた本当に良かった。
息を吐きながら、ゆっくり上体を起こしてみる。体中が重たい。どれだけ悲鳴をあげたのか、喉もガラガラだ。
今日が休みで本当に良かった。願わくはこのまま呼び出しも何も無い事を。
何度かため息をつき、自分も顔を洗おうと服を拾いながら祈りを捧げるアキハだった。
いつも通り仕事を終えて、いつも通りご飯を食べていつも通りベッドへ入ったのだけれど。
そのままいつも通りなら今頃二人で夢の中なのだが、今日は違った。
「……」
「……」
無言でお互い見つめ合う。真っ赤な瞳に自分が映るのが見える。
気づけば春華がアキハの腕を軽く抑え上乗りしていた。
何故こうなった……自分と同じように少し驚いた顔で見下ろす許嫁を見ながら頭をぐるぐる回す。
先の通り、ベッドまではいつも通りだった。
もう何の話題だったかは思い出せないが、二人で話をしているうちにとても盛り上がったのだ。それはもうアキハが笑いすぎてお腹を痛める程に。
そして気づけばこれ。
「……ごめん」
「ちょっと待った!」
「――っ!」
ゆっくり上から退こうとした春華の腰に、慌てて足を絡め引き寄せ動きを止めさせる。
バランスを崩し近くなった春華の顔から、焦りが見える。
「……危ないよ」
「ごめん。けど、チャンスかなーって」
「チャンス?」
「えっちの」
「あ、なたって人は」
ためらい無く発言すれば、言葉を詰まらせながら軽く呆れたようにため息を吐く春華に、アキハは顔を少しむっとさせる。
「だーって、春ちゃん全然手出してこないじゃん。きちんと付き合い出してもう数年経ったし、そろそろ良くない?」
「んー……」
「なるほど、春ちゃんはしたくない感じか」
「いや、そんな事は……ないけど」
「ムラムラする程の魅力は感じない?」
「そんな事ない」
「じゃあしようよ」
「まったく、雰囲気のかけらもないなー」
少し笑って何度かため息を吐いた後、春華はもぞもぞと手をアキハの肩を抱えるように移動し、体を密着させ、そしてゆっくり首もとに顔を埋めてきた。
「……十数年……早いものだね、僕らが出会ってから」
「――……うん」
耳元でぼそぼそと話す春華に、少しくすぐったさを感じながらも耳を傾ける。
「初めは妹のようにしか見えなかったのになぁ。いつからか――……」
アキハの髪を軽く弄りながら、まるで独り言のようにひっそり呟く春華にアキハは黙って様子を伺う。
「まあ、正直我慢してないと言えば嘘になる……例えばこの香り」
「え、なに、臭う?」
「臭いと思った事は無いよ、むしろ――……汗かいた時に強くなるアキハ自身の香り。それだけで何度欲情を覚えたか」
「そんなに嗅がれるとさすがに恥ずかしいんだけど……」
すんすん、と嗅ぐように息を吸い込む春華に、軽く身をよじるがやめてくれそうにない。
香り……まあ、分からなくもない。アキハもたまに春華の香りで興奮することはあった。
「例えばこの柔らかい身体。君はいつも遠慮なしに密着させてくるけど、それで僕が興奮しないとでも?」
「んっ」
つつつ、っと首もとから胸元へ。胸元から腰へ。指先が走り、思わず声を上げると少し楽しそうに手のひらを胸に押し付ける。
「……ドキドキしてる」
「そりゃあこんな事されたらさあ……」
ふふ、と軽く笑う春華に、再びアキハはむっとする。
今まで何をしても涼しい顔で受け止めてきた男が、実は内心冷静ではなかったなんて聞いて驚き、そして嬉しくならないわけがない。
心臓がこんなに高鳴ってしまうのは仕方ないと思う。
「君の声で果てそうになったこともあったかも」
「え!? いやそれは……――春ちゃん、思ったより変態だったりする?」
「……さあ」
自嘲気味に笑ったかと思うと、そのまま身を起こし、アキハの頬を撫で付ける。
「君の香りに、君の身体に、君の声に。君の全てに僕は何度も欲情した。それを毎度なんとか理性で押さえつけてたわけだけれど、それを解放するとなると僕でもどうなるか分からないよ。お互い初めてというのもあるし、優しくはしたいけれど……それでも?」
見下ろす春華は、優しく笑みを浮かべているが、アキハには少し、緊張を滲ませているように見えた。
たぶん、もしかしたら、ここで拒否すればいつも通り優しく受け止めるだろう。だがきっと内心春華は酷く傷つくのだ。アキハには見せないだろうが。
まあ、煽ったアキハが拒否するわけがないのだけれど。
「正直、好きな人にそんな風に言われて嫌な女はいないんじゃない?」
「そう?」
「少なくとも私は嬉しいし」
春華の首に腕を回し、顔を寄せさせる。
「……本当に?」
「うん。あまりに痛くて酷い事以外なら、春ちゃんに何されてもいいよ私は。春ちゃんも腹くくりな。今日しなくてもいずれは通る道なんだし」
「本当の本当にいいの?」
「どうぞ」
そう言って軽く口付ければ、春華はすぐに破願させた。
「そう言うなら、遠慮しないよ?」
「どんとこい!!」
そう言ってまた春華に唇を押し付けた。今度は強く、深く。
―――――
――びっっっっっくりしたああああああああああ!!!!!!!
翌朝。
春華が顔を洗うためにか、部屋から外へ出ていった事を確認し、アキハは全身をゆでダコにして思い切り心の中で叫んだ。
春華の行為は思った以上で、あるがまま身を任せていたら、気がつけば意識を失い、気がつけば朝だった。
ある程度覚悟はしていたが、まさかここまでとは……。正直死ぬかと思ったが、なんとか生きてた本当に良かった。
息を吐きながら、ゆっくり上体を起こしてみる。体中が重たい。どれだけ悲鳴をあげたのか、喉もガラガラだ。
今日が休みで本当に良かった。願わくはこのまま呼び出しも何も無い事を。
何度かため息をつき、自分も顔を洗おうと服を拾いながら祈りを捧げるアキハだった。
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