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番外編

私の食事バグのせいで分裂した夏油傑のうち、生きてる方を「何とかしてくれ〜!」とお達しが出たため、どうにかすべく我々は呪術高専の奥地アマゾンへと向かった…いや、アマゾンではなく拘束されている部屋に向かいました。

なんでもあの出来事以来、五条さんのメンタルがクチャッてしまったらしい。
五条さんと夏油傑は無二の親友だったらしいので、確かになぁ…そりゃあなぁ…という申し訳ない気持ちである。
でもやっぱり情報伝達ミスのせいだと思うんだよな、毎回思うが私そこまで悪いことしてなくないか?何でこんなに叱られ案件が多いんだ?やはり化け物と人間は相容れないのだろうか…。

「ってことなので今から貴方を食べて無かったことにしようかと…」
「証拠隠滅の方法が雑過ぎないかい?私を食べたら絶対また叱られると思うよ」
「えぇ……でも、五条さんが…」
「私を食べたら悟は物凄く面倒になるよ」

に、人間ーーー!!!
やはりあれか、倫理観とかそういうアレがアレして叱られが発生してしまうのか。

特別に入室を許可された部屋の中、壁に寄り掛かって私はうーむ…と頭を悩ませた。
そんな私を意味深な笑みを浮かべて見つめてくる夏油さんは、ふと儚げな表情を浮かべる。

「けれど仕方の無い話なのかもしれないね…」
「なにが?」
「私は本当なら死ぬべき大罪人だ…君が誤って私を生かしてしまったとはいえ、本来はあの日死んでいた命…だから、君が終わらせてくれ。悟にはこれ以上迷惑を掛けたくない」
「なんかそれだと、私には迷惑掛けても良いみたいな話に聞こえるんだけど」
「君はほら…やらかしても四方八方から叱られるだけだからさ」

お前、さては私のこと嫌いだな???

何やコイツ、人のこと何だと思ってるんだ。こちとらわりとまだ繊細な部分もあるタイプの吸血鬼やぞ、憲紀くんに冷たくされると普通に傷付く時もあるんやぞ。

はい、傷付きましたー。
おわりでーす、おわりおわりおわり。
親友同士の拗らせごたつき感情とか知りませーん、リソースの無駄なので食べて終わらせまーす。

「けれどもし、君が私のことを終わらせたくないと言うのなら、私はこれから君と一緒に…」
「食べるから脱いで貰える?」
「さては君、私のこと嫌いだな?」

座る夏油さんを無理矢理に推し倒し、微妙な抵抗をされつつも着ていた着物の合わせをガバリッと開いてやった。
逞しい胸と健康的な首筋を見れば、勝手にゴクリと喉が鳴る。
これは絶対美味しいやつ、血液ソムリエの私には分かる。

唇を開き牙を剥く。
ハァ…と、興奮を滾らせた熱い息を一度吐き出しながら、私は首筋に顔を寄せた。

「あ、そんな…!私には家族と娘が…!」
「って言いながら脚を絡めてくるのやめて貰えます?食欲失せるんですが……」

なんで妙にノリノリなの…。

若干食う気が失せてくるのを感じながらも、服ひん剥いちゃったしとりあえず味見くらいはしておくか精神でガブリッと噛み付いた。
皮膚を裂いて流れてきた血をジュルリと吸いあげる。
至って普通の人間の味がした…かと思いきや、後から得体の知れないゲロみたいな苦味と臭みが襲ってきてすぐに口を離す。

マッッッッズ!!!!
え、マッズ!!マッズ過ぎて喋ることも出来ないんだけど!?眷属の方がまだ発酵食品的な味わいがするけど、コイツのはガチでゲロ。
渋いし苦いし臭いし酸っぱいし、喉越しがゴワゴワしてる。
ヤバい、飲み込まなきゃ良かったかもしれない。クッソつらい。

「ゲホッゲホッ、オェ"ッッ」
「もう良いのかい?遠慮しなくたって良いんだよ?ほら…沢山お食べ」
「胸を押し付けるな!!押し売り業者か貴様は!!」

基本選り好みせず食事をする私でも、これは無理なやつ……悪いけど食べらんない、食べられないってことは処理出来ない。
いや、ワンチャン術式が上手くキマって美味しい味に変わってくれれば食べ切れる気がするけれど、でも夏油さんは既に私の術式の影響下にあるわけだから…これ以上バグられてリソース使われるのも困るし…。
あわわわわ、やっぱり今回も叱られ案件ってこと!?
五条さんになんて説明すりゃいいんだ、「貴方の親友クソマズすぎて処理出来ないから放っておいて良いですか?」って言わなきゃいけないの?絶対ガチめに叱られるよ。
もしくは「傑が不味いわけがない」とか何とか言い出すかもしれない、どうしよう…終わりや、もう。

背中に脚と手を回され、はだけた胸を押し付けられ、耳元では「遠慮は身体に悪いからね」と囁かれ……私は久し振りに恐怖を味わった。

誰かー!!誰か助けてぇーー!!!
コイツ、口では「私は死ぬべきだった…」とか言ってるけど心の中では一ミリもそんなこと思ってないらしいのも怖いよ!!
啜った血液から得た情報があまりにもエグすぎる、なんで私のこと利用する気満々なんですか!おかしいやろ!我、上位種ぞ!?


結局、時間になっても部屋から出てこない私を心配して見に来た憲紀くんにより救出されるまで、私は私が生み出してしまったクソヤバモンスターに取っ捕まって押し売りを受けていた。

いつの間にか形成は逆転、押し倒していたはずが押し倒され巨体の下敷きに、涙を浮かべて震える哀れな小鹿状態。
血を介した契約や縛りをあれこれと提案され、さあ噛めと迫られ、とても酷い目に合わされたのだった。

「じゃ、悟によろしくね。あと責任は必ず取ってもらうから、そのつもりで覚悟しておいてくれ」
「怖すぎ…ヤクザの手法じゃん……」

帰りがけにそんなことを言われたせいか、憲紀くんから突き刺さる視線が痛かった。
違うんです何でも無いんです、あの人間がちょっと押しが強いだけなんです。別に如何わしい関係を持ったなんてことは一切…。

「あの、誤解とかしないで欲しいんだけど…」
「私は何も言っていないだろう」
「いやでも、不機嫌そうだからさ…」
「それは……また君が妙なことをしでかすんじゃないかと…」

まるで私に前科があるような言い方はやめてもらえないだろうか、大体において私だけの責任じゃないことが殆どだからね。今さっきのなんて、ほぼ襲われていた側だからね。
あ、いやまあ…その、私が押し倒したのがそもそもの発端ではあるのだが…。

何はともあれ、無事に助け出されたことへの礼は伝えておこうと礼を口にすれば、珍しくも憲紀くんはフッと小さく笑った。

「な、なに…?」
「いや、助けを呼ぶのが早くなったなと」
「……え?私、一言も助けてなんて口に出してないけど…」
「…まさか、今までずっと自分の気持ちは伝わっていないと思っていたのか?」

憲紀くんの言葉に、私はポカンと口を開けて唖然としてしまう。
いや、いやいやいや、いやまさかそんな、

「私の気持ちが勝手に伝わっているのと同じように、君の気持ちも勝手に流れ込んで来ていたのだが…知らなかったのか?」
「…………ほへ、」
「これからも先程の調子で早めに助けを求めてくれ、その方が私もやりやすい」
「…は、はひ……」

何でも無いように涼しい顔で言ってのけた憲紀くんは、固まる私を置き去りにしてさっさと先を行ってしまう。
その背中を呆然と見つめながら、やけに熱くなってきた首筋を撫でて詰まった息を吐き出した。

やっぱり努力して術式や体質をコントロール出来るようになるべきだな。
うん、頑張って生きていこう。
とりあえず、口の中が地獄だから憲紀くんに何とかしてもらう所からはじめよう。
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