このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

灰原雄と外宇宙産生命

日本は古来より八百万の神、要するに多神教の国だ。先進国には珍しく、やおよろずに魂が宿るというアニミズム信仰が根付いていることも特徴の1つである。
つまりは、数多の物に神聖を見いだしそれを拝めばそれこそが神の一端に数えられるのだ。

そう言った幻想めいたことに迷信深い人々が住まう国柄であれば、私が降り立つことは容易く、そして馴染むことも実に簡単だろう。

『神下ろし』
祭のはじめ、祭場に神を降臨させる行いを言う。

しかし、今回に限りは誰かに招かれたわけでも無く、自ら地に降りたいがために他所の祭場を借りることとした。
まあ、私は別に神では無いのだ…なんなら、生命の起源としては地球の生命にほど近いと思うのだが、そんなことは彼等には関係無いだろうことなので、私は神という態を装い他人の玄関を借りるようなつもりで、その日を待っていた。


しかし、残念なことに予定とは狂うものである。


私が降り立とうとして、手を伸ばしてしまったことが原因か、はたまた私のエネルギーに当てられたか…どちらにせよ私の責任で、間借りしようとしていた神…と呼ぶのもどうかと思う、その邪念を纏いし異形の怪は、それを討伐せしめんためにやって来た勇気ある若者を一人殺してしまった。

さて、困った。

神とは傲慢で迷惑な存在であることは、古今東西様々な神話に記されていることではあるが、それは人間に対してだけでは無い。神々はすぐに喧嘩をする。この国の神話で例えるならば、オオクニヌシとスクナビコナがお互いの主張を比べ合うためにした勝負などが良い例だ。
ちなみに日本の神は競い合ったり争ったりするが、最終的にしょうもない終わり方をする伝承が多い。

まあそれは良いとして、私は頭を悩ませる。
もうここを降臨地点として準備を終えてしまっていたため、今更予定を変更することも出来ない。しかし、穢れに満ちてあろうことか若者が一名死んでしまっている。

遠く、故郷の宙で一時の別れを惜しんだ同胞(はらから)達に顔向け出来ない結果だ。
しかし今更帰る気も無い、いや帰りたく無い、私には使命があるのだ。

黒髪の青年は痛々しい身体を横たえ、今しがた息を止めたばかりだ。
それを見つめていた私はひらめいた。


降りる先をあっちにしちゃえばいいじゃん、と。


人柱、素晴らしい名案である。
どの道、あの神を道導として降りることは叶わない。
大丈夫大丈夫、ちょっと座標が右手前にズレるだけだ、こんなの誤差の範囲内だろう。一応神域内だし、何だか不思議な力を感じるからいけるいける。
後は何か上手いこと降りてからどうにかすれば良い、大丈夫今までだってそうして来たでは無いか。

そうと決まれば早速失礼するとしよう。


ノック、ノック、ノック、

お邪魔します、ご機嫌いかが?
1/8ページ
スキ