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真人と先生の話

呪術を学ぶ学校になんて別に行きたくは無かった、呪いに興味なんて無かったし、呪霊の被害とか本当にどうでも良かったことは時間が経った今も然程変わらない。
親が居なくて、後ろ楯も金も無かったから入学したまでだ。別に金を稼ぐ手段なんて風俗でもアスベスト作業従事者でも何でも良かったが、人と関わる仕事がはっきり言って嫌だったのだけは確かだ。


だがしかし、入学したは良いものの、同期の奴等が片っ端から優秀で、やる気なんてすぐに無くなった。真面目に頑張るのが馬鹿らしくなって、早々に集団…と言っても片手の人数で収まってしまう数だが、まあ仲良しグループからは離脱してしまった。
五条悟にはヘラヘラ笑われバカにされるし、夏油傑は弱者の気持ちがどうとかつまらない理屈で戦っている、何一つあのお団子前髪と共感出来ない。同性の家入硝子は二人をクズだと言っていたが、君も大概だろうと未成年で煙草を嗜む姿を見て思った、変わった人間ばかりのパレード状態な職場兼学校のことを青春の場だと思ったことなど卒業まで一度も無かった。

呪術師は面倒臭い、人間は嫌いだ。
そう頭の中で結論が出てしまえば後はわりと楽で、なるだけ人に関わらずに楽なことをして生きるために適当に頑張って適当に稼いで適当に生きた。
後輩が死んだ時も、夏油くんが離反した時も蚊帳の外から事態を眺めて自分がすべきことを淡々とこなしていた。
だから別に、本当に呪術界のことはどうだって良かったので、何の未練も無く卒業後に一年だけ呪術師として働いた後は気づいたら呪術師をやめていた。

でも私 本当は、








真人が夏油に連れられてやって来たのは鼻につく鉄と油の香りがするお高いマンションの一室だった。
チャイムを鳴らしもせずに、勝手に鍵を開けて中に入っていく夏油の後をついて行けば幾つかある部屋の一室にその人間の女は居た。

「やあ、久しぶり。今日はちょっと頼みがあって来たんだけどいいかな?」
「……誰、君」

小さな機械を弄って組み立てる、成人もしていないような身体つきの女は、顔を一瞬上げて真人と夏油を見るとすぐに手元に視線を戻し、一言口を開いた。

「ああ、失礼。こっちの呪霊は真人って言って」
「いや違うよ、君だよ君。夏油くん死んだんでしょ?」

そう聞いたはずなんだけどな~ と、何の危機感も無くゆるりとぼやいて世間話のような感覚で、偽物となった夏油の正体に踏み居る女に真人は「夏油ってもしかしてマトモな友達居ないのかな?」と失礼なことを思いながら、そのやり取りを眺めていた。
夏油も夏油でそんな女の問いに、特別な嫌悪や焦りなどを滲ませずに、まるで自分の可愛さを理解している女の子のような真似をして首を小さく傾げながらニコニコ笑顔で「生き返っちゃった」と穏やかに返す。

「生き返っちゃったかあ…」
「嬉しくない?」
「あんまり……ところで頭打った?」
「この傷跡見てその質問は流石にどうなんだろうね」
「…痛そうだよね、ところで誰なの?」

手を黒く汚れたタオルで拭いて、近くに置いてあった紙をペラペラと数枚チェックしながら女は再度尋ねる。
その質問に「夏油傑だよ」とニンマリ笑って夏油は自分の身体の名前を語る。

女は一度紙から視線を離し、暫し夏油を無感動に見つめた後に「まあいいか、悲しむのは五条くんくらいだし」と何かに納得して話を聞く体勢を取った。

「五条悟が悲しむのはいいんだ」
「別に…そんなことより仕事の話を、ほら、何が欲しいの?ダブルバレル?エクスプローダー?マチェット?」
「ああ、今日はそっちじゃなくって…」

こっち、と真人を手で差し「銃について教えてあげて欲しい」と依頼内容を話す。

「ああ、インストラクターの方か…いいよ、その子は初心者?」
「どう?真人」
「え、俺?…銃は全然分かんない、ねえ夏油これやる必要本当にあるの?」

その真人の質問に、人間が使う武器について学んでおいて損は無いよ と夏油は言い、女の元に近づき金の話をし始めた。
「いや、こんなにはいらない」との女の声が聞こえてくる。どんな金額を提示したのだろうか…。
交渉は上手くいったのか、夏油はテーブルから離れて「じゃあ後はよろしく頼むよ」と一人勝手に部屋を出てしまった。
真人は一人取り残され、立ち尽くしたまま女を見やる。

「真人くんだっけ?好きな国とかある?」
「国?無いよ、なんで?」
「無いなら別に何でも良いか…」
「ねえ、なんで?」

女はそのあとも真人に「好きな年代ある?」だの「特定の人種差別ある?」だのと何だかよく分からない質問を投げ掛ける、その大体において「無い」と答える真人は同じ数だけ「なんで?」と問うが答えは返って来ない。

「じゃあ、とりあえず明日また来て、一回目の授業するから」
「ねえ、まだ名前も聞いて無いんだけど」
「ああ……まあ好きに呼べばいいよ、名前なんて個体を識別するための記号でしか無いんだから」
「それだと困るんだけど、何か無いの?」

んー…とあさっての方向へと視線を投げて、真人に戻した女は答える。

「先生って呼んでおけばいいよ、私は明日から真人くんに銃を教える先生だからね」

先生……とは、学識のある指導者を指す言葉だ。自分が教えを受けている人、俺の先生。なんだか全然面白そうじゃないな…と唇を突き出してみる。
まあ、夏油の紹介だし…一回くらい付き合って銃を撃ってみるのも良いかな、何かのインスピレーションになるかもしれないし。もしつまんなかったら殺せば良いんだし。
そう結論を付けて、ニコニコ笑って見せれば、相手も軽く形だけ微笑んで「じゃ、また明日」と手をプラプラ振った。

あんまり面白そうな人間じゃ無いけど、呪術師だったらしいしストックくらいにはしても良いかもしれない。
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