世間は広いようで狭いのである想像できるだろうか。
臙脂色の壁紙、天井に吊り下げられたシャンデリア。
足元はレッドカーペット、机はもちろんパーティのような豪華さ。
そして机の上の資料と共に、英国でよく出てくるタワーみたいなのに盛られているケーキや洋菓子。
マジかよ、え、マジなの?と言いたくなるが。
外から見れば明らかに風情のある日本庭園のような部屋の内装が、こんなごりっごりの洋装になっているなど誰も思うまい。
はい、わかるかもしれませんけれどソラさんの本丸にお邪魔してますこんにちは。
ちなみに今日の近侍は宗三とお小夜。
宗三の明らかに僕を連れて行きなさいオーラがすごかったので、満場一致で決まり。
ストッパーとしていけるのはお小夜だけだろう、との判断で自然と決まった。
お化け怖いって言ってたけどいいのかな、なんて思いながらも。
ちょっと嬉しそうにしてたお小夜が可愛くて思わず撫でた。
ちなみに手に関しては、薬研に薬を作ってもらったり、ガーゼやらを細目に交換してもらったり。
他のみんなも意地でも私に仕事をさせまいとしてくるので。
おかげさまで少しずつ治っている……と信じたい。
まだそんなに日数が立っていないので何とも言えないが。
つい左手を出してしまうことも多く、そのたびにみんなに叱られるので。
大体何かをしようとすると止められるのが日常になりつつあった。
まあ、私も早く治したいしね。
愛染のいう生姜焼き丼を作るためにも、今剣と鬼ごっこやかくれんぼで遊ぶためにも。
青江の髪を梳くためにも、早く治したいと心から思う。
ちなみに厚はみんなで遊べるものが欲しいとのことだったので。
新しくトランプと人生ゲーム、そして外用のボールを買った。
それとここ最近は毎日のようにオセロや囲碁をやったりしてます。
……それでも正直安静ってのは暇なんだよなあ……
おかげでちょくちょく昼寝をするようになってしまった。
……すっげー話それたね。
まあそういうことで、今日は今回の任務の報告会って形で集まってるので。
ソラさんの方は近侍に南泉さんを控えていて。
とりあえずとあれからしこたま怒られた話をソラさんにしていた。
ちなみに宗三はちょくちょくため息を漏らし。
お小夜は慣れない洋装の部屋にずっとそわそわしていた。可愛い。
焔「……という感じで、まあかなり絞られたので……とてつもなく反省しましたので……」
宇宙「横にいるのがその、こってり絞られた宗三さんだものね……そこまで怒られてたんじゃ、私から言うことはないわ」
焔「ソラさん……!」
「でも嬢ちゃん、今回ばかりは擁護しねーぜ?しっかり反省しとけよ」
焔「しました……マジでめちゃくちゃしました本当にごめんなさい」
南泉「……なんっつー鮮やかな土下座……にゃ」
宗三「いいから早く始めましょう。僕らとしても、今回の件で手に入れた情報はとても興味深いです」
「既にメンバーがここまでカオスとは……というかなんで俺はここに」
「しゃーねぇだろ。あの医者の嬢ちゃんがこれなくなっちまったんだから。主の上司の方も今忙しいんだろ?」
そうして明らかにでかいため息をついたひきちゃんは。
重い声で報告会の宣言をする。
そう、何故かひきちゃんと兼さんも一緒にいるという事例。
というのも、私が視えないのに任務を引き受けたとか。
そういうことで事実のすり合わせをしたいということで来ている。
加護の話とかも聞きたいらしいけど、私何にも知らないべ?
綱引「……まず、改めて。禍つ神となった刀剣男士を捕らえたのちの、本丸の怪異調査でしたね。ご協力いただき感謝します。特に原因はなさそうなのに、幽霊が大量発生しているということでしたが」
南泉「ああ。原因はその禍つ神の神気を浴びた妖怪だ。しかも器用に術を使って隠れていたんだ……にゃ」
宇宙「あら、
焔ちゃん!遠慮しなくてもいいのよ!小夜ちゃんも、うちのあずちゃんが作ったお菓子、ぜひ食べて~!」
綱引「真面目な話を始めた傍から話を逸らすのやめてもらえません!?」
南泉「あー……いや、ケツ揉まれたくなかったら諦めろ……にゃ」
思わず吹き出してしまったが。
その南泉さんの言葉に、ひきちゃんがすぐさまお尻を隠していたので。
ああ、これは既に揉まれた後だな……なんて思いながら。
更に隣で見えないほどの速さでお尻を隠した和泉守さんにちょっと同情した。
……筋肉好きって言ってたし、揉みごたえありそうだもんな……
そのまま机の上に置いてあるクッキーを頂くと。
ほんのりとした甘さが絶妙で、サクサクっとした食感が溜まらなく美味しかった。
思わず目を輝かせながら、お小夜にも食べさせると。
遠慮しながらも、これまた同じく目を輝かせたので。
私、ではなく宗三がすぐさま頭を撫でていたのは言うまでもないだろう。
あまりにも可愛い光景だったので、私は話し中にも関わらず席を立ち。
その姿を写真にとった。
焔「ありがとうございます。それで、その妖怪を斬ったから解決した、ということでいいんですかね?」
南泉「あー、まあ、そうだな。原因は取り除いたし。あとの浄化はそれ専門の奴らが何とでもするだろうよ」
和泉守「そういうことだ。既に浄化専門の部署に話はついている。今日か……遅くても明日には終わった報告がもらえるだろうさ」
宗三「……ということは、報告は終わりですね。それで、今日はこのお茶会をするために呼んだ……という訳ではないでしょう?」
宇宙「もちろん。今日の話は
焔ちゃん、アナタの事ね」
焔「え?私ですか?」
綱引「むしろアンタの事しかないですよ……なんなんですか”まっくろくろすけ”って……」
焔「いや私が知りたいんですけれども」
宇宙「とりあえず、懐の彼を出してもらえるかしら?」
焔「了解です。にっかり青江」
青江「おやおや。いいのかい?顕現してしまっても」
綱引「”御伴に選ぶ刀剣は二振りまで”が今回の条件ですので。それに審神者様自身が持たれる刀剣は含みませんし、そのあとどうされるかは審神者様次第です」
青江「……なるほど。それで?君は僕のナニを覗こうってのかい?」
綱引「やっぱどこのにっかり青江様もこんな感じか……いや、それじゃ話を進めますけど」
そう言いながらソラさんと青江、そしてひきちゃんが話を始めたので。
何となく話を聞きながらお菓子を食べるけど、正直に言って何ゆってっかわっかんねえ。
ふと隣を見ると、宗三さんが話を聞きながらお菓子を頬張り。
すぐ下でお小夜が話は聞いてるけど意識がお菓子に行ってしまっていた。
ぐうかわ、と思いながら一枚写真を撮り。
そのままもう一度難しそうな話をしている彼らの方を向くと。
和泉守さんが「全くわからねえ」という顔をしながらひきちゃんの後ろに立っていたので。
こっちに気付くかな、と思いながらガン見をし。
すぐに気づいたので「こっち来てお菓子食う?」とジェスチャーを送ると。
すぐにこっちに移動してきたので、同じく暇そうにしてた南泉さんも含めてみんなでお菓子を食べた。
焔「何の話してっか全然わからん」
南泉「お前な……当の本人がそれでどうするんだにゃ」
和泉守「とはいえ俺も全然わからねぇなぁ……エレメントがどうとか、加護がどうとかっていう単語くらいなら聞き取れるんだが」
宗三「……はぁ。貴女そんなだから変なのに好かれるんですよ。本当に困ったお人ですね」
小夜「……僕は、あるじさまはそのままでいいと思うよ」
焔「お小夜っ……!」
宗三「お小夜が言うなら致し方ありませんね。難しいことはそういうのを考えるのが得意な人たちに任せましょう」
南泉「……それでいいのか、そっちの本丸……にゃ」
和泉守「いや、そっちの本丸もケツ触られるのが当たり前みたいになってっけど違うからな?そっちこそそれでいいのか」
南泉「何回止めても無駄なんだ……にゃ……あ、こっちの本丸のお前は堀川に庇われてたら、そのうち触らなくなってたぞ」
和泉守「……国広ぉ……お前ってやつは……!」
なんてこっちはこっちで別の話を広げているうちに。
急に村正さんが「お茶のおかわりは如何デス?」といいながら入ってきたので。
有難く頂き、そのまま村正さんが居座る体制だったので。
ついでに村正さんにも似たような感じの話を振ってみると。
意外にもそのまま解説を始めてくれた。
村正「まず霊力に属性があるのはご存知デスか?」
小夜「エレメント診断……ですね。あるじさまは火、だったはず、です」
南泉「そうだ。ちなみにうちの主は空。火のお前とは相性のいい属性だ……にゃ」
村正「そしてアナタの霊力は少々特殊デス。それで、その特殊な霊力の原因は何か、ということをあれこれ話しているのデス」
和泉守「なるほどなあ……けどよぉ、それが何か関係していることでもあるのか?確かにこの嬢ちゃんの霊力はかなり特殊だが」
村正「霊力と言っても火属性ひとつにまとめることはできまセン。現に、主は空属性でありながら地属性も混ざっていマス」
小夜「……?混ざるなら、相性のいい属性と混ざるんじゃないんですか……?」
宗三「相性がいい、ということは混ざりやすい、ということではない、と。火と地を混ぜてしまえば、火が鎮火してしまうように。空も空気と言っても酸素がなければ火は消えますし、逆に燃やせば空気は膨張を繰り返すのみ」
村正「逆に有利属性を相手にすれば、操作がしやすくなりマス。地属性、つまり地面、つまりは隕石を主が扱えるように、デスね」
和泉守「隕石!?いや、そりゃあ普通じゃねえだろ……そこら辺の話は少しわかるにしても」
小夜「……あるじさまは、火属性だから。有利な風属性を使って……熱風をだせる、とか」
宗三「そういうことですね。さすが、お小夜は聡明です」
和泉守「でもよぉ嬢ちゃん、そもそも火出せるのか?」
焔「できてたらあの血肉の塊燃やし尽くすと思わない?」
というかその相性がうんたらかんたらってのは私にはわからんのだが?
ひきちゃんあれ診断した時「ただの相性の問題だからあんま覚えなくていい」って確か言ってたはず。
……だからてっきり属性っていう概念があるだけで、そういう何かが使えるとかそういう魔法使い的な超ファンタジックな展開ではない。
……みたいな理解をしていたんだけど……え、魔法使い爆誕ですか?
そしたら化け物から昇格じゃんやったね!
なんて思ったのも束の間で、ひきちゃんが明らかにこっちをにらんでいたので。
なんでやねん教えてくれんかったのはそっちやで!と思っていたら。
和泉守さんが見覚えのある教科書を引っ張り出してきて、あるページを開いた。
ばっちり
エレメント診断と書かれたページがあり、図と共に解説が乗っていた。
あっ、これ私が忘れてるだけの奴ですね、本当にすいませんっした。
綱引「宇宙さんはこの人の結界、見たことありますか?」
宇宙「今回の任務で上に乗ったのは見たわよ。器用な事するわねーとは思ってたけれど」
綱引「いや、それしかできないんですよ。結界張っても大きさの変えられるカッチカチの四角形だけ」
宇宙「……んん?どういうこと?」
小夜「あるじさまの霊力は、四角い箱の中に綺麗な霊力が詰まっています。その周りの箱は硬くて、僕たちの体になじむのも遅い……です」
宗三「なので手入れがそれはもうひどく痛くて。しばらく体が動かなくなるほどには。確か……薬研は人間でいう筋肉痛だとか言ってましたね」
焔「百聞は一見に如かず。そいや」
そのまま適当に結界を張ってみる。
というより手元にポンっと大玉スイカくらいのサイズを出してみる。
それを持ったままソラさんに差し出し。
南泉さんや村正さんがそれに便乗して、その結界を触ったり叩いたりしてみていた。
なんか久しぶりだな、この反応。
焔「簡単に言うと効果は抜群のカプセルだけど、中身を囲う外側の出来が酷いやつです」
宇宙「納得したわ。……うーん、そうね、じゃあこの話は終わりにしましょうか」
青江「おや?もういいのかい?」
宇宙「わからないことをいつまでも言っても仕方ないものね。結局”まっくろくろすけ”も
穢れの濃いところは見えるってことくらいしかわからなかったし、力が強いやつはちゃんと見えることがわかったし!」
南泉「それにお前の担当、かなり忙しいらしいじゃねえか。このままうちに縛り付けとくのも可哀そうだろ。……にゃ」
綱引「そうですよ誰かさんのせいで」
焔「すまんな!」
綱引「潔さが余計腹立つ!!!ほんっとアンタが来てから俺本格的に家帰れなくなったっすからね!!!」
宗三「ここまで聞くと段々不憫になってきますねぇ」
ということで、結局何の回だったかわからないまま。
今回の報告会は終わることとなった。
その後すぐにひきちゃんと和泉守さんは政府に戻ることになったが。
私たちはそのまま世間話と共にソラさんの本丸でお菓子を頂くこととなった。
その際に「これからも審神者友達として、仲良くしてくれるかしら?」なんて言われちゃってテンション爆上がりしたのは一応言っておく。
こんな可愛いお姉さまが友達だと?
喜ぶ以外の項目あると思ってんのか?
焔「いや~それにしても本当私幸せもんだわ……イケおじ審神者が先輩だし友達に可愛すぎるお姉さんできたし、加えて担当は話の分かるひきちゃんだし上司は美人だし。そしてうちの優しい刀剣たちもいるしで……!」
宇宙「……ん、ちょっと待って
焔ちゃん。イケおじ?審神者って……」
焔「あ、転玉さんって言う、いわば戦闘系審神者の先輩ですね!戦闘の事からその他諸々ご指導頂いでます!」
宇宙「…………てん、ぎょく……ああ、そうね、あの人戦闘系審神者として有名だものね!」
村正「おや?そういえば主の前世の想い人はそんなお名前だったような……おっと、口が滑りマシた」
焔「…………んっ!?!」
宇宙「む、村正あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
顔を真っ赤にさせたソラさん、とっても可愛かったですご馳走様でした。