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錆びた灯火

「ねえ、あそこを見て」

人気の無い田舎道、ろくに舗装もされていないガタガタとした道路を任務帰りに三人で歩いていた時であった、三人のうちの唯一女子である同級生が利き手で少し先を指差し淡々と、ふわふわした声で言った。

「あれが噂に聞く猫の交尾よ、凄くやかましい…あれね、オスのトゲトゲしたチン……」
「説明しなくていい、やめなさい」
「女の子がそんなこと言わないの!」
「まあ……」

まあ、では無い。
東京都立呪術高等専門学校一年生三人、男子二人に女子一人。三人はそこそこ仲良くやっている。
男子二人は一般家庭出身、そして残る女子はと言うと、彼女の出自はちょっとよく分からない。曰く、扉を開けたらそこが高専だったとかなんとか。そんなことを言っている。
調べても調べても彼女の出自が不明なため、五条家が引き取る形に落ち着き、生徒の一人となった。

灰原は妹がいる兄であり、七海は自分でも謹厳な人間だと客観的に思える、そんな二人とは違いたった一人の女子同級生は淑女のようでありながら、奔放なところもある人物であった。奔放と言えば可愛らしい表現だが、言ってしまえば かなりエキセントリックな奴で、少々想像を超えた言動が目立つ。
この三人の中で一番の問題児と言えば彼女であった。

「折角、楽しくお喋りでもと思ったのに…」
「もう少しマシな話題を考えて下さい」
「じゃあ舛●大臣の話でもする?お前は何をやっているんだって」
「話題の幅が極端過ぎる」

丁度良い話題は無いのか、無いのだろうな。
七海はため息をグッとこらえ、灰原は「政治の話は怒られるから、好きな動物の話とかにしよう!」と舵を切ろうと頑張っていた。

「私はオオアリクイの威嚇ポーズが好き」
「……オオアリクイってどんなのだっけ?」
「大きなアリクイよ」

説明になっていない説明に対して、灰原はなんとか記憶からアリクイを探し出そうと頭を働かせるために沈黙した、変わりに七海が溜め息混じりに言う。

「…貴方のそういう、人の気遣いをナチュラルに無視する癖、どうにかした方が良いですよ」
「まあ…」

バス停に到着するまであと10分、三人は並んで実になら無い空虚な会話をしていた。平和でのどかな日常だ。
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