錆びた灯火
五条悟に当然出来た妹は、それはもう様々な場所に色々な衝撃を与えた。
まず夏油、五条を除けば第一発見者である。
親友が、全裸にスウェットを被された状態の妹(仮)と洗面所に居た。
しかも妹(仮)の方は床にペタリと座り込んでいる。生っ白いおみ足は投げ出されており、 スウェットは雑に被された状態のままで顔も出ていなければ袖も通していなかった。
「き……近し、」
「違う、誤解すんな。お前もさっさと着ろ」
着ろ、と命じられてはじめてソレはモゾモゾと動き出した、が……新しい肉体の感覚が掴めていなかったため、「フニィ"~~~」と謎の呻きをあげながらジタバタした結果、ゴロンとひっくり返り電池が切れたかのように動かなくなった。
よ、幼児だ……幼児のようなものが着替えに失敗して拗ねた…。と、夏油は一連の動きを見た感想を抱く、朝からハイカロリーな情報が怒涛の勢いで与えられて胃もたれをしそうだった。
「いや諦めんな、もうちょい頑張れ」
「ウゥゥ……」
呻きながら足をバタつかせるせいで、見てはならない部分が見えそうになり、夏油は目を反らした。流石に親友の妹(仮)をそんな目で見るのは憚られる、あと単純にこんな脱皮に失敗した虫みたいなのに興奮する程困ってはいなかったので。
見かねた五条が無理矢理スウェットを着させる。服をずり落とし頭を出してやり、服の中に手を突っ込んで袖に腕を通させる、犬に服を着せる人間はこんな気持ちなのかも知れない…。生身の肌に触れているのに、全く興奮しない微妙な気持ちのまま、先程自分の妹と定義した異質な者の顔を見た。
自分を女にしたらこんな感じの顔になるのかもしれないと、そう感じるような顔の作りであった。
「暫くはリハビリな、立派な妹になるまでお披露目は先だから」
「ウウン……」
「違う、返事は ハイ、お兄様。リピートアフタミー?」
五条の言葉にソレは何も返答しなかった、黙って口を半開きにして見つめ返す。
兄と妹、二人は似通った顔を付き合わせ、互いの瞳を見つめながら沈黙した。
「その顔、どんな感情?」
「喉かわいたの」
「…そこの蛇口捻ってみな、水が出るから」
「悟、」
蛇口へ這いずって向かおうとした少女を止め、両脇に手を入れて持ち上げた夏油は、五条を厳しい眼差しで見つめた。
「妹さんが可哀想だろう」
「俺だってどうすりゃ良いか分かんねえんだって」
「みず……」
「ああ、ごめんね。でもあの水は飲んだらお腹壊すかもしれないからね、私の部屋にペットボトルのがあるから」
夏油はサラリと流れるように少女を抱き直すと自室へ連れて帰ろうとした、この訳ありであろう妹と呼ばれた少女を、兄の立場を語る親友に任せてはおけなかった。
しかし、少女は身体から力を抜いてしまい、軟体動物のようにグニャリと身を傾かせる。あわや落としそうになり、夏油は横抱きに体制を切り替えた。まるで、首の座らない赤子のようであった。
こんなフニャフニャで大丈夫か、この子。
「勝手に拉致ろうとしてんなよ」
「おみず……」
「お水だね、よしよし」
「いや、その状態で揺らすな、絵面が酷すぎる」
横抱きにした、生まれたてフニャフニャの女を夏油はユラユラとあやすように揺らしながら洗面所から出て行ってしまった。
五条は出来たばかりの妹を親友に養子として取られた、新しいタイプの寝取りスタイルとも言えるかもしれない。
…
夏油傑、16歳(最近誕生日が来たばかり)
現在、はじめての授乳()体験中。
五条悟の妹擬きを自室へ強制連行した夏油は、冷蔵庫から取り出したペットボトルの蓋を開け手渡した。しかし、今さっきこの世に存在を許され産まれ直したばかりのソレは、上手にお座りは出来ても細かい挙動はまだ出来なかった。
つまり、盛大に溢した。
五条の着せたスウェットが水に濡れていく。
「ああ、難しかったかな?ごめんね、私の判断ミスだ」
「おみず……」
「濡れちゃったね、着替えを先にしようか」
「のどが……」
「やっぱり水分補給を優先しようね」
確かあったはず、と探しだしたストローを別のペットボトルに差し、少女の口元まで甲斐甲斐しく運ぶ。
しかし、中々口に入らない。入ったとしても上手く嚥下出来ないのか、口に含んだ水を中々飲み込めずにいた。これには夏油も困ってしまった。
「ゴックン、ゴックンって出来るかな?」
「ングググゴボォッ」
「駄目かー」
仕方ないので、携帯を開き検索をかける。
検索:猫 水 飲まない。出た、なるほど…スポイト……。
座学授業、理科基礎を学んだ時に貰ったピペットがあったはずだ、とガサゴソ引き出しを漁れば出てきたので、それをウェットティッシュで拭く。少女は疲れたのかクッタリと身体を横にしていた。
少女の身体を膝の上に横抱きで乗せ、片手で身体を支え、もう片手で水をピペットに含ませる。
「これで飲めるからね、あーんしてごらん」
「あ」
なるべく喉奥にいくようにピペットを口の中に突っ込み、ピュッと水を出せば喉が小さくコクリッと動いた。ありがとう、検索エンジン、ありがとう猫に水を飲ませるやり方ブログ。夏油はどうして朝から自分がこんなことをしているのか、甚だ疑問であったが、なるべく深く考え込まないようにしながら水やりを続けた。絵面がとにかく酷かった。
しかし、人間 切欠がよく分からないまま始めたことでも、続けていれば楽しさを見出だすもの。
ピペットで水を飲ませること7回、夏油は段々快感を覚えはじめた。
自分が支え、指示し、こうして与えてやらなければ満足に喉を潤すことも出来ない弱くて柔らかな命……無意識に身体をユラユラと揺らし、慈愛を込めた笑顔で見下ろしながら水を飲ませ続けた。
そうして、20回以上水を飲ませると、少女は満足したのか口を閉じたため夏油はピペットを手から話した。次いで、そうすることが当たり前かのように少女の身体を横抱きから縦に変えて、背中をトントンッと叩きゲップを促した。
「上手に飲めたね」
「……?」
先に正気に戻ったのは少女の方であった、というかずっと正気であった。
身体が上手く動かせていないだけで、意識は先程から随分ハッキリしていたので、何だこれは……と困惑の気持ちでいっぱい、どうすることが正しいのか誰か教えて欲しい。この男を誰か止めろ。
なので、両腕を突っぱねて距離を取る作戦に出た。離せ、私は赤ん坊では無い。だが残念ながら、夏油の中では親友から引き取った赤ちゃんであった。多分、連日の任務続きで疲れていたのだろう。
「ああ、着替えも必要だったね。濡れたままで気持ち悪かったかな?」
「ちなう」
「よしよし、良い子で待っててね」
夏油は少女へ新しい服を着せるためにクローゼットへ近寄った、その動きをジッと見つめタイミングを見計らっていた少女は、夏油がクローゼットを開けたタイミングで未だ上手く働かない脚をなんとか動かし、フラフラとした足取りで立ち上がってドアへと向かった。
逃げなければ、こんなデカくて恵比寿様みたいな顔しながら赤の他人に水を喜んで飲ませる人間、絶対おかしい、イカれている!
ヨタヨタとした足取りで、一歩一歩確実にしっかりと前へと進む。踏み出す毎に、忘れていた感覚を思い出すように身体の動きが滑らかに、伸びやかになっていく事が分かった。
そうして、学習しながらやっとの思いでドアまでたどり着き、外に逃げ出すためにドアノブに触れ回そうとした。しかし、捻れども捻れども回りきらずに途中で止まり、扉は開かない。
ガチャガチャと動かすが、扉は開かなかった。
「何してるのかな?」
焦ってガチャガチャとしていれば、ポンッと、優しく肩に大きな手で触れられる。
振りかえるより前に、頭上から声が降ってきた。
「良い子で待っていられなかった?」
「ひぇぇ……」
人間、恐怖で身が震えることって本当にあるんだなあ。少女はここに来るまでに乗り越えた死線よりも恐怖した、得体の知れないデカい男と二人っきりは普通に怖い、当たり前体操。
一方夏油としては、目を離した隙に幼児が悪戯していたのを目撃した気持ちで「も~~、めっ!」といった態度のつもりであった、砂漠の昼と夜くらいの温度差である。
「さ、お着替えしようか」
「ひぇぇ~~……」
そうして夏油に確保された少女は再び部屋の中央へと連れて行かれ、スッポンポンにされた後に夏油の服を着せられ、ついでに髪を梳かされた。
漠然と、疲れたな……という思いが浮かび上がった少女は途中から怯えることを放棄し、夏油に身を委ねることとしたのだった。
まず夏油、五条を除けば第一発見者である。
親友が、全裸にスウェットを被された状態の妹(仮)と洗面所に居た。
しかも妹(仮)の方は床にペタリと座り込んでいる。生っ白いおみ足は投げ出されており、 スウェットは雑に被された状態のままで顔も出ていなければ袖も通していなかった。
「き……近し、」
「違う、誤解すんな。お前もさっさと着ろ」
着ろ、と命じられてはじめてソレはモゾモゾと動き出した、が……新しい肉体の感覚が掴めていなかったため、「フニィ"~~~」と謎の呻きをあげながらジタバタした結果、ゴロンとひっくり返り電池が切れたかのように動かなくなった。
よ、幼児だ……幼児のようなものが着替えに失敗して拗ねた…。と、夏油は一連の動きを見た感想を抱く、朝からハイカロリーな情報が怒涛の勢いで与えられて胃もたれをしそうだった。
「いや諦めんな、もうちょい頑張れ」
「ウゥゥ……」
呻きながら足をバタつかせるせいで、見てはならない部分が見えそうになり、夏油は目を反らした。流石に親友の妹(仮)をそんな目で見るのは憚られる、あと単純にこんな脱皮に失敗した虫みたいなのに興奮する程困ってはいなかったので。
見かねた五条が無理矢理スウェットを着させる。服をずり落とし頭を出してやり、服の中に手を突っ込んで袖に腕を通させる、犬に服を着せる人間はこんな気持ちなのかも知れない…。生身の肌に触れているのに、全く興奮しない微妙な気持ちのまま、先程自分の妹と定義した異質な者の顔を見た。
自分を女にしたらこんな感じの顔になるのかもしれないと、そう感じるような顔の作りであった。
「暫くはリハビリな、立派な妹になるまでお披露目は先だから」
「ウウン……」
「違う、返事は ハイ、お兄様。リピートアフタミー?」
五条の言葉にソレは何も返答しなかった、黙って口を半開きにして見つめ返す。
兄と妹、二人は似通った顔を付き合わせ、互いの瞳を見つめながら沈黙した。
「その顔、どんな感情?」
「喉かわいたの」
「…そこの蛇口捻ってみな、水が出るから」
「悟、」
蛇口へ這いずって向かおうとした少女を止め、両脇に手を入れて持ち上げた夏油は、五条を厳しい眼差しで見つめた。
「妹さんが可哀想だろう」
「俺だってどうすりゃ良いか分かんねえんだって」
「みず……」
「ああ、ごめんね。でもあの水は飲んだらお腹壊すかもしれないからね、私の部屋にペットボトルのがあるから」
夏油はサラリと流れるように少女を抱き直すと自室へ連れて帰ろうとした、この訳ありであろう妹と呼ばれた少女を、兄の立場を語る親友に任せてはおけなかった。
しかし、少女は身体から力を抜いてしまい、軟体動物のようにグニャリと身を傾かせる。あわや落としそうになり、夏油は横抱きに体制を切り替えた。まるで、首の座らない赤子のようであった。
こんなフニャフニャで大丈夫か、この子。
「勝手に拉致ろうとしてんなよ」
「おみず……」
「お水だね、よしよし」
「いや、その状態で揺らすな、絵面が酷すぎる」
横抱きにした、生まれたてフニャフニャの女を夏油はユラユラとあやすように揺らしながら洗面所から出て行ってしまった。
五条は出来たばかりの妹を親友に養子として取られた、新しいタイプの寝取りスタイルとも言えるかもしれない。
…
夏油傑、16歳(最近誕生日が来たばかり)
現在、はじめての授乳()体験中。
五条悟の妹擬きを自室へ強制連行した夏油は、冷蔵庫から取り出したペットボトルの蓋を開け手渡した。しかし、今さっきこの世に存在を許され産まれ直したばかりのソレは、上手にお座りは出来ても細かい挙動はまだ出来なかった。
つまり、盛大に溢した。
五条の着せたスウェットが水に濡れていく。
「ああ、難しかったかな?ごめんね、私の判断ミスだ」
「おみず……」
「濡れちゃったね、着替えを先にしようか」
「のどが……」
「やっぱり水分補給を優先しようね」
確かあったはず、と探しだしたストローを別のペットボトルに差し、少女の口元まで甲斐甲斐しく運ぶ。
しかし、中々口に入らない。入ったとしても上手く嚥下出来ないのか、口に含んだ水を中々飲み込めずにいた。これには夏油も困ってしまった。
「ゴックン、ゴックンって出来るかな?」
「ングググゴボォッ」
「駄目かー」
仕方ないので、携帯を開き検索をかける。
検索:猫 水 飲まない。出た、なるほど…スポイト……。
座学授業、理科基礎を学んだ時に貰ったピペットがあったはずだ、とガサゴソ引き出しを漁れば出てきたので、それをウェットティッシュで拭く。少女は疲れたのかクッタリと身体を横にしていた。
少女の身体を膝の上に横抱きで乗せ、片手で身体を支え、もう片手で水をピペットに含ませる。
「これで飲めるからね、あーんしてごらん」
「あ」
なるべく喉奥にいくようにピペットを口の中に突っ込み、ピュッと水を出せば喉が小さくコクリッと動いた。ありがとう、検索エンジン、ありがとう猫に水を飲ませるやり方ブログ。夏油はどうして朝から自分がこんなことをしているのか、甚だ疑問であったが、なるべく深く考え込まないようにしながら水やりを続けた。絵面がとにかく酷かった。
しかし、人間 切欠がよく分からないまま始めたことでも、続けていれば楽しさを見出だすもの。
ピペットで水を飲ませること7回、夏油は段々快感を覚えはじめた。
自分が支え、指示し、こうして与えてやらなければ満足に喉を潤すことも出来ない弱くて柔らかな命……無意識に身体をユラユラと揺らし、慈愛を込めた笑顔で見下ろしながら水を飲ませ続けた。
そうして、20回以上水を飲ませると、少女は満足したのか口を閉じたため夏油はピペットを手から話した。次いで、そうすることが当たり前かのように少女の身体を横抱きから縦に変えて、背中をトントンッと叩きゲップを促した。
「上手に飲めたね」
「……?」
先に正気に戻ったのは少女の方であった、というかずっと正気であった。
身体が上手く動かせていないだけで、意識は先程から随分ハッキリしていたので、何だこれは……と困惑の気持ちでいっぱい、どうすることが正しいのか誰か教えて欲しい。この男を誰か止めろ。
なので、両腕を突っぱねて距離を取る作戦に出た。離せ、私は赤ん坊では無い。だが残念ながら、夏油の中では親友から引き取った赤ちゃんであった。多分、連日の任務続きで疲れていたのだろう。
「ああ、着替えも必要だったね。濡れたままで気持ち悪かったかな?」
「ちなう」
「よしよし、良い子で待っててね」
夏油は少女へ新しい服を着せるためにクローゼットへ近寄った、その動きをジッと見つめタイミングを見計らっていた少女は、夏油がクローゼットを開けたタイミングで未だ上手く働かない脚をなんとか動かし、フラフラとした足取りで立ち上がってドアへと向かった。
逃げなければ、こんなデカくて恵比寿様みたいな顔しながら赤の他人に水を喜んで飲ませる人間、絶対おかしい、イカれている!
ヨタヨタとした足取りで、一歩一歩確実にしっかりと前へと進む。踏み出す毎に、忘れていた感覚を思い出すように身体の動きが滑らかに、伸びやかになっていく事が分かった。
そうして、学習しながらやっとの思いでドアまでたどり着き、外に逃げ出すためにドアノブに触れ回そうとした。しかし、捻れども捻れども回りきらずに途中で止まり、扉は開かない。
ガチャガチャと動かすが、扉は開かなかった。
「何してるのかな?」
焦ってガチャガチャとしていれば、ポンッと、優しく肩に大きな手で触れられる。
振りかえるより前に、頭上から声が降ってきた。
「良い子で待っていられなかった?」
「ひぇぇ……」
人間、恐怖で身が震えることって本当にあるんだなあ。少女はここに来るまでに乗り越えた死線よりも恐怖した、得体の知れないデカい男と二人っきりは普通に怖い、当たり前体操。
一方夏油としては、目を離した隙に幼児が悪戯していたのを目撃した気持ちで「も~~、めっ!」といった態度のつもりであった、砂漠の昼と夜くらいの温度差である。
「さ、お着替えしようか」
「ひぇぇ~~……」
そうして夏油に確保された少女は再び部屋の中央へと連れて行かれ、スッポンポンにされた後に夏油の服を着せられ、ついでに髪を梳かされた。
漠然と、疲れたな……という思いが浮かび上がった少女は途中から怯えることを放棄し、夏油に身を委ねることとしたのだった。