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灰原雄と外宇宙産生命

人間の生活に習い、朝は顔を洗って歯を磨き、服を着替えて食事を取る。星クズは体内にエネルギーとなる核が存在するため、外部からの補給は必要無かったが、食事という行動の意味を知るために毎食しっかり食べていた。現在のお気に入りはヨーグルトである、乳酸菌は素晴らしい。
毎朝ヨーグルトを食べて、それが終われば時間が許す限り自由行動だ。
フィールドワークへ出てみたり、書庫にこもってみたり、一緒に授業を受けてみたり…実に自由を満喫していた。

本日も朝食後に朝の散歩をしていたところ、最早様式美となった誘拐企て犯と遭遇した。い つ も の、お ま た せ、伝 統 芸 能。
だが、今回はちょっと違った。何が違うかと具体的に説明すると、犯人はこう言った次第である。

「ついて来ないと、お前の大事な奴を痛めつける」

さて、これに対して星クズは思った。そりゃ大変だと。
大事な奴……と言われて優しくしてくれた人々がズラッと頭の中に整列した。先頭には灰原や七海がいた。
なので、仕方無いと散歩を切り上げ着いて行くこととしたのであった。

ここまでは良かった。

手錠やらで拘束され運ばれていたが、そう言えば今日は午後から任務があったと思い出し、これは困ったな…と悩んでいた所名案を思い付いた。

コイツ食べて、ヨーグルトと混ぜて爆弾にして午後の任務で使っちゃえば証拠隠滅になるぞ!

そうして星クズ三分クッキングは開始された。

【材料はこちら】
ヨーグルト:お皿一杯
人間:一人分
車:あれば良し
窒素:お好きな分
エネルギー:お好みで

【作り方はこちら】
全ての材料を混ぜて体内で気圧によって圧縮させ、吐き出すだけ。


そうして出来上がったのが先程の物であった。
誘拐犯は星クズの体内で乳酸菌と合体し、素敵にお料理されて午後の任務で使われた。
こうして誘拐犯以外誰も傷つけられること無く、今日も平和は守られたのであった。

ちなみに、星クズの給料は全額高専によって管理されている。理由はあればあるだけ使って変な物を買うからだ、ねるねるねるね(ブドウ味)を箱買いされても困る。高専の学生は皆でねるねるしなければならなくなった、一人ノルマ5袋。
なのでお小遣い制である、一週間500円。必要な物は灰原と七海が判断して星クズの給料から買い与えていた。もう誰も宇宙人を子供扱いしている事実に何も言わなかった、だってそれが限り無く正解に近い対応なので。

さらに、毎日のように働かせても文句を言わず、何なら自主的に色々分析したりなどして地道に呪術界へ貢献しながら楽しんで働いてくれるため、かなり良いように使われていた。ちょっと変な所はあるが、補助監や窓などにも焼いたお菓子をお裾分けしたり、報告書も何一つ不備無く出してくれるため可愛がられた。
呪霊の等級関係無く戦える……戦うと言うか、爆破させるか食って爆弾の材料にするかの二択であるが、つまりはどんな強敵であっても「地球のルール」に縛られている以上、外宇宙のスペシャル生命体である星クズからすれば「小さき命よ…」と言う具合である。
ハムスターも呪霊もあんまり変わらない、ハムスター美味しい。つまり呪霊も美味しい。呪霊で作った爆弾で呪霊を倒すとかいう鬼畜の所業をしているが、今の所誰にもバレてなかった。皆そこまでこの宇宙人を真面目に見ていないためであった。



星クズは本日二件目の任務にて、酸素と共に吸い込んだ呪霊をもっちゅもっちゅと食べ、飲み込む。
補助監督の元へ戻れば、申し訳無さそうにしながら「すみません、緊急でもう一件…」と言われた。
見たいテレビがあったので、断ろうかとも思ったが、呪霊の等級を教えられて「なるほど」と断ることをやめた。

ここで断れば、夏油か五条へ任務が回るはずである。
気になって断った場合どちらに任務が回るか聞けば、夏油だと言われたためさらに断れなくなった。

星クズは別に疲れた人間が発狂して鉈を振り回しはじめてもどうだって良かったが、灰原が夏油を慕っており、その夏油が自分が来たことにより最近少しだけまともに寝れる時間が増えたことを喜んでいた……ということを、灰原にえらいえらいされながら言われたので、断らなかった。
星クズは疲れを知らないので、酷使されても「だからどうした」の気持ちであったが、人間はそうでは無いと理解していたため、仕方無くハモネプを諦め仕事を選んだ。

車での移動に30分、帳を下ろしたりするのに2分、現場について吐くのに7秒、呪霊を倒すのは5秒で終わった。

そうして、車内で報告書を書いて暇を潰し、高専まで送り届けられ1日の業務が終了した。
ポテポテと学生寮目指して歩く、時刻は夜9時を過ぎていた。
女子寮では無く男子寮へ入って行き、目当ての部屋までたどり着くとコンコンッと扉を叩いた。


ノック、ノック、ノック

こんばんは、ご機嫌いかが?


ガチャリと扉が開き、灰原が両手を広げて出迎える。
それにひっつけば、ヨシヨシと犬のように頭を撫でられた。

「おかえり、お疲れ様!」
「ただいま」

くっつけていた身体を離し、灰原は星クズを椅子に座らせて「今日はプレゼントがあるんだ」と一枚の紙を渡した。
それは、白い紙に「夜空」と書かれているものだった。

「これは…?」
「きみに名前をね、あげたくて」
「……なるほど」
「いつまでも星クズじゃ可笑しいかなって」

そのまんまだな、と星クズは思った。
あらゆる意味でそのまま過ぎる。しかしまあ、この人間がそう呼びたいのならばそうすれば良い、と寛容な心で思うことにしたが…一応事実は伝えておくことにした。星クズには人間のルールで暮らさなければいけない約束がある。

「彗星とは、発見した者の名前が自動的に付けられるものだ」
「え、そうなの!?知らなかった…ごめん…」
「同時刻に別々の場所で発見した場合は、発見した順番の早い順に、3人までの名前がつく。だから…人間のルールに習うのならば、こうすれば良い」

「夜空」と書かれた前に「灰原」と書き足す。

「私を最初に見つけたのは覆しようも無く君だ、同時刻にあの場で私を見ていたのは私の星の空だけだ、あの星はいつも夜だから」
「灰原って…言い辛いって言ってなかった?」
「練習する」

とくに気に入った素振りも無く、淡々と命名を終わらせてしまった自分の上位存在を見つめて灰原は口を開く。

「向こう100年、この名前で居てくれる?」

夜空と命名された彗星は、この人間はそんなことも知らないのかと少し心配になった。
地球からはあまりに遠すぎて、その輝きすらも届かないため見ることの出来ない星に墜落した彗星。天の川銀河の渦、恒星の固有運動すら働かない場所に何を執着しているんだろうか。
その感情の名前を知りたいと思った。

「星の名前が変わることは無い」
「…そっかぁ」

嬉しそうに微笑みながら灰原は「じゃあずっと僕の夜空なんだ」と言うもんだから、流石にその言い方はどうなんだと星クズ改め夜空は思う。
人間の思考回路は意味が分からないな、と考えを投げやり「そういうことだな」と肯定を示す言葉を返した。


向こう100年、たかだか100年、それくらいはこの人間の物になっていても構わない。
私にとっては、100年一緒に居ることも1万年一緒に居ることも変わらない。

それなのにまあ、よくも人間には見ることの叶わない呪いを授けてくれたものだ。
かの陰陽師が言うように、名前は最初に与えられる呪(しゅ)だ。名前を授けることにより、目には見えないエネルギーで存在を固定化する。
だからほら、腹が空いたのはそのせいだ。バカな人間、私の中にお前は永遠に残り続けることになるぞ。

その事実を告げず、心の内に秘めて夜空は立ち上がる。
クゥクゥキュルルル、と腹が悲鳴をあげているからだ。

「食べ物を見繕ってくる」
「一緒に行くよ、七海も誘おう」

二人揃って部屋を出るタイミングで、灰原は立ち止まる。

「どうした」
「……本当はさ、」

世界のルールを破って、一人だけこんな奇跡を体験して、生きていちゃいけないんじゃないかと迷っていた。
だから、ずっと名前を付けてあげられなかった。
名前を付けたら、存在が明確になる。市民権を与えるということ。
共に、生きるという責任と覚悟が必要になる。

灰原は星の瞳を見つめて謝った。

「ごめんね、ありがとう。一緒に生きるよ」

じゃあ、行こっか と今度こそ扉を開けて廊下へ踏み出す。

夜空と命名された彗星のクズは、こうして6億年に近い孤独を終わらせたのであった。
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