番外編
夏だ!海だ!バカンスだ!!
………なんてことはなく、私は現在仮初めの叔父である甚爾さんと粗食に耐え忍ぶ悲しき生活を送っていた。
というのも、甚爾さんがつい二日前に有り金を全て溶かす勢いでお馬さん遊びに行ってしまったのだ。それはもう一周まわって気持ち良いくらい大負けしていた。笑うしかないでしょう、こんな負け方。
この人、基本的にギャンブルの才能無いのにどうして大金持って遊びに出てしまうのだろうか。もう少し自分の才能を鑑みて貰いたい。
そんなことを考えながら私は如何に効率良く、かつ短期間で金を稼げるか考えた。
「やっぱり、麻雀…!」
「お前も大概じゃねぇか、人のこと言えねえだろ」
「私は勝つもの、将来の夢は名人戦に出ることです」
「俺より碌でもないんじゃないか?」
そんなことないですけど?何?麻雀の名人戦馬鹿にしてます?言っておくけど倍率すんごいんだからね、簡単に行けないんだから。ポケモンで言えばチャンピオンリーグ、フィギアスケートで言えば全日本、競馬で言ったら天皇賞。そういう大会なんだから。
それに、他に今の私に出来ることと言えば呪霊を祓うか廃品回収かの二択しかないわけでして。
ちなみにどちらも方法としては同じである。呪霊も古びた電化製品もまとめて天の庭にポイッすればおわり。呪霊については花達の餌になり、電化製品はあとでレアパーツだけ抜き取ってゴミは天の庭の端の端にある神の口へと投げ捨てておけばオッケーだ。
我ながらなんて便利なスキルを持っているんだろう。
やはりこの夏の営業は廃品回収で決まりかもしれない。
「廃品回収の夏、か……」
「いや、呪霊退治の方選べよ」
「私は呪霊退治する甚爾さんよりも、リヤカーを押しながら拡声器で不良品をタカる甚爾さんが見たいの!」
「聞いたことねぇぞそんな趣味」
そんなもどんなもそういうことですよ。
リヤカー推しながら住宅街で「ご不要になりました冷蔵庫洗濯機エアコン、コンポ、パソコン…どんな物でも回収します」って言いながら暇そうに歩く人間を眺める趣味ですよ。
そして全く使われていないギターを持って来ちゃったりした奴を見て、あーコイツアニメに影響されてギター買ったけど使わなかったんだなあってニヤニヤするの。
総合すると、悪趣味とも言う。
しかし、実際呪霊退治の方が金にはなる。
しかもこの時期は結構呪霊が出てくるので稼ぎ時。
それこそ大きなものから小さなものまで、どんな呪霊も回収致しますって言ったらそこそこの金になるはずだ。
………これだとまるで私の術式が廃品回収術式みたいだな。否定しづらい所が困るわね。
というわけで、何やかんやと甚爾さんと話し合い、適当に呪霊やら呪詛師やら何やらをどうこうして金を稼ぐことにした。
一先ずは、家賃分くらいは稼がねば住む場所が無くなる恐れがある。
この男、本当に碌でもないなと思ったが、そんな男に碌でもない奴認定されている私とはいったい…と、思考が深みにハマりそうになったので前言撤回しておく。
伏黒甚爾という男は、碌でもないのではなくどうしようもない奴だ。
どうしようもなく、生きるのが上手く無い奴である。
………
「まさか海に発生した呪霊とゴミを回収することになるとは…」
「やれやれみたいな雰囲気しながら、ちゃっかり水着用意してんじゃねぇよ」
「いやこれは手が勝手に」
「んなわけあるか」
由々しき事態である。
まさかまさかの海物語がスタートしてしまった。
青い空、広い海、そして砂浜には流れ着いた漂流物…もとい、ゴミの山。
ロケーションは良くはないが海は海だ。
そして海と言えばヒロインの水着姿だ、漫画で表すならコマぶち抜き全身絵の水着ヒロインが描かれている状態である。
しかしまあ、悲しいかな私の水着姿などたかが知れているため、今回のサービスショット担当は甚爾さんに譲ることとした。
では張り切って描写を。
キラキラと輝く海面が眩しい海原を背景に、一人の男が欠伸をしながら立っている。
鍛え抜かれた身体を惜しげもなく太陽の下に晒し、黒い海パン姿でお世辞にも綺麗とは言えない砂浜を気怠げに歩く姿からは絶妙な色気が見て取れた。
青空と海の真ん中で、男は潮風を浴びながら黒い髪を揺らしている。
薄情な笑みを浮かべながら男は一度だけ太陽を見上げた。
そのワンシーンはまるで、夏の魔物をも魅了してしまうような気配さえ伺えたのだった。
こんなもんで如何でしょうか。
ちなみに私は水着の上から濡れても大丈夫なジャージを着ています。肌を焼きたくないので。
そしてこんなことを描写しながらも、私はタオルと麦わら帽子を甚爾さんに手渡していたのだった。なんて健気で出来た姪なのでしょう、褒めて遣わしてほしいものだ。
「じゃあ、私はゴミ回収担当ということで」
「そういや、武器持ってくんの忘れた」
「………いやだわ、初手からゴミが増えちゃった」
もう私の夏は終わりや。
何なんですかこの人、やる気の欠片も無いじゃないですか。何のために付いて来たの、どうして生きてるの、教えてアルムのモミの木よ。
暑さと同行者のやる気の無さのダブルパンチによって、私は出鼻を挫かれ、みるみるとやる気が消え失せた。
もうこんな時は泳ぐしかない。
波と悪戯に戯れ、水飛沫をあげながら読者サービス全開な水着姿を遺憾無く発揮しまくる他あるまいて。
持ってきた荷物を漁り、萎んだ浮き輪を取り出し甚爾さんに突き付ける。
「はい、お仕事よ」
「おう」
空気を入れるくらいはやってくれ、それ以外はまあ…もうこちらで何とかする他ない。
だが、周り周って考えればこれも良い機会かもしれない。
何せ私は普段戦闘行動全般を甚爾さんに任せっきりだ。
甚爾さんが戦闘へどういう向き合い方をしているかは不明だが、私は戦闘行動に追随する緊張感や罪悪感がわりと苦手なタイプである。
だから、たまには彼に押し付けてしまっている、本来であれば私も味わうべき苦痛をたまには身を持って知る必要があるのかもしれない。
まあ、こんなことを言えば絶対「考えすぎだ」だの「アホくせぇ」だのと言われること間違いなしだろうが…。
それでも、これを機会に改めて勉強するのも良いことだと、前向きに考えたい。
記憶を対価として奪われた私にとっては、どんな体験も新鮮な気持ちで大切にすべき事柄だ。
なので、気持ちを切り替え太陽に負けないくらいの元気と覚悟を胸に、夏を乗り切ることを改めて己に誓った。
「勉強の夏、廃品回収の夏!」
「流されんなよ」
注意を背中に浴びながら、私は輝く青き海面に向かって駆け出した。
波よ、どうか私の心の内を聞いてくれ。
絶対に言わないけど…本当はね、甚爾さんのどうしようもないとこも生きるのが下手っぴなとこも、なのに何だかんだと理由を付けて私に付いてきてくれるとこも、全部大切で大好きよ。
だから許してあげる。海のようにとまではいかないが、広い心で良しとしてあげる。
今回は波の音でも聞きながら、日頃の疲れや憂いを癒やしてくれ。
綺麗すぎる海と空じゃ貴方は落ち着かないだろうけれど、砂浜はお世辞にも綺麗とは言えないから、きっと丁度良いんじゃないでしょうか。
ね、案外この世はまだまだ居場所があるって、そう思える夏にしましょうよ。
どうにか、こうにか。
………なんてことはなく、私は現在仮初めの叔父である甚爾さんと粗食に耐え忍ぶ悲しき生活を送っていた。
というのも、甚爾さんがつい二日前に有り金を全て溶かす勢いでお馬さん遊びに行ってしまったのだ。それはもう一周まわって気持ち良いくらい大負けしていた。笑うしかないでしょう、こんな負け方。
この人、基本的にギャンブルの才能無いのにどうして大金持って遊びに出てしまうのだろうか。もう少し自分の才能を鑑みて貰いたい。
そんなことを考えながら私は如何に効率良く、かつ短期間で金を稼げるか考えた。
「やっぱり、麻雀…!」
「お前も大概じゃねぇか、人のこと言えねえだろ」
「私は勝つもの、将来の夢は名人戦に出ることです」
「俺より碌でもないんじゃないか?」
そんなことないですけど?何?麻雀の名人戦馬鹿にしてます?言っておくけど倍率すんごいんだからね、簡単に行けないんだから。ポケモンで言えばチャンピオンリーグ、フィギアスケートで言えば全日本、競馬で言ったら天皇賞。そういう大会なんだから。
それに、他に今の私に出来ることと言えば呪霊を祓うか廃品回収かの二択しかないわけでして。
ちなみにどちらも方法としては同じである。呪霊も古びた電化製品もまとめて天の庭にポイッすればおわり。呪霊については花達の餌になり、電化製品はあとでレアパーツだけ抜き取ってゴミは天の庭の端の端にある神の口へと投げ捨てておけばオッケーだ。
我ながらなんて便利なスキルを持っているんだろう。
やはりこの夏の営業は廃品回収で決まりかもしれない。
「廃品回収の夏、か……」
「いや、呪霊退治の方選べよ」
「私は呪霊退治する甚爾さんよりも、リヤカーを押しながら拡声器で不良品をタカる甚爾さんが見たいの!」
「聞いたことねぇぞそんな趣味」
そんなもどんなもそういうことですよ。
リヤカー推しながら住宅街で「ご不要になりました冷蔵庫洗濯機エアコン、コンポ、パソコン…どんな物でも回収します」って言いながら暇そうに歩く人間を眺める趣味ですよ。
そして全く使われていないギターを持って来ちゃったりした奴を見て、あーコイツアニメに影響されてギター買ったけど使わなかったんだなあってニヤニヤするの。
総合すると、悪趣味とも言う。
しかし、実際呪霊退治の方が金にはなる。
しかもこの時期は結構呪霊が出てくるので稼ぎ時。
それこそ大きなものから小さなものまで、どんな呪霊も回収致しますって言ったらそこそこの金になるはずだ。
………これだとまるで私の術式が廃品回収術式みたいだな。否定しづらい所が困るわね。
というわけで、何やかんやと甚爾さんと話し合い、適当に呪霊やら呪詛師やら何やらをどうこうして金を稼ぐことにした。
一先ずは、家賃分くらいは稼がねば住む場所が無くなる恐れがある。
この男、本当に碌でもないなと思ったが、そんな男に碌でもない奴認定されている私とはいったい…と、思考が深みにハマりそうになったので前言撤回しておく。
伏黒甚爾という男は、碌でもないのではなくどうしようもない奴だ。
どうしようもなく、生きるのが上手く無い奴である。
………
「まさか海に発生した呪霊とゴミを回収することになるとは…」
「やれやれみたいな雰囲気しながら、ちゃっかり水着用意してんじゃねぇよ」
「いやこれは手が勝手に」
「んなわけあるか」
由々しき事態である。
まさかまさかの海物語がスタートしてしまった。
青い空、広い海、そして砂浜には流れ着いた漂流物…もとい、ゴミの山。
ロケーションは良くはないが海は海だ。
そして海と言えばヒロインの水着姿だ、漫画で表すならコマぶち抜き全身絵の水着ヒロインが描かれている状態である。
しかしまあ、悲しいかな私の水着姿などたかが知れているため、今回のサービスショット担当は甚爾さんに譲ることとした。
では張り切って描写を。
キラキラと輝く海面が眩しい海原を背景に、一人の男が欠伸をしながら立っている。
鍛え抜かれた身体を惜しげもなく太陽の下に晒し、黒い海パン姿でお世辞にも綺麗とは言えない砂浜を気怠げに歩く姿からは絶妙な色気が見て取れた。
青空と海の真ん中で、男は潮風を浴びながら黒い髪を揺らしている。
薄情な笑みを浮かべながら男は一度だけ太陽を見上げた。
そのワンシーンはまるで、夏の魔物をも魅了してしまうような気配さえ伺えたのだった。
こんなもんで如何でしょうか。
ちなみに私は水着の上から濡れても大丈夫なジャージを着ています。肌を焼きたくないので。
そしてこんなことを描写しながらも、私はタオルと麦わら帽子を甚爾さんに手渡していたのだった。なんて健気で出来た姪なのでしょう、褒めて遣わしてほしいものだ。
「じゃあ、私はゴミ回収担当ということで」
「そういや、武器持ってくんの忘れた」
「………いやだわ、初手からゴミが増えちゃった」
もう私の夏は終わりや。
何なんですかこの人、やる気の欠片も無いじゃないですか。何のために付いて来たの、どうして生きてるの、教えてアルムのモミの木よ。
暑さと同行者のやる気の無さのダブルパンチによって、私は出鼻を挫かれ、みるみるとやる気が消え失せた。
もうこんな時は泳ぐしかない。
波と悪戯に戯れ、水飛沫をあげながら読者サービス全開な水着姿を遺憾無く発揮しまくる他あるまいて。
持ってきた荷物を漁り、萎んだ浮き輪を取り出し甚爾さんに突き付ける。
「はい、お仕事よ」
「おう」
空気を入れるくらいはやってくれ、それ以外はまあ…もうこちらで何とかする他ない。
だが、周り周って考えればこれも良い機会かもしれない。
何せ私は普段戦闘行動全般を甚爾さんに任せっきりだ。
甚爾さんが戦闘へどういう向き合い方をしているかは不明だが、私は戦闘行動に追随する緊張感や罪悪感がわりと苦手なタイプである。
だから、たまには彼に押し付けてしまっている、本来であれば私も味わうべき苦痛をたまには身を持って知る必要があるのかもしれない。
まあ、こんなことを言えば絶対「考えすぎだ」だの「アホくせぇ」だのと言われること間違いなしだろうが…。
それでも、これを機会に改めて勉強するのも良いことだと、前向きに考えたい。
記憶を対価として奪われた私にとっては、どんな体験も新鮮な気持ちで大切にすべき事柄だ。
なので、気持ちを切り替え太陽に負けないくらいの元気と覚悟を胸に、夏を乗り切ることを改めて己に誓った。
「勉強の夏、廃品回収の夏!」
「流されんなよ」
注意を背中に浴びながら、私は輝く青き海面に向かって駆け出した。
波よ、どうか私の心の内を聞いてくれ。
絶対に言わないけど…本当はね、甚爾さんのどうしようもないとこも生きるのが下手っぴなとこも、なのに何だかんだと理由を付けて私に付いてきてくれるとこも、全部大切で大好きよ。
だから許してあげる。海のようにとまではいかないが、広い心で良しとしてあげる。
今回は波の音でも聞きながら、日頃の疲れや憂いを癒やしてくれ。
綺麗すぎる海と空じゃ貴方は落ち着かないだろうけれど、砂浜はお世辞にも綺麗とは言えないから、きっと丁度良いんじゃないでしょうか。
ね、案外この世はまだまだ居場所があるって、そう思える夏にしましょうよ。
どうにか、こうにか。
3/3ページ