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番外編

新聞を読みつつ、朝食に用意していた物を食べていれば、正面に座る甚爾さんから物言いたげな視線を頂いた。
言いたいことがあるなら言え、と視線で返せば素直に口を開く。

「お前、その食い方やめろ」
「汚い食べ方なんてしてないわ」
「マナー以前の問題だ、パン食いながらサプリかじるのやめろ」

近所のスーパーで値下げされていたメロンパンとサプリメントを同時にかじっていたら叱られた。
でも、空きっ腹にサプリメント入れると口内炎が酷くなるのよね…

「野菜ジュースとかでいいだろ」
「どちらも吸収されれば同じビタミンでしょうに」
「お前…それ言ったら食文化の否定になるぞ……」

言われてることは正論なのに、甚爾さんから言われると腹立つな…別にいいでしょう、腹を満たせて栄養が取れればなんでも。
新聞を捲り、株価のチェックをする。
企業名と高値をザッと見て、目に止まった数字の始値、安値、終値、取引単位などを確認した。
経済の変動は目まぐるしい、経済が変動すれば雇用と労働に関わってくるのだ。頭脳担当としては毎日チェックは欠かせない。

如何に効率良く、リスクを減らして金を稼げるかを見極めることは大切だ。
雇用契約書を隅々まで読み、理解し、雇用主と労働者が対等であるか、不利益は無いかなどの確認。私にもやれることはある。

なので朝の栄養と糖分は欠かせない。
メロンパンは甘いし、サプリも甘い、それに栄養が取れる。
いやあ、素晴らしい時代になりましたね。
こんな食生活をしていると、かつての同級生であった彼等に知られたら叱られそうだ。
七海くんには保護して貰った時に美味しいご飯をご馳走になったから、きっと彼みたいな食道楽をしている人は甘いサプリをかじりながら炭水化物を一緒に食べたりしないのだろうな。

新聞を捲り地域面を見る、別段これといった地域の話題は無さそうだ…と眺めていれば、朝食を終えたらしい甚爾さんがこちらを観察するように見てきた。

「少し痩せたか?」
「…そう?気のせいじゃないかしら」
「胸が縮んだ」
「あらまあ…」

それは大変なことだ、由々しき問題である。
元々バインバインに大きくも無い、あるなぁ…くらいの物が無くなるのは勘弁願いたい。
自分の胸に両手を置き、見下ろす。そして目の前に居る甚爾さんの胸を見て猛烈に悲しみが沸き上がって来た。
ま、負けた…なんだあの巨乳は、たわわな乳しやがって…視界の暴力だ、何て威力だ、完全に負けた。敗北を噛み締める、女にとっての屈辱とはこのことだ!あれ…前にも似たようなことを考えたような……

「あ、甚爾さんの巨乳見て思い出した!」
「朝っぱらから人の胸見て何考えてんだ」
「私、前に安いロリータ服を着せられそうになった時、兄に助けてもら…って……兄……?」

パチパチと記憶の底で輝く白い火花が散った、脳裏に浮かび上がってくる新鮮な恐怖と憧れが私の意識を塗り替えようと手を伸ばして来たところで、目の前に居た甚爾さんにベチッと手加減をしたであろうデコピンを一発お見舞いされた。
痛い、手加減されても痛い!おでこが陥没したような気がする、脳が…脳細胞が死んだ!酷い、胸だけでは無く脳細胞まで減ったら流石にへこむ。全く、私の貴重な記憶が、って あれ…今何を思い出そうとしてたのだっけ。喉元まで上がってきた不安定な存在が、一気に胸の奥へと沈んでいく。

「余計なこと思い出すな、朝からめんどくせぇ」
「……何を思い出そうとしてたか忘れちゃった」
「そんなに重要じゃ無かったってことだろ」
「そっか」

それもそうね、まあいいや。
それよか、日が高いうちに情報収集にでも出よう。記憶と経験が無い分知識でアドバンテージを取らなければ。

こうして私のボチボチ忙しかったりする一日は始まるのだった。
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