枯れ明かり
「本当に本物の灰原くんだ~!」
「本物だよ!」
「凄い童顔、七海くんと本当に同い年…?」
「言わせておけば…」
何故か覚えていた七海くんと奇跡的に再会出来たので、保護して貰いましたとさ。
と言っても、名前以外のことは正直あまり覚えてはいない、それは灰原くんに対しても右に同じだ。
私の面倒を一人じゃ見切れないと判断した七海くんは灰原くんを召喚し、やって来た灰原くんは「わあ、色違い!」と驚いたり、私を一頻り抱き締めたり撫で回したり持ち上げてみたりとした後にソファに私を抱えて座り、ひっついたまま七海くんと話を始めた。灰原くんあったか…ポカポカで寝ちゃいそう…。
「じゃあ、五条さんのことも覚えていないんだ」
「そうらしいです、説明が曖昧なので全てを理解仕切れていませんが…」
灰原くんに体重を預けて目を閉じていれば、視線を感じたので片目を開く。
一応説明出来る範囲はしたはずだ、彼等は門の内側に来た客人では無いので話せることは少ないけれど…私の魂と肉体が全くの別物であること、肉体が死んだ場合に行き着く先があること、そこから戻って来たことは七海くんに伝えてある。
あと、叔父に捨てられたことも。
「その男の名前や特徴は分かりますか?」
「えー…名前は思い出せないな、特徴は…ヒモ出来そう…黒髪…マッチョ……」
「筋肉なら僕もあるよ」
「灰原くんだったかもしれない」
もう面倒臭い、灰原くんが叔父ってことにしておこうかな…嫌だめだ、定義が不安定になれば私の存在もあやふやになる、うぅ……あんな、あんな名前も知らない私を捨てた男が身内だなんて…。
くぁっと欠伸をして、眠気を覚ましたくて目を擦ろうとすれば灰原くんに「擦っちゃ駄目」と手を握られてそのまま身体をユラユラさせられた。寝ちゃうでしょ!やめろ!!
堪えろ私、今寝たら消えそうな気がする!スゥーー……と消えてく気がする!
「寝たら消える!」
「赤ちゃんも寝るの怖がる時あるよね」
フロイトの心理学かよ。赤ちゃんにとって眠るという行為が、自分の存在がこの世から消えてしまうことと同じ程の恐怖に値するってやつ、それとは違うわよ!
あの男が生まれてすぐの私を放置したせいで、名前も聞けなかったから、自分が一体誰の姪か分からないせいで定義があやふやになっているのだ。
クソ、やっぱり今から探しに行くしかないか…。
その時、黙って考え込んでいた七海くんが口を開いた。
「定義付けが甘いなら、付け足せば良いのでは」
「それだ!!」
流石、御見逸れしました…困った時の物知り博士七海くん。
眠気を飛ばすように灰原くんからぐいっと離れ、腕を組んで仁王立ちの姿勢を取る。
さあ、どこからでもかかってらっしゃい!
「僕と七海の友達!」
「甘い!」
「僕達の味方!」
「まだまだ!」
「えっと…ご近所さん?」
「一気に他人になったわね…」
駄目だこりゃ、姪という微妙な立場があるせいで踏み込んだ関係を提示出来ない。
うーん…と首を捻って悩んだ灰原くんが口を開く。
「七海、犬と猫どっちがいい?」
「……猫ですかね」
………お待ちなって、何故そこで犬猫談義を?というか、何故こちらを見ながらそんな話を?
え、もしかして私をネコチヤンとして飼おうとしてます?嘘でしょ、今友達って言ったのは何だったの?友情と言う名の関係を棒に振る気か?あまりに雑な扱い過ぎません?
「七海の飼ってる猫!」
「はい、私の飼ってる猫です」
「あ!」と思った瞬間には遅かった。
耳が一瞬キンッと痛んだと思ったら、頭の先がムズムズし出して、そのまま意識を彼方へと飛ばした。
身体が後ろに倒れていくのを感じながら、抗うことなく引っ張られる意識に誘われる。
二人が駆け寄る気配がしたが、そこまでだった。
私はこうして、七海くんが飼っている猫擬きになった。
なんじゃそりゃ、勘弁してくれ。
感動の再会じゃなかったのか。
「本物だよ!」
「凄い童顔、七海くんと本当に同い年…?」
「言わせておけば…」
何故か覚えていた七海くんと奇跡的に再会出来たので、保護して貰いましたとさ。
と言っても、名前以外のことは正直あまり覚えてはいない、それは灰原くんに対しても右に同じだ。
私の面倒を一人じゃ見切れないと判断した七海くんは灰原くんを召喚し、やって来た灰原くんは「わあ、色違い!」と驚いたり、私を一頻り抱き締めたり撫で回したり持ち上げてみたりとした後にソファに私を抱えて座り、ひっついたまま七海くんと話を始めた。灰原くんあったか…ポカポカで寝ちゃいそう…。
「じゃあ、五条さんのことも覚えていないんだ」
「そうらしいです、説明が曖昧なので全てを理解仕切れていませんが…」
灰原くんに体重を預けて目を閉じていれば、視線を感じたので片目を開く。
一応説明出来る範囲はしたはずだ、彼等は門の内側に来た客人では無いので話せることは少ないけれど…私の魂と肉体が全くの別物であること、肉体が死んだ場合に行き着く先があること、そこから戻って来たことは七海くんに伝えてある。
あと、叔父に捨てられたことも。
「その男の名前や特徴は分かりますか?」
「えー…名前は思い出せないな、特徴は…ヒモ出来そう…黒髪…マッチョ……」
「筋肉なら僕もあるよ」
「灰原くんだったかもしれない」
もう面倒臭い、灰原くんが叔父ってことにしておこうかな…嫌だめだ、定義が不安定になれば私の存在もあやふやになる、うぅ……あんな、あんな名前も知らない私を捨てた男が身内だなんて…。
くぁっと欠伸をして、眠気を覚ましたくて目を擦ろうとすれば灰原くんに「擦っちゃ駄目」と手を握られてそのまま身体をユラユラさせられた。寝ちゃうでしょ!やめろ!!
堪えろ私、今寝たら消えそうな気がする!スゥーー……と消えてく気がする!
「寝たら消える!」
「赤ちゃんも寝るの怖がる時あるよね」
フロイトの心理学かよ。赤ちゃんにとって眠るという行為が、自分の存在がこの世から消えてしまうことと同じ程の恐怖に値するってやつ、それとは違うわよ!
あの男が生まれてすぐの私を放置したせいで、名前も聞けなかったから、自分が一体誰の姪か分からないせいで定義があやふやになっているのだ。
クソ、やっぱり今から探しに行くしかないか…。
その時、黙って考え込んでいた七海くんが口を開いた。
「定義付けが甘いなら、付け足せば良いのでは」
「それだ!!」
流石、御見逸れしました…困った時の物知り博士七海くん。
眠気を飛ばすように灰原くんからぐいっと離れ、腕を組んで仁王立ちの姿勢を取る。
さあ、どこからでもかかってらっしゃい!
「僕と七海の友達!」
「甘い!」
「僕達の味方!」
「まだまだ!」
「えっと…ご近所さん?」
「一気に他人になったわね…」
駄目だこりゃ、姪という微妙な立場があるせいで踏み込んだ関係を提示出来ない。
うーん…と首を捻って悩んだ灰原くんが口を開く。
「七海、犬と猫どっちがいい?」
「……猫ですかね」
………お待ちなって、何故そこで犬猫談義を?というか、何故こちらを見ながらそんな話を?
え、もしかして私をネコチヤンとして飼おうとしてます?嘘でしょ、今友達って言ったのは何だったの?友情と言う名の関係を棒に振る気か?あまりに雑な扱い過ぎません?
「七海の飼ってる猫!」
「はい、私の飼ってる猫です」
「あ!」と思った瞬間には遅かった。
耳が一瞬キンッと痛んだと思ったら、頭の先がムズムズし出して、そのまま意識を彼方へと飛ばした。
身体が後ろに倒れていくのを感じながら、抗うことなく引っ張られる意識に誘われる。
二人が駆け寄る気配がしたが、そこまでだった。
私はこうして、七海くんが飼っている猫擬きになった。
なんじゃそりゃ、勘弁してくれ。
感動の再会じゃなかったのか。