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ヴィーナスお願い

時は流れ12月24日、本日は東京にて百鬼夜行の対応に追われる健気な私であった。

戦力分散のために私以外の京都校メンバーは京都に、私だけは東京へ出張。皆からあれこれとお土産を頼まれたが、果たして無事に買って帰ることが出来るのでしょうか!?

結論、無理ぽよ!!!!


「いってぇ……右腕どっかいったし、腹抉れたし…あと血足りないし…眷属消えたし……」


それでも生きてるんだから私の身体マジ化け物、びっくり人間コンテストで優勝間違いなしでしょ。
心臓貫いても死にそうに無いことを理由に最前線で戦い続け幾時間経過しただろう、持たされた血液パックは全部飲み終わり、死体になった術師の血も今回ばかりは悪用しないのならば飲んで良しと言われたため拝借し、ひたすらに呪霊を祓って祓って祓って…流石にそろそろ燃料切れな予感。

視界は眩み、腹が鳴る。
さて、次は何処に向かえば良いのやら…と歩いていた時であった。
遠くから私を呼ぶ声がしたので、ふとそちらに顔を向ける。
すると、そこには私の眷属こと灰原雄が元気に駆けて来る姿が見えたのだった。
お前、姿が見えないと思ったからてっきりまた死んだのかと思っていたが生きてたのか。

「え、てか何処にいたの?」
「七海のとこで一緒に戦ってて」
「あの…私、一人で頑張ってたんですが…」
「うん、凄い愉しそうにしてるから邪魔したら悪いよねって皆言ってたよ」

全然楽しくしてた記憶無いんだが…可笑しいな、この世は共同幻想のはずなんだがな……。
それはさておき、灰原さんは五条さんに言われて私を呼びに来たらしい。万が一の場合に備えて高専に向かうようにと。

「い、今から?」
「飛んでけばすぐだろって」
「え?私って飛べたの…?」
「うーん……羽根生えるし、きっと頑張れば飛べるよ!」

もう滅茶苦茶だよ。

確かに一回生えたことがあった気がするが、あれは殆ど化け物になっていた時だったからなあ…あと今燃料足りないし……あ、いや燃料はあるや。目の前に。

灰原さんをジッと見つめれば、彼は首を傾げる。クリクリとした綺麗な瞳からは警戒心が微塵も見られず、私を頼りにしているといった感情すら見受けられた。
黒い睫毛が数度瞬く様子を見ていれば、授業で育てた家畜を食べたくないと泣く子供の気持ちが分かるようだった。
こんなにも可愛い…まるで愛くるしいワンちゃんのような餌を食べるだなんて……ああ、心が痛む…。


……なんてね、可愛いとか知らねー!!!

食います、がぶっ。

「え!?ちょ……ええ!??」

良い感じに出ている首筋に牙を立てて齧り付く。
すぐそばから聞こえた驚きの声は無視して、私の血の混じるアホみたいに不味い血を飲んでやった。マジで不味い、本当不味い。一週間経った味噌汁のがまだマシなレベル。
ジュルジュルと音を立てて吸い込めば、荒い息と噛み締めた唇の間から聞こえる濡れた声が鼓膜に響く。

「んっ……ぁ、んん…」
「おい、エッチな声出すな、鬱陶しいぞ」
「いきなり酷いよ、お婿行けなくなっちゃった…」
「知るか、七海さんの養子にでもなってな」

唇についた血を親指で拭い、それを舐め取って背中に力を込める。
メリッと皮膚を内側から破るような感触がしたかと思えば、地獄のように赤いヌラリと光る両翼が広がり、私の顔に陰を落とした。

灰原さんのヘロヘロと力の抜けた身体が私に向かって倒れてきたので、一応受け止め持って行くことにする。
う〜ん、口の中が軽めの地獄って感じ。

そのままバサリと翼を広げ、太陽に向けて感覚を頼りに飛び立つ。
速度を上げて風を切り、バランスを取りながら空の下を羽ばたいた。

目指す先は東京高専。
でも一体……行って何すれば良いんだ?そこのところ何も聞いてないんだが…まあ、いっか!!なんとかなるなる!




………




(夏油視点)

ズルりと崩れ落ちる身体に大きな陰が差す。
見上げれば、そこには真紅に染まる悪魔のような呪いがこちらを冷たい瞳で見下ろしていた。
腕には何か人らしき物を抱えており、彼女はソレを一瞬の内に泥へと変えて何処かへ消し去ってしまう。
瞬きもせずに赤黒く淀む瞳でこちらを見つめ、小さく首を傾げる姿はおぞましいとすら思った。それ程に、得体の知れない恐怖を感じさせる存在であった。

バサリ、バサリ。

翼を二度はためかせ、静かに地面に着地し、翼を折り畳んで背中へと仕舞っていく。
燃えるような紅髪を一度掻き上げ、彼女はスンッと鼻を鳴らしてみせた。
まるで、腹を空かせた犬のように。

「死んだ術師は喰って良いってことだからな、四捨五入すればお前も死んでるようなもんだよな」

ペロリと唇を舐めたのを見たが最後、ふわりと血の香りがしたかと思えば首筋に僅かな痛みが走った。

そこから先は覚えていない。
ただ、懐かしい親友の慌てた声が聞こえた気がした。




………




各所から多大なるお叱りを受けた金星の名を背負う吸血ガールは、流石にガチヘコみしていた。
それもそのはず、彼女は高専から「死んだ術師の血は悪用しないのであれば飲んで良い」と言われていたのに、まだ死んでいなかった人間の血を「死んだ」ことにして飲んだのだ。
彼女の認識は現実を捻じ曲げる。
よって、死んでいないのに死んでいる状態にされ血を啜られた夏油傑の身体は、すぐにやって来た五条からの認識干渉が加わりエラいことになった。
簡単に言うと、死んでる夏油(ただの死体)と死んでいない夏油(元気モリモリ)に分かれてしまった。まさかの分裂、これには皆びっくり。

そもそも分裂した原因の一つには、邪魔になって腹の中に仕舞われた灰原の存在もあったりした。
彼は突然主の中に流れ込んできた新たな情報体「夏油」の存在を、「あ!夏油さんだ!」と主の餌ではなく「先輩」として認識してしまったため、アホマヌケ吸血ガールは消化不良を起こしてしまったのだった。
またお腹痛くなったんだけど!!憲紀くんどこ!?全てはお前が血をくれないせいだぞ!!
無様にも体内大事故を起こし、五条からは「それ僕の親友!君の餌じゃないから!吐け!吐けー!!」と揺すられ、灰原からは「夏油さんは僕の先輩なので、吸収せずに端に寄せておきますね!」と余計な気遣いをされ、地獄がマリアージュした結果出来上がった完成品が「生き餌の夏油」であった。もう無茶苦茶だよ。

そんな感じなので、まあ色んな所から叱られた。
上層部、高専、五条悟、七海建人、エトセトラ…エトセトラ……。
大人からのガチ叱りに、実はまだ17歳の少女は鼻をスンスンっ鳴らして普通に泣いた。だってお腹減ってたんだもん、えーんっ!全部憲紀くんがわるいです!

「五条さんが高専行けってゆったから行ったのにぃ"!エーーンッッ!!」
「涙の成分は元々は血だ、だからそんなに泣いたらまた腹を空かせるよ」
「憲紀くんのばかー!なんでお腹空いてる時にちゃんと側に居てくれないのよー!!」
「私は東京に呼ばれていなかったのだから仕方無いだろう」

ビィビィと子供のように泣く学友を加茂は彼なりに必死に宥めた。
叱られ祭りのあと、心をメコメコにさせて撃沈してしまった吸血種はあまりに辛くて京都に自力で帰れなくなった。
腹の中から無事に出れた灰原が励まそうとするも、七海に「甘やかしてはいけません、すぐに調子に乗るので」と言われたため何も出来ず、生き餌化した夏油は拘束されていたため遠くから「あの子馬鹿で利用しがいがあるな」と笑うだけだった。

そんなわけで京都からヒモを回収しに来たのは加茂だった。彼は扶養者として各方面に「私の被扶養者がご迷惑を…」と頭を下げ、涙を流す吸血種にひっつかれた。

腕の中でワンワンと泣く女に加茂は困り果てる。
女の機嫌の取り方なんて知らないし、吸血鬼の泣き止ませ方も知らない。
それでも、見捨てることも投げやることも出来ないため、ひたすらに背を撫でてやりながら泣くのをやめろと訴えた。

グスグスと鼻を啜り、しゃくり上げながら「憲紀くんのばか…」とまだ言う女に溜息をつく。

「いい加減にしないか、そもそもは君が拾い食いのようなことをしたのが原因で…」
「仕方無いでしょ!生きるのにも戦うのにも血が必要だったんだから…!」
「前から思っていたのだが、その大食らいなとこを少し改善する努力をした方が良いんじゃないか?」
「私だって本当は血なんて飲みたく無いよ!!馬鹿!!憲紀くんの…糸目塩顔スカポンタン!!もう知らない!!」

勢い良く罵声を吐き捨てると、女は加茂の腕から飛び出し、泣きながら走り去って行った。
糸目なのも塩顔なのも今関係無かったはずだが…と、唐突な悪口に疑問を抱きながらも加茂はその後を一応追った。
しかし出遅れたせいですぐに背を見失う。
どうしたものか…と考えたが、腹が減ったら帰って来るだろうと楽観的に考える。

こうして、金星の吸血種はある日いきなり行方をくらませてしまったのだった。

のちに会話の流れを知った京都高専組は、加茂を結構強めに罵った。
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