人生は怒りのデスロード
鼻の奥をくすぐる甘く柔らかな香り。
耳の縁を撫でるようなとろりとした声。
鈍く瞬く銀の糸が宙を舞うように広がる。
そんな、麗しく可憐でどうしようも無く愛らしい君を見る度に私は想う。
このまま私の心臓は張り裂けて壊れてしまうのではないかと。それもまた良いのではないかと。
ああ、君の前では呼吸をすることすら惜しいほど。
私はその日、呪いに満ちた世界で天使と出会った。
………
高台から島を見下ろすこと約一時間半、やっとこそれらしい呪力を複数見つけた私は急いでそちらへ向かった。
途中で着替えを行い、白いワンピースにリボン付きの麦わら帽子、フリルのついた日傘というコテコテの夏のお嬢さんファッションに身を包んでクソアチィ道をえっちらおっちら歩き続けた。
いや、マジでなんなんこの仕打ち。
この世はあまりにも私に厳しすぎる、もっとイージーにしてくれ、都合の良い可愛い女とか侍らせてえよ。あと金もくれ、五千兆円でいいから。
嫌だ嫌だ面倒臭いとウダウダ考えながらも遠目に白い頭を発見、こうなりゃ仕方ないと表情を切り替え怒りを腹の底へと押し込める。
海辺で戯れる彼へと向け、私はわざと離れた場所から声を張り上げた。
「ご、五条さぁーーん!!おーーい!!」
瞬間、離れた場所に居る私にまで伝わるくらい空気がピリッとした感覚がした。それに対して大袈裟な程にビクッと大きく肩を跳ねさせたあと、狼狽えたように肩を縮こませて足元をフラつかせてみせた。
そんな私の様子を黒々としたサングラスの下から捉えた五条悟(ウカレポンチスタイル)は、「うっそ!?なんで!??」と叫びながら私の元へダッシュしてきた。
彼が来たと同時に風がブワリッと巻き起こり、純白のスカートがヒラリと揺れる。
慌てたように、しかしギリギリのタイミングを狙って「きゃあ!」と小さく悲鳴を挙げながらスカートを両手で抑え込む。
落ちる日傘、吹き飛ぶ帽子。それによって何の隔たりも無く見えるようになった私の顔。イッツァ・パーフェクトシチュエーション。
「は…え、嘘マジでなんで?え?……呪詛師?」
「ああ、傘と帽子が…」
「なワケないよな〜!!ごめんね俺が拾うから大丈夫だよ。てかその服スゲェ可愛いじゃん、似合ってる」
「ゆ、ゆっくりお話して頂けますかしら…」
帽子と日傘を回収し、髪を直すように頭を撫でてから帽子を被せてくれた五条悟は、その後スッ…と日傘を差し出しつつ私の手を握った。
めちゃくちゃ手慣れてんな、下品なチンチンをお持ちでいらっしゃるのかしら。他の女のケツ撫でてそうな手で私を触ってんじゃねえよ、最低限メチルアルコールでうがい手洗いしてから触れ。
キレそうになりながらも堪えた私は少し首を傾げながら五条悟を見上げ、視線を合わせて3回瞬きしてから微笑んでみせた。
「そうなの、私ね…呪詛師の方から頼まれて五条さんに会いに来たのよ」
「は…?」
そうして、堂々と呪詛師と関わりがあることを伝えた。
あからさまに狼狽えた五条悟に、私は困った笑みを浮かべながら繋がれた手の指先だけをキュッと控え目に握ってみせる。
それから、目線をちょっと外して「ご存知かもしれないけれど、私ね…誘拐されたの」と語り出す。
「今は呪詛師の方の元に身を寄せておりまして、その方が賞金?えっと…何だったかしら…とにかく五条さんを無力化しろ!ってご用命を受けてしまって…」
「お、おぉ…」
「でも…もう半年も剣を握っていないものですし…」
「え?もしかして俺と正面から戦おうとしてる?」
五条悟の疑問にキョトンとした顔を作ってコクンと首を縦に一度振れば、彼は深い溜め息を吐き出した。
そして数秒の間を開けてから握っていた手をゆっくり離し、その変わりに私を自分の胸に抱き寄せた。
ギュッとくっついた身体は完全には触れ合っていない、恐らくは無限だか無塩だかのせいだろう。それでもシチュエーション的に暑苦しくてたまらなく嫌な気持ちになった。切実に離れて欲しい。寒いのも嫌いだが暑いのも嫌いなんだ。
「大変だったね…もう大丈夫だから、お前のことは俺が守る」
「…でも、五条さんに迷惑が……」
「妹の面倒を見るのは兄の役目だから気にすんな」
生きててくれて良かった…。
そう言って五条悟は私をもう離すまいと、強く強くしっかりと抱き締めた。
いやお前の妹になった覚え無いんだが。
あとさっきから三つの視線が遠くから突き刺さってんの地味にキツいから離れてくれない?やめろ純愛じゃねぇよ、おめでとう良かったねじゃねぇよ、拍手すんな、どいつもこいつも浮かれポンチか。
名残惜しいとばかりに躊躇いながらも身を離せば、五条悟も私の頬を最後にスルリとなぞってから手を離し、もう一度今度はエスコートするように手を繋ぎ直して歩き出した。
五条悟以外の三人とも無事に邂逅を果たす。
中房と女とアロハ団子、それから白髪頭か…頓痴気集団だな、鼻で笑える。そこに自分が加わってるとか恥でしかない、早く自由になりたい、帰って劇場版ポケモンの続きが見たい。
「紹介するわ、コイツ俺の妹」
「はじめまして、私は夏油傑。君の噂は聞いてるよ」
「うわさ…?」
夏油傑と名乗ったアロハ浮かれポンチ団子男はどうやら私を警戒しているようだった。
無理も無いというか、これが正しい反応だろう。
私は彼を見上げながら次の言葉を待った。
「なんでも、東京高専に来る途中で失踪したとか」
スッと黒い瞳が探るように細められる。
口元に浮かぶ人好きしそうな笑みは形だけのものだということがすぐに分かった。
だがそれに気付かぬふりをして、私は悲しげな顔を作り視線を逸らす。
一度キュッと唇を引き結び、それから息を小さく口で吸って震えた声を出した。唸れ、私の演技力。
「あ、あの日のことは…あの、私…ごめんなさい、ごめんなさい……」
「傑」
「すまない、少し警戒し過ぎた」
付け加えるように、絞り出した声でもう一度「ごめんなさい…」と口にする。瞼をギュッと閉じれば目尻からポロリと涙が一滴溢れ落ちた。
「泣かせたぞ」
「泣かせましたね」
「あー!傑が俺の妹泣かせたー!」
「なっ、待て私は別に虐めているわけじゃ…!」
いや…誰か「妹」の部分にツッコミ入れろよ!!なんで皆普通に受け入れてんだ、どう見ても似てないし可笑しいだろ!
そもそも、もっと警戒してもいいだろうが!いきなりやって来た半年間行方不明だった女とか怪しい以外の何者でもないだろ、拘束するなり追い返すなりしろよ、一応こっちは色々な状況を想定して作戦練って来たんだからよ…使わせろよ一つくらい……なあ…。
泣ーかせた、泣ーかせた!傑が女の子を泣ーかせた!!
ここぞとばかりに夏油傑のやらかしを追い詰める中房と五条悟は、キャイキャイと馬鹿にした笑いを浮かべて夏油傑をからかって遊び始めた。
私はそれにオロオロとしながら、「あ、あの…!」と少しばかり大きな声を発す。
再びこちらに注目が戻った瞬間、少し戸惑いながらも一生懸命な態度で「わ、私も一緒に高専に帰っても…いいですか!」と頬を赤らめ、敢えて夏油傑を中心に見ながら言った。
カツン、チェックメイトの音が何処からか聞こえた気がした。
それくらい完璧なムーヴだった。百点満点中五千兆点、申し分のない働きだ。
やったぞ時雨さん、貴方の命令通りハート…奪ってやったぜ。
「…勿論、皆で帰ろう」
「本当?もう…もう知らない場所に帰らなくていいの?」
「ああ、もう大丈夫だよ。君のことは私が守る」
その台詞さっきも聞いたわ、仲良しかよお前ら。
同じネタ2回も短時間に使ってんじゃねぇよ、モテる要素しか無い奴等なんだからバリエーション持て。あと一気に好感度上がりすぎだろ、そんなんでいいのか特級モテ男。
そんなことを思いながらもホッとした表情を浮かべて肩から力を抜く仕草をしてみせた。
表情を和らげ「ありがとうございます、会えて良かった」と言えば試合は終了した。
さて、あとは高専に連れ帰って貰って甚爾さんのサポートして終わりだな。
死ぬほどダルいが終われば金も貰えるらしいし、温泉旅行でも行ってやろうかな。
全く、美少女も楽じゃねぇなあ!
耳の縁を撫でるようなとろりとした声。
鈍く瞬く銀の糸が宙を舞うように広がる。
そんな、麗しく可憐でどうしようも無く愛らしい君を見る度に私は想う。
このまま私の心臓は張り裂けて壊れてしまうのではないかと。それもまた良いのではないかと。
ああ、君の前では呼吸をすることすら惜しいほど。
私はその日、呪いに満ちた世界で天使と出会った。
………
高台から島を見下ろすこと約一時間半、やっとこそれらしい呪力を複数見つけた私は急いでそちらへ向かった。
途中で着替えを行い、白いワンピースにリボン付きの麦わら帽子、フリルのついた日傘というコテコテの夏のお嬢さんファッションに身を包んでクソアチィ道をえっちらおっちら歩き続けた。
いや、マジでなんなんこの仕打ち。
この世はあまりにも私に厳しすぎる、もっとイージーにしてくれ、都合の良い可愛い女とか侍らせてえよ。あと金もくれ、五千兆円でいいから。
嫌だ嫌だ面倒臭いとウダウダ考えながらも遠目に白い頭を発見、こうなりゃ仕方ないと表情を切り替え怒りを腹の底へと押し込める。
海辺で戯れる彼へと向け、私はわざと離れた場所から声を張り上げた。
「ご、五条さぁーーん!!おーーい!!」
瞬間、離れた場所に居る私にまで伝わるくらい空気がピリッとした感覚がした。それに対して大袈裟な程にビクッと大きく肩を跳ねさせたあと、狼狽えたように肩を縮こませて足元をフラつかせてみせた。
そんな私の様子を黒々としたサングラスの下から捉えた五条悟(ウカレポンチスタイル)は、「うっそ!?なんで!??」と叫びながら私の元へダッシュしてきた。
彼が来たと同時に風がブワリッと巻き起こり、純白のスカートがヒラリと揺れる。
慌てたように、しかしギリギリのタイミングを狙って「きゃあ!」と小さく悲鳴を挙げながらスカートを両手で抑え込む。
落ちる日傘、吹き飛ぶ帽子。それによって何の隔たりも無く見えるようになった私の顔。イッツァ・パーフェクトシチュエーション。
「は…え、嘘マジでなんで?え?……呪詛師?」
「ああ、傘と帽子が…」
「なワケないよな〜!!ごめんね俺が拾うから大丈夫だよ。てかその服スゲェ可愛いじゃん、似合ってる」
「ゆ、ゆっくりお話して頂けますかしら…」
帽子と日傘を回収し、髪を直すように頭を撫でてから帽子を被せてくれた五条悟は、その後スッ…と日傘を差し出しつつ私の手を握った。
めちゃくちゃ手慣れてんな、下品なチンチンをお持ちでいらっしゃるのかしら。他の女のケツ撫でてそうな手で私を触ってんじゃねえよ、最低限メチルアルコールでうがい手洗いしてから触れ。
キレそうになりながらも堪えた私は少し首を傾げながら五条悟を見上げ、視線を合わせて3回瞬きしてから微笑んでみせた。
「そうなの、私ね…呪詛師の方から頼まれて五条さんに会いに来たのよ」
「は…?」
そうして、堂々と呪詛師と関わりがあることを伝えた。
あからさまに狼狽えた五条悟に、私は困った笑みを浮かべながら繋がれた手の指先だけをキュッと控え目に握ってみせる。
それから、目線をちょっと外して「ご存知かもしれないけれど、私ね…誘拐されたの」と語り出す。
「今は呪詛師の方の元に身を寄せておりまして、その方が賞金?えっと…何だったかしら…とにかく五条さんを無力化しろ!ってご用命を受けてしまって…」
「お、おぉ…」
「でも…もう半年も剣を握っていないものですし…」
「え?もしかして俺と正面から戦おうとしてる?」
五条悟の疑問にキョトンとした顔を作ってコクンと首を縦に一度振れば、彼は深い溜め息を吐き出した。
そして数秒の間を開けてから握っていた手をゆっくり離し、その変わりに私を自分の胸に抱き寄せた。
ギュッとくっついた身体は完全には触れ合っていない、恐らくは無限だか無塩だかのせいだろう。それでもシチュエーション的に暑苦しくてたまらなく嫌な気持ちになった。切実に離れて欲しい。寒いのも嫌いだが暑いのも嫌いなんだ。
「大変だったね…もう大丈夫だから、お前のことは俺が守る」
「…でも、五条さんに迷惑が……」
「妹の面倒を見るのは兄の役目だから気にすんな」
生きててくれて良かった…。
そう言って五条悟は私をもう離すまいと、強く強くしっかりと抱き締めた。
いやお前の妹になった覚え無いんだが。
あとさっきから三つの視線が遠くから突き刺さってんの地味にキツいから離れてくれない?やめろ純愛じゃねぇよ、おめでとう良かったねじゃねぇよ、拍手すんな、どいつもこいつも浮かれポンチか。
名残惜しいとばかりに躊躇いながらも身を離せば、五条悟も私の頬を最後にスルリとなぞってから手を離し、もう一度今度はエスコートするように手を繋ぎ直して歩き出した。
五条悟以外の三人とも無事に邂逅を果たす。
中房と女とアロハ団子、それから白髪頭か…頓痴気集団だな、鼻で笑える。そこに自分が加わってるとか恥でしかない、早く自由になりたい、帰って劇場版ポケモンの続きが見たい。
「紹介するわ、コイツ俺の妹」
「はじめまして、私は夏油傑。君の噂は聞いてるよ」
「うわさ…?」
夏油傑と名乗ったアロハ浮かれポンチ団子男はどうやら私を警戒しているようだった。
無理も無いというか、これが正しい反応だろう。
私は彼を見上げながら次の言葉を待った。
「なんでも、東京高専に来る途中で失踪したとか」
スッと黒い瞳が探るように細められる。
口元に浮かぶ人好きしそうな笑みは形だけのものだということがすぐに分かった。
だがそれに気付かぬふりをして、私は悲しげな顔を作り視線を逸らす。
一度キュッと唇を引き結び、それから息を小さく口で吸って震えた声を出した。唸れ、私の演技力。
「あ、あの日のことは…あの、私…ごめんなさい、ごめんなさい……」
「傑」
「すまない、少し警戒し過ぎた」
付け加えるように、絞り出した声でもう一度「ごめんなさい…」と口にする。瞼をギュッと閉じれば目尻からポロリと涙が一滴溢れ落ちた。
「泣かせたぞ」
「泣かせましたね」
「あー!傑が俺の妹泣かせたー!」
「なっ、待て私は別に虐めているわけじゃ…!」
いや…誰か「妹」の部分にツッコミ入れろよ!!なんで皆普通に受け入れてんだ、どう見ても似てないし可笑しいだろ!
そもそも、もっと警戒してもいいだろうが!いきなりやって来た半年間行方不明だった女とか怪しい以外の何者でもないだろ、拘束するなり追い返すなりしろよ、一応こっちは色々な状況を想定して作戦練って来たんだからよ…使わせろよ一つくらい……なあ…。
泣ーかせた、泣ーかせた!傑が女の子を泣ーかせた!!
ここぞとばかりに夏油傑のやらかしを追い詰める中房と五条悟は、キャイキャイと馬鹿にした笑いを浮かべて夏油傑をからかって遊び始めた。
私はそれにオロオロとしながら、「あ、あの…!」と少しばかり大きな声を発す。
再びこちらに注目が戻った瞬間、少し戸惑いながらも一生懸命な態度で「わ、私も一緒に高専に帰っても…いいですか!」と頬を赤らめ、敢えて夏油傑を中心に見ながら言った。
カツン、チェックメイトの音が何処からか聞こえた気がした。
それくらい完璧なムーヴだった。百点満点中五千兆点、申し分のない働きだ。
やったぞ時雨さん、貴方の命令通りハート…奪ってやったぜ。
「…勿論、皆で帰ろう」
「本当?もう…もう知らない場所に帰らなくていいの?」
「ああ、もう大丈夫だよ。君のことは私が守る」
その台詞さっきも聞いたわ、仲良しかよお前ら。
同じネタ2回も短時間に使ってんじゃねぇよ、モテる要素しか無い奴等なんだからバリエーション持て。あと一気に好感度上がりすぎだろ、そんなんでいいのか特級モテ男。
そんなことを思いながらもホッとした表情を浮かべて肩から力を抜く仕草をしてみせた。
表情を和らげ「ありがとうございます、会えて良かった」と言えば試合は終了した。
さて、あとは高専に連れ帰って貰って甚爾さんのサポートして終わりだな。
死ぬほどダルいが終われば金も貰えるらしいし、温泉旅行でも行ってやろうかな。
全く、美少女も楽じゃねぇなあ!