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七海が犬を飼ったよ

水溜まりに反射する自分の姿を見て、随分様変わりをしたように思えた。
半年前は指定の制服を着崩すことをせず着て、校則に逆らわず茶ゴムで髪を一つに纏め、合わないサイズの汚れたスニーカーを履いていた。
今の私はあの頃とは随分違う、まだ半年しか経っていないのに、いや、半年も経ったのだから。どちらが正しい表現かは分からない、ピカピカしたサイズのピッタリな黒い艶のある靴の先で水溜まりを蹴れば、水面に写る己の輪郭が歪んだ。


昼下がりの街中、後ろから一人…私を着けている者が居ることに気付く。


神経を集中させて相手の様子を伺う、歩くペースを少し上げれば合わせるように着いてくる。
存在感を感じる、尾行が下手なのか、単純に隠す気が無いのか。
誰が言ったか忘れたが、今の私は野生動物のようなものらしく、異常に警戒心が強く生存本能剥き出し状態らしい。
そのためだろうか、嗅覚も聴覚も嫌に正確だ。

そもそも私は今までの人生で痛みを伴う戦いを経験したことの無かった人間、だがこの世に暴力と関係の無い人間などいやしない。


歩くペースを落とし、緩やかな速度にする。
さて、どうやって誘き出そうか、その後はどうしてくれようかと考えていたところで私の身体は勝手に力を失いフラフラと車道の方へと力無く傾いた。

……あ、駄目だ。
どうやら、精神より先に身体の方が限界を迎えてしまったらしい。

鳴り響くクラクション、迫る衝撃、受け身を取ることも出来ずに力が抜けていく身体、点滅する意識。

終わった。
誰にも頼らず私は蝶と共に母のような美しい命だけを尊び生きていくと、力をもった自分に酔って生きてみたけれど、結局私はまだ結婚も出来ないような年齢の子供で、一人じゃまともに生きていけないと言うことをこのタイミングで理解した。
こんなことなら、あの呪詛師のお兄さんに保護して貰っておけば良かったな…とか、いやでもあんな理解出来ない理想に着いて行くのはやっぱり無理だな…とか、最後に甘い物を沢山食べたかったな……とか考えながら私は目を閉じて意識を彼方へとふっ飛ばした。



と、思ったのだが、人生は簡単には終わらないし楽にはならない。
私が目を覚ますよりも先に、保護した大人達の間で勝手に話は終わっており、処遇も何もかもが決まった状態で新しい道を強制的に歩まされることとなるのであった。
そんなこと、誰も望んではいないのに。
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