七海が犬を飼ったよ
季節は冬、空から降る白い真綿のような雪が、温かい鍋料理を美味しくさせる季節だ。
冬の味わいや寒さに浮かれる暇も無く、七海は最近宣戦布告されたばかりの「百鬼夜行」と呼称された計画に振り回されていた。
任務に任務を重ね、それが終われば作戦会議や後輩呪術師への引率や指導、忙しくて中々帰る暇の無い生活に心が荒らむばかりで、眉間のシワはずっと刻まれたままとなった。
さらには、上層部から流れてきた話によると、対百鬼夜行への作戦に七海が可愛がっている愛犬のような存在である少女まで出動させるという話が持ち上がっているそうで、決定事項では無いことは分かっていても、気が気じゃない状態であった。
あの子はまだ体調が整っていない、だから作戦には参加させられない。
七海は努めて冷静に、上記のような内容を監視役の意見として述べるも、二割も聞き入れられたか微妙な反応であった。
結局、結論としては、少女は高専で待機させる形で戦線に加わることとなった。
七海は結果に不満を持ったが、少女本人は了承を示す。
「私は大丈夫ですよ、七海さんこそ無茶、しないで下さいね」
七海の心配や不安に対し、困り笑顔で大丈夫だと口にした少女は12月24日、剣を持ち蝶を侍らせながら一人高専へと向かった。
七海が買ってくれた柔らかなカシミヤのマフラーと、ダッフルコートを着て寒空の下を行く。
激戦区が予想される地域には五条をはじめとした錚々たる呪術師が開戦を待ち構えているはずだ、自分に出来ることは、なるべく大人しく、邪魔に鳴らないようにしていること。
少女は一人、指先で森の宝石とも名高いゼフィルス蝶の羽を休ませながら高専の門を潜り、石畳の道を歩く。
冬の澄んだ空気が肺を満たす、他人と共に居る時に常に付きまとう不快感のような、緊張感や心理的抵抗が、一人の時は不思議と無い。
何故かは知らないが、やはり私は日に日に人間への不愉快さを募らせている。
母が居た頃はそんなこと無かったはずなのに、母が死んだあの日から、私はずっとずっと心の奥底で他者の存在へ拒否を示している。
まるでアレルギー反応のような悪感情が、頭を振っても離れてくれないのだ。
私は人を愛せなくなってしまったのかもしれない。
七海さんは良い人だ、でも彼を愛するのは、何だか…それだけはしてはいけない気がするのだ。
心が彼の優しさ全てを受け入れることを拒絶する。
だから良かった、これで良かった。
戦いになると、難しいことを考えなくて済むから。
破壊衝動に身を任せ、思うがままに暴れることは実に心地が良い。
剣を握ると高揚する、命を晒している瞬間、生を強く実感する。
私は愛されるよりも、人を傷付ける方が好い、おかしな人間なのだ。
やはり醜いのは、この私だ。
冬の味わいや寒さに浮かれる暇も無く、七海は最近宣戦布告されたばかりの「百鬼夜行」と呼称された計画に振り回されていた。
任務に任務を重ね、それが終われば作戦会議や後輩呪術師への引率や指導、忙しくて中々帰る暇の無い生活に心が荒らむばかりで、眉間のシワはずっと刻まれたままとなった。
さらには、上層部から流れてきた話によると、対百鬼夜行への作戦に七海が可愛がっている愛犬のような存在である少女まで出動させるという話が持ち上がっているそうで、決定事項では無いことは分かっていても、気が気じゃない状態であった。
あの子はまだ体調が整っていない、だから作戦には参加させられない。
七海は努めて冷静に、上記のような内容を監視役の意見として述べるも、二割も聞き入れられたか微妙な反応であった。
結局、結論としては、少女は高専で待機させる形で戦線に加わることとなった。
七海は結果に不満を持ったが、少女本人は了承を示す。
「私は大丈夫ですよ、七海さんこそ無茶、しないで下さいね」
七海の心配や不安に対し、困り笑顔で大丈夫だと口にした少女は12月24日、剣を持ち蝶を侍らせながら一人高専へと向かった。
七海が買ってくれた柔らかなカシミヤのマフラーと、ダッフルコートを着て寒空の下を行く。
激戦区が予想される地域には五条をはじめとした錚々たる呪術師が開戦を待ち構えているはずだ、自分に出来ることは、なるべく大人しく、邪魔に鳴らないようにしていること。
少女は一人、指先で森の宝石とも名高いゼフィルス蝶の羽を休ませながら高専の門を潜り、石畳の道を歩く。
冬の澄んだ空気が肺を満たす、他人と共に居る時に常に付きまとう不快感のような、緊張感や心理的抵抗が、一人の時は不思議と無い。
何故かは知らないが、やはり私は日に日に人間への不愉快さを募らせている。
母が居た頃はそんなこと無かったはずなのに、母が死んだあの日から、私はずっとずっと心の奥底で他者の存在へ拒否を示している。
まるでアレルギー反応のような悪感情が、頭を振っても離れてくれないのだ。
私は人を愛せなくなってしまったのかもしれない。
七海さんは良い人だ、でも彼を愛するのは、何だか…それだけはしてはいけない気がするのだ。
心が彼の優しさ全てを受け入れることを拒絶する。
だから良かった、これで良かった。
戦いになると、難しいことを考えなくて済むから。
破壊衝動に身を任せ、思うがままに暴れることは実に心地が良い。
剣を握ると高揚する、命を晒している瞬間、生を強く実感する。
私は愛されるよりも、人を傷付ける方が好い、おかしな人間なのだ。
やはり醜いのは、この私だ。