人生は怒りのデスロード
し、死ね〜〜〜〜!!?!?!??!?
私はソレと対峙した瞬間、すぐにはよ逝ねと念じた。思ったのではなく念じた。
私は確かにこの家…禪院家が嫌いだ。それはもう何かの手違いで全焼しねえかな、隕石でも落ちてくれねえかなって思うくらい嫌いだ。
でもまだ嫌うだけだ、思うだけだ。思うのは自由だ。
けれど何にでも例外はある。
私にはどうしても嫌いで嫌いで仕方無く、思うだけじゃ飽き足らない人間が居た。
それこそが現当主の息子、みんなだいすき直哉くん。情緒手遅れ人間である。もう本当嫌い、嫌いってか無理。流石に理性も燃えちまう。
直哉くんと私はなんと同い年である。嫌いな奴と同じものがあるって事実ほんとむり、しかも年齢とか努力じゃどうにもならん問題が一緒とかガチでむり。
彼とは私がこの屋敷にやって来た頃からの付き合いだった。
禪院扇の養子になった私にとっては血の繋がりの無い親族なわけだが、彼は昔から私のことを全否定してきた。
女の癖に戦うな、女の癖に口答えするな。そう言う癖に私が養父と一緒に居れば男に媚びて気持ち悪い女、取り入るしか才能の無い女、笑うくらいしか出来ない女と蔑んできた。
それだけならまだしも、彼は私の出自にまで口を挟んだ。
「こないな媚びるだけしか脳のあらへん、まともに術式もコントロール出来ひん奴、そら親も捨てたなるわ」「非術師相手になんも出来ひん奴なんて見たことも聞いたこともあらへん、そないやから捨てられんで」「あー、カワイソ」
よく回るお喋りな口は、回り過ぎると流石に耳障りだ。そしてこちらを下に見て嘲る態度も目障りこの上ない。
一々付き合うのも馬鹿らしいが、それでも相手をしてやらないと今度は力で押し通そうとする。控え目に言ってゴミ野郎、素直に申して良いのならば今すぐ呪いたい。
そんな相手がわざわざ手土産片手にやって来た。何やら愉しそうな笑みを浮かべて。
養父の部屋に活けるための花を庭から調達中の私は、日差し避けのためにツバの広い白い帽子を被っていた。片手には花鋏を持ち、足元には水の入ったバケツを用意してある。
そんな様子の私をじっくりと上から下まで見た直哉くんは、フンッと鼻で笑って「なにしてはるん?」と聞いてきた。見りゃ分かるだろ、点数稼ぎだ馬鹿野郎。
「呪術師だけやなくて男に媚びるのもやらなあかんなんて、忙しくて大変やなぁ」
「ごめんなさい、私…何か貴方の気を悪くさせてしまったかしら?」
「別に?挨拶やんこんなの」
どこの国の挨拶か言ってみろ日本語不自由人がよお!!!私に分かる言葉で話せよ、日本語話せよ、日本語しゃべれねえんだったら死ねよ。
こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって、ふざけんなゴミクズファックメン代表選手、4番バッターに任命してやろうか。おい私と野球しようぜ、お前ボール役な。
なんてこと勿論言えっこないので、私はフワフワと柔らかな笑みを浮かべて「良かった、怒らせちゃったのかと思って」と可愛らしい反応をしてやった。
我ながら本当凄い演技力だ、ハリウッドでもやって行けるだろこれ。
直哉くんは私の態度には何も言わず、手に持っていた物を突き出してきた。
なんだか妙に小さな質の良い紙袋を受け取り、私はどうすべきか悩んでから「中を見ても良い?」と尋ねた。すると彼は「好きにしたらええ」とだけ言って顔を背けた。
ん?というかこれ、私にくれるってことでいいのかな?誰かに渡して来いとかじゃなく?
まあ、好きにすれば良いと言われたからには中身を確認してあとで捨てよう。鳥の死骸とか入ってたら流石に養父にチクるが。
花鋏を一度地面に置き、片手で袋を支えながら中身を確認する。そうすると、中には見たことの無い黒い長方形のツヤツヤとしたボックスが入っていた。
……何これ?ミミズでも入ってるのかな?そんな気持ちで取り出し、蓋が開きそうなのでパカッと開けてみればあらビックリ。なんと中からは品の良いアクセサリーが出てくるではないか。あまりのことに私は驚き固まった。そして静かにそっと蓋を戻した。
「…………?」
首を傾げ、もう一度蓋を開く。
パカッ…………やはりアクセサリーだ、それもネックレスだ。名前の知らない石がお上品にキラキラと輝いている。なんだこれ……の、呪いのアイテムか……?
私はじっと見下ろし続ける。しかしどれだけ目を皿にしても呪力は欠片も見て取れなかった。
怖い…よく分からないが怖い!人間理解出来ないことが一番怖いってよく分かった。どうしようどうしたらいいんだ、これは可燃ゴミか?それとも不燃ゴミか?売るなら万代書店であってるか???
棒立ち、唖然、無言。
何も言えず何も出来ない。謎の状態に追い込まれた私はチラリと一瞬直哉くんを見た。
…め、めっちゃこっち見てる……。
なんかガン見してる…眼力つよすぎ…私よりも直哉くんの方が目に呪い籠もってない?背中がゾワゾワするんだけど、助けて父上。
「あ、あのこれは…どうしたら…」
「は?」
流石の私でもどうしたらいいか分からず、意を決して尋ねたらいつもの態度で返された。おいだからちゃんと会話成立させる努力しろよガキ。
「…………親父が(お前が俺の嫁になるっ)……て(言っとった)……から…」
オヤジガテダカラ??
ごめんお前の声が嫌いすぎて全然耳が聞き取ってくれなかったわ。ついでに脳も理解を拒んだわ。
よく分からなくて「ごめんなさい、聞き取れなかったわ」と尋ね返せば、直哉くんは眉間にシワをグッと寄せて私に詰め寄ってきた。
一歩二歩と近付き、そして肩を掴まれる。
あっと思った時にはもう遅く、彼の閉じた瞼が私の顔のすぐそこにあった。
声を発するための口元は何かによって塞がれており、湿った生温かさを感じた。
時間にすればおよそ2秒程の出来事はあっという間に終わり、現実を理解出来ず時が止まったように固まる私を置いて直哉くんは「ちゃんと首輪付けといてや」と機嫌良さそうに言って去って行った。
後に残されたのは紙袋を持つ私と、私に斬られる運命だった瑞々しい花々だけ。
なにが…何が起きた?
一体何が起きたのだ、誰か私に一から十まで…いや一から百まで懇切丁寧に説明してくれ。
2秒間何かに触れていた唇に指先を這わせ、ふにりと押して今あったことを思い出せと身体に訴えた。
突如詰め寄ってきたチームゴミクズファックメンの四番バッター。
掴まれる肩、すぐ側にある睫毛に縁取られた閉じた瞼、そして塞がれた唇。
瞬間、私は答えに至り………ぶっ倒れた。
バタンッ!!
地面に向かって卒倒、込み上げる吐き気に負けて嗚咽を漏らしながら目を回し視界はブラックアウト。
ああ、おめめの向こうでお星さまが飛んでいらあ……。
こちらに慌てて近付いてくる足音を一つ聞きながら、私は心から神に祈りを捧げた。
「大丈夫ですかお嬢様!お気を確かに!!」
「コロシテクレメンス……」
おお、神よ。何故私にこのような試練をお与えになるのだろうか。
ふざけるなよマジで、何が神だ何が当主だ何が男だ全員アズカバンで凍えて死ね!よくも清らかな乙女のファーストキス奪いやがって、今すぐ腹を斬って詫び死んでくれ。それが無理なら今すぐこの瞬間から心を入れ替えて改宗しろ、私の信ずる神を祈れ、聖書を持ち歩く人間になれ。それも無理なら身体にハチミツ塗った状態で樹海でフルマラソンして来い。
ああ、クソだ本当にクソだよこの家は、どいつもこいつも遺伝子を遺すに値しない最低人格者ばかりだ。うんこの群れだろこんなもん。いや喋らないだけうんこのがまだマシかもしれん。
もうやだ、絶対いつか破滅しろ。めちゃめちゃ笑って中指立ててやるからな。覚えておけよ禪院直哉。
こうして私のファーストキスの相手はうんこになった。
翌日、あまりのショックに熱が出て養父を心配させたのだった。
私はソレと対峙した瞬間、すぐにはよ逝ねと念じた。思ったのではなく念じた。
私は確かにこの家…禪院家が嫌いだ。それはもう何かの手違いで全焼しねえかな、隕石でも落ちてくれねえかなって思うくらい嫌いだ。
でもまだ嫌うだけだ、思うだけだ。思うのは自由だ。
けれど何にでも例外はある。
私にはどうしても嫌いで嫌いで仕方無く、思うだけじゃ飽き足らない人間が居た。
それこそが現当主の息子、みんなだいすき直哉くん。情緒手遅れ人間である。もう本当嫌い、嫌いってか無理。流石に理性も燃えちまう。
直哉くんと私はなんと同い年である。嫌いな奴と同じものがあるって事実ほんとむり、しかも年齢とか努力じゃどうにもならん問題が一緒とかガチでむり。
彼とは私がこの屋敷にやって来た頃からの付き合いだった。
禪院扇の養子になった私にとっては血の繋がりの無い親族なわけだが、彼は昔から私のことを全否定してきた。
女の癖に戦うな、女の癖に口答えするな。そう言う癖に私が養父と一緒に居れば男に媚びて気持ち悪い女、取り入るしか才能の無い女、笑うくらいしか出来ない女と蔑んできた。
それだけならまだしも、彼は私の出自にまで口を挟んだ。
「こないな媚びるだけしか脳のあらへん、まともに術式もコントロール出来ひん奴、そら親も捨てたなるわ」「非術師相手になんも出来ひん奴なんて見たことも聞いたこともあらへん、そないやから捨てられんで」「あー、カワイソ」
よく回るお喋りな口は、回り過ぎると流石に耳障りだ。そしてこちらを下に見て嘲る態度も目障りこの上ない。
一々付き合うのも馬鹿らしいが、それでも相手をしてやらないと今度は力で押し通そうとする。控え目に言ってゴミ野郎、素直に申して良いのならば今すぐ呪いたい。
そんな相手がわざわざ手土産片手にやって来た。何やら愉しそうな笑みを浮かべて。
養父の部屋に活けるための花を庭から調達中の私は、日差し避けのためにツバの広い白い帽子を被っていた。片手には花鋏を持ち、足元には水の入ったバケツを用意してある。
そんな様子の私をじっくりと上から下まで見た直哉くんは、フンッと鼻で笑って「なにしてはるん?」と聞いてきた。見りゃ分かるだろ、点数稼ぎだ馬鹿野郎。
「呪術師だけやなくて男に媚びるのもやらなあかんなんて、忙しくて大変やなぁ」
「ごめんなさい、私…何か貴方の気を悪くさせてしまったかしら?」
「別に?挨拶やんこんなの」
どこの国の挨拶か言ってみろ日本語不自由人がよお!!!私に分かる言葉で話せよ、日本語話せよ、日本語しゃべれねえんだったら死ねよ。
こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって、ふざけんなゴミクズファックメン代表選手、4番バッターに任命してやろうか。おい私と野球しようぜ、お前ボール役な。
なんてこと勿論言えっこないので、私はフワフワと柔らかな笑みを浮かべて「良かった、怒らせちゃったのかと思って」と可愛らしい反応をしてやった。
我ながら本当凄い演技力だ、ハリウッドでもやって行けるだろこれ。
直哉くんは私の態度には何も言わず、手に持っていた物を突き出してきた。
なんだか妙に小さな質の良い紙袋を受け取り、私はどうすべきか悩んでから「中を見ても良い?」と尋ねた。すると彼は「好きにしたらええ」とだけ言って顔を背けた。
ん?というかこれ、私にくれるってことでいいのかな?誰かに渡して来いとかじゃなく?
まあ、好きにすれば良いと言われたからには中身を確認してあとで捨てよう。鳥の死骸とか入ってたら流石に養父にチクるが。
花鋏を一度地面に置き、片手で袋を支えながら中身を確認する。そうすると、中には見たことの無い黒い長方形のツヤツヤとしたボックスが入っていた。
……何これ?ミミズでも入ってるのかな?そんな気持ちで取り出し、蓋が開きそうなのでパカッと開けてみればあらビックリ。なんと中からは品の良いアクセサリーが出てくるではないか。あまりのことに私は驚き固まった。そして静かにそっと蓋を戻した。
「…………?」
首を傾げ、もう一度蓋を開く。
パカッ…………やはりアクセサリーだ、それもネックレスだ。名前の知らない石がお上品にキラキラと輝いている。なんだこれ……の、呪いのアイテムか……?
私はじっと見下ろし続ける。しかしどれだけ目を皿にしても呪力は欠片も見て取れなかった。
怖い…よく分からないが怖い!人間理解出来ないことが一番怖いってよく分かった。どうしようどうしたらいいんだ、これは可燃ゴミか?それとも不燃ゴミか?売るなら万代書店であってるか???
棒立ち、唖然、無言。
何も言えず何も出来ない。謎の状態に追い込まれた私はチラリと一瞬直哉くんを見た。
…め、めっちゃこっち見てる……。
なんかガン見してる…眼力つよすぎ…私よりも直哉くんの方が目に呪い籠もってない?背中がゾワゾワするんだけど、助けて父上。
「あ、あのこれは…どうしたら…」
「は?」
流石の私でもどうしたらいいか分からず、意を決して尋ねたらいつもの態度で返された。おいだからちゃんと会話成立させる努力しろよガキ。
「…………親父が(お前が俺の嫁になるっ)……て(言っとった)……から…」
オヤジガテダカラ??
ごめんお前の声が嫌いすぎて全然耳が聞き取ってくれなかったわ。ついでに脳も理解を拒んだわ。
よく分からなくて「ごめんなさい、聞き取れなかったわ」と尋ね返せば、直哉くんは眉間にシワをグッと寄せて私に詰め寄ってきた。
一歩二歩と近付き、そして肩を掴まれる。
あっと思った時にはもう遅く、彼の閉じた瞼が私の顔のすぐそこにあった。
声を発するための口元は何かによって塞がれており、湿った生温かさを感じた。
時間にすればおよそ2秒程の出来事はあっという間に終わり、現実を理解出来ず時が止まったように固まる私を置いて直哉くんは「ちゃんと首輪付けといてや」と機嫌良さそうに言って去って行った。
後に残されたのは紙袋を持つ私と、私に斬られる運命だった瑞々しい花々だけ。
なにが…何が起きた?
一体何が起きたのだ、誰か私に一から十まで…いや一から百まで懇切丁寧に説明してくれ。
2秒間何かに触れていた唇に指先を這わせ、ふにりと押して今あったことを思い出せと身体に訴えた。
突如詰め寄ってきたチームゴミクズファックメンの四番バッター。
掴まれる肩、すぐ側にある睫毛に縁取られた閉じた瞼、そして塞がれた唇。
瞬間、私は答えに至り………ぶっ倒れた。
バタンッ!!
地面に向かって卒倒、込み上げる吐き気に負けて嗚咽を漏らしながら目を回し視界はブラックアウト。
ああ、おめめの向こうでお星さまが飛んでいらあ……。
こちらに慌てて近付いてくる足音を一つ聞きながら、私は心から神に祈りを捧げた。
「大丈夫ですかお嬢様!お気を確かに!!」
「コロシテクレメンス……」
おお、神よ。何故私にこのような試練をお与えになるのだろうか。
ふざけるなよマジで、何が神だ何が当主だ何が男だ全員アズカバンで凍えて死ね!よくも清らかな乙女のファーストキス奪いやがって、今すぐ腹を斬って詫び死んでくれ。それが無理なら今すぐこの瞬間から心を入れ替えて改宗しろ、私の信ずる神を祈れ、聖書を持ち歩く人間になれ。それも無理なら身体にハチミツ塗った状態で樹海でフルマラソンして来い。
ああ、クソだ本当にクソだよこの家は、どいつもこいつも遺伝子を遺すに値しない最低人格者ばかりだ。うんこの群れだろこんなもん。いや喋らないだけうんこのがまだマシかもしれん。
もうやだ、絶対いつか破滅しろ。めちゃめちゃ笑って中指立ててやるからな。覚えておけよ禪院直哉。
こうして私のファーストキスの相手はうんこになった。
翌日、あまりのショックに熱が出て養父を心配させたのだった。