こっちを向いて、愛しい人【RKRN】夢小説
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(留三郎side)
保健委員の仕事を終えた伊作はすぐに部屋に戻ってくる。
そして開口一番、とんでもないことを口にした。
「ねえ留三郎、恵ちゃんが今日、保健室に……」
“恵”の名に、俺は敏感に、正直に反応した。この短気で分かりやすい性格には自分でも嫌気がさす。
「本当か?!おい、俺はまだ声すら聞いたことがねえのに?!伊作に先を越されたってのか?!」
「安心してよ、僕は同室の片思いの相手に横恋慕するような真似はしないさ。……たぶん」
「おい!たぶんとか言うなよ!で、どんな声だった?」
分かりやすい、とはいうものの、嘘が吐けない訳ではない。実際、今“とっさに”口をついて出た言葉も四割くらいウソだ。
まず、俺は恵の声を聴いたことがある。相手は覚えちゃいねえだろうが、喋ったことはあるのだ。
次、俺はこの件について伊作が横恋慕するかもしれないという不安を抱いたことがない。それは、もう長いこと伊作に相談し続けていることだから。
あれだけ相談されて、結局自分が奪う、なんてことはあいつにはできない。そういう奴だと俺は信じているし、知っている。
最後に、“先を越された”などという泣き言を本心で言ったりはしない。第一、先を越されたとは露ほども思っていない。
俺は伊作に全部を話したわけではないから伊作は、「留三郎は一度も話したこともない相手に熱を上げている」と勘違いしているようだ。
それくらいは訂正しておいた方がいいかもしれない。
俺は会話の自然な流れに感謝して、それとなく、少し改ざんした事実を伝えた。
「うるせー。いや、そもそも一回や二回、下級生の頃に喋ってはいるんだぜ?ただ、もう忘れちまっただけだ」
「……ねえ、本当に、どこが好きなの?何が原因で好きになったのさ」
疑問に思っても仕方のないことだろう。俺は伊作に過去の事実を三割くらいしか伝えていないのだから。
信用してないのではない。伝えそこなった。己の現状を理解し、伝えて、助けてもらおうと思った時にはもう、遅かった。
「ねえ」
催促されても、今更話せやしない。
「……あいつは、このお世辞にも良いとは言えない現状に、喜びを探してるんだ。努力家ってわけでもない、高い理想を掲げてここに入ったわけでもない。むしろ忍者になんてなりたくもないって思ってるやつが、どうして五年間もここに居続けることができたんだ?」
それでも、零れ落ちてしまった。愛しい人の、たった一つしか知らない、俺の持つすべての情報。
最後の方は、もうずいぶん長い間、本人に直接聞きたいと思っていたことがそのままあふれてしまった。
伊作は怪訝な顔をしている。当然だ。
「俺は成長するあいつが、好きなんだ。自分と向き合って、成長していく姿が。皆が皆できる事じゃねえだろ?」
この思いが直接恵に届いてくれたら、と何度願っただろう。
俺は、あんたがずっとずっと好きだった。
俺の事、覚えていますか?
それぞれの部屋から抜け出して、二人で眺めた夜空を、まだ覚えていますか?
「……俺の、勝手な想像だけどな」
突然俺の日常から消えたあんたを、ずっと、探しています。
あんたがどこにいるか、なんて、分かっていた。でもきっと、何か理由があっての事だろうと信じて、願った。
だから俺は、あんたが再び俺の前に現れてくれる日を、いつまでも待とうと決めている。
「想像って……。違ったらどうすんのさ」
「違わねえよ、たぶん。いや、違ったって良い。……俺も何でこんなにあいつが好きなんだかわかんねえ。助けろよ、いつもの事だけど」
もし恵の身に、または心に何かがあって別人のようになっていたとしても。俺の事を全く覚えていなくても。
次俺の前に現れた時にはもう絶対、お前を離したりしない。
「明日来るかどうかはわかんないけど、留三郎も保健室に居ればそのうち会えるんじゃない?」
「あー……。心の準備ができたら、そうさせてもらうか」
前言撤回。もう俺は待てねえ。
短気な俺をよくここまで待たせてくれたな。明日、覚悟しとけよ。
そう息巻いたものの、実際に会ってみたらきっと触れるどころか喋ることすらもままならなくなるだろうことは容易に想像できた。
だが、たとえ照れくさくてまともに話せなくても、結果として醜態をさらす羽目になったとしても、俺はもう待たない。
明日、お前に絶対会ってやる。
保健委員の仕事を終えた伊作はすぐに部屋に戻ってくる。
そして開口一番、とんでもないことを口にした。
「ねえ留三郎、恵ちゃんが今日、保健室に……」
“恵”の名に、俺は敏感に、正直に反応した。この短気で分かりやすい性格には自分でも嫌気がさす。
「本当か?!おい、俺はまだ声すら聞いたことがねえのに?!伊作に先を越されたってのか?!」
「安心してよ、僕は同室の片思いの相手に横恋慕するような真似はしないさ。……たぶん」
「おい!たぶんとか言うなよ!で、どんな声だった?」
分かりやすい、とはいうものの、嘘が吐けない訳ではない。実際、今“とっさに”口をついて出た言葉も四割くらいウソだ。
まず、俺は恵の声を聴いたことがある。相手は覚えちゃいねえだろうが、喋ったことはあるのだ。
次、俺はこの件について伊作が横恋慕するかもしれないという不安を抱いたことがない。それは、もう長いこと伊作に相談し続けていることだから。
あれだけ相談されて、結局自分が奪う、なんてことはあいつにはできない。そういう奴だと俺は信じているし、知っている。
最後に、“先を越された”などという泣き言を本心で言ったりはしない。第一、先を越されたとは露ほども思っていない。
俺は伊作に全部を話したわけではないから伊作は、「留三郎は一度も話したこともない相手に熱を上げている」と勘違いしているようだ。
それくらいは訂正しておいた方がいいかもしれない。
俺は会話の自然な流れに感謝して、それとなく、少し改ざんした事実を伝えた。
「うるせー。いや、そもそも一回や二回、下級生の頃に喋ってはいるんだぜ?ただ、もう忘れちまっただけだ」
「……ねえ、本当に、どこが好きなの?何が原因で好きになったのさ」
疑問に思っても仕方のないことだろう。俺は伊作に過去の事実を三割くらいしか伝えていないのだから。
信用してないのではない。伝えそこなった。己の現状を理解し、伝えて、助けてもらおうと思った時にはもう、遅かった。
「ねえ」
催促されても、今更話せやしない。
「……あいつは、このお世辞にも良いとは言えない現状に、喜びを探してるんだ。努力家ってわけでもない、高い理想を掲げてここに入ったわけでもない。むしろ忍者になんてなりたくもないって思ってるやつが、どうして五年間もここに居続けることができたんだ?」
それでも、零れ落ちてしまった。愛しい人の、たった一つしか知らない、俺の持つすべての情報。
最後の方は、もうずいぶん長い間、本人に直接聞きたいと思っていたことがそのままあふれてしまった。
伊作は怪訝な顔をしている。当然だ。
「俺は成長するあいつが、好きなんだ。自分と向き合って、成長していく姿が。皆が皆できる事じゃねえだろ?」
この思いが直接恵に届いてくれたら、と何度願っただろう。
俺は、あんたがずっとずっと好きだった。
俺の事、覚えていますか?
それぞれの部屋から抜け出して、二人で眺めた夜空を、まだ覚えていますか?
「……俺の、勝手な想像だけどな」
突然俺の日常から消えたあんたを、ずっと、探しています。
あんたがどこにいるか、なんて、分かっていた。でもきっと、何か理由があっての事だろうと信じて、願った。
だから俺は、あんたが再び俺の前に現れてくれる日を、いつまでも待とうと決めている。
「想像って……。違ったらどうすんのさ」
「違わねえよ、たぶん。いや、違ったって良い。……俺も何でこんなにあいつが好きなんだかわかんねえ。助けろよ、いつもの事だけど」
もし恵の身に、または心に何かがあって別人のようになっていたとしても。俺の事を全く覚えていなくても。
次俺の前に現れた時にはもう絶対、お前を離したりしない。
「明日来るかどうかはわかんないけど、留三郎も保健室に居ればそのうち会えるんじゃない?」
「あー……。心の準備ができたら、そうさせてもらうか」
前言撤回。もう俺は待てねえ。
短気な俺をよくここまで待たせてくれたな。明日、覚悟しとけよ。
そう息巻いたものの、実際に会ってみたらきっと触れるどころか喋ることすらもままならなくなるだろうことは容易に想像できた。
だが、たとえ照れくさくてまともに話せなくても、結果として醜態をさらす羽目になったとしても、俺はもう待たない。
明日、お前に絶対会ってやる。