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灰原雄と外宇宙産生命

夏油傑は任務続きで心も身体も疲れきっていた所、廊下を曲がった先から歩いて来た新入りの星クズに目を奪われた。

あの宇宙人……私のあげたミニスカメイド服(定価 4380円)を進化させた…だと!?

夏油はその瞬間音を置き去りにし、光の早さで星クズの前に立ちはだかると、細い瞳をかっぴらいて上から下まで5往復して眺め、「ありがとう…」と何か崇高な存在にお礼を言った。
星クズは夏油が怖いので口をキュッとさせて抱いていたバスケット籠を抱き締め直した。お母さんこわいひとがいます…… 不審者と幼女の図、事案であった。防犯ブザーがあったら鳴り響いていただろう。

「そのバスケットはどうしたんだい?」

夏油は比較的穏やかに、優しく、良い人の面を被って女を口説く時のように柔らかく問い掛ける。
身長の関係で至近距離で夏油を見上げることになった星クズは、そのニッコリしながら圧をかけてくる男に怯えた。なんだコイツ…デカすぎんだろ……。

「……菓子を焼いたのだ、人間は一日三度のエネルギー補給以外でも、こう言った物を娯楽として口にするのだろう?」

言って、バスケットの蓋を開き中を見せれば、まあ夢のように素敵。様々な焼き菓子が並んで詰められていた。

「君が作ったのか?」
「そうだ。アップルダッピーとオートミールビスケット、チョコチップショートブレッド、セイボリースコーン……これはバナナベニエ」
「美味しそうだね」

甘くて腹の空く香りが漂う。既製品には無い、手作りらしい不恰好さから頑張りが感じられて良いな、と夏油は思った。

「これは…灰原達に?」
「彼等にはもう形の良い物を渡して来た、これは余り物だ」

ああ、だから不恰好なのかと納得し、ならばと夏油は「食べたいな」とおねだりしてみた。
宇宙人が作った物であるので、やや警戒心は残るが…灰原達が普通に食べているのだから問題は無いだろうと結論付けて口説き落とすことにした。

「ダメかい?」きゅるんっと潤んだ瞳攻撃!追加で首も傾げる!

宇宙人には効かない!

「立って食べるのは行儀が悪いと聞く」
「じゃあ教室で食べようか」
「私はいらない」
「一人で食べるのは寂しくて」

「ね?」と自然な動きでバスケットを握っていない方の手を取り、教室を目指そうとしたが星クズは動かなかった。
握られたを見つめて「離せ」と短く言う。星クズは灰原と七海以外にくっついたことが無かったため知らなかったが、世の中には不快な物というものが存在した。しかし星クズにはまだその気持ちが分からなかったため、何かゾワゾワするな…という思いであった。
自分より圧倒的にデカイ、しかも意味不明なことをしてきた存在に恐怖しているせいだ。感情的には知らないおじさんに連れて行かれまいと抵抗する幼女の心である。

「ごめん、嫌だった?」
「ゾワゾワした」

おや、おやおやおや?それは……恥ずかしいのでは?もしかして、この子照れてるのだろうか?夏油は疲れていたため、自分に都合良く解釈した。
とうとう自分は地球外生命にまでモテるようになったのか…。誰もツッコミが居なかったため、その勘違いは加速していく、もう誰にも止められない。

「一緒に教室で食べようか、お腹空いてるんだ」

そう言って問答無用で連れて行く。私にこうされて喜ばぬ女はいない、いや、宇宙人だけど。宇宙人も喜ぶだろ、多分、知らんけど。ドナドナドナドナ……。
星クズはゾワゾワと居心地悪く思いながらも、相手を理解し切れていないため大人しく従った。何せ、星クズの目的はこの星を知ることだ、ならば夏油もその対象に含まれる。だから拒むことは無かった。
しかし、灰原に助けは求めていた。


…ケテ……タ…ケテ……スケテ……タスケテ…タスケテ…


ユンユンユンと怪電波を改造した灰原へ向かって発する。
この電波信号は灰原にのみキャッチ出来るものであった。一応神の眷属みたいな部類になっちゃったので。可哀想に……七海が知れば悲しむ事実である。

一人復帰に向けて訓練をしていた灰原はその電波を受信した。

「ハッ!」

星クズが助けを求めている、助けてあげなくちゃ!
灰原は走った。



一方その頃、NASAでは無く夏油に拉致られた宇宙人は、たまたま居た五条にまで目をつけられて、バスケットを強奪されていた。

夏油が例の理解した瞬間死ぬ宇宙人を引き連れて甘い香りを漂わせていることに気付いた五条は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の宇宙人を除かなければならぬと決意した。五条には宇宙人心がわからぬ。五条は、クズである。親友を放り、別の女と遊んで暮して来た。けれども甘味に対しては、人一倍に敏感であった。

なので、夏油と挨拶を軽く済ませると何も言わずに許可も無くバスケットを奪い、夏油に「行こうぜ」と言った。
これに星クズはなんだぁ?テメェ……となったわけである。
クソガキVS女児 因縁の火蓋は切って落とされた。

「お前に食わせる菓子は無い」
「悟…」
「なに宇真面目に宇宙人仲間扱いしてんだよ、オエッ」

星クズは別にその言葉に悲しみはしなかったが、普段灰原と七海の元でヨチヨチと比較的甘やかされ、仲間外れになんてされたことが無かったため、ムカついてしまった。は??うちのマフィンちゃんはそんなこと言ったことありませんが???オタク、どういう教育されてるんザマス!?哺乳類はこれだから……(クソデカ主語は炎上の元)男子ってホントさいてー!
夏油に鋭い視線を突き付け、握られていた手を振り払って外し、クルリとターンして来た道を戻ることにした。怒り方が分からないのだ、人間歴が浅いので。

すると、歩もうとした先から灰原がやって来るでは無いか。それを見つけた星クズは、主人を見つけた犬の如く駆け出した。走れ星クズ。
当然のように、人間のクズ二人は取り残される。

「ハイバラユウ!ハイバラユウ!マフィンちゃん!」
「大丈夫!?」
「ハイバラユウ~!とった~!!あの人間のオスがお菓子とった~!!」
「よしよし、落ち着こ?」

ムギュッと勢いそのままにしがみつき、星クズは感情が昂ってビエビエと泣いた。お母さん怖かったよ、あの子がね、いじめるの。という具合である。

「傑…アイツ、あんなんだったけ?」
「いや……もっと宇宙人っぽかった」
「だよな」

久々にまともに心が通った親友二人であった。

「星クズ……」

クスンクスンと鼻を鳴らして自分の胸で泣く宇宙人の頭を灰原はヨシヨシと撫でながら言った。

「本当に女の子になっちゃったんだね……」

役3週間、地球文化に触れまくった結果、身も心も立派な女子高生になってしまった宇宙人であった。嘘である、身は全く何も変わっていない、気持ちだけ立派な女子高生となった。
仕方のない話だ、今までずっと一人墜落した星で遠い星々を眺めていた。地球を羨ましいと見つめていた。やっとたどり着いた先ではじめて優しくしてくれた人が出来た、人間からすれば偉大な彗星の核を持つ星の住人は、ただのチョロい孤独な者であったのだ。

そんなわけで、大好きな眷属にひっついて子猫のようにフミャフミャ泣くもんだから五条と夏油は段々悪いことをした気分になって来た。
おい、やべーって…。私はわるくない…。女子ってすぐ泣く。

先に動いたのは勿論夏油である、「ごめんね?嫌なことしないよ?仲直りしよう?」と小さな子に語りかけるように話掛ければ、星クズはさらに灰原にしがみついて対話を拒絶した。
夏油は五条に振り返り、バスケットを返すように言う。

「返せばいいんだろ、ほら…」

宇宙人を泣かせた男、前代未聞のことである。
灰原がそれを受け取り、「ほら、お菓子戻ってきたよ?仲直りしよう?」と宥めた、完璧に子供のしょうもない喧嘩の仲裁をする保育士であった。

灰原の引っ付き虫となっていた星クズは、チラリと泣いてキラキラとする瞳で二人を見上げ、「ハイバラユウに免じて許してやる、二度目は無いぞ人間……」と硬い声で言ったが、全く怖くなかったしなんならちょっと微笑ましかった。
夏油は「仲直りしてくれるのかい?」と少し腰を折って目線を合わせていたし、五条も星クズをガキだと思うことにした。実際ガキである、星クズはまだ宇宙の誕生から遡れば若い部類の彗星であった。

「仲直りする…」

その言葉に灰原はえらいえらいと褒めてやり、夏油は「ありがとう」とお礼を言った。五条はなんだこれ、と思った。
かくして、人類と外宇宙の生命は和解に成功した。失敗したら核を爆破させて隕石衝突と同じ衝撃を与えていたため、生命絶滅は人知れず阻止されたのであった…。


その後、お菓子は夏油の手に渡り、五条と仲良く分けあって食べましたとさ、めでたしめでたし。
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