このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

真人と先生の話

死んだはずの夏油傑くんが本人曰く「生き返っちゃった」らしく現れた、もう死んだなら顧客としての面倒な付き合いも無くなるかと思っていたが、何の予告も無くソイツは人の形をした呪霊を連れてやって来た。

曰く、呪霊に銃を教えろと言う。全く世も末だ、しかし金を貰ったのだから仕事としてやらなきゃならない。感情は後回しだ。

約束通りに翌日家まで来た真人くんを車に乗せ、連れて来たのは森の中に用意した射撃場だ。
この射撃場も森一帯も私に所有権がある物であり、私の許し無くして侵入出来ない場所となっている。

道中…真人くんは質問ばかりをしてきた、ナゼナゼ期なのだろうか。

「先生は幾つなの?」
「一応27‥8年くらいは生きてるはずだけど、肉体的にはもっと若いよ、この身体は年取らないからね」
「そういう術式?不老不死?」
「違うよ、放射線実験のせい」
「何それ?実験?先生って何者?」
「ただの武器マニア」

車内のスピーカーから流れるリヒャルトの「楽しい結末」を流し聞きしながらナゼナゼ期の呪霊を助手席に乗せ山道を走る。
お尻に響く500キュービック(インチ法による立法単位 500は約8L強)インチV8バイブレーションが気分を上げる。コブラは良い車だ、歴史とロマンがある。

適当な開けた場所に車を止め、そこからは歩きでの移動だ。
私はガンケースなどを持ち、真人くんは手ぶらで歩く、それにしても本当に人間のような形をした呪霊だ、聞いた所によれば自分の姿形を変えられるらしい。私と真逆だ、私は成長も変身もしない。昔から何一つ変わっていない。

「先生はどんな呪術を使うの?教えてよ」
「えー…説明ダルい、私呪術嫌い」
「呪術師なのに?」
「呪術師やめたもーん、知らない知らない知らないもーん」
「アハハッ、それ全然可愛くないよ、凄く馬鹿っぽい」

そんな話をしながら射撃訓練の準備を開始する、全く…夏油くん(仮)から押し付けられた新しい生徒の呪霊はワンパク赤ちゃんだ、私はこれでも中身は良い年してる訳なのでちょっとやそっとのことじゃ怒りゃしないが、面と向かって女に向かって可愛くないって…。いや、まあ今のは確かに別に可愛くは無かったな、うん。

「それじゃあまず、拳銃についての説明からしようかな。銃と言っても様々な種類があり…」
「その説明長くなる?」
「……よーし、とりあえずこれだけ覚えてくれ、今から撃つのはオートマチックピストル、すなわち自動拳銃…」

オートマチックピストル(自動拳銃)はトリガーさえ引けばあら簡単、リボルバーと違い勝手に弾の装填、俳填が行われ、セミオートもしくはフルオートで撃てるハンドガンのことである。
リボルバーと比べると連射速度が早く、装弾数も多いが、構造上あまり威力の高い弾は撃てない作りになっている。

説明しながら台の上にswシグマとベレッタM92を用意する、装弾数は両方とも15発、弾は9mmパラベラムだ。

sw、すなわちスミス&ウェッソンのシグマはアメリカの当時の警察向け自動拳銃である。
発売当初はグロックのコピーだなんだと
問題があったが、グロックよりも安くて手にしやすい。今となってはカタログ落ちしてしまったが、優れたグリップデザインは私の一押しだ。グロックより丸みがあって、レールとかもついていないとこが可愛いだろう。

ベレッタM92はあえて説明する必要も無い程には有名だろう、イタリアで産まれてアメリカで広く使われた自動拳銃だ。
アメリカ以外でも、デッドコピー品を数に入れればどれだけの国が生産、採用国か分からない程だ。

上記のような内容を生徒の真人くんへ伝えれば「へー」と分かってるんだか分かって無いんだか分からないリアクションが返ってくる。まあ、興味の薄い分野の話なんて聞いてもつまらないだろう。

「まあ説明はこれくらいでいいや、とりあえず撃ってみよー!」
「お!やるやる、貸して貸して!」

どうぞ、と真人くんへ銃を差し示せば嬉々として手に取り………私へ銃口を向けた。
そして笑顔のまま楽しそうにトリガーを躊躇い無く引く。
ああ、もう全く……

「うん、セーフティを下ろさないと打てないからね、あとマガジン忘れてるよ」
「あ、そっか」

説明してやれば「どれ?」と質問してくれるため、「ここね」とカチッと下ろしてやる。
ついでにカートリッジが装填されたマガジンを銃本体に入れてやり、マガジン底部分を強く叩く。叩くことにより、マガジンキャッチにマガジンを引っかけるのだ。
スライドストップを下げてスライドを前進させてカートリッジをチャンバーに送り込む。チャンバーとは、給弾口のことである。分かりやすく言えば、これをするとマガジンから弾が発射台に送られる仕組みだ。
ここまでをやって見せる、ちゃんと見てたかな?

「これでやってみ」
「はーい」

そうしてやれば、今度こそシグマからバキュンバキュンと弾丸が遠慮無く発射される。同じようにベレッタからも次から次へと弾が私に向かって撃たれる。
そして、その銃弾は全て私に当たらずに床へと落ちて空の薬莢と共に転がった。

いきなり2丁撃ちか、弾が勿体無いなあ。と、考えて大事なことに気付く。やべ、呪霊だからって防音用イヤーマフ渡すの忘れてた。

「真人くんごめん、耳だいじょ」
「えー?何で当たらないの?術式?無下限?」
「いや、うーん…それは五条のお家芸だから関係無いかなあ」
「じゃあなんで」

なんでなんで教えて教えてと騒ぎ出す、またなぜなぜ期か…。うるさい呪霊だな、私はうるさいのは嫌いなのに。

「あー、ちゃんと訓練出来たら教えてあげ」
「あ、触ればいいや」
「こら、エッチ!!」

触ろうとこちらへ伸ばす手を弾けば、何故なんでどうしてと喧しく囀ずる。もう面倒だな…いいや、勝手に授業を進めよう。どうせ相手は人間では無く呪いなのだし。

「はい、まず2丁撃ち、これが駄目です」
「なんで?映画じゃデッカイ銃二個使って撃ちまくってたよ、俺あれやりたいんだけど」
「駄目でーす、あれはあくまでも画面を派手に見せるための演出なのです、特にデッカイ銃…サブマシンガンを使えば画面を美しい絵にしてくれるからね」

じゃあ、まず私が2丁撃ちしてみるよ。と真人くんから拳銃をお借りし撃ってみる。

ガガガガガガッと派手に2丁の銃が火を吹き的へと放たれる。
的の線内へは23発が命中し、その内5発が中央に撃ち込まれていた。

「全然当たるじゃん、なんで駄目なの?」
「はい、真人くん良い質問です」

そう、2丁撃ちは当たりはするのだ、当たりは。
だがしかし、30発全て撃った後は?
弾を撃ち尽くしてしまえばその後どうする?両手に拳銃を持っている以上マグチェンジ(マガジンを変えること)も出来ない。しかも固定が甘いので命中率は極端に下がる、では1丁両手撃ちならどうだ?

的を変えてマガジンを台に三本用意する。
さて、先生の腕の見せ所だ。五条くんには学生時代散々使えねえと言われて来たが、そんなこと無いと思えるくらいには腕前がある…はず。

「じゃあ見ててね、あそこの的…上から横一列ずつ15発ずつね、綺麗に撃つから」

呪霊の真人くんのツルリとした人間と大差無い瞳が的を見る。
一本目のマガジンをセットして準備完了。

グリップを両手で握りトリガーを引いた。
バンバンバンバンッと派手な音が鳴り響く。う~ん、良いリコイル(反動)
1マグ目を撃ち終わり、2マグ目をセットする。
同じようにガガガガガガッと今度は先程横一列に撃った的の中央部分を撃てば綺麗に穴が整列した。

「そして3マグ目ね」

続けて素早くセットし、バンバンガガガッと撃つ。ああ、ガンオイルと火薬の香りがたまらない。頭が痛くなる。
横一列、綺麗に揃って放たれた銃弾のあとを眺めて満足する、うん やはり揃ってるのは綺麗でスッキリする。

「はい、45発13秒。私の腕前でもこれだけ撃てるんだよ」
「はー…凄いの?」
「凄いの。ほら次は君の番だ、両手でしっかり握って、そうそう」

真人くんに銃を撃たせてみる。
躊躇い無く存分にガンガン撃っている、いいね、恐怖心無く触れることは大変良いことだ。
しかし……うーん、左にズレるな…手が大きいからだろうか。彼ならば…9mmよりも…。

「せんせー、どう?結構当たってない?」
「んー、ガク引きが目立つけれど…まあ良い感じでしょう!立派立派、凄いよ真人くん!」

褒めればニンマリ笑顔になって喜びを露にする、呪霊も褒めれば人のように喜ぶのか。何だか本当に子供を相手にしている気分だ、まあそれにしては大き過ぎるが。
大きな子供と言えば、五条の悟くんだ。彼は本当に図体だけが成長したクソガキだったな…と頭の隅から記憶が顔を覗かせる。彼と比べれば真人くんはまだ扱いやすいかもしれない、勿論今の真人くんは敵対しておらず、私の生徒として振る舞ってくれているからだろうが。それでもあのクソガキッズよりはマシだ、最初から呪いだと分かっていれば悲しくなることも無い。

「今度撃つ時は君用にノーマル1911A1(ガバメント)を用意しておくよ、そっちの方が合うだろうから」
「へー、先生本当に詳しいね」
「まあ、専門家なので…」

あまり自分で口にしない「専門家」なんて単語を口にしたせいで背中が痒くなった、言っておいて照れてしまう、専門家…専門家、おほほほ……。

さ、さて、次は一応今日使った銃弾の話でもしようか。
とりあえず拳銃を回収し、マガジンを取り出してセーフティを上げてガンケースに仕舞う。空薬莢の片付けは後にしよう。
真人くんの撃った的のみを回収し、彼に手渡す。捨てるも記念に取っておくも好きにすると良い。

「じゃあさっき撃った銃弾の話についてですが、えー先程のは9ミリパラベラムと言って、意味はラテン語で【戦争に備えよ】なんて意味があり、世界一信用されてるピストル弾で…」
「先生ってさ」

ツラツラと知識を語っていれば真人くんが途中で私を呼ぶ、それに対して説明していた口を止めればニッコリと口角を上げて私を見下ろしながら質問をした。

「なんで銃で戦ってるの?」

なんでって………。
私はその問いに、つい口を閉じてしまった。
何故、何故?どうしてそんなことを聞くのか、質問に質問で返すのは如何な物かと思うが、今は聞き返したかった。それをグッと堪えて私は悩んだフリをする、そう、フリだけ。

私が銃を撃つのは、銃が人間を殺すために作られた物だからだ。
目的があって、それに対して最も効率良く出来る手段があるなら、変なことなどせずにそれを選ぶべきだ…と、私は思った。
だから、別に専門家を名乗っちゃいるが、銃が特別好きなわけでも思い出があるわけでも無い、何なら人間と同じくらい嫌いだとも言える。
正直な話、なんでも良いのだ。私はいつだってそうである。
なんでも良いし、誰でも良い。こだわりは無く、未練も無い。だから銃で戦うのに格好いい理由なんて無い。

「それは、銃が一番効率が良いから…」
「違う違う、そうじゃなくって」

真人くんがムッとた表情で私の言葉を遮り訂正してくる。
分からない、何が言いたい?

「先生はさ、なんで銃持って呪霊と戦ってたの?どうして今は人に銃を売ってるの?なんで、何のためにこの世界で銃なんて持ってんの?意味ある?」

だって呪術が使えるに、他にも戦える人間はいるのに、別に呪霊が憎いわけでも無いみたいだし?
「ねえ?」と、ニッコリ…から、ニンマリといびつに口元を歪め、目を弓なりにして手を広げながら私を見下ろし語るおぞましい姿に、私はどうしてか「人間よりはマシだな」と思ってしまった。

呪いだ、彼は紛れも無く呪い。人が生み出し認識もしない悪感情から生まれたソレ。人から生まれ人を襲い、そして人に祓われ消される存在。
だけど、どうしてか…そうだ、昔から私は別に呪いを嫌ってはいなかった…ことを思い出す。
祓うことが仕事として与えられていたから祓っていた。七海くんとは逆だ、私は呪術師であることに価値を見出だせ無かった、そこに居場所を見つけられなかった。

だって、私は世界が嫌いだから。

どうでも良いと思おうとしているだけで、私はずっとずっと世界が嫌いで、何もかもが嫌いだったことを、この目の前に立つはしたなくニタニタと笑う呪いの瞳を覗き込むことで理解した。

ああ、世界が嫌いだ。呪霊と戦わずとも毎日どこかで馬鹿みたいに戦争、紛争、道端に死体が転がって…WW1(第一次世界大戦)では4000万人、WW2(第二次世界大戦)では6600万人、呪いじゃない…人間同士で殺し合って死んだ数だ。

武器が嫌いだ、ズルくて馬鹿な道具だ、こんな物を楽しんで使って、新しく発明している奴等の気が知れない。

人間が嫌いだ、自分も同じ生物なのかと思うと怒りで悲しくなって吐き気がする。絶望すらしてしまう、人間になんて産まれて来たく無かった。


でも、私が撃って死んでいった呪いだけは違う。せっかく生まれて来たのに、誰からも必要とされず愛も知らずに死ぬしかない存在を哀れに思えたし、私の撃った弾丸で死ぬ姿を申し訳無いと思った。

嫌いな人間共のために、哀れみすら抱く呪霊を殺すことに一体何の価値があるのだろうか。

私はいったい、誰の味方なんだろう。

だが、一つだけ分かることがある。今やっと、純粋な呪いからの言葉で理解出来た。
きっとこれが、一番答えに近いものだ。

「世界平和のため…かな」

そう、ポツリと本心から、人間の形をした呪霊の好奇心からの問いに答えれば、それまでニタニタと意地の悪い笑みをしていたのを一転させ、ポカンと間抜けな顔をしてこちらを見つめる。

「せ、世界平和?」
「うん、世界平和」

パチリ、パチリ、と睫毛を羽ばたかせながら瞬きをしていた呪霊は、次の瞬間汚く不細工な声を上げながら笑いだした。元気だな、そんなに笑うなよ照れちゃうじゃん。

「せ、世界…平和って…!…ヒーッ勘弁して、何言ってんの!アハハッ!」
「真面目に言ったつもりなんだけどなあ…」

照れ臭くなって、居心地悪く空の薬莢を蹴りつつ頬をかく。

「せ、せんせ……ヒィ…それ、誰かに言ったことある?どんな反応された?」
「いや、言ったのは正真正銘今日がはじめてだよ。今まで…そんなこと考えたこと無かったからさ、真人くんのお陰で気付けたよ」
「気付かせちゃったかあ…あー!駄目、面白すぎ!」

そう言って真人くんはまた馬鹿みたいに腹を抱えて笑い始めた、何がそんなに面白いと言うのか。

そうだ、私が銃を組み立て売り、時に撃つのは世界平和のためだったのだ。
平和になった世界なら…武器はいらなくなるし、少しは人間も好きになれるかもしれない。そうしたら、呪霊のことだって邪魔だなって思えるかもしれない。
私は正常になりたい、そのために世界が平和になって欲しいと思った。
私 本当はずっと自分に納得したかったんだな。

「いいね、先生。俺は気に入ったよ、世界平和!何だか絶対普通じゃ無さそうで楽しそうだし、それに銃で人殺しまくりながら言ってんの面白すぎ!」
「ま、まあ…確かに間接的にめちゃめちゃ殺してるな…自分でも殺ってるし…」

俺、先生とは仲良くしていけそうだな~と、ススス~と近寄って並んでくる呪霊を見上げる。顔の位置がずっと上にあるせいで、近くに来られると首が痛い。そのまま、その身体を私にくっつけムギュギュッと体重をかけてくる。じゃ、邪魔だ……素直に邪魔だ、面倒臭いなこの呪霊。
それでも、人間の形をしているけれど、人間のように嫌いだとは感じ無かった。

世界が平和になってくれたら、この呪霊のことも嫌いになるのだろうか。
なんとなく、それは嫌だなとちょっとだけ思った。

私は世界が嫌いだ。
武器が嫌いだ、人が嫌いだ。
だからと言って、呪霊の味方では無い。

だけど真人くんの先生はまあ、もう暫く続けても良いかもしれない。
お金も貰っちゃってるしね。
2/4ページ
スキ